第二十五話 役割
「サリス!」
「了解!」
サバテスの剣筋にひるむ暇なく、彼の次の攻撃は必ず始まる。脳天から稲妻のような瞬間的なスピードで脅威的。攻撃が先程とは段違い。速さと正確性、そして攻撃力。
そんな攻撃はその観点を含んだ状態で繰り返し行われ、優花とサリスはそれにただ後方へ下がって避けるのみ。二人は圧倒される。トップの冒険者チームのリーダーとあってその立場は伊達じゃなかったことを二人は実感する。
「フッフッフッ!ただ避けるだけですか!変化というのはないのでしょうかね!」
と煽る発言をするサバテスだったがそれに答えるかのように、優花とサリスは勢いのまま繰り返し攻撃をするサバテスに対して後方に下がった瞬間に立ち止まり、二人は両サイドで即席の待ち伏せ。通過寸前のタイミングを見極めて剣を振り下ろした。二人はサバテスへの妨害行為の前に身体強化の魔法を発動しており、そのため感覚器官などの内部にまでその強化が発動するため感覚器官も強化されている。
ゆえに、一瞬のことだとしても的確な対応ができる。
「なっ……!」
「「止まれ!!」」
二人は彼の立場上の問題で殺しはできないというのはわかっていたので、この瞬間は当然ながら殺すことはできないので攻撃を止めるしか彼女達が即席で思いついた方法はなかった。
だが、ある程度はダメージを与えて勝たなければならない。そしてそのダメージをいきなり与えさせて気を少しでも散らすことができればいいと考えているようだ。
「こんなのでッ!」
「そんな……!」
「すり抜けた……!」
サバテスは振り下ろされた剣と剣の間のスペースを見極めて通過時に体を無理やりねじって両サイドにあった剣を最後に蹴り飛ばして通過した。
「では、お二方。退散させていただきます」
そう言って通過直後に後ろを振り向いてニヤつき、わざとらしい行動をとるがその後ろにはサリスの姿しかなかった。そのことに気付いたサバテスは驚きを隠せなかったようで前後に体が動いて目を見開く。
そしてその理由を悟ったかのように慌てて進行方向を向くとそこには阻むように立ちはだかって横に剣を振り上げた優花がいた。
「くっ……!」
「はあッ!」
優花はサバテスが振り向くなり振り上げた剣をそのまま剣を持っている片腕目掛けて通過しながら振り下ろす。太陽光を反射してより鋭利に見える剣先はサバテスの腕を捉えて血潮のしぶきの音とともに腕は綺麗に切断されて地面に落ちる。
片腕の切断に大量の血が地面を覆い尽くして血の海と化した。
「クッソ!甘く見るなよ!」
優花の斬撃に苛立ったサバテスは剣を持っていたほうの腕である右腕を失ったが、左腕に躊躇することなく切り替えて反撃に出た。
その予想外の行動に後方に下がろうとするが、その前に斬撃を食らって腕の浅い切り傷を起点に腹には深い傷ができて最後にもう片方の腕に同じく浅い切り傷ができた状態で血がサバテスの顔に飛び散る。
深手を負った優花は、斬撃を食らってそのままサリスの元まで吹き飛ばされる。
「キャッ!」
「優花!大丈夫?今、治癒魔法をかけるよ!」
優花は軽い過呼吸になっていてサリスは心配するもなんとか治そうと慌てるように治癒魔法を発動させる。
「【治癒魔法発動 ヒール】」
優花の負った傷は徐々に塞がっていきこの場での治療が完了した。
「優花。血は失ってるから休んだほうが……」
「絶対にそれだけはしたくない!まだ、終わってない。必ず、やり遂げる!」
「わかった!」
やや苦戦気味といった状況ではあったがダメージがないわけではないので可能性はあった。
そして優花の治癒の中でサバテスは自分の切り落とされた腕を見てため息をついてただ放置する。発狂も一切せずに苦しむ様子がない。表情もあっさりとしていて耐えているという感じでもなく余裕が見えている。切断された箇所を目視して確認したサバテスは、優花とサリスを無視してそのまま再び仁也と獣人の元に走り出す。
「よっし。仁也が邪魔されないようにするよ」
「お願い。サリス」
「任せて」
そう言って魔法陣の展開、強化魔法による範囲拡大と調整。そしてその魔法陣で土魔法を発動させる。魔法発動時のその手順は省略化されたとでも思うような脅威的なスピードだった。
「【土魔法発動 ロックドーム】」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「お兄様。私達はこのままでいいのでしょうか」
「そう言われても…元々仕事が少ないしこの空間を作り上げるのに魔力を使うから。大丈夫さ。そんな柔じゃなよ。絶対に」
「そうですね」
と話をするジークとクラリシア。
ジークの役割は情報伝達という役割と並行して騒音防止や被害拡大を防ぐためのバリアを作り出す魔法の発動を行う。設置という方法でも発動可能な魔法で設置魔法と呼ばれている。その魔法は魔法が付与された道具『発魔具』を使って発動させる魔法。わざわざ強化魔法を発動せずとも発動範囲は設定により変えられて限界が存在しない。
しかしながら発動範囲が広ければ広いほどそれに見合った魔力を使うことになる。しかも一定の時間で持って行かれるため迅速な終息が大事になってくる。
「それにしても…クラリもすごい。闘技場より広いこの発動範囲の中の人全部転移させるんだもん」
「えへへ…。ありがとうございます」
そしてクラリシアの役割は全体的に言えばジークのサポート兼魔法発動中の護衛。そして最初のほうにはジークの魔法の範囲内にいた人達の避難。
だが、なによりもその手段には多くの魔力がいる。集中力もいる。クラリシアの最大の武器は魔法。
集中力などの基本的な体力面や精神面は問題はなく、魔力の不足によって発動できないというのも多い話だ。魔力は空気中にあって魔力量は発動者の許容範囲というものだが、その魔力量の許容範囲を超えた魔法は使うことができない。
設置魔法は発魔具によって魔力量の軽減がされているため少なくて済むのだがクラリシアはそれを一切使わず、それを必要としなかった。
彼女の持つ潜在能力。【魔力増大】による効果。
自分得意魔法のみに対して無尽蔵に魔力を使うことができる能力。
「それにしても……優花達、苦戦してる。できれば助力がしたいけど……」
「私達の任された役割を全うしましょう」
「そう、だね」
「どうしました?お兄様。もしかして、もう体力面に?」
「いや、他所の立ちくらみかな。発魔具での軽減はあるけど…。最初のほうとか特にそうなんだけど、大きな振動や残骸がぶつかったりして保つのが難しいから案外、魔力が取られちゃうんだ。必死にやってるはいるけど魔力を集めるたびに魔力量限界まで集めて使うから……。戦闘が長引くとなると雲行きがかなり怪しくなるかな」
「でも、そこまでの被害はないように見えますけど……」
クラリシアは首を傾げて疑問を抱く。ジークに与えたダメージの原因がわからない。わかったとしてもここから彼女が動くのは役割の関係で不可能。それにより慌てふためく様子にみるみる変わっていくクラリシア。
「ま、まだ大丈夫だから。立ちくらみくらい。優花達に比べたら痛くもないよ」
「やはりお兄様は努力家な一面がありますね。嬉しいです」
「あ、あはは…。それしかできないからね……。って、まあ。それはともかく、とりあえず優花達の戦闘が終わってほしいし。なによりも、仁也がどうなったかだよ」
「そうですね」
二人はこの状況下でいい結果で終わると信じつつも、密かに一抹の不安と心配が募るのだった。




