第三話 予感
やっと落ち着いた今を、俺は楽しみたい。この笑顔が顔から消えて欲しくない。ワガママだけど、俺は目を逸らした。まだ起こっているかもわからない事実に、下手に首を突っ込んでまた取り返しのつかないことにはなりたくない。
だから俺は、予感を無視した。正直、立て続けに戦闘で疲れた。
サリスはジーク達みんなが見守る中で、メスクへ向けて転移魔法を発動できるように強化魔法を発動させようとしている。その最中で、優花が歩み寄るようにやってきた。
「ねえ、私さっき、スダキリ山から嫌な雰囲気を感じなかった?こう、禍々しいっていうか…」
「え?優花も感じたの?」
やはり無視はできないらしい……。
「うん。言おうと思ったけど…仁也はどうなのかなって気になったりして、今から行こうってときに水を差すようなことは言いたくないなって、思ったから」
「優花も同じだったのか…」
「うん。でも、サリス達は一切そういう様子もないよね」
「確かに。言われてみれば…」
優花の言う通りだった。もし気付いているなら今頃は、転移魔法を中断して俺達に伝えようとしてくるはずだ。変わった様子もないってことは、明らかに俺達が感じた近寄りがたい雰囲気に、サリス達はまったく気付いてない。
「どうするの?伝える?」
「わからない。でも、俺達が出たあとの門番達の様子が慌ただしく見えた。もしかしたら、なにかあったのは間違いない。メスクでもそれが影響してるなら、そのときに話すべきじゃないか?」
「そうだね。やっとフルトくんの一件で落ち着いた感じもあるし。もしかしたら勘違いって可能生もあるし」
優花と話し合った結果、すぐには伝えないことにはした。
俺としては望ましい結論だが、サリス達がこれを聞いてどう思うかわからない。
そして、そんなことを思っているとは知るよしもないサリス達は、転移魔法の準備ができたようでこちらに来るように言ってくる。
俺と優花はサリス達の元に向かい、着いたと同時にサリスが転移魔法を発動させる。
「【時空魔法発動 ワープ】」
転移魔法は発動と同時に、俺達をメスクの街に転移させる。
視界はスライドショーのように一瞬にして変わって、視界の奥に見えていた海や砂浜、わずかな木々に草原はすべて視界から消えて、人工物があり、様々な建物が連なっている景色が視界に入ってくる。
再びメスクに来て久しぶりに感じる。けど、ほんの三日前の話。やっぱ、疲れてんのかな…。
「よし。メスク到着よ」
「ありがとう。サリス」
「優花、ぜんぜん問題ないよ~」
「みんな、どんどん行こう。時間は有限だ!」
「ちょっと、お兄様。ゆっくり行きましょう」
「仁也。僕達も行こうって……ど、どうしたの?」
「え?ああ。ちょっとボーッとしてただけだよ。ごめんゴメン。よし。じゃあ遅れないように行こうぜ。フルトにもたくさん稼いでもらうぞ!」
「うん。行こう!」
サリスが転移した場所は、メスクの街の中でもイメージしやすい中心地になる。その中心地に繋がる最も大きな通りに、冒険者ギルドが堂々と構えるように建てられているため、王都に続く第二の都市だったが、迷うことはなく全員で到着した。
メスクの冒険者ギルドも王都と同じような色合いの建物で、見つけやすかった。
そんな冒険者ギルドに早速、大きなドアを開けて入るが、俺達全員はギルド内の様子を見て愕然とした。
慌ただしく動くギルドの職員、受付には一切、人がいない。そしてギルド内の中心には数々の冒険者が集まっていた。ほかの場所にはおらず、冒険者はその一カ所に集まっていた。
武器だけを持っているならわかるが、彼らが持っていたのは武器だけでなく、物々しい雰囲気に緊張感のある表情。
これがいつもの日常だったら、こんな職業はみんな参ってやめてしまう。
ただ、気になる点と言えば街の様子と比例していない点だ。
ギルド内はこんなにも緊張感があるのに、一歩外に出てみれば街の様子はまったくと言っていいほどいつも通り。
人通りが多く、飲食店や宿、ありとあらゆる場所で異変と思わしき点はない。
俺達はすぐさま、集まっていた冒険者のうちの一人に状況を聞く。
「あの、すみません」
最初に話しかけたのはサリスだった。
「ん?なんだ?」
「なにがあったんですか?一応、私達も冒険者なので協力できることなら協力させていただきたいのですが」
「お?そうかお前達も冒険者か!ならお前達も協力してくれ!」
冒険者と聞いて急に血相を変えた男は、すぐに我に返って落ち着いてから俺達の望んでいた返答をしてくれた。
「す、すまない。戦力ができるだけ欲しくて、つい…で、質問についてだが、簡単に言えば魔獣の大量発生だ。いや、この場合は出現か」
「出現?」
「ああ、魔獣がなぜか『チック』っていう港町に引き寄せられてるんだよ。それで全国で国からの緊急クエストとして急遽、向かえる冒険者はみんな強制的に向かうことになった。ほかのクエストはできないし、サウズ帝国の貿易に必要不可欠な港町だから緊急性が極めて高いんだと。それで今、召集してる最中。もうすぐ出発するらしいが」
「サウズ帝国……」
「それにしても、お前達…いや、君達はここら辺じゃ見ない顔だな。ただ見覚えがあるような顔も……え?」
男の視線はやや適当に俺達の顔に向いていたが一秒ほど。品定めのような目付きで『覚えたぞ』と言わんばかりだった。そんな中でジークとサリスに視線が行くと、男は瞬間的に愕然としてそのままフリーズする。
品定めをしていたような細い目は、大きく変わって目玉が飛び出る勢いになって目を丸くしている。
そして同時に勢いよく土下座を始め、震えた声で自分は無礼だと言い始めた。
「も、申し訳ありませんでしたッ!!無礼を働いてなお、王族の、しかも第二王子と第一王女のお二方だと気付きもしないであの振る舞い!身分を弁えない私をどうか、どうか罰してください!」
突然の男の行動で、集まっていたほかの冒険者が一斉に、こちらに視線を向ける。
身分差の話に関してジークの前ではきっと……。
俺がそう思った矢先、ジークは口を開く。
口を開いたジークはいつものジークではなく、王族としての威厳を放って堂々としていた。
「顔を上げて。私を見ろ」
「え?」
「確かに王族は国民にとって雲の上の存在。けど、私は寄り添うことも大事だと考えている。それに、第二王子の私は兄上ほど認知はしていないだろうし、むしろ嫌われているほうが多い気付くのが遅くなるのいは仕方がない。だから今、私をこうやって王族として見てくれた貴公には感謝をする」
ジークの言葉は立場を守ってかつ、自分の意見とともに男が言う無礼を帳消しするかのように水に流して、感謝を表していた。
男にとっては確実と言っていいほど予想外だったはずだ。というか、威厳あるジーク…カッコイイ。
なんて呑気に思っていると、その場は一気に騒がしくなっていた。原因は当然、ジークとクラリだ。場の騒ぎは困惑で一色。
だが、そんなことお構いなしにジークは話を続ける。
俺達はただ、ジークの勇姿を眺めているだけだった。というか、そこに俺達が乱入したら収集つかないのが目に見えているから。
「それで、質問したいのだが」
「はい。承ります」
「私達も参加させてもらえないか?」
「え?」
「私達がここにいることは問題ない。父上は後ろにいる者達と一緒に快く送り出してくれた。あとはそちらの許可をいただけるのなら、参加させてもらうが?」
どこか威圧を感じるような口調のジークに、望まない答えが返ってくるはずもなく。
「は、はい。もちろん。こちらとしては願ったり叶ったりです。ありがとうございます!」
という結果で、緊急クエストへの参加が急遽、決まった。
ただ、ここで一つ思った。
男が言った『チック』という港町だが。前に俺が地図でルーメン王国を見たとき、チックという港町の位置はスダキリ山の反対側に位置していたことに。
俺は再び予感した。嫌な予感が。




