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神々の世界と因縁のペンダント【加筆修正中・更新休止】  作者: 海斗
第一章  死による出会いと別れ
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   第四・五話  準備(後編)

「え? パンテラ、本気?」

「うん。もちろんだユウちゃん」


 マジか。


「つ、つ、ついでに。どのくらい――あるんだ?」

「そうだねえ。そういうことは……犬の姿のサナと、猫の姿のナナ。二人の従者に聞いて。二人ともよろしく!」


 まるなげえぇ。


「「はい! 承知しました。主」」

「じゃあ私は、一回退室するよー。頑張ってー」

「え、ちょっ、俺の……」

「「主、お気を付けて」」


 パンテラはメイドに押しつけ、再び現れた空間の歪みへと、風のように姿を消した。

 俺なにか、悪いことしたかな。

 

「……行っちゃったね」

「俺、避けられてた?」

「いや、どうなのかな……」


「「いえ。敬愛する我が主は、面倒ごとすべてを託される方ゆえ。仁也様を避けたわけではございません。しかしながら、これは主の愛すべき性格にございます。ご理解のほど、よろしくお願い致します」」


「あ、はい……了解です」

 

 二人揃って抑揚のない口調。パンテラへの想いで、ほんのり赤らめながら、俺のフォローにも入ってくれた。ただ、パンテラの悪癖とも取れる性格を知った。

 優しい考えの持ち主であり、面倒ごとが嫌い。長所もあり短所もある。余計に人間臭い。

 それに従者も従者で、冷静な口調に反して容赦ない。ただ、愛されているのは確か。やっぱり、信じてよかったかもしれない。


「仁也、どうするの?」

「え? あ、ああ……本のこと?」

「そ、私はもちろん、読むよ」

「俺も頑張るけど……途方もないよな」

「それに関してはそうだね、としか言えない……」


 優花は苦笑しながらも、納得の様子だった。

 でも、これが必要なのは理解できる。今の状況は願ってもないことだ。もう二度と死にたくはない。

 そのためにも、色々と学んでおいて損はない。これから行く世界の知識だから。


「それにしても、どれから読み始めるの?」

「うーん、手当たり次第は……。心折れてる自分が、目に浮かぶなぁ」


 嘘のような光景を作り出し、決して見間違いなど言わせない。山積みの本すべての、読破に掛かる時間。そんなの計算したくないし、想像したくもない。


 嫌気から宿題忘れたときのように、反射的に理由を探し、ふと言語の問題も考えた。だが、無難な表紙に書かれている文字は、日本語だった。

 メイド二人がすぐに、補足の説明をしてくれた。眷属化の際、言語の心配を解決できるので、心配いらないと。


 最初は記号に見えていたが、浮かび上がるようにして、日本語へと変換される。

 一度でも視線を外せば、一時的に記号の文章に戻り、再び見れば記号が変換される。

 重要単語や元々特殊な読み方の単語だったりは、カタカナ英語。あくまで視界の中に入ったときだけ、変換が行われている。


 まるで、翻訳のできる眼鏡を掛けている気分。

 そうなると、致命的な問題は気にせずに済む。けど順序によっては、理解に差が出ることは避けたい。


「サナさんとナナさん――」

「「なっ、なんですか?」」

「で、よかったっけ? 」


 メイド二人を突然呼んだせいか、背筋を凍らせたように驚くも、反射的に応対してくれた。

 だが、さすがに申し訳なさを感じ、二人に謝ったうえで質問に移った。


「この大量にある本の中で、読む順序って考えたほうがいいかな?」

「そうですね。私たちが持ってきたのは、ざっと百二十冊くらいです。必須事項、最優先すべき項目は情勢関係が最もだと考えます。一般常識として読んで損はないです」


 俺の質問に、犬の姿をしたサナさんが、丁寧に答えてくれた。


「なるほど……じゃあ、そうするよ」

「「承知しました」」


 メイドの二人はそう言うと、情勢関係の書物を集め始めた。手伝ってくれるみたいだ。


「ありがとう」

「「問題なきことです」」


 と、心強い二人が加わった後、俺と優花は分厚い本をひたすら読みふけることに。

 さらにサナさんとナナさんは――


『神の眷属になって、《魔力》を扱えるようになったので、余裕をもって終わることができますよ』


 と豪語していた。

 半信半疑ながら、情勢関係の本を手に取って開いた。


「うわっ……!」


 本を開くと同時に、脳裏で衝撃が走り、ページは高速でめくれていく。立て続けに頭の中へ、知識が入ってくる。文字が自動的に刻まれ、強く印象付けられた気分。

 それがしばらく続き、終わるまでの体感は五分くらい。書物の文章量は、分厚さに見合った量だったが、あっという間に読み終わってしまった。


「す、すげぇ。これなら苦にならない」

「どういう仕組みなんだろう……」


 俺たちが漏らした疑問に対し、親切に答えてくれたのが、猫の姿をしたナナさんだった。


「これらの書物には、先程私どもが使っていた魔法が、付与されています。その動力は、《魔力》と呼ばれるものです。駆使することによって、分厚い書物を迅速かつ正確に読破できます。そのような書物を、《魔法書(グリーモワ)》と言います。魔力や付与に関しての詳細は、魔法関係の書物を読んでいただければ、理解していただけると思います」


 淡々と話しながら、補足を含めて話してくれた。あとになって読むだろうから、今はそういうものと理解するしかない。


 今のところ、魔力とやらはさっきの魔法と違って、目に見えない。それに魔力を使ったとか言ったけど、感覚的なものは今一つ。単に本を開いたらそうなった、としか思えない。

 メイド二人に改めて質問してみると、魔法発動条件の下で練習を重ねれば、自ずと感覚に慣れ、魔力の存在がわかるとか。努力あるのみだった。


「オッケー、ありがとう。なんとか頑張るよ。二人は休んでもらって大丈夫」

「私も、大まかなことはわかりました。休んでもらって大丈夫です」


 俺たちの『休んで』という言葉に、サナさんとナナさんは目を丸くして、耳を勢いよく立たせた。

 メイド二人は待ってました、と言わんばかりに、高速の行動に移った。


 書物を出した魔法が発動し、花の装飾が美しい白の椅子やテーブルを、次々と出しては置いていく。机の上にはティーポットやカップとソーサー、お菓子といった具合に準備を済ませた。


 掛かった時間は体感数十秒くらい。恐ろしく早かった。

 しかも、準備から休憩タイムに入った瞬間、微動だにしなかった表情が綻んだ。

 雰囲気は優雅で華やかながら、心から落ち着けるであろう空間を作り出していた。


 ただ、メイド姿だと微妙に違和感があるのは、気のせいだろうか。あくまで俺のイメージだと、主が椅子に座って、メイドは隣に仕えているシチュエーションが、それとなく浮かぶ。

 知識不足なのか、違和感が正しいのかわからない。もしかしたら、パンテラに内緒でやってるのかもしれない。


 てか、優花の目が星のように輝いている。完全に混ざりたがってる表情。やっぱ、女の子はこういうのは好きなのかな。

 ――なんてつい思ってしまう。いや、やめよう。先入観は良くない。

 俺はそんなことを思いながらも、視線を本へ戻した。


「はあ……進めますか……」


 優花はサナさんとナナさんを横目に、渋々とした様子で手を動かし、分厚い本を読んでいく。本当に混ざりたかったんだ。


 時間感覚はとうに脱線して、広大な草原を走り続けているが、さすがに読み始めてから一冊という状況だと、間もないことは確か。

 仕方がない。しばらくしたら入れてもらお。いや、俺にその自信はないから、やめてとこ。

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