86 参 拝
「あ、さくらちゃんとこぶしちゃん。
あけましておめでとうございます」
売店には、巫女姿の啓内姉妹がいた。
家の手伝いをしているのだろうけど、この姿の双子はもう小学生には見えないなぁ。
そして今は髪型を統一して左右を分けて結んでいないから、ちょっと区別が付きにくい。
まあ、私は分かるけれどね。
「おばさんと一緒に来たんだ。
相変わらず仲がよ──」
「良い訳ないでしょ」
私は被り気味に訂正を入れた。
「そんな、綺美ちゃん!?」
お母さんも良く知った仲だからって、油断した態度をとらないでほしい。
それにしても巫女服のさくらちゃんとこぶしちゃんは、凄く綺麗だな……。
双子ということも相俟って、なんだか幻想的だとすら感じる。
……うん、積極的に恋愛関係になりたいと思わないけれど、そういう関係になったとしても嫌じゃないというか、有りだな……。
私ってやっぱり女の子が相手でも、大丈夫な人だったのか……。
でも、友達をそういう目で見るのはいけないと思うから、なるべく考えないようにしよう。
「おみくじ、引いていく?」
「ああ、2人分お願いね」
こぶしちゃんがおみくじをすすめてきたけど、私が答える前にお母さんがお金を出した。
「はい、綺美ちゃん」
「あ、ありがと……」
普段からこんな風に、母親らしい態度でいればいいいのに……。
私はおかあさんからおみくじを受けとると、早速中身を確認する。
『中吉:現状維持を心がけるべし』
……突然考え方を変えたりしないで、今まで通りでいいってことなのかな?
まあ確かに、私自身の本質が変わった訳ではないし……。
じゃあ、お母さんや友達への接し方も、変えない方がいいってことか。
……って、お母さんが難しい顔をして、おみくじを凝視している。
何かきついことが書いてあったのかな?
「なんて書いてあったの?」
「凶で、もう少し落ち着け……ってぇ……」
何その小学生の通知表に、書かれていそうなこと。
でも実際、子供みたいなところはあるけれど。
「さくらちゃん、ここのおみくじ、当たるって有名だよね?」
「そーだよ。
評判良いんだぞ」
「だってさ。
気をつけようね」
「うううう……」
お母さんが情けない声を出しているけど、無視しておく。
「それじゃあ、お参りしてくるね。
お手伝い頑張ってね」
「はーい、またなー」
私達は双子に別れを告げて、本殿へと向かった。
着いたらお賽銭を入れて……。
最近は銀行の手数料がどうとかで、少額の硬貨は喜ばれないんだよね……。
よし、今年はお年玉も多かったし、500円を出そう。
それに大きな願い事には、それなりの対価が必要だよね……。
『今年1年、平穏で過ごせますように……!』
それが途方もないことであるかのような気持ちで、私は神様に願った。
「え~と、喜美ちゃんとぉ……」
……となりでブツブツと何かを言っているおかあさんの声を聞いて、まあ無理だな……とは思ったが。
帰宅後、私はお母さんから没収した「一緒にお風呂券」と「添い寝券」を、返すことにした。
「え……?」
お母さんは訳が分からないという顔をしている。
「まあ……お年玉ってことで。
でも、これからも行動を自重することが条件だよ?」
「綺美ちゃ~ん!」
「わぷっ!?」
感極まったお母さんが抱きついてきた。
だから、そういうのを自重しろと……!
「……また没収するよ?」
「はい」
お母さんは私から慌てて離れ、正座をした。
うん、この調子でお母さんを躾けて、上手く付き合って行こう。




