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   第二十一話  暴走




    ◆   ◆   ◆   ◆   ◆



「仁也!大丈夫?」

「あ、ああ…」


「アハハハ……さっきまでの威勢はどこに行ったのやら!」


「テメエ、なにか、したろ!」



 仁也は酔ったような口調としわくちゃになった表情で自分の感情を表に出す。女の子を殺された怒り。女の子を助けられなかった情けなさ、不甲斐なさ。そして自分への怒り。

 そんな感情が口調や表情に現れて訴える。目の前に居る男と、自分自身に。


 だが、この場にいる誰もが悔しい。怒りがあるのもわかる。そしてその思いが一番大きいのは獣人。兄妹の兄だ。



「クッソ!クッソ!僕が!僕が!」



 彼は肉片となって辺りに散った女の子の近くで、ただ絶望と言わんばかりの表情になって泣き叫ぶ。この出来事は彼のすべてをかき乱した。


 思考、感情、人生。妹というかけがえのない存在を彼は失ってしまった。しかも自分が抱きしめようとした瞬間に、その衝撃で爆散。


 その事実にただ怒りを放とうとする獣人。


 そして、その光景にただ驚愕と恐怖の目で動けなくなっているジークやクラリ。目から流れ出る涙が一向に止まらないまま立ち尽くしている優花。


 そんな中、サリス一人だけが一番冷静だった。ただ、彼女は爆散した理由がよくわからなかった。そしてこうまでして自分達を引きつけた理由すら。



 そんな中で、獣人の解き放った怒りがやがてさらなる激化を呼んで辺りの魔力が集まり始めた。



「おい。大丈夫か?」



 近くにいたジークは今の状況への恐怖を最小限に抑えつつ、魔力の集まり方が異常なほどの量を集めている獣人の少年のほうに近寄って、気にかける。

 が、しかし……。



「『大丈夫か』だと?…僕が、妹を失った僕が、大丈夫なわけないだろ!!」

「ちょっと。落ち着け!」



 ジークは無理強いでもと落ち着かせるように肩を揺らすが、その言葉に一切耳を貸さない。


 そしてそのやりとりの中で優花が突如、目を見開かせたと思えば、仁也に後退するように言って謎の症状に見舞われた仁也はジークとクラリシアの二人とともに後退する。


 優花とサリスは冒険者チーム『ジャック』のリーダーの男に注意を配るが、一番注意しなければならないのは獣人だった。



 なぜなら……。



「な、なんで…大きくなってるの……?」

「なにが起こるのよ……」



 魔力を集めに集めた獣人は勢いよく吸収していき、元々生えていた体毛は獣のように濃くなって筋肉が大きく盛り上がった腕や脚は太くなって、ハッキリとウサギの容姿になったことだ。


 当然ながらその容姿には、周りいた人間に衝撃を与えた。色々と感じたことはあるようだが、結局はこの容姿に姿を変えたことに驚きがあったのだろう。



『許さない!許さない!こんなことがあって、いいものか!』



 先までとは別人のように姿が変わった彼らの辺り一帯に大きく響き渡る。



「おいおい。これは私のプランにまったく入ってないぞ!」


『黙れ!殺人者が!僕はお前のプランは知ったっこっちゃない』



 この状況が男にとって予想外だったのか戸惑いを見せて大きく慌てる。



『僕はなあ!お前達が許せない!許せるはずがない!忘れたなどとは言わせない!僕は今日、この日のためにお前らに従ってきたようなものだ!』


「最初からそうしようと…。小僧が……」



 まさか復讐されようとは思っていなかった様子の男。最初の戸惑いからの慌てようはなくなったが、予想外の行動を取られて苛立っているのか顔に険しい表情が見受けられる。



「フッ。予定通りとはいかなくなってしまったが問題はない。私はこの国の冒険者の中で最も強いのだからな。それに、むしろありがたいよ。私の楽しみを作ってくれて」


『黙れ!絶対に殺してやる!復讐してやる!』



 そして突如始まった戦闘。先攻は獣陣の少年。膝を深く曲げてバネのように勢いよく伸ばし、ウサギの容姿通りの恐ろしい脚力で男に急接近。男は腰に収めていた剣を抜いてそれに対抗する。


 剣先は急接近してきた獣陣の少年に接触しそうになるが、盛り上がった筋肉が目立つ腕で大きく右に弾いてそのまま頭突きを食らわせようと突っ込むが、そう甘くはなく。いとも簡単に避けられてしまう。


 獣陣の少年はその頭突きのせいで、宙に浮いたままの状態。地面には足が着いておらず方向転換ができない状況の中、頭突きを避けた男が件を振りかざして反撃の一手に出る。

 だが、その行動にいち早く気付いた獣人の少年は男が剣を振りかざす前に体をねじらせて横に移動して反撃から逃れる。

 そして、そのまま再び突っ込んで腕を引いて男の腹に拳を入れて強打する。男はアーマーなど一切装着していないので生身の状態で直接食らった。



「がはっ……!」



 男は強力なあまり血反吐を出して瞬く間に闘技場の壁に吹き飛ばされる。辺りは砂埃が充満してなくなるころには壁にめり込んで動く様子がない。

 その様子にさらに苛立ちを募らせたのか、再び男の元に飛んで壁にめり込んだ男を引っ張り出して仁也達野いるほうへ無造作に振り回しては投げて、高さ約七メートルほどの宙を舞う。

 男は意識を失っているようでなにもすることなく七メートルの高さからそのまま落下。


 その光景に思わず目を閉じたり顔を横に向けて視線をそらす仁也達の姿があった。当然と言えば当然。



 だが、そんな中で落下後の男様子を見て仁也達は悩んでいた。助けるか否かと。

 男はルーメン王国のトップに君臨する冒険者チームのリーダー。ここで死となっては国として不利益でしかないのはよくわかっていた。特に王族のジークとクラリシアは。



 だが、そんなことなど気にとめるはずもない獣人の少年はあまりにもあっさりした決着のせいか心残りがあるようで、今度は闘技場の破壊を始めた。


 その際、謎の症状に見舞われていた仁也だけが二つの謎の気配が動くのを一瞬だけ感じ取った。だが、症状のせいで彼には微かにしか感じ取れず、ほとんど気にすることはなかった。



 そんな中で、獣人の少年は辺りを壊しながら辺りを高速で飛び回って恐ろしいほどの勢いで闘技場が崩れていく。そのことに対していち早く動いたのは仁也達だった。



「みんな!もう闘技場から出ようにも手遅れだから。私のところに!」



 そう言ったサリスは謎の症状がある仁也の近くに行ってジークやクラリ、優花も集まる。

 一帯は闘技場の残骸の落下時の振動で地震のように地面が揺れて足下がおぼつかない状態だった。


 そんな状況下の中でサリスが白色の魔法陣を展開して強化魔法でさらに大きく展開。そこから魔法陣が仁也達を囲むようにして動きイメージで調整し、範囲は仁也達より外側の周りに指定され、やがて魔法陣が橙色になっていく。



「【土魔法発動  ロックドーム】」



 サリスの土魔法が発動すると仁也達を包むようにして岩石がドーム型になって現れる。そして闘技場の残骸が崩れ落ちてくる中で、土魔法で作り上げた安全地帯で耐えしのぐ。


 その際に、クラリシアは仁也の治療を開始。謎の症状とあって状態異常を回復する治癒魔法を発動させた。



「【治癒魔法発動  アブノーマルヒール】」



 仁也の容態はすぐには変化はなかったが、少しずつ立てるようになっていった。



「仁也さん。大丈夫ですか?」

「あ、ああ。助かったよ…」



 まだ若干のふらつきがあるようで頭を抱えているが、かなり軽減された様子だった。





 一方そのころ。獣人の少年はというと…――――。




『殺してやる!殺してやる!絶対に許さない!許さない!この世界もろとも!全部!全部!』



 そう言って怒りをぶちまけていく獣人の少年。

 辺りは闘技場の残骸で溢れて散乱している。闘技場自体は全壊。跡形もなく無造作に破壊されてほぼ更地のような状態に。そして、幸いにも周辺の家々との距離が離れていたことや闘技場の運営が休みだったこともあって人気(ひとけ)がなく巻き添えを食らった人はいなかった。


 そして、瓦礫の残骸が散乱して更地のような状態でさらに暴れようとする中で真ん中に大きなドーム型の岩石があった。


 その岩石は獣人の少年の目に止まる。



『なんだ…?あれは…』



 そう気にとめた刹那、ドーム型の岩石が割れて五人の少年少女が飛び出てきた。そして完全に回復した様子の仁也が声を張って大きく叫ぶ。



「もう、やめてくれ!!」


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