73 斜面との戦い
ブックマーク、ありがとうございました。
リフトを降りるとクラス全員が到着するまで、降り場の付近で待機することになった。
上級者ならばこのままリフトを乗り継いで、頂上のコースまでいくのだろうけれど、初心者が多いので、まずは1番低い初心者コースのところから滑り始めるのだ。
おお……遠足の時に行った山の斜面よりは緩やかだけど、やっぱり怖いな……。
そして全員が集まったら、
「はーい、初心者はスキー板が『ハの字』になるように滑ってください。
そうすれば、スピードは出ません。
決して板を真っ直ぐにはしないでください。
スピードが出すぎます。
止まらなくなった場合は、なるべくスピードが出る前に、自分から転んでください。
それから曲がり方は──」
と、お母さんによるスキーの滑り方の、実演が始まる。
……お母さんがスキーをしているところなんて、今まで見たことなかったんだけど、滑れたんだ……。
それにしても、ハの字か。
プールークボーゲンとか言ったっけ?
……ハの字……ハの字……。
あれっ、結構雪の抵抗が強い。
おかげでスピードは出ないけど、ハの字を維持するのがキツイ。
ああ……ああああ!
このままではスキー板が真っ直ぐに……!
直滑降に……っ!!
「ギブ!」
私は自ら倒れて、直滑降になるのを阻止した。
「綺美ー、大丈夫かー?」
さくらちゃんがシャッシャッと、雪を切るように曲がりながら滑ってくる。
「パラレルターンっっ!?
……あれ? さくらちゃんって、スキーの経験者だったっけ?」
「いや、初めてだけど?」
……何故それで、そんな高等技術が……。
こぶしちゃんほどじゃないけど、やっぱりさくらちゃんも身体能力が高いなぁ……。
「上手く滑ることができないのなら、こぶしにお姫様抱っこされて下まで運んでもらう?」
「え、それはスキーに乗りながら?」
「そりゃあ……歩いて行ったら時間がかかるし」
「さすがに危ないよ!?」
たぶんジェットコースター以上の、スリルが味わえると思う……。
転んだら命が危ないし。
「珠戸さーん、大丈夫ですかー?」
あ、福井さんが、ゆるゆるとしたスピードで追いついてきた。
彼女のスキー技術も私と大差ないな……。
「私は福井さんと一緒に、ゆっくりと行くよ……」
「そう?
じゃあ、横に向かって滑ればいいよ。
コースの端から端までいくつもりで。
それならスピードがあまり出ないから、ジグザグに繰り返して、少しずつ下へ行くの」
「なるほど……」
確かに斜面に対してスキー板を真横にすれば、滑ることはない。
だけどちょっと斜め下に板をむければ、少しずつゆっくりと進む。
これならば板を揃えていてもそんなにスピードは出ないし、ハの字を維持しながら滑るよりも楽かもしれない。
……まあ、上から滑ってくる人とぶつからないように、気をつける必要はあるけれど……。
「あああああああああああああああああ!!」
「え?」
「待って~、智ちゃ~んっ!!」
今、物凄い勢いで丹治易さんと、彼女を追いかけて頭映さんが通り過ぎていった。
あれって……大丈夫なのかな……?
止まれなくなっているようにも見えたけど……。
「私達はああならないように、ゆっくり行こうね……」
「そうですね……」
「じゃ、あたしは先に行くねー」
と、先に滑り降りていったさくらちゃんとは、その後も2回ほど顔を合わせることになった。
私達がゆっくりと滑っている間に、彼女は下まで行ってから、再びリフトで登ってきたのだ。
結局私達は、1時間近くかけて下まで到達し、そして2度とリフトに乗ることは無かった。
筆者はスキー4級を持っていますが、特に役立ったことはありません。
ちょっと体調が悪いので、次回の更新は間に合うのか微妙……。




