意識する事の大切さ
そして、翌日…
「はい、今日から新規パーティーメンバーになるエルザさんです。はい拍手」
「うむ、よろしく頼むぞ」
「「…」」
はい、案の定お二人は唖然としてらっしゃってますねぇ…
まぁ…そうでしょうねぇ…
いきなりパーティーメンバー追加ですなんて言われて、はい了解ですなんて答えられませんよね…普通…
でも、諦めてね。
あまり関わり合いになりたくない人種だけど…この人ほったらかしにしといた方がめんどくさそうだから…仕方ないんだよ…
「よ…よろしくお願いいたしますっ…」
「よ…よろしくです……おっお師匠様っ…!?」
問い詰めてくるネアさん。
うん、気持ちはわかる。
「…まぁ…うん…成り行きって怖いよねぇ〜」
「成り行きなんですか…」
成り行きなんです…残念ながら…
「…まぁ、安心してよ…“腕は確かだから”」
なんせ、護国の姫騎士様ご本人なんだからね。
もはや、鉄壁の守りを手に入れたと言っても過言じゃないよ?
勇者とはいえ、初心者パーティーには勿体なさすぎる人材だからね。
…能力面だけで考えればだけど…
だけど、この2人には黙っておく。
エルザさんにも、護国の姫騎士である事は黙っているように伝えてある。
なぜかといえば、理由は簡単。
彼女が規格外すぎるからだ。
…言い方悪いかな?
でも、そういうしかない。
もちろん、ネアさんもルミナさんも精霊達による加護があるため能力値は高い。
いずれ、冒険者達の中でトップクラスの実力者になれるだけの力を秘めている。
…そう…“いずれ”…
現在の彼女達はまだまだ弱く、基礎すら出来上がっていない。
…基礎が出来上がっていない以上、より周りからの影響を受けやすい…
もし、ここで基礎もできており、更なる高みにいるエルザさんに影響されれば…
どんな歪な基礎が出来上がるか…
…いや、勘違いしてほしくないんだけど、これはエルザさんが悪いわけじゃないからね?
悪いのは、未熟なまま放り出した馬鹿王達だから。
いや、憧れるのはいいんだよ?
憧れるだけならね?
でも、変にいつも以上に頑張ろうとしたり、彼女の威光の影に隠れてしまうような行動はしてほしくないってのが、僕の心情かなぁ。
「さて、挨拶はこれくらいにして…さぁ何を討伐しに行こうかっ!」
エルザさんがウキウキと叫ぶ。
…とりあえず、一番張り切ってるのが貴方でいいのかは疑問だけど……
一応、もう決まってるんだよねぇ〜。
「エルザさんには申し訳ないけど、僕らはあくまで保護者枠だからね?。後クエストの内容は決まってるよ…今日は、ちょうどあったこの2つのクエストを受けてもらいます」
と、僕はクエストの資料をテーブルに置いた。
「…この2つを…ですか?」
「うん。あっ、ちなみに2人にはそれぞれ1人で対峙してもらうから」
「「へ?」」
◇◇◇◇◇◇
クエストを達成するため、目的地の森に向かって…
「……」
「……」
そして数時間も経たずに、2人は地面にひれ伏していた。
もちろん、対峙したモンスターにこっぴどくやられたからなんだけどねぇ。
…予想していたけど、やっぱりボロボロにやられたかぁ……最終的には助けに入ったし…まぁ倒さず、エルザさんに守ってもらいながら撤退しただけだけど。
…
…ん?
そりゃ、危なくなったら助けますよ、危なくなったら。
流石に、無茶な事させて死なせたとかありえないですもん。
「…な…なかなかハードなプレイをっ…///」
「…」
何故か、2人の姿を見て鼻息を荒くする変人…
…うん、とりあえず隣の人は放っておこう…
…さて
「2人とも〜、そろそろいいかい〜?」
「…こ…この…お…鬼師匠……」
おや、どうやら僕はお師匠様から鬼師匠へランクアップしたみたいだね。
「ははははっ、しゃべれるなら問題なさそうだね。それじゃ、反省会しよっか」
「…は…反省会…ですか?」
「うん。今回君たちにはそれぞれ、別種のモンスターと戦ってもらったわけだけど……何でそんなボロボロになるほど負けてしまったかわかるかな?」
と、問いかけてみた。
2人は大怪我を負ったわけでも、死んでしまったわけでもないが、手も足も出せずにやられてしまった。
火力とかだけで見るなら、苦戦するはずがない相手だ。
だけど苦戦した。
…まぁ、そうなるように仕向けたのは僕なんだけどね…
2人には何故そうなったのか…原因を考えてもらいたかった…
それが、このクエストを受け、1人で対峙させた理由だ。
「……それは…私たちが弱いから…でしょうか?」
「ん〜、それは正解であり不正解かなぁ〜。ネアさんはどう思う?」
弱いという事実を認められているのはすごい事なんだけど…
今回の根本的な原因はそこじゃないんだよねぇ…
「……そもそも、倒せる気がしなかった……全然ダメージ入らないんだもん…」
…
…おやおやぁ?
これはかなり拗ねてらっしゃる?
だけど、大正解なんだよね〜。
「はい、大正解〜」
僕は頭をよしよしと撫でてあげた。
「…ふぇっ…///」
「あぁっ………羨ましいっ……」
…ん?
…何でネアさん…顔が赤くなってるんだろ…?
…
…うん、とりあえず……エルザさんが何か言っていたような気がするけど、聞かなかったことにしよう。
重要なのはこっちだし。
「君たちが対峙したモンスター…ネアさんは軟体系であるスライム、ルミナさんには素早い近接型のリトルモンキーだ。簡単にいえば、相性が最悪な相手なわけ」
「…相性…ですか?」
ルミナさんが首を傾げながら問い返してきた。
…予想していたけど、やっぱり知らなかったかぁ…
「……聞いたことはないかね?。冒険者たる者、バランスの良いパーティーであることが望ましいと」
エルザさんが不思議そうに首を傾げた後、僕に代わって聞いてくれた。
「……すみません……私たちかなりの田舎者でして…」
エルザさんの問いかけに、申し訳なさそうに謝るルミナさん。
…まじかぁ…
「……ルーク殿っ…これは…?」
内心呆れている最中、エルザさんが小声で話しかけてきた。
そりゃ、気になるよね…
「…内容はわかってるつもりなんですが…一応確認しますね…何についてですか?」
「…何についてと言われても……彼女たちが最近冒険者になったことは理解している…だが、仮にも勇者とそのパーティーだろ………?」
…やっぱりそこだよね…
「…あー…その言いづらいんですが………確かに、彼女たちは勇者パーティーです……ですが、彼女たちを勇者パーティーとして送り出した国なんですが……どうやら、お前ら勇者の素質あるからがんばれって感じで放り出したらしくて……」
つまりは、彼女たちがそこらの村娘と変わりがないことを伝えた。
「…なんと……愚かなことをっ…」
額に手を当てるエルザさん。
彼女も、国を担う側の存在…
彼女の国でも勇者は出ていたはず…
となれば、この様子からだと…
国から勇者を旅立たせる…その意味をちゃんと理解しているという事だろう。
「…ちなみに、僕がこうして師匠的なことをしているのも…そういった事情からでしてねぇ…」
「……そうだったのか…………これは、国として取り上げなければならない問題だな…」
はぁぁ…と皇族らしい姿を見せる…いや、皇族でしたね。
…もちろん僕も、勇者という存在を国の価値を高めるために使用すること自体には異論はない。
どれだけ突き詰めても、結局はお金がかかってくる…
国といえど、巨大な組織…お金という問題は切っても切れない存在だ。
それは王宮に仕えていたからよく知ってるし…
何事も綺麗事だけでは済ませない。
勇者に十分な支援ができない場合だってあるだろう。
それについては仕方ないとは思ってる。
…だけど、それは国として、これでもかっ!!というほどの支援もしくは出来る限りの支援を行った上での話だ。
勇者だから頑張ってね、僕らは君らの存在で利益求めるからッ
なんて…もはや冗談でしょって言いたくなる話でしょ…
…勇者とは、ある意味…その国の顔でもある。
大なり小なり違いはあれど、他国に対して、自国の勇者はこんな存在なんだぞっというアピールでもあるわけで…
決して、勇者を選出したとか、勇者がただひたすらモンスターを倒していればいいなんて生やさしいものではない。
…普通なら、きちんとした教育を行ってから旅立たせたりするもんなんだけど…
…まだこんなことをするバカが残って居る始末…
はぁ……それでどれだけ…過去に勇者に選ばれた人たちが亡くなったか…
多分知らないんだろうなぁ…もしくは自分には関係ないとでも思っているんだろうか。
「…そこらへんは、皇族である貴方達に任せますよ……別に、細かなことについて、僕の方から言うつもりはないですけど……できるだけ、個々が生き残れる選択を選んでくれたほうが嬉しいかなぁ…」
「……出来る限り、期待には答えよう……私たち側としても、勇者の存在は特別だからな…」
「よろしくお願いします………さて、話を戻すけれども」
僕はヒソヒソ話をやめると、少し大きめな声でネアさんとルミナさんに聞こえるように話した。
「ネアさんとルミナさん、君たち2人にはまず謝罪を。僕は、君らがボロ負けするのを理解した上で挑ませたから…」
「…でも、鬼師匠のことだから考えあってのことなんでしょ?」
「…ネアちゃんっ…鬼師匠は失礼だよっ…」
「はははっ、構わないよルミナさん。もちろん、意味なく挑ませたりなんかしないよ。答えにつながるヒントは、ネアさんとエルザさんの言葉の中にあるよ」
「僕と…エルザさんの?」
「そう…エルザさんはさっき、パーティーはバランス良い方がいいって話をしたよね。それはなぜか……そもそもバランスとは何か……ここで、さっきのネアさんの言葉につながるんだ」
「……相性……つまり、私たちが相手をしたモンスターは、私たちがそれぞれ戦いづらい相手だった…ということでしょうか?」
「その通り〜。相性の意味は数多くあるけど…僕らがここで言ってる相性は、自分との相性……つまり相手に出来るのかどうか……そこを意識することはとても大事なことだ。意識しているかどうかで結果は変わってくる……今回、君たちが体験したようにね」
そう、意識することは冒険者にとって…いや、戦う者にとって、大事なモノの1つだ。
意識することで、自分と相手の違い…そして、何をすべきなのかが明確に見えてくる。
今回が良い例だ。
「…確かに…スライムはいくら切っても切っても全然倒せなかった…」
「…私も…魔法を唱え終わる前に攻撃を喰らってしまって、それどころではありませんでしたし…」
各々、感じたところがあるみたいだね…
「前にも言ったかもしれないけれど、2人の火力は強力だよ。そこらへんの冒険者とは比べものにならないくらいね…でもだからといって、君たちが強いわけじゃない…あくまで、火力は強力だ…だけの話なんだ」
「「…?」」
…あら、伝わってない?
「…つまりルーク殿が言いたいことは、自分たちの現在の能力をきちんと知れ…と言うところかな?」
そんな様子を察してか、エルザさんがフォローを入れてくれた。
ありがたい…とりあえず、これに乗っからせてもらおう。
「エルザさん、大正解〜…で、感想としてはどうかな?。2人とも、お互いがいればって思わなかった?」
「……うん……全然攻撃が効かないから魔法なら…て、考えた時にルミナが援護してくれてたらって…」
「…私も…詠唱の時間をネアちゃんに稼いでもれえれば…と」
…よかったよかった。
そこまで理解できたなら上々だね。
「…さて、そこを踏まえた上で君たち2人にはさっきのモンスターに挑んでもらうよ…今度は2人でね」
そう宣言した後、すぐさまやる気になったネアさんを筆頭に2人は再挑戦した。
…そして、結果は言わずもがな…
互いの苦手な部分を把握し、その苦手な部分を相方に補ってもらう…
彼女達の完勝だ。
「「やったぁ〜〜〜!」」
大喜びする2人。
そりゃ、負け確定の戦いだったとはいえ、こっぴどく負けた相手に勝てたんだから嬉しくないはずがない。
「…」
「……ふっ……言葉足らずなところはあるようだが……ルーク殿は、中々に教育者としての素質があるんだな」
ボォ〜と2人の様子を眺めていると、エルザさんが話しかけてきた。
「…何を言うかと思えば…そんなことはないよ…ただの暇潰しさ」
「ただの暇潰しで、冒険者として生きていく術を教えられるなんて言うのはなかなかできないと思うのだけれどね…」
「細かな部分まで教えるのならそうだろうけど…触りの部分なら誰でもできるよ」
「…そういうものだろうか……」
「そういうものでしょ…本来なら、自然と冒険者家業の中で学んでいくことでもあるんだけど…今回の場合は特例だから」
どんな冒険者にも初めての時は存在する。
…中には誰かに教えてもらうではなく、経験した中で学んできた人もいるだろう。
普通の冒険者なら、それでもよかったかもしれないんだけど…
彼女達の場合、難敵と戦う可能性は普通の冒険者より遥かに高い…
…流石に、出逢って数日の内にお亡くなりになんて話を聞きたくもないからね。
「…そこを突っ込まれてしまうと幾分耳が痛い…」
「なら、急いで何とかしてよね……」
こればっかりは僕の方から何とかできる問題でも…
…
…まぁ、基本的には何ともできない問題だから、何とかできる人に何とかしてもらわないといけないんだけど。
「さて、きちんと処理して、ギルドに戻るよ〜」
2人に声をかけて、僕らは帰宅の準備に取り掛かる。
…ん?
これで終わりかって?
そりゃそうでしょ、僕らは遊びに来ているんじゃないんだし…
危ない場所から帰れるなら、帰ることに越したことはないさ。