11-智と鮎
ブックマークありがとうございました。
なお、今回は途中で綺美からさくらへと視点が変わります。
「委員長、ちょっと手伝ってくれる?」
廊下から教室の中を覗き込んだお母さんは、そんなことを言ってきた。
は? ちょっと待って、お母さん。
さっき放課後に仕事は、殆ど無いって言っていたじゃない!?
いきなり前言を翻すのは、やめてくれないかな……。
でも、今ここで文句を言っても、聞く耳をもってくれないだろうし、丹治易さん達の前で言い争うのもなぁ……。
……仕方が無いから、ここは大人しく付き合うか……。
「ごめん、さくらちゃん。
悪いけど、先に帰ってて?」
「おう、大変だなぁ、綺美……」
さくらちゃんが、バイバイと手を振って私を送り出してくれた。
何故か丹治易さんも、その場のノリなのか、手を振っている。
そんな彼女に対してさくらちゃんは、
「ほら見ろ、仕事を押しつけられたりして、先生が母親でも有利なことなんて無いだろ?」
「確かに……」
と、母親が担任であることで恩恵があるという、間違ったイメージを否定してくれた。
うう……本当にいい子だよ、さくらちゃんは。
……あれ?
でもこれって、お母さんが声をかけてこなきゃ、こんな話の流れにはならなかったよね?
もしかして、これを狙ってやった……?
フォローしてくれたの、お母さん?
……いやいや、まさかね……。
※さくら視点
綺美がおばさんに連行された後には、あたしとあの2人組だけが教室に残されていた。
取りあえず変なことで綺美に絡んできたアホには、釘を刺しておく。
「……とにかく明日、綺美に謝っておきなよ?」
「よく分からないけど、分かりましたわ」
返事はいいけど、なんで分からないんだよ!
「そこは分かっておきなよ、智ちゃん……」
お、相方にも突っ込まれた。
というか、
「智?」
そんな名前だったのか。
「先程自己紹介したのに、もう忘れましたの!?
有名人だからといって、いい気なものですわね!」
智とかいう子が怒っているけど、興味の無い奴の話なんか聞いてる訳ないじゃん。
そもそもあたし自身は、有名人じゃないと思うんだけどなぁ……。
「それでは……改めて自己紹介を。
私は丹治易商店の跡取り娘、丹治易智ですわ
以後お見知りおきを」
「私は頭映鮎ね」
ううん? 財閥やグループじゃなくて商店!?
お嬢様口調だから金持ちの娘なのかと思っていたけど、実はお嬢様ぶっているだけの、なんちゃってお嬢様なのか!?
おお……こいつはなかなか濃いキャラだな。
第一印象はアレだけど、結構面白い奴かもしれない。
ここは1つ、こいつで遊んでみるか。
「ふ~ん、丹治易ね。
じゃあ、略してジイちゃんだな」
「なっ!?」
あたしの言葉に、智の顔色が変わった。
すぐに反応するから、面白いな。
「ちょっとぉ、変なあだ名をつけないでくださいまし!
まるでお爺さんみたいではないですか!
もしくはゴキ──」
そこで智は、口をつぐんだ。
名前を口にするのも嫌だと言わんばかりに、身を震わせている。
ああ、虫が苦手なんだな。
早速弱点をさらけ出している辺り、結構扱いやすい子かも……。
あたしがそんなことを考えていると、
「それなら頭映鮎の私は、バアちゃんだね」
「鮎ちゃん!?」
あの鮎って子がノってきた。
この子も智に対しては、弄りやすい相手だと思っているのかもしれない。
「それでは私達が、いよいよ老人みたいじゃないですの!
この若さで老人コンビ呼ばわりなんて、嫌ですわよ!?」
「でも私達が老夫婦みたいで、いいじゃない?」
「……えっ!?」
お? 智の顔が赤くなった。
夫婦という言葉に反応したのかな?
それに──、
「──って、駄目駄目っ!
私達はまだ、老夫婦という年齢ではないですしっ!」
「え~?」
鮎は智をからかっているように見えるが、その視線には何か含んだものがあるように感じる。
何処となく本気というか……。
これは綺美のおばさんや、ゆり叔母さんに近いものがあるかも……。
というか、智も年齢はともかく、「夫婦」というところは否定しないのか……。
ふむ……この2人の関係、少し興味深い……。
ただの幼馴染みか何かだと思っていたけど、それだけではないのかもねぇ……。
とにかくこの2人と一緒なら退屈しそうにもないし、綺美が戻ってくるまで待つかな。
お腹はすいたけど、友情も大事だもんな。
……しかし30分後くらいに戻って来た綺美は、やたらと疲れた顔をしていた。
一体何があったのだろう……?




