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   第二十七話  覚悟


「ユナ……なんでなんだろう…。なんで一番(そば)にいたユナに…」


「お前の暴走は同時に本来の目的とずれてた。妹の殺害がお前の怒りを加速化させた引き金。これでお前とサバトで殺し合いをしたって俺は止めなかった。けど、どんどん暴走を始めたよな。これは差別が悪いって。確かに元を辿ればそうかもしれない。でも、それはお前の妹が殺された理由じゃない。サバトの連中の行為で、サバト自身が()()()として妹が殺したんだ」



「うん、うん……」



 俺の話をしゃがんで泣きながら上下に頭を振る獣人の兄。目をひたすらこすって溢れ出て止まらない涙を必死に拭く。

 


「だから、暴走して街を壊すのはおかしい。今、最も敵対視すべき相手を取り違えるな。相手はサバト、ただ一人だ。」


「……」



 獣人は俺の言葉を聞いて黙ってしまった。なにを考えているのか俺にはわからない。伝わっているのかもわからない。


 ただ不安が募る。


 そんな俺に対して、獣人の兄は涙を拭き取って落ち着いた様子で俺に話しかけてきた。その声はとても沈んでいるように感じた。



「そういえば、名前――聞いてなかったね……」

「え?ああ…名前か。やっぱ呼びづいもんね。よっし!俺の名前は青原仁也。仁也って呼んで」

「わかったジン…仁也!かな?」

「そうそう。で、名前は?」

「ああ、僕の名前は……フルトね。『フルト・イン・ブレイブ』。ちょっと名前が長いけど…」

「三つ?!」



 俺は前を聞いた瞬間、驚きが生まれる。二度目だ。名前に三つ。ミドルネームというものだろうか。神界ではそういった類いの本は読んでいないのでわからなかった。

 それに、この出来事が起こる前。まだスタガリ山へ行く準備の最中。ギルドのベンチに座っていたときに意味もわからず俺を訪ねた男。そいつも三つだった。

 


「え?どうしたの?」

「あ、いや。三つあるんだって思って」

「あ、うん。獣人は、みんなミドルネームがある」

「そうなんだ」

「うん。でも僕のミドルネームはミドルネーム、じゃないと思う……」

「え?」

「い、いや、なんでもない!なんでもない!」



 そう言って慌てながら手を左右に激しく振る。

 俺は未だに実感が湧かなかった。獣人という存在に。そして俺は、自分と違う姿にどこか羨ましい気もする。差別的な気持ちはなかった。

 妹のユナちゃんや兄のフルトを見ていて、そんなことは思えなかった。こんなにも豊かな感情を持っている彼らに俺はとても好ましく思える。


 特にフルトにはそう思えた。感受性豊かなんだなと。



「なあ、フルト。話を戻す感じになっちゃうけど一ついい?」

「うん」



 フルトは大きく縦に首を振って頷く。



「フルトはこのあとどうしたい?」

「え?」


「俺はおそらく、この空間を操れる。元いた場所に戻れる。でも、まだサバトはいる。だから――――」


「だから、どうしたの?僕のやることは一つさ。僕は妹を殺した()()は、許さない。妹の兄として。獣人として。『獣人殺し』なんて見過ごせない。このまま終われない。だから当然、僕は決着をつける。これで死んだって僕はいい。街を壊した罪がある。人に怪我させたり死なせてしまったかもしれない。だから――――」



 フルトの目から並々ならぬ覚悟をひしひしと感じる。フルトに後戻りする考えはない。そうわかっていた俺だったが、真意の確認のためにも聞いた。


 そして聞いてわかった。

 ここからは俺達がサバトと直接戦う必要はないと。ここからサバトと戦うのはフルトだと、わかった。



 そして、俺達の様子を遠目で見ていたかのようなタイミングで目の前が再び眩い光に包まれる。


 この謎の空間に来たときは違い、眠ることなく包まれた光とともに辺りの様子は目まぐるしく変化する。


 よし!ここからだ。早く優花達を助けないと。




    ◆   ◆   ◆   ◆   ◆




「優花。どうする?今、なんとか身を隠せてはいるけど。この土魔法もそう長くは保てない」



 優花とサリスは仁也と獣人の兄の二人が姿を消してからさほど経っていない。だが、その間にも優花とサリスは苦戦を強いられていた。


 土魔法によって作られたドーム型の魔法で治癒を施したばかりの優花。二対一と人数差で有利なもののサバトの実力が本物なのは確かだった。



「サリス。私達は仁也がお兄さんを説得に成功することがまず第一。今、どこにいるかはわからないけどきっと成功してる。そう考えるの。そしてあと、この街。クラリとジークがどうにかしてこの広がるドーム型の空間を作り上げてるけど、魔力が尽きたら本当にマズい。だから……」


「わかったよ優花。優花に従う。サバトを倒すよ。私達の全力で。それでもダメだったら仁也達に託す。それまでは全うするよ」


「ありがとうサリス」


「うん。じゃあ、土魔法――解除するよ!」

「うん!!」



 と解除しようとした矢先に、突如としてドームの一部に亀裂が入って光りが差し込み、一気に亀裂が広がる。

 そして、その光から足が飛び出る。

 サリスはその足の正体を確認することなく、即座に優花に逃げるように促して土魔法で作ったドームを破壊して後方に下がる。


 二人が下がったころにはドームはなく、その前にはサバトの姿があった。



「あのっさ!今まで、ていねぇ~いに話してやってたのにさッ!まさか隠れるとは思わなかったよッ!いちいちそんな手順いらんくねッ?正々堂々と来いよッ!」



 今まで自分を貫いていたサバトはサリスの土魔法で身を隠されていたことに苛立ちが湧いたようで、人格が壊れたような狂気に満ちて、口調を荒げて自らの感情を露わにしていた。


 まるで別人。



「あぁ――。イライラさせてくれるなッ!あぁ――あぁ――。もう、いいッ!――手加減なんて言葉はここから一切、抜きにしようじゃねぇのッ!あぁんッ?」



「こわぁ――」

「サリス。私達も!」

「うん。わかってる」

「じゃあ……」



「「行くよ!!」」



 サリスと優花はお互いに頷いて合図を出して左右の両サイドに分かれてサバトのほうへ向かって行き取り囲みながら辺りを高速で回り続ける。


 それに対してサバトはスタートダッシュに遅れて先に二人に囲まれる。人数差や状況が不利にも関わらず彼から余裕が消えることはなかった。

 両者の立場的に有利な立場にいるのは彼女ら二人ではなく彼。サバトであった。



「はいッはいッ!そんな足掻き方では勝てないッ!勝てないッ!絶対勝てないッ!――二人もろとも、死あるのみッ!」



 そう言ってサバトは魔力を集め始めて自分に取り込んでいく。さらに手元にある剣を地面に向けて突き刺す。



「お見せしようッ!私の力をッ!」



 サバトは集めた魔力をそのまま刺さっている剣に手を通して直接流し込む。

 その流れには優花とサリスにも伝わる。

 再びお互いに合図を出して方向転換。そのまま突撃をする。



「サリス!」

「オッケー!」



 二人はサバトの間合いまで接近してともに優花は剣を、サリスは拳を振りかざす。

 だが、それに対してサバトが見て見ぬ振りするはずがなく、透かさずその行動に対して声を張り上げて叫ぶ。



「【蛇剣(スネーク)】」



 サバトが叫んだタイミングにはすでに二人の剣と拳があったが、けして避ける素振りはみせずただ不敵な笑みを浮かべる。


 そしてそれに応えるかのように、地面に刺さっていた剣が勝手に勢いよく抜けて紫色の曲折した謎のものが同時に地面の中から出現する。


 そのおぞましい曲折している紫色のものは、地面に刺さっていた剣を持っているサバトの手元に繋がっていた。つまり、剣の剣身でだった。


 当然ながら彼女達にとっては予想外と言える事態ではあったが、動じずにお互いに向かってくる曲折した剣身を弾き返してそのままサバトへの攻撃に転じる。



 彼女らの目にも余裕はあった。そして――――。



「【星屑(スターダスト)】」

「【空間包囲(スペースシージ)】」



 優花は特異能力(シンギュラースキル)を発動させて、剣身から黄土色の光を纏った無数の弾が放たれる。

 サバトはその無数の光を化け物と化した剣で次々と切り刻んでいくがその光は消えることなく切られて分かれた状態でスピードを落とすことなく、結果的に発動時以上の数となって襲いかかる。


 無数の光る弾は優花の特異能力(シンギュラースキル)によって作られたもの。そして優花の剣も仁也と同じく魔力によって使える。魔力はイメージに影響される。つまりは、優花のイメージが崩れない限りは無数の光る弾は消滅もせずに対象に向かっていく。物体でもない弾は剣で切り刻めない。


 ゆえに、優花の攻撃は止められない。そして、対象となるサバトに無数の光る弾は間合いに入る。


 さらに、あとから発動させたサリスの特異能力(シンギュラースキル)によってサバトと無数の光る弾は一瞬にして一定の透明な空間に包囲されるように閉じ込められる。そして。



「「いっけぇ――!!」」



 二人の叫び声に応えるかのように、サバトが入った透明な空間内で無数の光る弾が次々と爆発を始めていく。連鎖爆発とでも言うような連続的な爆発がサバトのいる一定の空間内で起こっていき、爆発音も聞こえる。


 二人の攻撃は容易くサバトに届いた。


 だが……――――。



「クックック…ハア――ハッハッハッハッ!!」



 辺り一帯にサバトの嫌らしい笑い声が響き渡る。爆発に遭っているにも関わらず。


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