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   第二十三話  説得




    ◆   ◆   ◆   ◆   ◆



『クッソ。なんで今さら思い出すんだよ!』



 そう言って声を荒げて独り言のようなことを言う。


 俺の目の前にいるのは、たった一人の獣人。妹をなくした兄。俺が知っているのはただそれだけ。でも、それでいいと思ってる。どんな過去を背負おうと必死に足掻いて生きてきたってことは素直な感情だけが伝えてくれる。感情はその人の状態を教えてくれる。

 だからこそ、俺は獣人の気持ちになって考えて最善な答えを提示する。けど最終的に、どう変わるかは獣人次第。決めるのは俺達ではなく自身。俺達はそのアシストをするしかない。

 今の獣人は怒りや悲しみで暴走する一方。その行為は自分潰しでしかない。勘違いを生んで誰にも理解されなくなってしまう。


 だから……――――。



「もうやめろ!暴れたっていいことはないぞ!」


『お前らか!今さらなんの用だ!これは俺の因縁なんだよ!部外者は黙ってろ!』


「悪いがそれはできない!今ここで暴れてもなにも変わらない!伝わらない!」


『だから…――――』



 ウサギ姿の獣人が言いかけた瞬間、背後から何者かによって右手に派手に吹き飛ばされる。そして背後から襲ってきたヤツというのは冒険者チーム『ジャック』のリーダーだった。



「おいおい。派手にやってくれたものだ」

『お、お前…生きていたのか…』


「当然だろ。この獣人殺しのサバテス様だぞ?お前も私に出会ったからには殺されなきゃ。汚名となるのは許されない」



 俺は男の名前に興味などはなかったが、『サバテス』という言葉を聞いた途端にウサギ姿の獣人が反応し、吹き飛ばされて静止した位置から大きく躍進するとそのままサバテスに向かって拳を振るう。


 サバテスには動揺が見られずそのまま素手で、振るわれた拳を受け止める。辺りは空気の波動で建物が破壊される中で、サバテスに与えられたダメージは確認できない。



「私は獣人殺しだって、言ったよ?」

『なっ…!』



 この展開に、サリスはとっさに行動を開始した。



「サリス!」



 俺はサリスの予想外の行動に危険を考慮して止めようとするが、それに便乗して次々と躍進して獣人の元に行こうとする。それを止めることができない俺は同じように躍進するが、その間で俺は優花とジークに説得されてしまう。



「助けに行くよ!こんなところで見過ごせるわけないでしょ!」


「そうです!部外者と言われようと私達も関わった人間です。最後まで見届けます!」

「仁也。あの兄妹が笑った瞬間は、お互いに再会したときだけだったの」


「ならわかるだろ仁也。また再会させるんだ。幻惑魔法を使えば…」

「わ、わかったわかった。止めた俺が悪かった。でも、その幻惑だけど。俺に任せてくれないか?」



 二人からの言葉にすぐに弱って折れた。言い合うことでもないし、自分の決めた意志に従うことにもなるからだ。



「いいよ!じゃあみんな、役割分担!」



 サリスは器用なことに躍進しながらも指示を送り、陣形を形成する。



「私と優花はサバテスへの妨害攻撃。ジークは特異能力(シンギュラースキル)を行使して悟られない場所で同時に魔法で情報伝達。それにプラスして結界を張って。情報伝達は最悪、後回しでもいい。同じくしてその場でクラリは魔法で周囲に被害が出ないようにする。近隣の建物とは距離が離れてるから被害が出ても小規模だと思うけど、念のため怪我人とか見つけたときの対処もお願い。仁也は私達が獣人とサバテスを引き離すのを確認したら即座に説得をお願い」



「「「「了解!」」」」



 サリスの指示の元、俺達の乱入が始まる。むしろ元を言えば、サバテスが乱入したことでこうなったのだ。追い出す形だな。


 そう思いながらも個々で行動を開始。サリスと優花は身体強化の魔法を発動させたようで、淡い灰色の魔法陣が二人の足下に出現してそこから一気に飛躍。来襲するような形で真上からの攻撃で妨害を始める様子が見え、獣人とサバテスを引き離すことに成功したようだ。

 

 その一方で、頭の中でジークの声が共鳴音のように聞こえ始める。サリスが言っていたジークの魔法での情報伝達のようだ。



『みんな!僕は遠方の高台にいる。状況把握は容易にできるから、安心して。それと仁也……。君の出番だよ』



 そう言ってその言葉を最後に頭の中からジークの声は聞こえた。おそらくだが、魔法とあってこちらも返答するための魔法を発動させる必要があるようだが、そんな高度な魔法をすぐに全員が発動するには難しい。特に優花とサリスなんか無理だろう。そのせいで一方的な情報伝達になってしまうようだ。



「うっし。俺の出番。……思いを一つに。余計な思いが混ざらぬように。俺が今すべきことはなんだ…。俺の意志はなんだ……あらためて胸に刻め。青原仁也!!」



 俺は自分の意志を自分にあらためて強く刻み、身体強化の魔法を発動させて躍進。ウサギ姿の獣人の元へ風を切ってひとっ走り。


 そして突如として視界に現れた者を見て俺は静止する。



「なあ。もうやめようぜ」

『うっ。お前は…ここまでして俺を助けたいのか?僕を』

「ああ」


『僕は君達なんかに頼んでないのに』



 口調が安定せず壊れたコンピュータのようなノイズ音と混じって発せられる声。人格すら侵害されているのではと心配になる。そしてなにより、先程サバテスに振るった拳を押さえて痛みをこらえている様子が窺える。



「ああ。確かにお前は俺達になにも頼んでいない。でもお前以外に頼まれたんだよ!」

『はあ?デタラメ言うな!俺は、俺は、一人なんだよ!妹も死んでしまって、一人なんだよ!なにも、なにも残ってない!残ったのは俺の粗末な命ただ一つ!そんなのはいらなかった!』



 獣人は涙を流してただ思いを伝える。

 俺はその姿に涙をこぼしそうになるが、今の言葉には多少の苛立ちを覚えた。獣人は暴走ゆえに視野が狭ばっていることはわかる。俺自身そうだとはわかっていても、苛立ちを覚える。



「そうかよ!お前は、そんな悲しい人間だったのか?」


『なんだと?!』


「俺はお前の人生の全てを正確には知らない、一部分もな。けど、正確でもなくとも俺達は知ってる。俺達ならその気持ちが理解できる」


『うるさい!わかったような口を利くな!!』



 獣人は怒りの勢いを増して憤怒し、魔力がさらに集まっていく。暴走は一向に止まらない様子だった。俺はそれでも冷静になって話を続ける。



「なあ。もうやめようぜ」

『うるさい!やめてくれ!もう僕に、関わらないで!』



 そう言って獣人が拒絶を繰り返す。暴走は後戻りできない状況のせいで拍車が掛かり、さらに魔力を集め始めてその濃度が高まっている。

 もう救える手立ては伝えることだけ、のようだ。

 俺は、彼の怒りと悲しみを深く知らなければならない。


 そう思った瞬間、言おうとしていないことを口にしてしまう。



「……ラクハト」



 服の中に隠していたペンダントが反応して眩い光を放ち、右手の手のひらに浮遊して移動する。俺は『ラクハト』と言おうだんて思っていなかった。言葉を口にした瞬間はなぜか自分自身が他人のように思える。誰かと一緒にいるようだ。そんな状態が今も続く。


 そしてペンダントがある右手は勝手に動き出して、俺が引っ張られるような形となって獣人の元に俺はゆっくりと進んでいく。

 乗っ取られているような状態。自分の意識とは別に誰かが動かしている。確証はないけどそのように思える。


 目の前の獣人は今もなお魔力を集め続け暴走している。そんな状態の中で俺の意識は戻り突如として、一連の動作の意味がわかった。理解した。ペンダントが力を貸してくれることに。



「【創造的(クリエイティブ)・『伝達(トランスミッション)』】」



 ペンダントは剣に姿を変えて、眩い光はさらに強さを増して空間全体に広がり俺と獣人を包み込む。その瞬間、光の強さは飛躍するように瞬間的に強くなったあと、光は弱くなり消滅していく。


 そしてそれと同時に、俺と獣人は別の空間に移された。


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