見え隠れする不穏
とりあえず、男女間の関わりに疎いネアさんは放っておくとして…
2人の要件を聞くことにした。
「おぉぉっ…っ」
「…」
…とりあえず、ネアさんは足の痺れがなくなるまで放置でいいかなぁ…
「…えぇと……ネアさんは技術面でお聞きしたいことがあった様なのですが…私はその…今後の予定について…」
「あぁ…そっか。まだ説明とかしてなかったね……とりあえず、ギルドのクエストを…そう言えば、この町ってギルドあるっけ?」
「はい、御座いますよ」
「はぁ…よかったよかった…もしなかったらモンスター達がいる森なり山なりで野宿だったし…」
「…え?」
「訓練については…そうだね……流石に今日みたいな基礎運動をやっていくわけじゃないよ。あれはあれで土台はできてくけど…かなりの時間を要する地道なものだしね…まぁ…これからもやってくれてるとありがたいけど」
「…は…はぁ…?」
「とりあえず、明日からはクエストを受けるからそのつもりで…ちなみに2人はすでに登録済みかな?」
「いえ…まだですね…」
「…本当…馬鹿王とその臣下達だ……まぁそこらへんも明日説明するから、とりあえず自室に帰ってっ、ね!」
「はっはいッ…!」
うん、ルミナさんは理解が早いしいい子だ。
「…あぅぅ…」
「……」
「…え…えぇとっ……」
「…無理しないでいいよ…僕が連れてくから……とりあえず、痴漢とかそんな扱いしないでね?」
「そんなこといたしませんよっ」
とりあえず僕は、足が痺れていまだに動けないネアさんを抱き上げると2人の部屋に運んで行った。
…やれやれ…先が思いやられるよ…うん…
◇◇◇◇◇
そして、翌日。
僕らはこの町のギルドに来た。
小さいながらもしっかりとした木造のギルド。
それなりに手の込んだ作りの様だ。
「…ここが…」
「…はじめてきたぁー」
「…まぁ、普通に暮らしてる分にはあまり関係ない組織だからね…さて、中に入るよ」
「はっはいっ!」
2人を連れて中に入ると鋭い視線がいくつか…
…なるほどなるほど…
ここらもあまり捨てた場所じゃないってわけか…
世界は広いなぁ〜
と考えながら、一瞬の視線に対して“お返し”をしながら、受付まで移動した。
「すみませ〜ん。冒険者登録をお願いしたいんですが」
「はい、3名様ですか?」
「いえ、後ろの2人……すみません、先にちょっと確認を。ネアとルミナって名前なんですが、既に登録とかされてませんかね?」
「…えぇと…少しお待ちくださいね?」
受付嬢さんはこちらの問いかけに疑問を持ちながらも調べてくれた。
「…該当する登録の記載はありませんねぇ」
「…そうですか……じゃぁ、すみませんが新規登録で」
「承知しました。ではお二方、こちらの用紙に記入を」
受付嬢の指示のもと、記入をする2人を尻目に、僕はさらに呆れ返っていた。
さっきの質問は、聞いた内容通り、既に登録済みじゃないかを確認するためだ。
なぜかといえば、2人は勇者パーティー。
つまり、国が選出した存在。
…本来ならば…ちゃんと国が色々と指南してあげるのが筋なんだけど…
どうやらそんな事はなかった様だし…
でも、冒険者登録をぐらいはしてるのかなと思って聞いてみたけど結果は変わらず…
本当…無能としか言いようがないね。
「おうおう、兄ちゃん。そんな別嬪さん達を侍らせて羨ましいねぇ」
「ん?」
考え事をしている最中、僕に話しかけてきたのはクマみたいな大男。
こう言うのは失礼だけど、ニヤニヤの顔が気持ち悪いよ?
「何だよ、恋人かなんかかい?」
「こッ…!?///」
2人が慌てた様に反応した。
いや、大丈夫大丈夫。
ちゃんと否定するから。
「いや、違うよ。成り行きで面倒をみることになった弟子達さ」
「ぶっはっはっは!!お前さんの弟子だぁ!?何の冗談だいそりゃっ!」
馬鹿にした様に笑う熊男。
まぁ、僕は見た目がヒョロイからねぇ〜。
指南とかも苦手だから否定はしないけど。
「これが冗談じゃないんだよね。まぁ、そんな事どうだっていいんだけど、なんかよう?」
とりあえず手で怒ろうとしている2人に静止する様に促しながら問いかける。
君らは書類を書いてなさい。
「あっ、こちらにもご記入を」
と空気を読んだ受付嬢さんが2人の注意をひいてくれた。
ありがたやありがたや。
…さて…
「別にお前さんに用があるわけじゃねぇんだけどよぉ。新規さんなら俺たちが手取り足取り教えてやろうと思ってなぁ〜」
ニタニタと気持ち悪い笑みでまぁ…
視線からして、2人の体目的なのは分かりきった事だった。
「残念だけど、僕が彼女達の師だからね。貴方はお呼びじゃないよ」
「あぁ〜?俺が誰だかわかって言ってんのかよぉ〜?」
「知らないし、知るつもりもない…かな」
だって、君は“さっきの鋭い視線の人材じゃない”からね。
「てめぇ…このCランクのベアー様に楯突いて無事にいられると思ってんのかもやし野郎ッ!!?」
もやし野郎かぁ〜。
ルーナが聞いたら笑い転げてそうだなぁ…
てか、怖くも何ともないねぇ…
殺気を出したつもりなんだろうか…?
僕からしたら声が大きい叫び声でしかないんだけど。
というか、ランクは確かに自分の強さの証みたいなもんだけど…
C程度で何故こんなに偉そうなんだろうか?…
…仕方ない…
「…“ねぇ”」
「…ッ…ぐッ…!?」
「……あらま」
ちょっと驚かせようかと思った矢先…
まさかの僕が驚かされた。
何せ、僕と熊男の間に“スタイルがいい美人”が入ってきたかと思えば、一瞬で熊男の首を鷲掴みにして気絶させたからだ。
…いや、死んでないよね?
「…少し乱暴なんじゃないかなぁ?」
「…眠っているだけ、問題はない」
問題大有りだと思うんですが…
「よしっ書けた!。ちょっとそこっ!、僕のお師匠様をっ…て、あれ?。寝てる?」
「ん?。あー…どうやらお疲れだったみたいだよ、うん」
とりあえず、そう言うことにしておこう。
「…おい…あの女ってAランクのコトラか?」
「…ぁぁ、間違いない……これまでいざこざとか起こっても我関せずだったのに珍しいな…」
ほぉ…
「Aランクなんだ」
「…」
「いやぁ、助かったよ。変なのに絡まれてめんどくさかったし…大事にならなくてよかったよぉ〜」
「…それはこちらのセリフ…」
「ふふ…“何が”…かな?」
「…何でもない」
とだけ言うと彼女は去っていった。
「…かっこいい人でしたねぇ」
「ん?…あぁ〜、確かに」
「…俗にいわれるクールと言うものでしょうか…」
「…確かにクールという言葉があってるね」
「よし、お師匠様!僕、クールを目指すよ!」
「無茶言うんじゃありません。ネアさんからは程遠い言葉だから…でも、実力で言えば君らがまず目指さないといけない場所なのは確かだね」
「…Aランクをですか?」
「そうそう」
「い…いくら何でもっ…そう簡単には…」
ルミナさんは苦い笑みを浮かべる。
確かに、ルミナさんの言う事は間違ってない。
今の彼女達は、ランクで言えばDランク。
最底辺だ。
対してあのコトラさんはAランク。
ABCDの順でたった3っつしか違わないけど、その差は激しい。
例えるならば月とスッポン…いや、道端の小石の差だ。
その差を埋めるなんてそう簡単じゃない。
だからこそ、Aランクの称号は凄いものなんだけどね。
「でも、君らのまだ目覚めてないポテンシャルを考えれば夢じゃないさ。もちろん、それなりの努力は必要だけどね」
「は…はぁ…」
「とりあえず、受付嬢さん。2人に今受けられるクエストを見せてあげてよ」
「かしこまりました」
と、受付嬢さんは分厚いファイルを取り出して2人に提示する。
基本Dランクのクエストは簡単な採取とか討伐ばかりだ。
たまに迷子の子猫を探してとかあるけど…
まぁそれはそれ、特例だね。
主に市民達の依頼がたくさんあるのがDランク。
そりゃ、高い報酬なんて用意できないけど何とかして欲しいって人たちはたくさんいるからね。
CやBで責任者とか貴族からの依頼があり、A以上になれば国自体からの依頼もある。
だが、そんなのは正直後回しでも構わない。
もちろん、急を要するのだってあるけど…
1番先に片付けなければならないのはDランクの依頼だと僕は思うからねぇ…
国を支えているのは責任者でも貴族でも商人でも王でもなく民自身。
民無いところに国は成り立たずってね。
「おぉ〜!、お師匠様ったくさんあるよ!」
「それはそうだよ…とりあえず、討伐系とか探してみて」
「はーい!」
と夢中で探し出すネアさん。
…ルミナさんがこれまで苦労してきたのが目に浮かぶなぁ…
「…お客様はご自身のクエストは受けられないので?」
と、不意に受付嬢さんが聞いてきた。
…やれやれ…
「今回は付き添いだからねぇ……それに、僕に対するクエストを“用意”できるの?」
「…失礼いたしました」
と頭を下げて謝罪する受付嬢さん。
流石に賢いねぇ…
無理矢理の話の切り方を心得てる…
…はぁ…
予想してたけどめんどくさそうだなぁ…
「…とりあえず、また絡まれそうになったら“次は”止めてね?。僕がいない時とかあり得そうだし」
「…ふふ…受付嬢に争い事の仲裁を求められましても」
「ははっ、確かにそりゃそうだねっ……まぁ…ただの受付嬢なら…ね?」
「…」
「…じゃ、うちの子達決めたみたいだから受けさせてもらうね」
と僕はこれにしよっと騒いでるネアさんと落ち着かせようとしているルミナさんの元に移動した。
常に笑顔だけは絶やさず、“目は笑っていない”受付嬢さんを置き去りにして…
…はぁ、怖い怖い…
「…流石ですね…実力は噂以上でしょうか……ふふ……たかぶるわぁぁ…」