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3-開き直ったお母さん 

 ブックマークありがとうございました。

「え……?

 お母さんって、私のことをそんな目で見ていたの……?」


 ドン引きである。

 母親が娘を恋愛対象として見ていたのだから、その娘の私としては当然の反応だろう。


 そんな私の反応を見て、さすがにマズイことを口走ってしまったことを自覚したらしい。

 お母さんは慌てた様子で、


「い、今のは冗談よ、ジョーダン!?」


 と、どう見ても冗談には見えない狼狽ぶりで取り繕った。

 いや、取り繕えていないが。

 そして、


「わ、私、食器を洗ってくるね~」


 食器を抱えて、キッチンへの逃亡である。

 その場に取り残された私は、呆然……と、椅子から動けない状態に陥っていた。

 この事態は予想していなかった……。


 いや、再婚だなんてセンシティブな話題を振ったから、ちょっとは深刻な話になるという覚悟はしていたつもりだったんだけどね?

 だけど、とんでもない大蛇が藪の中から出てきたよ……!!


 まさに、藪蛇どころの騒ぎではなかった。

 時を戻せるのなら、夕食前に戻してやり直したい。

 助けて、ほむほむ!

 

 ……と、その昔お母さんと一緒に観ていたアニメのキャラに、助けを求めたくなった。

 彼女は時間を巻き戻す能力を持つのだ。

 ん……? でもあのキャラって、今にして思うと、同じ女の子である筈の主役の子へ、友情以上の感情を持っていたような……。


 そうか……あのアニメ、お母さんの趣味だったのか。

 魔法少女物なのに子供には刺激が強い内容だとは、なんとなく思っていたんだよね……。

 もしかして今まで一緒に観てきた他のアニメにも、そういう要素が……?

 

 いや、アニメの検証についてはまた今度にして……。

 ……ああ……うん。

 なんとなく、色々なことが腑に落ちたような気がする。


 今までお母さんが私に対して過剰にスキンシップを取ろうとしていたのも、ただの親子のコミュニケーションではなく、恋愛的な愛情表現だったのか。

 Oh……。

 私……これからどうやって、お母さんと付き合っていけばいいんだろ……。


 少なくとも、今までと全く同じというのは……無理だな、うん。

 そんな風に私が思い悩んでいると、


「綺美ちゃーん! 

 食器を洗い終わったから、一緒にお風呂入ろ!」


 まるで何事も無かったかのように、明るい調子でリビングへと戻って来た。

 本当にさっきまでの記憶が消えているかのようだ。

 おそらくもう誤魔化しきれないので、全部無かったことにしたらしい。

 うん、それはちょっと無茶かな……私が憶えているし。


「えっ……!? 

 なんでさっきまでの話の流れで、許可されると思ってるの?

 普通に嫌なんだけど……」


「そこをなんとか!

 今までは、毎日一緒に入っていたでしょ!?」


 確かに昨日までは一緒にお風呂に入っていたけど、お母さんの本心を知った今となっては、もう今まで通りとはいかない。


「でも……私の裸を、いやらしい目で見るんでしょ……?」


 それって、男の人と一緒に入浴するようなものでしょ。

 さすがに嫌だよ。

 私は思わず、両手で自分の身体を隠すように覆った。

 

 でもお母さんは、「何を当たり前のことを聞いているのか」とでも言うかのように、不思議そうな顔をして首を傾げた。


「それは今までと何が違うの?

 何も変わらないよ?」


 おい、開き直るな。


「変わるよ!

 真実を知ってしまった、私の気持ちの問題だよ!!」


 というか、やっぱり前からそんな目で見ていたのか……。

 実害は無かったけれど、気分の問題だよ……。


「そもそも、もう6年生になるのに、まだ親と一緒にお風呂ってのが変なんだよ……。

 そろそろ卒業してもいい頃でしょ?」


 と、私は至極真っ当で、建設的な提案をしたつもりだった。

 ただ生理的に嫌だから──と、お母さんを突き放すのではなく、世間一般の風潮と同じようにしよう……と。

 これならばお母さんだって、納得しやすいと思ったのだ。

 しかし──。


「だ……駄目よ、綺美ちゃん……。

 私にはもう時間が残されていないの……!」

 

「は?」


 お母さんはよろよろとした足取りで私に歩み寄り、肩に掴みかかってきた。

 まさかここから押し倒されるとまでは思わなかったけれど、それでも私はビクリと身を(すく)ませる。

 お母さんの次の行動が全く読めないので、警戒するにこしたことはないのだ。


 ……というか、「時間が残されていない」って、本当に意味が分からん。

 一体何を言っているのだ、この人は?

 そんな私の疑問の答えは、次のお母さんの言葉で分かった……が、理解はしたくなかった。


「定期的に綺美ちゃんとイチャイチャしないと、禁断症状が出ちゃうぅ……!!」


 と、涙目で訴えかけてくるお母さんの身体は、小刻みに震えていた。


 ………………馬鹿なの!?

 実の親に対してこんなことは言いたくないけど、馬鹿なのっ!?


 どんだけ私に依存しているんだよ!

 そもそも、私は麻薬か何かじゃないからっ!

 そんな常習性は無いはずだからっ!!

 …………無いよね?


 だけどお母さんは本気らしく、ついには泣き始めた。


「うえええぇ~ん、このままじゃ私、駄目になっちゃうぅ~!!


「ええええ……もう駄目になってるでしょ!?」


 本当にどうしちゃったの、この人。

 今日までこんなに駄目な人だったなんて、全く気づかなかった……。

 そう思うと、なんだか私の間抜けっぷりも、笑えない物があるな……。


 ともかく、私にすがりついて泣いているお母さんの様子を見ると、このままじゃ明日からの仕事にならない可能性も否定出来ない。

 そうなると収入も絶たれるし、小学生の私では代わりに働けないからどうしようもなくなる。

 さすがにこの年齢(とし)で、路頭に迷いたくはないんだよなぁ……。


 くっ……生活の為には、私が妥協するしかないのか……?

 乙女の尊厳を捨てでも、生活を守らなきゃいけないのか……!?


 …………いや、そもそも目の前に尊厳を捨てちゃっている人がいるからなぁ。

 この状態のお母さんに勝てるとは思えないから、私が折れるしかないのだろう……たぶん……きっと。


「…………変なことを絶対にしないって、約束できるのなら……いいよ」


「!!」


 泣いていたお母さんの顔が、瞬時に笑顔へと変わる。

 喜怒哀楽の変化が激しいなぁ、もう。

 そして、


「わーい!

 だから綺美ちゃんのこと大好きーっ!」


 子供みたいな無邪気な笑顔で、私に抱きついてくる。

 ええい、そういうのを控えろって言っているんだよ!


 ……でも、年下の子みたいで、ちょっとだけ可愛いく見えただなんて、思ってなんかいないんだからね?

 気の迷いだったと、断固主張したい。

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