第二話 行き先はどこに?
「ジーク様、クラリシア様!いってらっしゃいませ!」
「うん。ありがとう」
「ありがとうございます」
門への距離は大した距離でもなく、着いたと同時に手続きを済ませて、なんとか門番に見送られながら王都の外へ出て止まることなく俺達は歩き始める。
目の前はわずかな木々と、草原。そして奥には海と砂浜が見える。山と反対側から出たようだ。
そしてこの瞬間からフルトは、半年間、王都に入るができないが彼にやり残したことはないそうだ。むしろ、帰るのに抵抗があるかもしれないと。
「それはそうと、ジーク。これからどこ目指すんだ?」
俺は歩きながら質問を投げかけた。
「そうだね……この国を見て回って案内したい気持ちが強いかな」
「なるほど」
確かにそうだ。他国に渡るにもお金がいるだろうし。
「それ、私も賛成」
「そうね。というか冒険者になったんだから稼がないと」
「そうですね。いいと思います」
優花とサリス、クラリもジークの意見に賛同するようで。
「フルトはどうする?」
「え?あ、いや、別に僕はどこでも平気だよ。あっ、でも……この国でもいいんだけどさ。その、隣国だと思うんだけどさ。『サウズ帝国』ってところ」
「さ、サウズ帝国……」
「そこは……」
フルトの言葉を聞いた瞬間、王族の二人が唸り始めた。王族とはいえ、国の情勢までも知っているとは言い難いことだと思うが、案外知っているようで。
「なにか問題でもあるの?その…サウズ、帝国?」
「隣国だからよく知ってるけど。フルトはあの国に行かないほうがいい。なんなら近づけさせないほうがいい」
「え?」
「そんなヤバイところなのかよ」
「いや、まあ、あそこは人種差別がとにかく酷い。なんせ帝国だ。歴史上、色んな国と衝突を繰り返してきた。今は領土目的で戦争を起こすことはない。ただ、経済や政治的な問題にはよく首を突っ込んでくるんだ。それがとにかく面倒でしかたない」
「なんかネガティブな情報しか入ってこないな」
聞く限りは完全に最悪。そもそも帝国って時点で怪しい。危険な匂いはすでに漂ってる。
というか、なんでまたそんな国に行きたいだなんて……。
「な、なんかその、小さいころにサウス帝国って書かれた世界共通語の本を拾ったことがあって。そのおかげで今、こうやって喋れてる自分がいるので。どんなところかなって興味はあったんだけど……」
「確かに、その理由だと生きたくなるのも納得できる」
「でも、なんでサウズ帝国の本が隣国のルーメン王国の王都の、しかも道端なんかに落ちてたの?」
俺とフルトの疑問を代弁するかのように、優花がジークに問い掛けた。
「いや、別におかしくない話なんだ。サウズ帝国の建国には学問の神であるアレアドス様が携わっているんだけど。世界的に見て教育の行き届き具合とか、水準もトップレベルなんだ。当然、そんな国の書物を手に入れて損はしない。悪質で意図的な内容はこちらでいくらでも変えればいい話だからね」
「それに、この世界で使用されている言語は数少ないのです。そもそも大元の人種構成は一桁ですから。基本的には他国へ行っても言語は問題ないです。他国で刊行されようがほぼ翻訳せずに済みます」
俺はその話には意外性を感じた。
言語については神界では一切学んでこなかった。というか、パンテラの恩恵のおかげ?なのかな……。
いや、でも…。
俺はそう思いながら、誰にもまだ話していない国王陛下の屋敷での出来事を思い出していた。
あのときに言われた一言。『この世界が出身』。
言われてみればとも思うが、思い込みに過ぎないとも思う。
「ほかに帝国ってどんなところかわかる?」
優花はサウズ帝国が気になったのか。さらに情報を聞き入れようとして今度はクラリに質問する。
「ほかですか…そうですね。世界十二大国の一つと言ったところでしょうか。明らかにルーメン王国より国力はあります。それにアレアドス様の神の眷属も数多くいると聞いています。なので、もしかしたら対面する可能生も」
「神の眷属……」
「でも、会うのは結構マズいと思うわよ。仁也と優花はまだ公表されてないんだから。他国に行くにはリスクが大き過ぎる」
「じゃあ、どうすれば……サリ――」
「優花は、残念男以外のみんなと一緒に安全なこの国にいるのよ。う~~」
「ちょ、サリス。恥ずかしいって」
「サリス。まだ俺を残念男扱いか。ホントなんでそんな呼び名が思いつく?」
「フンッ。教えてあげるわけないでしょ」
「はあ~~。相変わらず……」
「フフッ。そうですね。お兄様」
と、このやりとりを知っているフルト以外のジークやクラリは呆れ顔になるが、フルトは目を逸らして気まずそうにしている。
俺が急に『残念男』だなんてサリスに呼ばれて、仲が悪いって勘違いしている…。
「なあ、フルト。一応言っておくけど。俺達、仲悪いとかじゃないからな?」
「え?あ、ああ。別に少しはそう思ったけど。どちらかといえば、優花さんといるサリスさんの様子がいつもと全然が違うほうが…というか、その…。その二人の様子を見てるとこっちが恥ずかしくなるというか」
やっと理解した。どうやら気まずいのではなく、目のやり場に困ってたってことか。
仲が悪い様子で気まずくてさらに誘発してサリスと優花のじゃれ合いがね。なるほど。二人とも可愛いから男子的には目の保養にっていう……。
「「ねえ!」」
「え?あ、はい!」
「「なに考えてるのかな?仁也、くん?」」
「あ、いや、別に、目の保養とかなんて……」
「「そんなことは、私達一言も言ってないけど?」」
「あ……」
やべっ、口が滑った。
「昔から素直な性格が仇だったけど。今回も、ね」
「へえ、素直なんだあ~。弱点みっけ」
と優花とサリスが順に俺に圧力をかけてくる。恐ろしいったらありゃしない。
「い、いや。それはそうと、本題からかなり逸れてるよ!早く行き先決めないとじゃないの?」
俺は本能から反射的に自己防衛に入った。もう勘弁して。
「ふ~ん。まあ、今日はこのくらいにしておくわ」
「でも、不用意に喋らないほうが身のため、でしょ?」
「はい……」
俺は優花とサリスがどういった感情を抱いているかはわからないが、怒っていないことを願いたい。からかっているだけだと。思いたい。
なんて思いながらも、なんとか自己防衛に成功した俺は、本題へ戻した本人として話を進行される。
「それで、結局どこいけばいいと思う?」
俺の単刀直入の質問にみんな唸りながら再び考え込むが、サリスだけ考え込むことなく、なにか閃いたのか提案してきた。
「今、私達は最終地点の話で詰まってるよね?」
問い掛けられた俺達はすぐに頷いて返事をする。
「だったら、最終地点じゃなくてその途中の地点で考えればいいんじゃない?そうすれば。お金も稼ぎながら行くことが容易になるし」
「なるほど。そうすればこの国もある程度は見れるな。俺は問題ないと思うけど、みんなは?」
「そういうことなら、確かにそこで行き先をあらためて考えられるし。私は賛成」
「私も賛成です」
「妹と同じく」
「ぼ、僕も!」
全員、賛成意見。異論はないということで、最終的にはまず、今いる王都周辺から最も近い次の街に行くことになった。
「で、どこにしますか?」
「そうね、私達が出た門は海岸沿いで、山は一切ない。ここから近いのは沿岸部にある『スンレラ』っていう街。そこは沿岸部が漁業、内陸部が農業で農民や漁民が多く住んでいるけど、残念ながら冒険者ギルドはないから無理」
「となると?」
「スタガリ山の近くにある『メスク』がいいと思うわ」
「ああ。三日前に行った街のことか」
「うん。王都の次に利便性がいい街だから。きっとほかの地域からのクエストとか色々入ってきてると思うから」
俺達はなんとか行き先を決めることができ(かなり時間掛かったけど)、なんとか王都から離れられそうだった。
ただ、先程潜ってきた門がやけに騒がしくなっていたのに気が付いた。大声で『兵を出せ』とかどうのこうの言って緊張感がある雰囲気が漂っていた。
慌ただしさが伝わる。
それに、王都を挟んで遠くに見える俺達が最初に降り立ったスダキリ山。その山の奥から不穏ななにかを感じる。
沿岸部から山岳部までの距離で魔力の流れを感じるのは、超人のやることで、例えるなら、沿岸部から山岳部の木々の擦れる音が聞こえるっていうレベルの話なので、山岳部の魔力の流れを感じるということはない。
根拠は一切ないけど、やっぱり不穏ななにかを感じる。
ただ――。
「仁也。どうしたの?」
「いや、なんでもない。って、置いてかないで―――!」
「仁也。そんな言わなくても大丈夫だって。もうー」
俺は――、気にするだけで、問題視するほどのことだとは思わなかった。
正直なところ、他人事だと思った。俺達はヒーローのように助けられるわけじゃないから。だから、俺は気にはしたが、みんなに言うことはなかった。
それに今は、みんなで決めたことを優先すべきだと考えたから。




