第十二話 歴然とした差
二本の剣の特異能力を同時発動。待ち構える動作はせず、俺も男に向かって地面を蹴り上げ空中へ飛躍。剣を振りかぶった状態で高度を上げて、男の姿は景色の細かな一部分に過ぎないような点と化すまでになった。
数秒にも満たない間に、上昇し切ったことを確認。落下していく速度に乗じて剣の威力を増すために、空中で身体を捻り、前回り。身体の状態を逆転させて逆立ちのようになると、なるべく風の抵抗を受ける面積を狭めて上昇から、高速での降下に切り替えた。
点と化した男の頭上を狙っての降下。その一瞬の降下で男の姿が徐々に広がっていくが、一方的に俺が接近しているだけではなかった。
その証拠に、男は頭上から接近する俺を捉えて、男の姿が俺の視界に広がっていく速度が明らかに速くなっていた。でも、これでお互いに有利・不利が確立した。接近戦は剣を持っている俺に比べて身軽な男が有利な一方で、空中戦は重力や体重諸々が剣に加わる俺が有利。
「優花たちのためにッ!」
「ハッハッハッハッ――」
落下の一瞬は躊躇なく剣を振り下ろし、拳であろうとも男に剣先を向ける。一方、男も躊躇なく拳を振るった。
そして激突の瞬間――、激しい閃光とともに力の衝突が起きる。接触点からは一瞬にして押し出された勢いで、衝撃波が辺り一帯に広がっていた。
一撃の衝突は当人の俺たちにも、影響を及ぼし、先ほどの優劣は一気に崩れ、立ち姿になって互いに同じ高度で剣と拳を交える。衝突した状態は維持を続けて空中で回転しながら地上へ落下する。
背景は残像と化す。
剣と拳だというのに、男も剣を使っているようだ。
「おらああああぁぁぁぁ」
「ハッハッハッハッハ――残念だなぁ!俺の拳が容易く両断できるとでも思ったかぁ。詰めが甘いなぁ!神の眷属!」
正直、図星だった。
もはや剣に対する優勢が無効されている。この戦いで男が、意表を突く攻撃をするならわかる。今だって落下と同時に瞬間で決着が付けられると思った。が、詰めが甘いそう。どうやら刃物としての役目を全うさせてもらえないらしい。
こうなると、男は特異能力と別種の能力になる可能性がある。
でも、そんなの知るわけない!
「クッソぉぉぉぉぉ」
「抗っても無駄、無駄ァ!」
こうして一行に解決しないまま地上へ着地。
着地の瞬間――地に着いた足から一瞬にして地面を踏みしめる感覚が消え去り、轟音が鳴り響いたと思えば、大量の土砂が頭上へと宙を舞う。
そして再び数メートルほど男との衝突を維持しながら落下すると、そこは平原にいるとは言い難い足場の悪い地面に着地した。わずかに見える背景は土砂のみ。
そして頭上を舞う大量の土砂は、重力に逆らえるはずもなく落下するのが、触覚やわずかに入った視界からわかった。
どうやら衝突による周りへの影響力と落下時の衝撃で、地面がえぐれたようで、クレーターが出来上がっていた。
剥き出しになった地中は、岩石が多く眠っていたようで、少し踏み込めば転倒しそうになり、戦いづらい。
さらに、場の状況は一変――。
心なしか、神剣と極神剣の威力が弱まっているのが、感覚として伝わってきた。
加えて、男はもう片方の腕を動かして、威力が弱まった神剣と極神剣を容易く弾き返した。
「うわっ……!」
「ねじ伏せてやらぁ!」
弾き返され体勢を立て直そうとするも、その隙を突いた男の拳撃が俺の腹部を捉えた。その瞬間、手から腕にかけて魔力を纏ったように感じ取れた。
そして、拳を受けた俺は見えるはずのない空気の揺れが、謎の多い着色した魔力とともに現れて拳から波紋を生み出し、拳の先からは衝撃が放たれた。
その影響で踏み止まる一瞬ですら与えられないまま、後方へ吹き飛ばされて、地中を背に激突。勢いはたった一度の衝突だけでは収まらず、地中から地上までの土砂を俺の身体が削っていく。
両手に持っていた神剣と極神剣は、手元から離れて空中で回転しながら地上へと姿を消した。
最初の一瞬は速度が落ちる様子もなかったが、地中を削って飛ばされ続けるうちに速度は徐々に落ちていき、しばらくして完全に止まった。
どの程度の距離まで飛ばされたかはわからないが、例えるなら五十メートルプールよりも長く思える。
にしても、背中が痛い。こんな状況なのに動くのを躊躇ってしまう。痛みに耐えながら背中の状態を、軽く手探りで確認したが、触れるたびに激痛が走っては、動くたびに激痛が走り、連鎖的な痛みに襲われる。
身体全体を動かそうとすると連鎖的な痛みに加えて、背骨に沿っていくかのように腰から首へと激痛が走る。いくら身体強化で強靱になったとしても限度がある。さすがに無傷や軽傷じゃいられない。
俺には医学的知識なんて皆無。イメージが湧かないから治癒魔法は自分に使えない。
「たった一撃でこれって……」
余力を残したいのに、見込めない。それに、二本の剣を使った斬撃のために有り余った体力や集中力は一気に持ってかれた。あれは、レアスとの一騎打ちで使った特異能力だ。
耐えはしたけど威力が弱まって、いとも簡単に弾き返されて反撃を食らった。ありえない。レアスと同じ階級なのにまるで違う。差が歴然としてる。
もはや、俺の思考は一瞬にして突き付けられた差で混乱し、動揺を露わにするしかなかった。
「おいおい。その絶望感漂う表情はなんだぁ。惨めにもほどがあるだろぉ。なぁ?」
動揺で周りが見えていなかったせいで、気付けば近距離に男の姿があった。
惨め――――。
そう思うと、この世界に来る前、元いた世界のことを思い出す。
優花と話すだけで、向けられた視線。感じてはいた。視界に入れる気はなかった。周りには蔑まされて惨めに思われてたのかもしれない。
けど、優花は違った。恨みつらみ、嫉妬の嵐を優花が知っているかはわからない。俺が幼なじみとて、ただ話しかける、話しかけられるだけの他者と違って、特に酷かったことも。
だとしても、優花は普段通り、接してくれた。本当に優花は優しい。
なのに巻き込んでしまった。あの瞬間。そうだ。俺はこんな目に遭わせたグロマが憎い。そして腹立たしい。この沸々と生まれる怒りをどこへぶつければいい?
簡単だ。今、目の前にいるヤツにぶつければいい。コイツも共犯者。
そしてなにより、殺戮や武器を振るっていたぶることしか眼中になく、人を道具扱いにしたあげく、低俗な考えにしか及ばない外道なんかに――――。
「絶対に捕まってたまるかあああぁぁぁ」
不意の叫び声に呆気にとられた男だったが、不敵な笑みを浮かべて感情を声に乗せる。
「ハッハッハッハ――、抵抗できる余力があって口にしたのかぁ?怒りに任せて行動しようとしたのならば、それは下策だなぁ!」
たとえ、なんと言われようとも俺の手は止まらなかった。無事では戻れない。密かにそう覚悟した。
「おらああああぁぁぁぁ」
「【魔装・魔拳】」
再びあの色の付いた魔力が、男の拳に纏うように現れ、一瞬にして圧縮。超濃密な魔力となって、男は拳撃を放った。不敵な笑みを浮かべながら。
逃げ場なんかない。だったらせめて――――。
そう思って言葉通り捨て身で、拳撃に対し真っ向から挑んだ。その瞬間だった――。
「ハッハッハ――……」
「え……?」
拳撃は俺を捉えた。そう判断した。
なのに、捉えた感覚は一切なく。それどころか、魔力もろとも瞬間移動とはき違えてもおかしくないほど一瞬で、その場から姿を消した。
まるで理解が追い付かない。
俺は、状況理解を深めるため本能的にその場を見渡した。
削られて地上に剥き出し状態の地中――違う。
その上にある地上、左方――違う。
右方――。
「おっすぅ。元気してた?会うのは王都のギルド前でちょこっと話した以来だな。まあ、大して月日は経ってないけど」
軽い口振りで地上から見上げる。フード付きのローブを身に纏い、フードを深々と被った状態で顔を確認できない人物。
正直なところピンとこず、間抜けな声を出してしまった。
「え……?」
「あれ、覚えてない?まあ、俺らのせいで戦闘ばっかだもんな。今だって必死でそれどころじゃないよな」
そんな発言を耳にして察せないわけない。常日頃、戦闘を強いられるごとにいる連中はグロマ――。
そうだ、思い出した。フルトの一件のとき、準備のために俺一人でギルド前のベンチで休んでたときに話しかけてきた得体の知れないヤツだ。
俺はそうとわかると、自然と身を構える動きが、本能的に出てしまった。なぜだかわからない。敵意も示されてもいなにも関わらず。身構えにしてしまう。恐怖を感じる。グロマということもあるが――。
「さて…不都合を取り除かなければ――」
軽い口振りは一転し、冷め切って本能的に感じていた恐怖が声で露わになった。
そしてフードへと手を伸ばしてゆったりと脱いだ。
風になびく頭髪は藍色に輝きツンツンとした髪型。すらっとして整った顔立ちで、瞳も同様に藍色をしている。
視線がこちらへ向けば、心底を見透かされているような感覚に陥るような不思議な瞳だった。




