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   第十九話  突如として


「なあ。これ、本当に獣人二人は解放されるんだろうな?」


「はてさて。それはリーダーの意向によるから、知らん。あと、お前達は口を慎むことだな」



 俺は不安に駆られてつい案内人に確認をとろうとしてしまったが、案内人は『リーダーの意向』と言って明確には答えてもらえなかった。しかもそれどころか、どこか下に見られている感じがしてならない。


 おそらく、冒険者ギルドでジークを散々バカにした連中と同じように思っているとしか思えない。というかギルドであったヤツって、確か『サブリーダー』って言ってたよな。カザブ・ジェトラだっけか。


 と相手の態度に若干、腹立たしさを覚えたがなんとか抑えながらも案内人について行くと、右側にある通路から光が強く差し込み始める。

 案内人はその光の差し込む方向に足を進めて行くと屋外に出たが、その場所は俺が予想をしていた最悪の場所だった。



「さて。到着したから。俺、帰るわ」



 と言って横目で俺達を睨みながら、唾を吐きかける仕草を見せて小走りでこの場をあとに。

 今ので俺達が完璧に下に見られているのがわかった。



「ようこそ。冒険者チーム『ジャック』の闘技場へ」



 そんなこんなで怒りを募らせていると、闘技場の中央からなにやら歓迎の言葉を発する人の声がした。闘技場が思った以上の広さなので一見わからなかったが、声の聞こえた闘技場中央のほうを見ると堂々とした佇まいの男と、その横で側仕えのように身を小さくしている男の二名が立っていた。



「おやおや。報告通り女の子がいるようで。安心しました。そのまま逃げるようであれば私の楽しみが奪われるところでした」



 と、勝手に話を始める堂々としているたたずまいの男は言う。



「楽しみ?」



 俺は思わず男の言葉に気になって反応してしまい、ため息をして後悔しつつも男の発言に耳を傾ける。



「ああ。私の楽しみはただ一つ。人間を殺すこと…」



 俺はその言葉に一瞬、目を見張って驚いてしまったが男はすぐに口を開いた。



「…なんて悪趣味を私は持ち合わせてはいない。が、獣人を殺すと言うとまあ該当はする。例えるなら、人が虫を嫌うようなことと同じ。少なからず我々人族とは違う種族。いや、違う生き物だ。そんなのは嫌う感情があってもおかしくないのでは?」



 なんとも独断が過ぎる発言は俺の怒りに拍車を掛けた。いや。俺以外の優花達にも怒りの拍車は掛かったようで、視線は鋭く威圧を感じる。

 俺達の中で特にその視線が強かったのはジークだった。


 ジークは俺と代わって話を進めた。



「その理由。僕からしたら明らかに理不尽としか言えないけど」



 話し始めから『怒り』という感情を露わにして口を開いた。今にもジークを発端に戦闘が始まりそうだった。



「ほうほう。理不尽……。うん?よく見ればあなた様は、かの『落ちこぼれ』と言われている第二王子ではないですか?」

「それが、どうした?」



 男はジークがこの場にいることを知った途端、にんまりと笑みを浮かべる。なんとも嫌気が差す笑顔だ。



「クックックッ。いえ、まさか落ちこぼれさんがこんなところに来てなんの用かなと」


「それは、王族の僕に言っているのか?」



 ジークは怒気を纏った威圧で嫌気しかない男に対抗する。



「ええ。そうです。我々がどんなことをしようが国は徹底的に裁けない。この国のトップに君臨する冒険者チーム、そして『冒険者の国』と呼ばれる国が持つプライド。価値ある実力を兼ね備えている我々はこの国では無敵。冒険者という世界から消えることは、ない!」


「それは僕が許さない」

「フッ…」


「なにがおかしい?」

「いや、噂通りだなと」


「どういうことだ?」



 ジークは怒りを抑えることなく男と話している。俺にはジークと男の面識に関してはよく知らないが、聞いている限りでは面識がないようだ。てか、ジークの噂ってなんだ?



「いや。君からすれば大した話じゃないかもしれないが、民衆の中にはあまりよろしくはないと思っているだろうよ。第二王子とあって特に」


「だからどういう…」

「この際だから民衆を代表してはっきりと言わせてもらおうか。第二王子のジーク・ルーメン。お前が第一王子に劣る理由がわかるか?」


「なっ、なんだ……」


「それは……と言いたいところだが、本題に逸れた話を続けるのは本心ではない。だから、その理由とやらは言わないでおこう」


「ふざけるな!」

「おお。怖い怖い。わかった、わかった。じゃあヒントだけ教えよう」



 と言って、不敵に笑う男。

 ジークはどこか暴走気味の様子で止まらない。だが俺は、あの立場だったらと考えるとジークと同じようになっていたかもしれない。怒りという

感情。相手の焦らす言動。男の意地の悪さが窺える。



「ヒント……?」

「そう。そのヒントは、『性格』。だな」


「性格…」



 ジークは二文字の言葉を聞いて少し黙り込むような仕草を見せる。

 俺は男の発言を聞いた瞬間に納得はしなかったが、明らかな点が頭に浮かんだ。



『独りよがり』



 だが、そのことを伝えるのに少し悩んだ。ジークのためになるのかわからなかった。


 だが、話しているのは男とジーク。俺が介入するのはよろしくないだろうし、それに独りよがりが民衆を困らせる理由が今のところは思い浮かばない。



「さーて。こんなどうでもいい話なんて放っておいてと。それで、女の子とそのお兄さんのほうだけど、予定通りに解放してあげる。ただし、一回女の子をこちらに渡す。でもってお兄さんを解放する」


「それは予定通りか?」



 俺は冷めた口調に変えて話して、場は一気に緊迫した状況となった。



「もちろん。だって特殊な魔法で体の一部に奴隷紋章を掘ったからね。魔法を解除してあげないと肉が削れたままだし、解放されたことにならないからね」



 その話を聞いた優花は目を少し見開いて、俺に話しかける。



「仁也。奴隷紋章だっけ。実はさ女の子の背中にそれっぽいのがあった」

「マジか」



 俺は正直、あまり信じてはいなかったが、本当だとわかったからには信じるしかない。


 俺は事実の前に敗れて仕方なく信じることにした。



「ではお互いに!」



 急に側仕えのようなヤツがそう叫んで、獣人の兄妹の交換が始まった。

 俺達は全員で女の子に伝えた。



「「「「「大丈夫。信じて」」」」」



 女の子はその言葉に大きく縦に首を振った。俺達にどうにかする力があればいいが、やはり力不足というのは変わりなかった。



 ことは着々と進み、女の子の奴隷紋章を消去する作業に入ったようだった。

 お兄さんのほうを確認したが、体に紋章はなかった。



 俺達は女の子が戻って来るのを待っていると、奴隷紋章の消去作業中に男の様子が怪しい様子なく、なにやら腕を前後に動かして魔法を発動させていた。

 俺は治癒魔法かと思って気にしなかった。


 そして、その怪しい様子のあとに女の子はこちらに向かってきた。男とその側仕えのようなヤツはその様子に対して見てはいるが、なにかしようとする動きはなかった。


 一方の女の子は足がおぼつかない様子ではあったが、少しずつ足を進めて戻ってきていた。



「ユナ!早く!」



 女の子のお兄さんは早く戻って来るように促すが、女の子は以前として歩く速度を変えないのでお兄さんが女の子の側まで行く。思いっきり抱きしめようとしたのか大きく横に腕を振って、包むように抱きしめた。



 その瞬間――。



「え……――?」



 女の子の体は、肉片となって爆散した。

 突如として。

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