第二十九話 許せない
「自由と反撃?それは……どういう風の吹き回しだ?今まで俺に従ってきたお前が、忘れたのか?狭き世の中の獣人をだい~じ~に保護してやったのは誰だって話だ」
「大事に?どこかだよ…。最後は、最後は…妹は、お前に殺されたじゃないか。そこのどこかが大事にだ。なにが保護だ!」
フルトの声はあまだ震えている。恐怖を感じてるんだってわかる様子だった。だけど、もう後戻りできないくらいフルトはわかているから。今起こっているこの震えは、この場で関係ない。そう思える。
そして、フルトの言葉を聞いたサバトに異変が見える。
「はあ~~。反抗的になりましたか~。まあ、その年齢じゃ仕方ないんだろうけど。やはりそういった意思は目障りで耳障り。あ~ちょうどいい!お前も妹と同じように楽しく振る舞って殺してあげようッ!」
サバトはそう言って手に持っていた剣を振り回して突撃を始める。それに対してなにもできずにいるフルトを俺は身体を張って守る。
背中を盾にして――――。
「あ~。そう出るしかないですよね~。剣を取り出すに間に合うわけがない」
図星で少々腹が立つが、確かにサバトの言う通りだった。あ~やっぱムカつく。
「大丈夫ですか!」
「問題ない。なあ、フルト」
「な、なんですか?」
「殺しはしたことあるか?」
「え?」
「お前は今、殺されようとしてる状況に等しい。お前は今、自由を求めて反撃をするんだろ?覚悟も決まったはずだ。あとは、お前に任せる。必要なときは助力だってなんだってしてやるから」
「僕は……」
「おい!お前ら二人、俺の目の前で勝手に会話進めんじゃねえよ!」
「僕は……」
「フッ。だったら向けてるその背中を遠慮なく滅多斬りにしてやるよ!」
俺は後ろで騒いでいるヤツを無視してただフルトの返事を待っていた。俺はあくまで覚悟を感じただけだ。本人の口から聞かねば。
「僕は、僕は……勝ち取る――自由のためにッ!」
「オッケー。あとはよろしく頼んだぞ!フルト!」
俺は背中に大きくできた傷に全身に力を入れてただ耐えてその場を離れる。その瞬間、俺の後ろにいたサバトはすでに剣を横に振りかざしていた。
その光景に俺は叫んでいられなかった。
「フルト!!」
「僕は…勝ち取るんだ!」
瞬間的に。
空気が振動して彼の気配が大きく変わる。いつも感じる人間のような気配とはまったく別。鳥肌が立って俺はただ呆然と眺めるだけだった。
「【獣化】」
フルトは四つん這いになり威圧を出してみるみる姿を変えていく。ほつれて擦り切れた上半身の衣服を破り、全身に毛を生やして耳が長く大きくなって後ろに垂れる。そして小さな尻尾も見えてくる。さらに最も変わったのは両脚のふくらはぎと両手の前腕の筋肉が発達して毛量が増していることだ。下半身の衣服も発達したふくらはぎで、脚部だけ破れた。
ただ、それでも人間としての外見を残して、フルトは淡黄色の毛色を纏う兎の姿へと変貌した。
鋭く細長い目は、一点を集中して捉え、冷静沈着。勇ましく堂々たる戦士だった。
フルトから感じる威圧は揺るぎない勝利の意志を感じるようでどこか胸が熱くなる。こっちも鼓舞されているようでならない。
よく見ればサバトは攻撃を中止して彼の姿に手を止めていた。意識が飛んだのではと思うほどにサバトも唖然としているように見えた。
いや。もしかしたら、『負ける恐怖』を感じているのかもしれない。この騒動は王都で起きたことであり、国も無視はできない。
そうなってしまえばサバトは責任も免れない残念ながらフルトも。だが、サバトに関して獣人に対する扱いを国に確実にバレる。この国ではそういった種族間でのトラブルに対しても法律が定められている。
だからこそ。彼が勝てばすべてを隠蔽できた。この国に必要な冒険者チームのリーダーという地位を利用して、世間に、『獣人が暴れたので阻止しました』と。
こういったときの人は最も単純。一つの目的に少しでも近づこうとする。だから、サバトは――――。
フルトを殺しに向かってくる!!
俺にとっては案の定と言わんばかりにフルトに向かって剣先を向けながら突っ込んでいった。サバトの剣は剣身を伸びて紫の魔力を纏った状態にしていた。サバトの特異能力…。見た目やだなあ。虫唾が走る……。
「し、し…死ねぇぇぇぇ!」
「僕は、お前を絶対許さない!!」
サバトに対し、フルトは四つん這いをやめ二足歩行へ転換すると同様に行動を開始。両者ともに正面から躊躇することなく突っ込んでいく。そして間合いに入った瞬間、先手を仕掛けたのはサバトだった。
「ハハ…死ね!」
しかし、
「そんな剣、叩き割るッ!」
フルトは剣を振りかざすサバトに対してあえて剣の元までいき、虫唾が走るような見た目の剣に躊躇など忘れたかのように、フルトはその剣身に拳を振るう。
拳は剣身を瞬く間に叩き割って、身体をそのまま横に回転させて狙いをサバトに移動。そのまま顔面に殴打。
後方の数メートル先にある大きな瓦礫に吹き飛ばされて衝突する。
フルトは攻撃を止めることなく驚異的な脚力でサバトのいる瓦礫の下に向かい、瓦礫ごとサバトを蹴り出して吹き飛ばす。
吹き飛ばしたあとは猛追して追いついたところでさらに腹を殴打。次は上空。
またしても猛追、追いついたところで腹を肘で突いて猛烈な勢いで地上に叩き付ける。
「がはっ……!」
サバトは吐血して腹を抱えて唸る。フルトはサバトの近くに歩み寄って胸ぐらを掴み、顔面を再び殴打する。
「もう終わりだ。サバト。僕が勝た――」
「甘いッ!」
「なっ……!」
サバトは、瞬間的に地面を蹴り上げてフルトに向かうのではなく折れた剣があるほうへ向かい、落ちていた剣を取り上げる。
「いつでも私は剣を復活でき――――」
と調子づいた瞬間。驚異的な身体能力を持つフルトはすでに背後に来ており、そこから気迫を感じ取れる形相になってサバトの後頭部を殴打。サバトの首はその衝撃に耐えられず引きちぎれ、サバトの頭と首から下は離れて頭は前方に吹き飛ぶ。
この瞬間から、サバトの声を聞くことはなくなった。
聞こえてくるのは風になびく木々の擦れる音。何が起こったか一瞬わからなかった。
「僕は…勝った……」
フルトは自分の成し遂げたことにすぐには理解せず、立ち尽くしていた。徐々に姿は元に戻っていき、顔からは涙が溢れ出て止まらない。
「やっと、勝ったよ……。自由を手に入れたんだ…。やっと、これで、妹に胸張って言える……。父さんにも…言える……。でもやっぱ申し訳ないって、最初に言っちゃいそうだなあ……」
俺はフルトの元へ向かおうと俺の近くに来た優花とサリスと一緒にフルトの元へ向かう。俺は思わず安堵の息をついてしまった。
「よっし!フルト!今そっち向かうぞ!」
「…あっ、うん!ありがとう」
俺達は三人で振るとの元へ向かおうと一歩足を踏み出した途端、刃物が肉を斬るような生々しくグロテスクな音が目の前で聞こえる。
「え……?」
「フルト!!」
フルトが漏らした微かな声。
俺の目に映った。こんな結末を、俺は望んでなんかいない。望むはずがない。
フルトの腹に貫通する一メートルほどの巨大な刃物。血の雨のように垂れていく赤い液体。吐血して目を見開いてただ上を見ているフルト。
その背後で嫌らしく笑う二人組。明らかに命を軽く見ているような輩としか思えなかった。俺の中で怒りがこみ上げてくる。許せない。
「クックック…ごめん。お前達のことを傍観者として、じっくりと最後まで見て立ち去ろうとしたけど無理だったわ。手が滑っちまった。申し訳ないわ」
「ホント。僕は抑えたけど。やっぱ僕もちょっと手が滑ってしまって、刺した刃物そのまま押し込んで腹を貫いてしまった。僕からもごめんごめーん」
身長差がある二人組。着ているものや耳飾りやらすべてにおいて真っ二つに割れていた。そう、身体までもが。ただ、その断面はローブで隠されていてわからない。身体に関してはあくまで輪郭で判断したことだ。
左右逆のような彼らは嫌らしい笑みは共通していた。
俺はこいつらを知らない敵なのかもわからない。だが、俺がこいつらに対して見せる行動はただ一つだった。
「ふざけんなあああぁぁぁ!!」
俺は収納魔法を瞬間的に発動。神剣を取り出してそのまま怒りに任せて突撃。俺は、怒りを抑えきれずにいた。むしろ、抑えるなんてことができるのか。
人生を変えた彼が最後の最後まで、こんな不幸な目に遭わなきゃならないのか。
それほどに俺は刺した二人を、
許せない。




