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   第十六話  不安と心配、頭を巡る。




    ◆   ◆   ◆   ◆   ◆



「はてさテ。どうすル?」

「あ…ああ…」



 話せない。呼吸もしたくない。

 肺を動かすたびに激痛が走る。矢の刺さりどころが悪い。肺が痛いということは肺も傷つけれている。俺は当然、医者のような知識は皆無。でも誰がどう見ても、矢が貫通している光景で致命傷という言葉が頭に浮く。



「ハヒヒヒ…」



 根性で体を動かす。という根性論は不可能。耐えることにしか気力が回らない。優花は首絞めで苦しんでいる状況になんとか援護はできないものかと思う。


 連中が俺らを殺しはしない。つまり手加減はされている。というか多少、舐められているかもしれない。


 とにかく、俺の今の状態でさらに追い打ちをかけるのはグロマ自体が望む結果じゃない。ハンデは常にグロマのほうにあった。


 だからこそ、これ以上俺に与える攻撃は抑えるだろう。優花にアシストすることができるのはそのときだ。そして今、俺には致命傷と言ってもおかしくない状況。これ以上は攻撃できない。



 今しかない!



 俺は上げるのがやっとの右腕を震わせながらジャドワと優花のいるほうに神剣を向ける。優花に影響がないように、見定める。

 震える腕の動きに合わせながら正確な位置に合わせる。


 俺は震える腕をどうにか固定しようと腕に力を入れたその一瞬。


 腕が静止する。


 俺はそのタイミングを逃すまいと、特異能力(シンギュラースキル)を発動させた。



「【爆風(ブラスト)】」



 ピンポイントで攻撃できる単体攻撃で発動。爆発は俺の目の前で起きるのでそれにより近くにいたイバラントごと吹き飛ばした。


 魔力の風圧と物理的な風圧がタイミングをずらして優花の首を絞めているジャドワに目掛けて放った。



「…っ…!」



 ジャドワは魔力の風圧に気付いたようで、こちらを向いて体を固める特異能力(シンギュラースキル)(?)を発動させたようで、大きな金属音が響いた途端に腕をクロスさせて受け止める体勢に入った。


 が、ジャドワの注意はさっきまで優花のほうに向けていたため反応に遅れたようで、肌色がやや見えた状態で風圧をもろに食らった。



 イバラントのように吹き飛んで木々に突っ込むほど俺の特異能力(シンギュラースキル)が効いた様子はないが、それでも優花からだいぶ離れたところまで吹き飛ばすことに成功。


 俺に纏わり付くようにいたイバラントは前もって【爆風(ブラスト)】の爆発で俺から距離を取っているので俺は完全にフリーだ。


 優花はジャドワの首絞めから逃れることができ、地面に横たわっている。



「…逃げる!」



 俺は収納魔法を発動させて神剣を収納にあった鞘に納めて、新たに極神剣を取り出して能力の一つである身体強化を発動させる。



「【増強(オーグメント)】」



 おそらく、転移魔法は発動できる。俺達はもう戦闘を終えることができるが、サリス達も元にいかなければならない。

 俺は魔法の強化以上、飛躍的に身体を強化できる極神剣の特異能力(シンギュラースキル)を使い、痛みが伴う中でバネのように膝を曲げて一気に躍進。


 一瞬、吐血をしながらも首絞めにあって横たわっている優花をすくい上げるようにして救出。優花の意識はなく気絶しているようだった。


 すくい上げるようにして救出した俺はとりあえず、グロマの三人衆を気にせずサリス達がいる場所にただ全速力で走る。


 しかし、俺の真横で気配を感じた。



「逃げんなよ」


「……っ!」



 俺は無理やりにでも突破しようとした。思わず俺は目をつぶろうとするが、もう一つの気配が迫っていた。



「邪魔するなああ――ッ!」


「サリス!」


「早く!」



 迫ってきた気配は助けに来てくれたサリスだった。サリスは無防備の状態のセドワを殴り飛ばしてそのまま俺とともに躍進。


 俺の状況を見かねたサリスは抱えていた優花をそのままサリスに託す。


 かなり肺が痛む状況でジークとクラリがいる場所にたどり着いた途端には、安心のあまりから思わず足をくじいて転びながら到着。前もってサリスに託してよかったと思う。



「じ、仁也!また刺さってるじゃないか!」

「ご、めん。油断、して…たわ」

「取りあえず寝て安静にして!」


「ジークとクラリ!転移魔法を発動させて!」

「「了解!」」



 ジークとクラリは手をかざして魔力を操り、転移魔法を使う。



「「【時空魔法発動 ワープ】」」



 俺の視界には魔法発動による魔法陣から浮かび上がる無数の光が覆い尽くすように見える。この光景に安堵の息をつく。


 そして怪我の影響からか、俺は密かに目を閉じて暗闇の世界に意識を手放した。



    ◆   ◆   ◆   ◆   ◆



 浮かび上がる。走馬灯のような。誰かに、見せられている。そんな感じがする。



 見ているのは、近くに燃え盛る炎と一台の車。

 車は横転した状態。辺りには別の事故車は見当たらず、おそらく単独。しかし、この状況では車が燃え盛るまでに至った経緯は不明だった。


 助けようとする数々の男性の声。


 決死の救出の末、車から助け出されたのは、一人の幼い男の子。男の子の両親は車に残されたまま助けを求める声すら聞こえないまま車はさらに炎上した。


 そして、その光景がいきなり消えた。と、同時に一つの言葉が自身を埋め尽くすように景色の中に投影される。


『無慈悲な殺害』



    ◆   ◆   ◆   ◆   ◆



 突如として現れる。


 目を動かせる感覚。小さな明かりが暗闇から手招きをしているように感じる。なんだかまだ寝たい気分ではあったが、同時に「起きなきゃ!」と強く思っていた。


 俺はその明かりに反応してそっと目を開けて、徐々に視界を広げる。

 視界の真上からは自然的な優しい光が差し込んで、だんだん真下に行くにつれて暗闇が濃くなっていく。しかしながら、左手には人工的な光を感じた。


 当然ながらほかの感覚も蘇ったように新鮮な気がするが、一番に感じたのはふかふかのベッドだった。どうやら寝ていたようだ。

 なんて寝起きでボーッとしている俺は、目をこすりながら静かに起き上がる。


 部屋にはろうそくが置いてある質素な小机。後ろには小窓があり月の光が差し込んで、部屋は自然と薄暗い。


 俺の横にはもう一つベッドがあり、そこにはジークが寝ていた。



「王都の宿か…」



 それにしても色々と気になるが、今一番気になるのは寝ているときの夢(?)みたいな走馬灯(?)みたいな。理解ができない。でもどことなく、母さんが言ってたが事故と様子が一致しているが。



「はあ。変な夢」



 なんて言いながら、自然と胸をさする。



 あれ?



「そういえば…。俺、胸に矢が貫通してたよな…」



 俺は自分の有り様に一瞬驚きはしたが、ジーク達には感謝しかなかった。


少しどうでもいいが、矢が刺さった状態でどうやって治療したのか少し気になる自分がいた。



「はあ~。明日、女の子を連れてギルドに行くけど。本当に大丈夫かな」



 俺は最終的に、明日の心配をしてしまう。


 今回の件で例の冒険者チームがグロマと関わっている可能性がある。というか確実だ。ジークの情報は正確だ。正直言って否定できる要素がない。


 そもそもの発端も、曖昧な理由だった。まあ。そもそもその時点で気付いてたから行くべきではなかったけどジークはきっと行く。


 いや、それ以上に優花達も覚悟はあると思う。それに俺は反省すべきだと今さらながら思う。


 薄っぺらい理由で関わりたくないと思う俺も一理あったが、今の俺からすれば完全に私情を挟んだ判断だと気付いた。

 自分に利益を求めた自分が恥ずかしい。そう思う。そしてジークは勇ましいと思う。


 今になってだが、女の子を助けてよかったと思えた。



「ただ、明日どうなるかだな。本当に獣人の兄妹を解放するか…。心配だな…」



 不安や心配を抱えきれないのか、思わず独り言として漏れてしまった。

 結局のところ、気になっていたのはわからない夢(?)ではなく、明日の行方だった。


 俺は不安と心配が頭を巡る中で、明日を迎えるために再び眠りについた。


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