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   第三十話  笑顔が一番


「あ――怒っちゃった感じ?でも突撃する意味あるー?」

「そうそう。僕らより刺されちまった獣人を助けてあげないとねー」


「なに他人事のように言ってんだよ!」



 俺は神剣を振り下ろしてうえで、追撃をするがすべて避けられ距離を取られる。


 確かにフルトを助けなきゃいけない。でも、優花達がいるから少しは安心できる。魔力に余裕があるクラリがジークと一緒にいるからなおさら。あとで治療に専念できればいい。今はあくまでそのときにつなげるための応急措置になる。


 余裕持って魔力使える俺は、こいつらを捕まえるッ。



「おぉ、怖い怖い。確かに手が滑って疲弊した彼を刺したのは不徳と致す、とは思う。だが、そう簡単にうまくいかないのが道理というやつじゃないか?」


「それは、言い訳じゃないのか!」


「違うね。俺達が起こしたのは過失や失敗じゃない。そして意図的でもねえ。運命ってやつだ」


「運命だと?」


「そうだ。僕達は()()()()()()を持っている。その能力に従っていくのが僕達の方針(ポリシー)。ただ、僕達の方針(ポリシー)は『偏った運命』となるだろう」


「俺達はその運命に沿って物事を実現して生きてんだよ」

「だから、僕達がキミに捕まることなくここから立ち去るのもまた……」



「……っ!」



「運命というやつなんだよ」

「また会おう。キミはまだ未熟だから、次は成長した姿を見せて欲しいな……」



 そう言い残して彼らの辺りだけに突然、濃霧が発生する。これで目眩ましして逃げるのか。あいつらの言ったこと信じるわけにもいかない。逃がすわけにも行かない。なら早くッ。


 俺は距離を取られていたが、その距離を身体強化を発動させて詰めて勢いを殺さずに濃霧に突っ込む。一部だけに掛かった霧。俺の神剣なら吹き飛ばせるッ。



「【爆風(ブラスト)】」



 俺は特異能力(シンギュラースキル)を発動させて濃霧に向かって放つ。それにより霧は吹き飛ばされるように勢いよく消えて視界が晴れるのだが、そこに嫌らしい笑みを浮かべる二人組はいなかった。



「くっそ!逃がした……あとでみんなに伝えなきゃ。それよりもソルトの元に」



 俺は二人組を逃がしたことに悔しさがあり、怒りは収まらない。だが今は、最も優先すべきは俺じゃない。重傷を負ったフルトが最優先だ。


 急いで方向転換して後ろにいる優花達の元へ向かう。


 優花達は倒れ込んでいる重傷のフルトに、優花とサリスが二人がかりで風穴の開いた腹を塞いで治癒を行っている。イメージ次第で使える魔法は便利だと思う。

 ただ、そのイメージの内容によっては魔法が発動しても効果が期待できるものかはわからない。

 だから――――。



「優花。傷の具合は?」

「ダメ。私達じゃ治せない」

「クラリを呼んだほうがいいわね。クラリの治癒魔法なら効果が出ると思う」


「というかジークってなんか指示送って来なかったよな。この上にあるドームみたいなやつを作り出してるから?」

「そうね。一時間弱に渡って魔力を絶え間なく出し続けているから精神的にも肉体的にもキツイと思う。このドームは発魔具によって作られているうえに範囲が闘技場以上の範囲。保つだけでも困難なのにそこに衝撃が加われば心身ともに与える影響は大きい。正直、指示なんて送る余裕はないだろうししょうがないよ」


「そうか……」



 と話し込んでいると、噂をすればその二人が転移魔法を使ってこの場にやってきた。上にあったドームはそれをきっかけに一瞬で消える。

 それと同時にジークは力尽きたようで一気にその場にしゃがみ込んで深いため息をつく。



「ジーク、大丈夫なのか?」

「僕のことは、心配しなくていい。今は、重傷を負っている彼を助けるのが最優先だ。クラリシア!頼むぞ」


「わかりました。お兄様」



 ジークの横に付き添うようにいるクラリは少し駆け足でフルトの元に駆けつけて、しゃがんだかと思えばそのまま治癒魔法を発動する。



「【治癒魔法発動  ジェネレイトヒール】」



 クラリは俺にとって初めて聞く魔法名の治癒魔法を使い、傷を塞いでいく。フルトは腹に風穴が開く致命傷を負っているのにも関わらず痛がる様子はあっても叫んだりはしなかった。

 少しずつ塞がっていく傷、フルトの苦しげな表情が徐々に和らいでいく。



「この魔法を行使すれば、ある程度は問題ないです。安心してください」


「そ、そうなんだ」

「はい」



 そう言ってクラリは笑顔で答える。その返答に張り詰めていた精神もすっかり緩み、一気に不安が取り除かれた。


 やっと少し安心できる状況になった。



「やっぱクラリの治癒魔法は精度がずば抜けてるよ。頼りになるのよね~」

「ありがとう。サリス」


「そんなにすごいの?」


「ん?仁也。もしかして疑ってるの~?」


「いや、疑ってねえよ」



 俺はその話に食い気味になって興味がある様子を表現したのだが、疑われる始末。ただ、特に気にすることではなかった。


 今はとにかく、クラリの治癒魔法について興味が湧いている。


 優花とサリスが戦闘後で体力面と精神面の両方が疲弊しているゆえに、クラリより魔法の効果が劣っていても仕方のないことだが、なぜクラリ一人のほうがいいと判断したのか。



 治癒魔法を発動しているクラリには聞けないので、代わりにサリスに聞いてみた。

 俺はジークと同じように特異能力(シンギュラースキル)とかの特性的な理由かと思ったが――――。



「う~ん。そうね。まあ、よくある話で『憧れ』ってやつよ」

「『憧れ』?」

「そう。クラリは小さいころに医者になりたかったんだって。稽古で毎回の如く怪我するジークを見たのがきっかけらしいわ。今こうやって治癒魔法が得意になったのは、魔法を発動するためのイメージを努力して手に入れた賜物が作り上げてるのよ」



 なんか本来なら本人から聞くべき話なんだろうけどよくわかった気がする。



「なるほどね」

「というか、医者になろうとしたきっかけも兄妹愛。なるほどね~」



 優花は俺が質問した話とは別に兄妹愛に深く感心していると……。



「な、なんか…恥ずかしいですね」



 そのクラリの反応は俺にとって予想外だった。本来なら自分のこと勝手に話されたのだから多少、怒るような反応だと思っていたが、少し赤面して身体を縮めるような仕草を見せている。


 どうやら兄妹愛に触れられたことに恥ずかしさがあるようで。それに目を付けたサリスは、隙あらばと言わんばかりに目が笑ったようになってクラリをイジる。



「やっぱり~。禁断の恋?」



 その言葉はクラリに向けて放った言葉だが、クラリは赤面したままの状態で固まっている。というか魔法使ってる最中なんだから邪魔するなよって言いたいけど…。


 と思っていると、後ろにいたジークがサリスの言葉に反応した。



「兄妹愛は確かだが、どうしてそこで()()()()になるんだ!」



 サリスは、ジークの反応で満足そうに笑い始める。どうやらサリスは、遠回しにジークの反応が見たかったようで。



 そんな会話を挟みつつ、話に区切りがついたときにクラリの治癒魔法の行使は終わった。



「皆さん。治癒しました。かなりの魔力を使ったので少し休みます」



 そう言ってその場に座り込んで一段落したからか、安堵する様子を見せる。それと同時に、風穴のように開いた腹が治癒したフルトはゆっくりと起き上がり、辺りを見渡す。その視線は最後に俺達のほうに向けられた。



「あの…。僕、その、皆さんに謝らなきゃいけないです……。ホント、すみませんでした!」



 フルトは俺達に視線を合わせるとそう言って頭を下げた。俺はフルトに同情できる。この場にいるみんなも、そうだ。妹のユナちゃんは兄であるフルトの話になると、一番穏やかな表情になって笑っている。それだけお互いを大切にしていた証拠。そしてなにより、ただ一人の家族。


 殺されて、怒って、その怒りに身を任せてしまうのも。同情できる。だから――。



「俺達は、別に謝らなくていいと思うぜ」

「え?」


「私もそう思う」

「うん。そうね」


「はい。私もです」

「僕もそう思う」


「え…なんで…」


「なんでって…。確かに闘技場とその周辺を壊したのはマズいけど、それは俺達に言うことじゃないし。俺達に迷惑をかけたって言っても、別に俺達はそう思ってない。むしろ、妹を救えなかったことに後悔してる。それに、立場的に逆だろ?本来ならサバトとその連中達が謝る立場だ」



「うんうん。仁也の言う通り」



 そう言って大きく頷く優花。ほかのみんなも同じように「うんうん」と言って頷く。



「だから、な?大丈夫だよ」


「そう、なのかな……」



 フルトはそう言ってうつむき、少し涙を流した。そして軽く涙を拭き取る仕草を見せると、すぐに顔を上げて笑顔で「ありがとう」と言う。


 その笑顔はとても輝いていて、俺達に見せた中で一番、笑っていた。



「やっぱ、笑顔が一番だな!」



 俺は輝いて見える笑顔に同じく、笑顔で返した。


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