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   第十五話  時間稼ぎ


「絶対ニ!絶対ニ…奪ったダロ!誰が奪ったかくらいわかル!なあ、そこのピンクの髪色のお嬢ちゃん…」


「フンッ。知らないわよ」


「そんなこと言ったて無駄ァ!」



 サリスはやや汗を流しながら否定する。イバラントは怒りに満ちて暴れ狂うような様子で、声を荒げる。

 同時に焦っているようにも見える。必死なせいで興奮して怒りにまで発展しているよう。俺はサリスがなにを持っているかは知らないけど、敵が興奮して怒るほど返してほしいものということは、もしかしたらこちらが今、有利な立場なのかもしれない。



「なるほど。そのピンク色の髪色をした彼女がねえ。それは、こちらとしては見過ごすことはできないな。僕達兄弟も…」



 今や流れはサリスによって変わる。こいつらと闘わずしてこの場から去る方法だってある。女の子を助けたのでなおさら。でも、どう考えたって逃げるのは不可能かもしれない。


 それに逃げると言っても、転移魔法に使う魔力を操れる体力と精神力があるかどうか。サリス達は魔獣との戦闘で俺達より疲労があるのは間違いない。余裕があるのは俺と優花。


 俺達が泊まる宿は王都にあるのでそれなら俺達でも転移できるが、その間にあのグロマの三人の攻撃かから逃れるためにも魔力を扱う体力と精神力に余裕がある俺達で食い止めることもしなけばならない。


 さすがに三対一にして応戦すると返り討ちに遭う。



「サ、サリス」

「な、なに?」

「転移魔法、できるか?」

「う、うん。私は拳を主体にして攻撃してたから」

「わかった…じゃあ…」



 俺はサリスに女の子を託して立ち上がり、優花の元に向かう。


「優花。俺が闘う」

「え?……いや。ダメ。仁也の怪我はまだ治ってない」

「でも…!」


「仁也!私は闘える!女の子を運んでるときに感じた。人を助けられたときの嬉しさを。自分の力だけで助けられたんだって。自分には微力ながらも力はあるんだって!だから!」



 優花は俺に力強い眼差しで俺を見ていた。俺はその眼差しで優花の強い意志とやらを、感じた気がする。


 でも、優花にあるように俺だってある。女の子を王都に運ぶためにも、ここで内輪揉めをする場合じゃない。


 だからこそ……。



「そうか。だったら、一緒に闘う」

「え?」

「なら。文句はないはずだ」



 優花はどことなく呆れた様子だったが、しょうがないと言っているかのように首を縦に振って承諾してくれた。



「おいおい!僕達のこと、忘れないでもらいたいね!」


 そう言って注意を引きつける自称『格闘兄弟』の弟、セドワ。


「うっせえよ。かまってちゃんが!」

「なんだと!」



 なんて軽い挑発に乗った弟のセドワはそのまま俺に攻撃を仕掛けて来るが、横にいた優花がそれに反応して剣を横から振り下ろして対抗する。


 それには驚いた反応を見せたセドワだが、かろうじて地面を蹴って身をねじりながら避けて後退する。



 俺は瞬間的に収納魔法を発動させてしんけんを取り出して、そのまま追い打ちをかけるように攻撃を仕掛ける。


 傷は完全に塞がっていないので多少の痛みがあるが、堪える。



「サリス!三人で協力して転移魔法を発動できるか?」



 突然の質問に対し、優花は……。



「できる!時間稼ぎお願い!」

「了解!ありがとう!」


「ハヒヒヒ…。そうはさせないヨ〜」



 そう言って転移魔法の発動準備に取り掛かるサリス達三人を狙う不気味な女のイバラント。



「それはこっちのセリフだっつうの!」

「なに?!」



 俺はセドワに攻撃を与えたあと、後退はせずに突っ込んで後衛にいるイバラントにも攻撃を仕掛ける。



「やられてたま…」

「遅い!」


「【爆風(ブラスト)】」



 イバラントは怒りのあまりサリス達だけにしか目に入っていなかったようで、俺に対応できずに爆発とその風圧がイバラントを襲う。


 イバラントはそのまま後方の木々に吹き飛んで

木々が大きく揺れる。



「クッソ!あいつやられやがったよ!兄さん!」

「そうだな!俺達で倒そう!」



 今の兄弟の発言は少し気になったが、戦闘中のため今は気にしないことにした。



「あのバカ女!」



 なんて文句を口にしながら拳を振るって襲いかかってくる格闘兄弟。



「返り打ちにしてや…」



 俺は格闘兄弟の攻撃に対抗するはずだったが、さっきイバラントを吹き飛ばした木々から威圧ある魔力を感じ取った。まるで睨まれているようだった。



「思わせぶりか?」


「よそ見すんな!」

「なっ……!」



 俺は強い魔力に気を取られたあまり、セドワの攻撃を無防備のまま食らった。


 悪いことに拳が入ったのは怪我を負った箇所だった。



「ああっ……!」



 俺はめり込んでくる拳に叫んではいられなかった。傷は『ほとんど塞がった』と言われたが、負ったときの怪我は腹が貫通していたのでほとんどと言われても、今の怪我の様子はまったくわからない。



「ハハ。痛そうだねー」


 無関心そうな様子で言うと、次は蹴りで攻撃して俺を吹き飛ばす。


 俺は歯を食いしばって足を地面に付けて勢いを殺し、なんとか踏ん張って静止させることに成功。

 一旦、横目でサリス達の様子を見ると魔法発動を始めていた。転移場所のイメージを鮮明に思い浮かべているようだ。


 これで時間は稼げた。



「よっし!優花、戻って……」



 俺が優花がいるであろう方向に、視線を向けると格闘兄弟の兄のジャドワによって、首絞めにあっていた。

 優花は必死に抵抗して図太い腕をどかそうとするが、びくともしない。



「優花!今、行くよ!」



 と、足を一歩踏み出すと後ろから押されたような感覚がした。


 胸の辺りが騒つくよう。違和感がする。



「ブフッ……!」



 急な吐血。大量に口から溢れ出る鮮血。

 胸の辺りの違和感を確かめるために右手わ当てると手のひらに痛みを感じた。


 視界に右手の手のひらを入れると、切り傷のような傷ができていた。


 胸から矢尻が大きく飛び出ている。



「ハヒヒヒ……」



 不気味な声が近づいてくる。



「ネエ。今、どういう状況か教えてあげよウ」

「…え」


「今、君ハ!私の矢で死にかけてるヨ」



    ◆   ◆   ◆   ◆   ◆



 犯罪組織グロマ。本部にて。



「神の眷属〜」



  威厳を見せるグロマのボス。ファイファー。

 彼の異彩の放ちぶりは見た目にも現れている。

 そんな彼は最近、神の眷属の情報を頻繁に取り入れようとする。


 作戦を練る。なんて真面目な目的ではない。単に彼は退屈で、時間を持て余しているだけ。

 だが退屈な彼だからこそ、恐ろしいまでのことをする。世界すら巻き込むほど。



「おい。神の眷属の情報は?」

「はっ!確認して参ります」

「早急に〜」



 と、側仕えが行動を始めようとした矢先。巨大な扉が大きな音を立てて開く音がして、慌てた様子でファイファーの元まで小走り、着いたと同時にひれ伏す。



「ファイファー様!」

「どした?」

「その、現在…幹部のイバラント・キュード様、セドワ・ポセフ様、ジャドワ・ポセフ様が神の眷属と交戦中!我々は把握できていない事態ですがどうなさいますでしょうか!」


「お〜。交戦中か!問題はない!そのまま遊ばせろ!私が許可したからな。ヘマをしない限りは遊ばせろ!」



 そう言って今までの低いテンションが嘘のように興奮を露わにしてテンションを上げていた。


 その様子に報告に来た構成員は若干、驚いた様子だったが、ファイファーの前とあって表情を崩すことはなかった。


「はっ!」



 報告に来た構成員が去って行くと、ファイファーは側仕えに紅茶の用意をさせる。


 彼の癖。興奮するとすぐに彼の人格が冷酷な自分へと戻るために、心を落ち着かせるために。


 彼の幼少期のころに癖として現れた。彼の恨みが心の奥深くに本当の自分を封じ込めるために。


 しかし、そのことは誰も知らない。知るはずもないことだ。

 

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