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神々の世界と因縁のペンダント【加筆修正中・更新休止】  作者: 海斗
第五章  個々の試練
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   第十話  魔力の塊


「おい。二人とも!早く!」



 優花との会話に区切りをつけるかのように、前方からジークの声がする。声の聞こえた前方にはすでに俺と優花以外の全員がペースを上げていて、遮蔽物のない平原ゆえに遠目でゴブリンとウルフ相手に戦うエルッジさんの姿が確認できた。



「いつの間に」

「仁也。遅れをとらないように行こ?」

「そうだな」



 相槌を打ってすぐに、優花と一緒に先頭にいるジークたちの元へ急いだ。身体強化の能力は予め発動させているものの、効力の有限が明確に理解できていないことから。密かに瞬間的に解除して、再び発動させた。

 時間経過と効力に関係ないので、二人で走るペースを早めてなんとかジークたちに追いつくと。すでに新たな話が飛び交っていた。ただ、会話の進行具合は悪かったが。



「僕だって最前線で戦える」

「いいえ。無理だわ」

「お兄様。落ち着いて」

「そうだよ。サリスさんも落ち着いてください」



 サリスとジークが口論になり、それを必死に止めようと仲裁するクラリとフルト。

 走っている状態でこの体制なのは異様だけど、こんなときに言い争いしてる場合かって話だ。



「なんでそんな言い争い始めてるんだよ」

「そうだってやめなよ」



 クラリとフルトと同じく、俺たちも仲裁に入った。

 口論は収まったが、視線をぶつけ合って火花を散らしている状態。

 理由はわからないが、地位的な問題が完全に無視されている。それほどのことなのか。

 一旦、俺たちは足を止めて、俺が気になる原因を問う。



「一体なにで揉めてたんだ?」



 と、単純明確な一言で問うが、完全に誤算であることに気づいた。

 俺の一言で仲裁に入った意味をなさない状態へ。場は再びサリスとジークの言い争いで必死の状態に。



「だって、ジークが最前線で戦えるって言うから。反対してたの」

「なんで?」

「なんでって。ジークに関してはまだ戦える力量じゃないわ。それにクラリがいるでしょ?接近戦にプラスして戦闘自体が不向きなんだから」


「ふーん。それは初耳だなぁ。たった今、浮かんできた話だろ?それに、仁也たちに同行させてもらう目的は自分を強くするためでもある。ここで前に出なきゃこの場にいる意味がない!」


「あっそう。ジーク、アンタ嫌々ここにいるわけ?」

「は?そうは言ってないけど?僕は自分のすべき事を実行しようとしてるだけだ」

「でも、今ここで手加減を知らない魔獣・魔物を相手する必要はないでしょ?段階を踏んでないから言ってるんだけど」



 繰り出される言葉の数々と迫力に負け、思わず俺は後退りしてしまった。

 口論が再燃した喧嘩は、再びクラリとフルトの仲裁によって収まる様子は残念ながらないが、距離ができただけマシに思えた。とりあえず、安易に口を出さないほうがいいか。喧嘩するほど仲がいいとは言うけど、この状況で喧嘩に発展するのはかなり予想外だし、ここでたちどまっていては危険だ。どうにかしてこの場を収めて、早くエルッジさんの元へ向かいたい。

 でも正直言って、俺はこの場を収める自信がない。

 独りよがりなジークは、こうなったら自分の意思は嫌でも曲げない。一方のサリスに関しては対応の仕方が一切わからない。出会った当初は嫌われて、今は打ち解けたほうだと思うけど、俺としては掴みどころがないのが本音だ。

 俺はこの困り果てた状況でどうしようかと、腕を組んで思考を巡らせていると優花の話しかける声が小さく聞こえた。

 とっさに聞こえた方向に振り向くと、至近距離で優花の姿が視界に入った。不意な出来事に少し心が揺らいでしまった。



「な、なんだよ」

「ねえ、私に任せて」

「え?」



 自信満々なその一言は頼もしく感じたが、優花がどんな方法を取るのか見当がつかなかった。

 俺に一言伝え終えた優花は、今でも口論飛び交うサリスとジークの元へ。



「だから、私は――」

「だから、僕は――」

「はい、二人とも。そこでストップ」


「なに!」「なんだよ!」


「「あ……」」



 二人揃って優花のほうを見ると、顔色を悪くして硬直した。その瞬間、二人で機械的な動きで見合わせるとお互いに謝り始めた。悟った。

 優花の形相が頭に浮かぶ。口論を続けていた二人が静まって進んで謝ろうとするほどだ。優花は相当、怒ってたのか。

 ただ、どうにも優花の怒る姿を想像すると悪寒がする。



「さて。みんな。エルッジさんのところへ行こ?」


「そうだな」

「よし。フルト頑張りますっ」

「はい。そうですね。お兄様も行きますよ」


「うん」

「……そうね」


 本人は納得していないと思うが、とりあえず喧嘩よりもエルッジさんの元へ急いだ。

 念のため、不測の事態に備えて柔軟に対応できるように、ある程度全員が間隔を空けて一定のスピードで走っている。

 その最中、収まったには収まった喧嘩が密かに再燃していた。再び走りだしてから口論はせずとも、視線だけをぶつけ合っていがみ合っている。ホント収拾つかねぇー。

 なんて思いながらサリスとジークの姿を脇見していると、俺の右隣で並走している優花から叫ばれた。



「仁也!後ろ!」

「え――」



 間抜けな声と同時に、背後から猛烈な勢いで突進してくる魔力の塊が感じ取れた。まるでその背後から圧迫されるような感覚だった。

 恐怖を覚える感覚で、反射的に足が止まった。



「仁也!」

「優花、先に行って。みんなも!」



 まだ正体はわからない。遠目で判断できる限りでは人間のように見える、としか判断できない。二足歩行という点は間違いはない。

 どちらにしろ、魔力の塊がこちらに向かってくるのだから可能性としては魔獣・魔物か、人間、もしくはそれ以外。そうともなれば得体が知れない。



「え、でも……!」

「わかったわ、優花行くよ!みんなも!」

「う、うん……」



 悲しげに聞こえてくる優花の声とは他所に、状況は改善への道を歩んではくれない。

 俺は予め手元にあった神剣を構えて迎え撃つ。長く抱いていた不安は、変わることのない雲行きの怪しい大空によって増幅する。

 悪天候の予兆か。妙に黒雲の移動が速いようにも見える。



「これ。早々に決着つけないと。荒れそうだなぁ……」



 と、不安の助燃材料である天候の変化を感じ取って多少、突進してくる魔力の塊から目を離した俺はすぐさま視線を戻すと目を疑う光景が広がっていた。



「あれ?さっきの突進してきたヤツがいな――――え?」



 猛烈な速度でこちらに向かってきていたはずの魔力の塊は、わずかでも異常だと思われる魔力を感じ取ることができず、一瞬にして焦りが募る。が、すぐにその答えが出た。

 最初に感じた背後からの圧迫感。それが再び俺を襲っていた。圧迫感の中には人ではないかという疑いがあった。感覚的で気配からの疑いであって同時に、魔力の流れ、いや魔力の塊そのものが今、俺の背後にいるからでもある。確かに遠目でしか確認できないような距離にいたはず。

 不安から少し視線を外してしまった途端、俺の背後まで詰めてきた。いくら視線を外そうがそれでも魔力の流れを感じ取り、異変に気付くことができる。

 なのに気付けなかった。魔獣・魔物の持つ属性攻撃や特徴的な攻撃とは全く異なる。なんせこの世界でエネルギー源として扱われる魔力。結論から言えば背後の魔力の塊は、人間――――。

 と、結論が出た矢先、その背後から不意に不気味で深みのある声が聞こえてきた。緊張が走る。



「これはこれは。お初にお目に掛かります。神の眷属様――。いや、敵相手になに言ってんだか。俺は」

「え……?」



 恐怖で機械的にしか動けなかった身体でなんとか振り向いたが、背後にいたのは存在感で満ち溢れた屈強な男。

 顔や手足、身体全体に獣のような茶色の毛が生えていた。当然、耳の位置も獣のように頭頂部あたりにある。おそらく獣人。フルトの【獣化(ビースト)】とかいう状態と同じ。解かれればフルトのような容姿に戻るはずだ。

 ただ、大きくフルトの容姿と違う点が迫力に満ちた顔で、目は小さく鼻が突き出ている。熊のようだった。

 一瞬にして見えたその姿からは、巨体ゆえに確かな圧力があるのを感じ取れた。魔力の塊に感じたのはおそらく、魔力を使うであろう【獣化(ビースト)】によるものだと思う。

 と、思考を巡らせる一方で、男の発言がかなり気になった。



「敵相手、とは……?」

「聞くまでもないはず。お前らのようなガキ共に構うようなヤツらを」

「てことは……!」



 そう言われて思い浮かばないわけがない。俺の目の前に現れた。だとしたら……。



「にしても予定外。まさか、お前らとは別に実力者がいるなんてな。まあ、そんなの俺にゃあ関係ないがな」

「なんのつもりだ……?」

「なんのつもりって。決まってんじゃん。妨害、よければ……お前を捕らえる。無力化してな」



 その瞬間、反射的に俺は後退して距離を取り、神剣を構え直す。同じくして男の沈着に構えて戦闘態勢になった。

 やや低姿勢になって獲物を見る目になった男の体勢は熊そのものだった。


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