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神々の世界と因縁のペンダント【加筆修正中・更新休止】  作者: 海斗
第五章  個々の試練
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   第十八話  声の主

 そして、威圧感のある眼光に屈さず、対峙して様子を窺う。

 巨体のウルフから発せられる唸り声、冷静沈着だった佇まいを解いて腰を上げ、より声を張り上げて発し、戦闘態勢に入った。

 隣にいる巨大なゴブリンは怒号のような声を上げて、腰に提げていたこん棒を繰り返し地面へ叩き付けて威嚇する。

 それに(なら)うように、足元の近辺にいる撤退したゴブリンやウルフも、戦闘体勢に入って威嚇を繰り返す。

 エルッジの行動は抑制され、その隙にゴブリンやウルフは彼の周囲へ徐々に移動し展開。

 正面は巨体が二つ、エルッジの注意を引き付けるように構え、小型ゴブリンやウルフが等間隔で彼を取り囲み、行動範囲を規制する。状況は完全に袋の鼠と化した。

 成すがままのエルッジは戦闘体勢にあるが、一切行動する気配を見せない。

 周囲を取り囲む小型のゴブリンやウルフは眼中にないのか、視線を二つの巨体に集中して離さない。

 焦り、慌てる様子もなければ、敵前逃亡の様子もない。

 しばらく対峙した状態で膠着(こうちゃく)、双方ともに手出しの一つもない。

 刻一刻と時は流れていく……――。

 荒々しい音の一つも聞こえず、強風による風音だけが鳴り響いた。

 そして延々と戦闘態勢を取るも、相手の動きが一切ないことに痺れを切らしたのか。巨大なウルフが先に行動を起こした。


『ワオオオオォォォン――』


 上空へ顔を見上げると、遠吠えを辺り一帯に響かせた。

 その途端、隣の巨大なゴブリンも再びこん棒を地面に叩き付けて唸り声を上げる。

 共鳴するかのように、四方八方でエルッジを取り囲む小型のゴブリンやウルフも同じく、遠吠えや唸り声を上げると、一斉に突撃を開始。

 同士で先頭争いを繰り広げながらも、身体能力の個体差で競り勝ったゴブリン一体と、ウルフ一匹が独走して先制攻撃を仕掛ける。方向は左右からの挟み撃ち。完全にエルッジの逃げ道は存在しない。

 彼は左右から迫る二つの存在を横目で確認するが、迎撃する様子もなく、ただ目を閉じた。

 間合いを詰められ、迫るゴブリンとウルフは、斧や牙に魔力を纏わせる。


 木属性のゴブリンは斧の持ち手をより長くさせ、切っ先に光沢のある木の葉を数枚、纏うように回転させながら斧を振りかぶる。

 ウルフは顎全体を巨大化させ、口内の牙もサーベルように伸長させると、その牙に燃え盛る火を発現させる。

 それは両者ともに、属性攻撃だった。

 だがエルッジは、先と同様に一切の策を講じる様子もない。

 迫りくる攻撃を再び横目で確認する彼は、悠然としながらも途端に嘲笑した。


 やがて、間合いを詰めるゴブリンやウルフは、攻撃手段を活かせる近距離と至近距離の妥当な位置に到着すると、同時に属性攻撃を放った。


「くっ……!」


 ――エルッジは開眼。

 同時に両側の上腕を、燃え盛る牙と金属化した木の葉が捉え、流血するも、一弾指にも満たない時差を作ってから反応。

 斬撃が腕を切断する前に、手に持った大剣を躊躇なく強引に振り回して自らの間合いを作り出す。

 突然の反撃に対し、ゴブリンには少々距離が足りないが、放った木の葉と上腕を噛み続けるウルフから退けることにも成功する。

 その瞬間、近距離で大剣の斬撃の範囲外にいたゴブリンが間合いを詰め、退いたウルフは空中を回転して飛ばされながらも、土埃を舞い上がらせて踏み止まり、再び攻撃に転じた。

 警戒もせずに策も講じない先の様子と打って変わって、行動を起こしていた。

 大剣を着色した強大な魔力を纏わせた後、切っ先を地に向けて柄を天へ突き刺すように両手で持ち上げると、気迫のある顔で唸り声を上げながら垂直に地面へと突き刺す。


「【大・反撃波(ディナト・カウ)】」


剣身が金属音を鳴らして振動し、一弾指にも満たない瞬間的な速度で反撃となる衝撃波を放つ。空間をドーム状になって周囲に影響を及ぼしていく。

 近距離以内にいるゴブリン一体とウルフ一匹を呑み込み、肉片も骨片も一切残ることなく木っ端微塵。

 競り負けて後続にいる他のゴブリンやウルフも衝撃波の直接的影響を受け、先制攻撃ともなって先頭集団を後方へと吹き飛ばした。

 多量の血潮が空中で噴き上がって、その数は削られる。

 彼らにとって想定外だったのか、一瞬の出来事で本能によるものなのか。ひるんで足を止めるが、後退する様子もなく再度距離を縮ませ、エルッジの間合いへとなだれ込むように突入する。

 一撃を放ち終えたエルッジの全身からは、滝のような汗が流れ落ちていた。

 呼吸を整えようと剣を支えに、足元へ視線を向けたまま。彼の行動は、現状より遅れを取っていた。

 危機回避の行動を取らずに周囲への情報把握も一切ない。

 四方八方から取り囲むように間合いを詰めるゴブリンやウルフは、各々の武器を屈指して、至近距離にいるエルッジを容赦なく連続的な攻撃を仕掛ける。

 胴や四肢に次々と攻撃が、彼の肉体を捉えて計り知れない手数だった。

 その最中、怒涛の攻撃と相反して物理的に不可能な領域に、エルッジは存在していた。


「――……やっぱ、この力に勝る者はないか……。まあ、予定通りで助かるが」


 ゴブリンの斧やこん棒、ウルフの牙。さらに属性攻撃。

 そのすべては彼の身体を傷つけず、大剣ではなく肉体が鋼の如く攻撃を弾き返していく。

 響く金属音は数知れず。束になろうが、無意味に等しく突如として戦況は変化した。

 ゴブリンやウルフの多くが、状況を理解できずに唖然としている。

 確かめるように攻撃を繰り返し仕掛けるが、案の定であった。

 完全に、ゴブリンやウルフの攻撃は彼を捉えることは不可能となった。

 やがて、指示によるものか小型のゴブリンやウルフは彼を追跡せずに見送った。

 眼中にないエルッジは、再び視線を巨大化したゴブリンやウルフへと移すと、突き刺したままの大剣を引き抜き、野次のような周囲の攻撃を肉体だけで弾き返して、悠然と次なる標的へと接近する。


 その一方で、俯瞰して戦況を見ることができる巨大なゴブリンとウルフは、人間のように動揺するような行動もなく至って冷静。

 ウルフは、品定めのような細々とした目で接近するエルッジを眺め、ゴブリンは殺気立った様子でこん棒を振り下ろしていた。


 エルッジは足取りを早めず強風に髪をなびかせながら、ゆったりと一歩ずつ着実に足を進ませる。

 しばらくして――彼は止まった。

 距離は巨体ゆえの攻撃を警戒してか、通常より遥かに遠く距離を確保し、大剣を構えて備える。

 

『これは、どういうことやら……』


 その刹那、戦場に正体不明の一声が、空間を振動させるように響く。

 エルッジは目を見開き、即座に周囲に視線を動かして声の主を探すが、人影はない。

 背後にいる小型ゴブリンとウルフは、依然として威嚇するだけ。

 消去法によって自然と視線が行く先は、正面。

 半信半疑で「まさか、な……」と半笑いするが、心底を見透かすような迷いのない巨大なウルフの目が、エルッジという一点に集中する。


『……ほぅ、なるほどな。潜在能力か』


 半信半疑は完全なる確信へと変わる。

 声の主は、巨大なウルフだった。

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