48 肝試し
ブックマーク、ありがとうございました。
私、福井蝶胡は、みんなでキャンプ場に来ています。
今までの私は内気な性格の所為で、お友達とキャンプに行くなんてことはありませんでした。
むしろお友達と言える存在も、殆どいませんでしたし……。
それに私はどちらかというと、インドア派の人間でした。
本来は外で遊ぶよりも、家で本を読んでいることの方が好きなタイプなのです。
だからキャンプと言われても、正直どのように楽しんだらいいのか、よく分かりませんでした。
でも今回は、折角珠戸さんとお泊まりできるチャンスだったので、積極的に参加してみました。
憧れの先生もいるし、参加して本当に良かったと思います。
まあ……珠戸さんの水着姿が見られなかったのは、ちょっと残念でしたけどね……。
それでも珠戸さんや先生とは、昼食の準備の時に沢山交流できたので、本当に満足です。
料理に真剣な珠戸さん……素晴らしく可愛い……。
そんな私が珠戸さんを見る視線と、先生の視線が何故かシンクロしていたような気がしたけれど、先生も娘さんが可愛くて仕方がないのですかね?
担任になる前に聞いていた噂では、意外と厳しい先生だということでしたが、思わぬギャップです。
でも、それがいい!
そして夜は肝試しです。
実を言うと怖いのは苦手なので、少々気が進みません。
しかも珠戸さんや先生とペアになれなかったのも、すごく残念です。
まあ、珠戸さんと先生がペアになって、帰ってきたら珠戸さんが少し憔悴していたのには、妄想が捗りましたが。
あのお二人は学校でもたまにいなくなりますが、戻ってきた時はいつも珠戸さんが疲れた顔をしています。
一体二人で、何をしているのでしょうねぇ……?
そして私とペアになったのは、啓内姉妹の叔母である、倉守ゆりさんという人です。
ほぼ初対面の大人の人と一緒なのは、かなり緊張します。
そもそも何を話せばいいのでしょうか……。
あ……そういえばこの人、珠戸さんと同じマンションに住んでいるのですよね?
珠戸さんの部屋とは、よく行き来しているのでしょうか?
「あの……倉守さんは、珠戸さんとの付き合いは長いのですか?」
「珠戸……ああ、綺美ちゃんの方ね。
私は先輩……君達の担任の後輩で、中学生の頃からの付き合いだよ。
綺美ちゃんは生まれた頃から知っているけど、一時期はベビーシッターみたいなこともしていたね」
こ……これは!?
珠戸さんや先生の情報の宝庫ではないですか!?
これは色々と聞いてみましょう!
「へぇ~、赤ちゃんの頃の珠戸さんって、どんな感じだったんですか?」
「ああ、あの頃の綺美ちゃんはねぇ──」
そんな話をしながら、私達は夜の遊歩道を歩いていきます。
いつの間にか怖さも無くなっていました。
実に充実した時間になったと思います。
そして珠戸さんという共通の話題のおかげで、倉守さんともかなり親しくなれたのではないでしょうか。
だからなのか、雑談の流れで倉守さんのお仕事についても聞くことができました。
「え……小説家さんなのですか!?
私も将来は作家さんになりたいと思っていたのです!」
「へぇ……そうなんだ。
面白い偶然だねぇ」
「そ、それで、どのようなお話を書いているのですか!?
是非、読んでみたいです!」
「いやぁ……私の作品は大人向けが多いから……。
あ、でも最近書き始めた『マギカ・フュージョン』は、若い子向けかな?」
「『マギカ・フュージョン』!?
まさか、lily先生!?」
私はそのタイトルを聞いて、驚愕しました。
なにせ『マギカ・フュージョン』は、私の愛読書だったのですから。
そうか……!
「lily」というペンネームは、「ゆり」という本名が由来だったのですね!?
「あ、あ、私、大ファンです!!
サインをお願いできますか!?
いえ、師匠と呼ばせてくださいっ!!」
「え、ええぇ……」
思わず口から出た言葉に、lily先生はちょっと引いた様子だった。
いけない……ちょっと動揺しすぎました……!
ともかく、この出会いは私の人生にとっても、大きな転機だったと思います。
いえ……そもそもが、このキャンプ参加の切っ掛けになった珠戸さんとの出会いが、転機だったのでしょう。
そして私が師匠の教えを受けて、母娘百合の物語を上梓したのは数年後のことでした。
それが私の作家としての、第一歩になったのです。




