28 誰が私を運ぶのか
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私達がスキー場のコースを登り始めてから、30分ほどが経過した。
私は既に泣きたい。
「ぜひゅー、ぜひゅー……」
「おお、綺美……呼吸がヤバイな……」
さくらちゃんが、バナナを食べながら言った。
なんでもう、おやつを食べているのかなぁ……。
いや、うちの学校では、バナナはおやつに入らないんだっけか。
そんな訳でさくらちゃんは、バナナを10房ほど持ってきたらしい。
荷物の殆どが、バナナとお弁当とおやつだ。
ぐうう……私の体力の無さもヤバイけど、さくらちゃんの燃費の悪さもヤバイな……。
それだけ食べれば、そりゃあ身長も胸も育つよ……。
ん……?
そういえば、こぶしちゃんって、さくらちゃんと全く同じ背格好だよね……。
さくらちゃんほど食べていないのに、なんで……?
むしろあの怪力を維持する為なら、食事量は逆なんじゃない!?
はっ!? というか、こぶしちゃんがさくらちゃんほど食べなくてもあの体型ってことは、さくらちゃんの身長や胸の大きさって、食事量とは関係ない……!?
一体どういうことなの……?
そんな大いなる謎について、私は考える。
そんな風に気晴らしでもしていないと、ちょっと身体がキツイよ……。
「珠戸さん、引っ張ってあげましょうか?
ほら、手を繋ぎましょう!」
あ、福井さんから救いの手が……。
「あ、ありがとう、でも疲れたら、すぐに離してね……」
「いえ、こんな柔らかくて気持ちの良い手、ずっと握っていたいですよ!」
「そ、そう……?」
福井さんはそう言ってくれた。
──だけど登山開始から1時間が経過した頃、
「「ぜひゅー、ぜひゅー……」」
福井さんも、私と同じような呼吸になっていた。
そんなに体力がありそうには、見えなかったしなぁ……。
それなのに、私を引いて山道を歩くなんて、無茶をしすぎだ。
「ふ、福井さん、もういいよ……。
手を離して……」
「い、嫌です。
意地でも……離しません……!」
いや、でも死にそうになっているし……。
なんだか私よりもヤバそうだ。
「こぶしちゃん、福井さんを運んであげて?」
「いーけど、綺美はいいのか?」
「いや……2人同時は無理でしょ?」
「両肩に米俵みたいな感じて担げば、いけると思うよ?」
「さすがにそれは、苦しそうなのでいいです……」
たぶんそれ、こぶしちゃんの肩に、私達のお腹がめっちゃ食い込むと思う。
「……まあ、私は最悪の場合、お母さんがいるから……」
「ああ、なるほど……」
むしろお母さんは、私を運ぶ時に密着したくて、最後尾に陣取って待ち構えているまである。
「さあ、行くぞ」
「わ……私は、まだ……」
こぶしちゃんに福井さんが回収されていく。
彼女はまだ抵抗しようとしていたが、さすがに体力が尽きたのか、あっさりと私から引き離された。
「さくら、あたしのリュックを持っていて。
中の物はお弁当以外、食べてもいいから」
と、こぶしちゃんは、背中からリュックを下ろして、福井さんを背負った。
一方、さくらちゃんは、
「いーよ、これ全部食べて良いの?」
そんなことを言っている。
バナナだけでは足りないらしい。
「うん、そのつもりで持ってきたから。
いつもなら我慢しろって言うけど、今日はかなり体力を使うから、特別ね?」
「やった!」
さくらちゃんがこぶしちゃんのリュックを開けると、中から大量のバナナが出てきた。
……ホント、妹に甘いなぁ……。
それから暫くして、久遠さんが声をかけてきた。
「綺美ちゃん、大丈夫?
なんなら私が背負ってあげようか?」
「久遠さん……。
いや、いくら私が小さいからって、重いと思うよ?」
「そう? でも私、こぶしと互角に戦えるから、いけると思うよ?」
は?
あの人外の怪力を身につけたこぶしちゃんと互角って、冗談でしょ?
「家業の関係で、山籠もりとかの修行もしていたからね。
熊と戦った経験もあるよ」
え……と、久遠さんはジャンルが違う世界から来たのかな?
なんでそんな異能力バトル漫画の、主人公みたいなことをしているのさ……。
「……久遠さんの家業って、ホントなんなの……?」
「人知れず、世界を救うお仕事さ」
お……おう。
中二病ってやつなのだろうか……。
「だから、遠慮しないで私に頼りなよ」
「う……うん、そうまで言うなら……。
あ、おか……いや、先生、リュック持ってくれますか?」
「ええ、いいわよ。
久遠さんだったら安心ね」
ん!?
「え……久遠さんと知り合いなの?」
「ええ、彼女のお母さんとは面識があるわね」
ええ……どこで知り合ったの?
お母さん、さくらちゃん達の母親とも知り合いだから、その繋がりなのかな?
というか、「安心ね」って久遠さんを信頼している風だけど、あの突飛な言動をしている彼女のことが、信頼できるってこと?
つまり彼女の発言は全て事実……!?
ということは、こぶしちゃんと互角というのも、本当なの……?
「じゃあ、いくよー!
綺美ちゃん!」
と、久遠さんは、私を抱え上げて山を登り出す。
「ちょっ、持ち方ぁ!?」
久遠さんの私の抱え方は、いわゆる「お姫様抱っこ」というものだった。
こんな持ち方で人を抱えて山を登るとか、相当な力がないと無理だろう。
確かにこれはこぶしちゃんと互角だわ……。
その時、背後から小さな声で、
「あっ、それちょっと羨ましい……」
そんな呟きが聞こえてきた。
お母さんは黙っていて!?
久遠さんに聞こえるでしょ!
「はっはっは、こぶし達に聞いていた通りだなぁ」
聞かれてた……。
あっ、最初の挨拶の「色々と」って、そういうことも含まれているのね……。




