8-波乱の自己紹介
担任であるお母さんの挨拶が終わると、今度は新しいクラスメイト達が自己紹介をする番だ。
……私はお母さんとの関係を公表したくないけど、さすがに隠したままにはしておけないだろうなぁ。
う~ん、どうやって紹介しようかな……。
そんなことを考えていると、クラス内がざわついた。
「え~と、啓内さくらです。
色々と噂があると思うけど、あたしに危害を加えなければ無害です。
怖がらずに仲良くしてください」
……うん、聞きようによっては、脅迫しているようにしか聞こえない。
さくらちゃん本人は、ただの事実を言っているだけのつもりなのか、なんだかあっけらかんとしているけどさぁ……。
でも周囲からは、「あれが鉄拳の……!」とか「高校生の不良グループを1人で潰した、あの……!」とか、怯えているかのような声が聞こえてくる。
教室内のざわめきがなかなか収まらないから、かなり震撼してるね、これは……。
というか、早く止めなよ、お母さん!
……まあ、確かにさくらちゃんは、この地域一帯で「百合ヶ島小の鉄拳」と呼ばれる存在として恐れられることもあるけれど、それについては大きな誤解もある。
それは事情をよく知らない人にとって、仕方が無い誤解ではあるのだけど、いずれにしても本人が言うとおり、さくらちゃんに危害さえ加えなければ、全く危険が無いというのも事実なんだよね。
わざわざ虎の尾を踏まなければいいだけの話。
……さくらちゃんに危害を加えたら?
それは私でも、加害者を助けることはできないかなぁ……。
最低でも、泣かされるような目に遭うことは確実。
そういう意味では、数ある不穏な噂話も事実ではあるし、恐れられるのも分からないではないのだけど、さくらちゃん自身は良い子で、本気で怒っているところも殆ど見たことが無いほど温厚な性格だ。
……本当だよ?
それでもさくらちゃんが誤解されてしまうのは、とある事情によるのだけど、その詳細については、いつか改めて語ることもあるだろう。
──っと、いつの間にか私の自己紹介の番が回ってきたよ。
私は緊張しながら、立ち上がる。
……お母さんとの関係を公言するのは嫌だけど、ここはハッキリとさせておこう。
「え~と、珠戸綺美です。
母が担任ですが、学校では無関係なので、担任に対する苦情・要望は、本人にお願いします」
ふ~、これでよし。
ん? 今一瞬、お母さんが震えたような気がするけど、どうした?
顔は笑顔のままだけど……いや、なんか表情が凝り固まっているような……。
……もしかして怒っている……?
「無関係」って言ったから?
いや……まさかね……。
それはともかく、私の自己紹介によって、教室内はまたもやざわついた。
それは「あまり先生と似てない」とか、「凄くちっちゃい」とかいう声が大半だったけど、まあ想定の範囲内だ。
お母さんの身長が結構高い方だから、背の小さな私と親子だというのは、あまりイメージできないのだと思う。
というか、クラスメイトからは、同じ年齢だとは思われていなかった可能性すらあるな……。
私も不本意だけど、たまに3年生くらいに間違えられることがあるし……。
……でも、現時点ではそんなに悪い反応ではないかな?
「可愛い」という声まであって照れくさい。
だけどそれって、小動物扱いなんだろうなぁ……。
そして教室内のざわめきが収まると、残りのクラスメイトの自己紹介が滞りなく続いていく。
……けど、お母さんの表情が、さっきから全く動かないのがなんだか怖いんですけど……。




