第十六話 血だらけの
優花の魔装神剣から、黄土色の光を纏った無数の浮遊する光弾が放たれる。直線上にではなく、滑らかな動きで不規則かつ急角度に標的へ飛翔する。
そして、無数の光弾の標的となったゴブリンやウルフに命中すると、勢いを余して体内をえぐりつつ光弾が爆発する。
光弾一つにつきゴブリン一体、もしくはウルフ一匹に命中して爆発する。
そのため、無数にある光弾は最も命中率の高い大群の先頭を中心に、その後方で控えるゴブリンやウルフにも着弾する。
同時に大群を侵食する連鎖的な爆発が、巨大な波のように発生した。
身体は肉や骨、何一つとして残ることなく爆散。
小さな血溜まりのみが、地面に転々と残っただけだった。
優花の一振りで放つ特異能力の影響力は、絶大だった。
だが、命中しない運に恵まれたゴブリンやウルフも存在し、狼狽えずに進行して、優花の特異能力の発動前に間合いへと入られる。
強化された身体能力すぐさま後退しつつ距離を取る。瞬間的に視野を広げ、正確な数を把握。地面を蹴り、魔装神剣を振りかざして攻撃に転じる。
飛躍して間合いに入り込むと、脳天から叩き付けるように上段から振り下ろした。
魔力を注がれている剣の威力は凄まじく、骨の硬度をも上回って左右に身体を両断する。
同時に着地すると、三歩ほどの範囲にいる近辺のゴブリンやウルフへ次々に攻撃を仕掛けては、後退して体勢を整えると、特異能力を連続発動。たちまち無数の光弾が放たれて、より大規模な爆発が起こり、着実に個体数は減少していた。
その傍ら、フルトは一帯を高速で駆け抜け、全体的に視野を広げて躊躇なく間合いに突撃し、ゴブリンやウルフに近接戦で挑んでいた。
先制攻撃は臨機応変に不意を突き、体勢を崩させ、武器を予め奪うなどして攻撃手段を失わせて攻撃の積極性も削いだ。
先を見据えて段階を踏んだ後、ゴブリンの場合は上段から中段にかけて、ウルフの場合は主に死角となる背後から拳撃が放たれた。
さらに位置関係を考慮してゴブリンへの拳撃は上段になら下段から、中段なら正面以外の側面や背後から行い、ウルフへの拳撃は背後の上段にのみ限定した。
獣人で【獣化】状態にある脚力に、強化を重ねたことによって生み出される速度は、ゴブリンやウルフも翻弄する。
二人は数の劣位を物ともせず、優位に立ちつつあった。
が、魔力を扱う特異能力や通常の剣撃、激化する戦場に対応するための俊敏な行動は、精神的にも肉体的にも疲弊させていく。それは、力尽きるその瞬間までの時間を、徐々に加速させた。
その影響もあってか、時には魔獣・魔物特有の属性攻撃や通常の攻撃に遭い、防御しても少量の鮮血を流すことも多々あった。
そのたびに、互いに助け合って難を逃れる。
その繰り返しが続くと、大群全体が移動を始め、二人を取り囲むような状態になると戦闘は激化する。
ゴブリンやウルフは一瞬の隙も許さず、絶え間ない猛攻を続けた。冷や汗をかくような攻撃を回避しては、優花やフルトがその都度、反撃を与えて対抗する。
激化による影響で次第に身体の生傷は増え、流血し、鮮血に染まっていく。
戦場は再び攻撃の連鎖で、荒れ狂い始めた――。
「うっ、ううぅぅ……」
「我慢してください。エルッジさん」
時を同じくして幌馬車のあった地点。
ジークが愛剣ファルシオンを取り出して周囲の警戒に徹し、今だクラリシアは治癒魔法を行使して治療にあたっていた。
エルッジの風穴の開いた脇腹は修復していき、徐々に本来の姿に戻りつつある。
「すみません……本当に」
「いえ。お気になさらず」
「はい……――それより、注意喚起をしたほうが、いいです。あの巨大化したウルフとゴブリンは、強い。油断した挙句、深手を負ってここまで吹き飛ばされまして。近距離にあった幌馬車でなんとか静止できたのが不幸中の幸いで、クッションがないまま落ちることを想定すると、背筋が凍ります……。本当に警戒すべきです」
「冒険者として実力であるあなたが、そこまで……。大丈夫でしょうか、優花さんとフルトさんは……」
「大丈夫じゃ、ないでしょう。正直、あれは避けるべきです。まるで、人間のようだった」
「人間……ですか?」
「はい、妙に隙を突いてくるんです。ヤツら自身はもちらんのこと、小型のゴブリンやウルフも。なんらかの手段で指示しているようにも窺えました。大群の外周にいるヤツは、それが窺えないんですが、巨大なゴブリンやウルフのいる近辺に到達すれば鮮明にわかります。同じ小型ゴブリンやウルフでも、動きがまるで違う。死角や不意を突き、俺たちの数的不利を理解したように攻撃の手を緩めず、束になって襲ってくるようになる。まるで罠」
「罠、油断させるっていうことですか?」
「おっしゃる通り。俗に言う特異能力や生まれ持った能力の備えた連中で、この状況に適した都合のいいヤツはいないでしょう。正直言って予測しようがない。だから――うっ……!」
「あっ……大丈夫ですか!」
「はい、少々喋りすぎました……ですが、一つ言わせてほしいです……」
「なんですか?」
「あの大群、もう相手すべきじゃない、です。俺は転移魔法を使えないから緊急クエストも、おそらく無理だろうな……と考えております」
「そう、ですか……。それでも……私はあなたの治療を続けます。それに、優花さんやフルトさんを信じます。大丈夫です。まだ、会って日は浅いですが、確信しています。みんなさんは、お強い。もちろん、お兄様も。頼もしいです」
「そうか。なら、期待しま――うっ……!」
「わかりました。しばらく私たちに任せて、喋らないで安静にしてください」
「はい……」
そんな中、二人の会話を横目で見ながら耳にしたジークは、独りでに思考を巡らせていた。
〈やっぱり、あれは妙のか。木属性のゴブリン、火属性のウルフは名前に付け加えのない通常属性。それはいいとして、――エルッジ巨大化したヤツ、あれは別格。スタギリ山にいたロックウルフと同じ。ウルフもゴブリンも普通、巨大化なんてしない。あの一連の流れだと、人為的な遠隔型魔力装置はグロマの仕業。もし今回もそうなら、懲りない連中だ……〉
心配顔になって見つめる正面は、爆発音が度々鳴り響いて激しさを物語っていた。
彼は警戒するのと並行してクラリシアの姿を横目で随時、その安全を確認しながら周囲を見渡し、細心の注意を払っている。と――。
「ん? どうやってあの攻撃をすり抜けたかは知らないけど、なんでこっちきてんだ」
『ギャアアアァァァ』
木製のこん棒を持ち、金切り声を上げて獣のように威嚇する魔物、ゴブリン。そして、魔獣であるウルフも。
それも少数ではない
数十から無数に続々とその数を増していく。
囲まれまいと、即座に剣を振り下ろして攻撃に転じる。が、背後で治療を続けるクラリシアと行動不能に陥っているエルッジがいるためか。防戦一方で、攻撃に積極性はなかった。
繰り出されるゴブリンの斬撃や打撃、ウルフの牙にかぎ爪。
苦戦を強いられ圧倒される最中、ジークは気配を感じ取ったように目を見開いた。
一度、距離を取るための牽制の剣撃を放った後、即座に上空を見上げると――。
「なっ……!」
時が止まったように、彼の視界が硬直する。
ジーク目掛けて重なって落下してくる人が二人、血だらけの剣を持つ少女に【獣化】した少年の姿。
彼はとっさに回避することもなく激突して、噴き上がった土埃とともに後方へ吹き飛ばされた。




