22 母帰る
ブックマークありがとうございました。
最初は恵視点ですが、途中から変わります。
「あれから……あなたが持ち込んだ様々な相談事で、随分と振り回されましたねぇ……」
「そのお返しに、先生の前でクラスの女子との百合百合しているところを見せつけてあげたではないですか」
それはもう、友達に抱きついたり、頬に頬擦りしたり、色々と見せてあげましたよ。
私は知っている。
それを見ていた先生の顔は、尊死しそうなものだったということを。
そして生徒をそういう目で見ていたことを私に暴露されていたら、教師としては生きづらいことになっていたということも。
だから今も校長先生は、私には頭が上がらないのだ。
「そのことについては、感謝していますよ、本当に」
「……まあ、私も先生には感謝していますが」
先生がいたから、あの頃の私は無駄に悩まなくて済んだ。
ただ、理解者がすぐそばにいた所為で、開き直りに拍車がかかって、少し自重という物が私の辞書から消えかけたが。
「……さて、私はそろそろ席に戻りますか。
それじゃあ校長先生、ごきげんよう」
「ああ……はい。
気をつけて」
……さて、ちょっと昔を思い出して懐かしくなったから、サービスしてやるか。
私は席に戻ると、ふらつく振りをして、壬山先生の胸に撓垂れ掛かった。
「た、珠戸先生!?」
「す、すみません。
どうやら足が痺れてしまったらしくて……」
「あ、ああ……大丈夫です。
気にしないでください」
只でさえアルコールで赤くなっていた壬山先生顔は、更に赤くなった。
この人もちょっと、素質があるんじゃないかなぁ……。
まあ、私には綺美ちゃんがいるから、ちょっと反応を見て楽しむくらいしかしないけど。
そして校長先生の方を見ると──、
グッジョブ
と、いう形に口を動かせながら、親指を立ててサムズアップしていた。
ふふ……貸し1つですよ?
※綺美視点
今晩はお母さんがいないので、夕食はショッピングモールの食品売り場で買ったお弁当だ。
自分で作ってもいいんだけど、わざわざ一人前だけ作るというのも、なんとなく面倒臭いので、今日くらいは手抜きでもいいだろう。
凄く美味しいという訳ではないのだけど、栄養バランスとか考えずに、自分の好きな物を選べるという意味では、ちょっとわくわくする。
あと、自分で作るとちょっと手間がかかる物でも、気軽に食べられるというのもいい。
しかも食器洗いの必要も無いしね。
ふぅ……それにしても、お母さんがいないと家の中も静かだなぁ。
ここ最近は慌ただしかったから、ちょっとした息抜きになるかも。
そんなことを考えながら、まったりと夕食を食べていると、呼び鈴がなった。
ん? こんな時間に来る人っていうと、ゆりさんかな?
……あ、やっぱりゆりさんか。
「綺美ちゃん、様子を見に来たよ。
お留守番は問題無い?」
「問題無いよー。
お母さんの相手をしなくてもいいから、いつもより楽なくらいだよ」
「はは……先輩には聞かせられないなぁ。
絶対に泣くから、本人の前で言っちゃ駄目だよ?」
それはお母さんの態度次第かなぁ。
「あ、これ幸せのお裾分け。
さっきさくらちゃんと会ったから、一緒に喫茶店でケーキを食べたんだけど、お土産に綺美ちゃんの分も包んでもらったよ」
ああ、なんか機嫌が良さそうだと思ったら、そういうことか。
ゆりさんは、さくらちゃんのことが大好きだもんなぁ……。
……って、さくらちゃんは、フードコートでもかなり食べていたはずなんだけど、まだ食べたんだ……。
「ありがとー。
丁度夕食を食べていたから、デザートにするよ」
「うん、じゃあお留守番、頑張ってね」
「うん、本当にありがとう。
おやすみー」
私はお礼を言って、ゆりさんを送り出した。
思わぬケーキの差し入れもあったし、今日はいい日だなぁ。
ありがたくケーキをいただきながら、ちょっと豪勢な夕食を終えた。
そして9時をちょっと過ぎた頃だろうか。
歯も磨いたし、お風呂にも入った。
あとはいつ就寝しても良い状態で、なんとなくテレビを見ていたら、また呼び鈴が鳴った。
今度こそお母さんかな?
予想通り、お母さんが自分で鍵を開けて、勝手に入ってきた。
それなら呼び鈴を鳴らす必要は無いと思うのだが、出迎えて欲しいのだろうということも理解できてしまうから困る。
はいはい、今行きますよー。
「おかえりなさーい」
そして、私が出迎えると、玄関で棒立ちだったお母さんは、突然涙を流し始めた。
どうしたっ!?
「ただいま、綺美ちゃーん!!
寂しかったよぉーっ!!」
と、お母さんは私に抱きついてきた。
あ~もう、完全に酔っ払っているなぁ。
……いや、いつもとそんなに変わらないか?
恵の過去パートはもっと話を広げることもできたのだけど、男性キャラの出番をこれ以上増やしてもなぁ……という判断で割愛。恵と校長の関係性さえ分かってもらえればそれで良いです。




