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初めての指導




「それじゃぁ、はりきってこー!!」



ネアさんは元気よく腕を突き上げた。



うん、元気だねぇ。



「…いつもああなんですか?」



「……はぃ…///」



「…まぁ…元気がある事はいいことですが…」



「もぅ〜お師匠様達ノリ悪いなぁ〜」



いや、君が元気すぎると言うか…



うん、めんどくさいからいいや。



「…さて、今回の内容だけど…畑を荒らすリトルボアの討伐かぁ…」



「どうやら、近くにある森から来てるみたいですね…」



「…ふーん」



近くの森から…ねぇ…



「よし!頑張って倒すよー!」



「待ちなさいなって…ただ突っ走るだけじゃ昨日の二の舞だよ?……とりあえず、討伐は後回しだからね」



「へ?…討伐が達成目標なのに?」



「これも一種の訓練みたいなものだよ…さて、まずはどう生きているのか学ぶお時間だよ」



と2人を連れて僕らは森の中に入った。



温泉がある付近の森なためか、森の中の熱気も嫌な感じでこもっている。



「うへぇ……」



「…なんだか…蒸し風呂みたいですね…」



「…似た様なものなのは間違いないかなぁ……環境と条件が重なってしまってるだけに、こもりやすいんだろうね」



「環境と条件ですか?」



「うん。この辺りには温泉がたくさんある…つまり、熱源がたくさんあるわけだ。くわえてこの森の換気の悪さ……森の外よりさらに蒸し暑く感じるのは仕方ないよね」



「…なるほど…」



「ちなみに当たり前のことだけど…場所によっては逆に寒かったりとか色々ある。そういった事に随時対応が求められるからね、冒険者ってやつは」



「うぅ…寒いのかぁ…」



「…確かに……全くこういったことを意識してませんでした…」



「だから、事前の準備は大事にねっ…と」



「はえっ……み…水?」



俺は道具屋で売ってた水入り瓶を投げて渡した。



「ここはただでさえ蒸し暑い。水分補給はこまめに取らないと、熱中症になって終わりだよ」



「…だからあんなに水入り瓶を…」



「まぁ…慣れてくればいくらでも対処は可能だけどね……とにかく、自分に有利な環境づくりを第一に…これは鉄則だからね」



正直、鉄則なんて生ぬるい言葉で済ましていいことじゃ無いんだけど…



あんまり小難しくいっても理解できない子が1人いるからねぇ…



「……いたね」



しばらく歩いた後、ようやくリトルボアの群れを見つけた。



大きさはオモチャのボール並み…



だけどしっかりとした足で地面を蹴り、丸い体のによって回転しながらぶつかってこられるとかなり痛い。



場合によっては木が薙ぎ倒されるほどだ。



まぁでも、そんなのは一部の強個体だけなんだけど…



「…よ…よしっ…んぐぅッ…」



「待ちなさい待ちなさい…」



僕は今にも飛び出しそうなネアさんの頭を押さえつけた。



「真正面からぶつかっても意味ないでしょうが……もうさっき言ったこと忘れたの?」



「…自分が有利になる環境を作る…ですか」



「その通り…もちろん、リトルボアはそこまで強い存在じゃない。だから、真正面から相手しても倒せない相手じゃない…でも、今の君たちには無理、何しろ実力の土台のどの字すらないからね」



「…ぅぅ…」



「…だけど倒せないわけじゃない」



僕は近くにあった小石を手に取ると、群れの端側の木に向けて投げた。



“カンッ…!”



「「「…ッ!?」」」



するとあら不思議、群れが一斉に音がなった方を見た。



「…これは…」



「…いわゆる習性ってやつだね。何回も連続で使えるわけじゃないけど…リトルボアは大きな音に驚きやすいんだ…群全体がその音が鳴った方向を見てしまうほどね」



「…よしッ…これなっ…んぐぅッ…」



「はいはい、待ちなさい。まだ、だーめ」



「…絶好のチャンスだよ?」



「確かに今だけはね?…ここで数対やれたとしても他の個体はどうするのさ」



「…何度も使える手じゃない…とはそういうことなのですね…」



「そう。今見せたのは、あくまでリトルボアの習性の1つ…油断しているときにしか使えないとはいえ、ほぼ確実に致命的な好きを生み出せる一手だ…だけどこの数は問題、数匹減らせても、返り討ちにあうのがオチだ…さぁどうする?」



「……1体ずつ倒す…でしょうか?」



「もちろんそれもありだ。ヒットアンドウェイで繰り返せるなら問題はない…けど時間がかかるね…」



「…あっ、わかった!。倒せる数に減らしちゃおう!」



「へ?」



ルミナさんは何を言ってるのって表情を浮かべてるけど…



…僕は少しばかり驚かされた。



なるほど…勇者としての素質は馬鹿にできないかもね。



「ネアさん、ある意味当たりだよ…でも、どうやって減らすつもりかな?」



「えっ……せ…正解なのですかっ?」



「いや、正解に近いだけ。まだ完全な答えじゃないよ…だが、結果の部分は間違ってない。注意をひけても倒し切れないなら、倒し切れる数まで減らせばいい…だが、まだ肝心の数を減らす方法が出ていない」



「ふっふっふ…そこはぁ僕にお任せなのだっ」



とネアさんがポーチから何かを…






おいおいっ…まじかぁ〜



「よいっしょッ…!」



ネアさんは取り出したそれを群れのど真ん中に向けて投げた。



すると…



「「「ぶっ…ふごぉぉぉぉお!!?」」」



当たり一面に独特な匂いが充満し、その匂いを嗅いだリトルボアたちは慌て出し、散り散りに逃げ出した。



…まさか、正解をあてるなんてねぇ…



「…え?」



「ほら、ルミナさん。行くよっ」



「えっ…はっ…はい!」



まだ理解が追いついていないルミナさんを促しながらリトルボアの後を追う。



群として行動しているリトルボアだけど、そこまで群れ意識はない。



野生の勘なのか、弱者として強くあるための方法を理解しているかは不明だけど彼らはよく群として活動しているが、ちょっとのことでバラバラになる。



予期せぬ事態に陥ったとき…



例えば、いきなり群れのど真ん中にくっさい匂い袋が投げ込まれたりしたら…とかね。



「…いた」



あとはバラバラになったリトルボアを追いかけるだけ…幸いにもリトルボアの逸れた個体が2匹だけそこにいた。



「…い…いくの?」



「…まだだ…あと少ししたら落ち着くはず…その時に…」



「…音を立てて隙を作る…ですね」



「あぁ……さて、偶然にも2匹のリトルボア…驚かし役は僕がやるから、2人がトドメを刺すんだ」



「「えっ…」」



「大丈夫…隙だらけだから、信じて一撃を叩き込んでっ………ほらっいくよっ」



「っ…」



僕は、リトルボアが落ち着いたところを見計らい、石を投石した。



“…カンッ!”



「「ぶひぃッ!?」」



先程と同じ様に驚いて隙を見せるリトルボア。



「や…やぁぁぁッ!」



「ひッ光よっ、我が敵を貫く光弾となれっ…“ホーリーシュート”!」



ネアさんとルミナさんは飛び出すと隙だらけのリトルボアの背後から一撃を浴びせる。



「ふびぃぃッ!?…」



…背後からの一撃を喰らった2体はなすすべなく倒れた。



…流石、精霊の加護というべきかな…



隙だらけとはいえ、たった一撃で沈められるなんてね…



ネアさんに関しては真っ二つ、ルミナさんは丸焼きかぁ…



「…はぇ?」



「お…終わったのですか?」



どうやら自分たちが勝利者だとまだ認識できていないらしい…



「君たちの勝ちだよ。だけど、だーめ」



「「あうっ…」」



2人の頭を杖で軽くこづいた。



「なっ…なんで叩くんですかぁ〜っ…」



「今のやり方はダメだって教えるためです」



「ふぇぇ?」



すっと、僕は2人が倒した2体のリトルボアを指さした。



「…とりあえず、わかりやすい方からいこっか……2人とも倒したら倒したけど、これじゃダメだ。なぜなら、ただ勝っただけだからね」



「…えぇ…?」



「どういう…事でしょうか?」



2人ともわかっていない様だ。



まぁ、力ある素人だから知らなくて当たり前なんだけど…



「簡潔に言うと、これじゃ売り物にならない」



「…え…売り物?」



「そう、売り物。冒険者っていうのは何もモンスターを狩るのだけが収入源じゃない。モンスターから得られる素材を売ったりしてお金にしたりしてる…そこはいいかな?」



「う…うん…」



「もちろん、売るのはモンスターの素材や採取物、稀に手に入れたお宝なんてのもある…だけど、もしその対象の状態が悪かったらどうなるでしょうか」



「…あっ」



どうやらルミナさんは気がついたみたいだね。



「…まぁ謎々にもならないけど…買取価格が下がる……とはいえ、2人が受けられるクエストのレベル的には質より量の方が優先されるケースは強いけどね……でもだからといって、疎かにしちゃいけない…お金になる…もあるけど、信用にもつながるからね」



「信用ですか…」



「この人に依頼すれば、達成率が高いや質が良いものをとってきてくれるっていうのは、相手からしたら1番望むところだからね。命のやり取りの中で考えるのは不謹慎だけど、綺麗にこなすってことも大切なんだよ…そういうわけで、自分たちが倒した相手を見てどう思いますか?」



「「…」」



2人は自分たちが倒したリトルボアを見る。



ネアさんが倒した方は、綺麗に真っ二つ。



これも精霊の加護がある影響だろうか…



普通真っ二つとかなかなかないよね…いくらリトルボアが小さくて柔らかいって言っても…



まぁ、そこは置いとくとして、強さで考えれば、良い一撃だったとも言える。



でも、問題なのはその切り方。



リトルボアの角…というか牙かな?



それも真っ二つ…



これじゃ、売り物としての価値はかなり低くなるね…



縦振りならまだ問題はなかったかもだけど、それはそれかな。



で、ルミナさんの方はまるこげ…



…えっ?



勇者はネアさんだよね…?



ルミナさんじゃないよね?



威力が洒落にならないんだけど…?



「まぁ…ルミナさんは言わずもがな……単純に丸焼けはね…」



「…は…はぃ…」



「…というか、そんな威力出る魔法だったけ…いや、まぁ…精霊の加護の力…かなぁ?」



どちらにしても、とりあえず…



「とりあえず、目標数の10匹…あと8匹を狩りましょうか。無理に意識しなくていいから、出力弱めたり綺麗にって部分を考えてね」



「「…はい…」」



それから数時間、リトルボアを探しては分断させ、不意をついて一撃を入れるを繰り返していく。



もちろん、土台が出来ていない2人には、倒せる以上の力で倒せども出力を抑えて倒すというのはなかなか難しいみたいだ。



「…」



「…まぁ…目標数には達したね…」



やり方さえわかって仕舞えば簡単と言わんばかりに、順調にリトルボアを討伐出来た。



まぁ元々強いモンスターじゃないし、2人のポテンシャルだけで考えれば、倒せない方がおかしい話だったからね。



「さて、とりあえずここまでだね」



と終了と決めるがそもそも2人の体力的にここら辺が限界だし…



まぁ、初陣にしては良かったんじゃないかな?



「…ほら、息整えて。それとこれね」



「…リトルボアの牙…ですか?」



「討伐の証だよ。たとえ、状態が悪くてもね」



討伐系のクエストは、基本こういった討伐時の証を用意する必要がある。



といっても、そんな難しい話じゃない。



討伐したモンスターの一部を回収したらいい。



今みたいに牙とかね。



「…ふとおもったんだけど…これって偽ったりする人いるんじゃ…」



「ふふっ、いいとこに目をつけるね。でも無理かなぁ、なんせギルドだって馬鹿じゃないからね。鑑定魔法や周りの調査とかでちゃんと調べるから」



「……何処かでアイテムを入手して、嘘の討伐報告…は無理ということですね」



「うん。まぁそもそも、リトルボアレベルのモンスター相手で偽ったって大したメリットはないし、むしろ信用を失うデメリットのほうが大きいかなぁ。逆に危険度が高いモンスター相手だと偽るに偽れないし」



「…へぇぇ」



「ギルドもタダの窓口じゃないってね…さて、まだ処理すべきものがあるから、処理しよっか」



「…え?」



僕は懐から小型のナイフを取り出すと、綺麗にリトルボア達の残骸を解体する。



「…お師匠様?」



「…押し付けるつもりはないけどね。やっぱりこの子達の命を奪ったからにはちゃんと無駄なく…感謝すべきだと僕は考えるよっ…と」



なれた手つきで火を起こせば、解体した肉を焼き、塩などのスパイスをかける。



「まぁ…男料理だけど、なかなか」



「…」



「…っ…」



「…聞くまでもない様だね…」



田舎出身なだけはあるというべきか…



ルミナさんは喉を鳴らし、ネアさんはよだれをだらぁぁ…



…まぁ…とりあえず焼き上がるのは待ってね?

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