第十三話 決着と合流
追記:文章修正等に先立って技名を変更しました。
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うなるように倒れる超巨大な魔獣。首筋から背筋、尻尾にかけてサリスは大打撃を与えて背骨を粉々に粉砕したであろう。先までの綺麗な背筋は今や原型をとどめないほどの状態になっていた。
「【魔力遮断の罠】」
「【火炎の罠】」
サリスはジークに指示された通りに手順をこなし、罠を設置した瞬間から魔獣の動きを感知して発動。
魔獣は魔力を供給できなくなり、火の海が魔獣の体をむしばんでいく。
もはや罠の意味はと、問いたくなる気もするが魔法よりかは手っ取り早い方法だった。
魔法は広い範囲で行うのなら、魔法陣の対象範囲を広げる必要があり強化魔法を発動させなければならないが、明らかに魔力を扱うことによって起こる体の負担は一つの魔法を使うか使わないかで大きく違ってくる。
一方で、特異能力の場合はイメージを乗せた魔力で設定が行えてさらには罠の効果も自由自在に変えられるため、固定的な効果は存在しない。だから、その戦況に合わせた対応が行える。バリエーションは無限大。これまた有能。
この世界では、個人が自ら生み出した能力を上回る産物は存在しない。とも言われている。
「サリス!一旦、こっちに戻ってきて!」
ジークの言葉がサリスの耳に届き、透かさず魔獣から離れてジーク達の元に到着したサリス。
「ねえ。なんで火が必要だったの?」
「うん。あの魔獣さ。今まで僕らが初めて目にした魔獣なんだ。こんなのは図鑑にも載ってなかった。それで【魔力探知】で調べたら、肉体がある箇所が一つもないっていう情報があったんだ。骨格はあるんだけどさ」
「肉体がない…」
「うん。なんか粘り強い性質を持った液体で身体構成がされてるんだ。しかも弾力性がある。だからただ攻撃を放っても跳ね返される。特に打撃は。でも、骨格がある箇所で背骨を狙って攻撃すれば攻撃が入るからね」
「なるほど…」
「なんか私達、結構残酷なこと言ってませんか?」
「大丈夫よ。そこまで気にしてたら、こっちの身が持たなくなっちゃう。それに、自分達が生きるために必要なの」
サリスの意見もクラリの意見には一理あることは確か。だが、彼らが最も優先しなければならないのは自らの命。それは本能ゆえ。人はどんなものでも、捉え方を変えれてしまえば感性も変わるというものだ。
「ていうか、身体構成がその液体でできてるってことは、脳ってないんじゃないの?」
「うん」
「なんで体を動かせたりできたの?」
「それは背骨粉砕する理由にもなる。簡単に言えば操れる魔獣、だね」
「操れる?人為的?」
「うん、おそらく。背骨のところに遠隔型魔力装置があったんだ。だから背骨を粉砕する必要があった。人為的って言われたら納得がいく」
「ふ~ん。でも、これで討伐完了できるの?」
「そうなるはずなんだけど…。とりあえず今は、あの液体を溶かす作業に入ってる。サリスがやってくれた炎の罠でね。おそらく、完璧に原型はなくなる」
罠によって完璧に捕らえられた超巨大な魔獣。先までのように暴れはしない。威勢は失われて動きが鈍くなって明らかに弱っている様子だった。
油断大敵だが,三人は思わず安堵の息をつく。
三人が協力した結果が勝利へと繋がった。
「お兄様。魔法の使用は温存していますが、どうします?」
「あとの二人の様子を見たから使う人を決めよう。仁也と優花がどんな状態で合流するかわからないし」
「できれば無傷で帰ってきてほしいです…」
クラリシアが言ったことはサリスとジークも同じだった。三人はまだ、女の子の周辺にいた数人の人間の正体を知らない。だからこそ、余計に彼らの心配は大きくなっていた。
帰らぬ人なってしまうのは誰も望んではいない。
「私、魔獣の様子を見てるよ。二人は周辺を警戒しながら少しでも休んでて」
「わかった」
「はい」
サリスは罠の中にいる超巨大な魔獣のほうへ。ジークとクラリシアはサリスの指示通りに、近くにあった一本の木に寄り掛かって休息を取りつつ警戒にあたる。
サリスの近くにいる超巨大な魔獣は、ジークの言った通り。原型はすでに崩れて、肉体だったところはすべてゼリー状の液体となって骨格がちらほら見える。
炎の罠は魔力遮断の罠により、魔力供給ができなくて効果が切れたようだがすでに肉体がゼリー状の液体となった今、役目を果たしたと言える。
「この液体…どうやって処理すれば……」
少し困った様子のサリスだったが、なにか思いついたのかガントレットを外して急に収納魔法を発動させた。収納からは大きな瓶一つと小瓶を五個程度、を取り出す。
なにをするかと思いきやその小瓶で液体をすくい始めて、すくった液体を大きな瓶に入れる。
一杯になったところで今度は小瓶にもギリギリの量を入れ始めて、最後の小瓶は一回すくった程度にしてそれぞれ瓶にフタをする。
「よっし。これをあの人に見せれば…オッケーっと」
彼女は小瓶の中に入った液体を興味深そうに見る。
サリスが瓶に入れてどうしたいのか。それは人為的な魔獣であることから、調査や解明が必要などと考えたのだろう。彼女自身はそのような能力はない。サリスは立場上、人脈は広いほうだ。
おそらく、知り合いに専門の者でもいるのだろう。
「ん?これが骨格…背骨になんか付いてる…。ジークが言ってた装置かな。壊しておこ」
そう言って外していたガントレットを再び装着して、装置をそのまま握り潰した。
どこかプチンッと音が鳴った気がしたが、サリスは気にすることなく握り潰した装置を地面に捨てる。捨てたあとも、念のためと思ったようで足で踏みつけてプレスされる。
「これで大丈夫かな」
装置は粉々になって薄っぺらい状態に。サリスは原型をとどめない魔獣の死骸を真剣な表情でじっと見ていた。
彼女にはとても不思議に思っていた。
あの粘り強い液体がどうしたら肉体に化けさせられるだろうと。
彼女は深く考えることはなかったが、明らかに不可解な魔獣だったことは確かだった。
「さーてと。魔獣の討伐を確認したところで、休息にしようーっと」
サリスはそう言ってため息をつきながら、ジークとクラリシアがいる一本の木に向かう。彼女は三人の中で一番疲労が溜まっているのは間違いなく、休息が必要だった。
「おっ。サリス。魔獣のほうは?」
「死んだよ。もうね、ドロドロになってた」
「その割には骨格しか見えませんけど…」
「うん。液体は回収したの」
「え?」
「どうかした?」
「大丈夫なんですか?」
「たぶん大丈夫でしょ」
「不安…」
と、魔獣から出た液体の安全性をジークとクラリシアが怪しんでいると、山道のほうから一定のスピードで飛行してくる人に気が付いた三人は手を振って存在を目立つようにする。
三人が気付いた十秒後くらいには、地上への降下を始めて三人の元に着地する。
「優花!」
「みんな!無事でよかった!」
「うん!」
女性陣は全員揃って抱き合って無事を確かめる。
「よかったよー。優花が無事で」
「うん。女の子、救出できたよ。おんぶしてるから、横にしてあげよう。疲れたみたいで、おんぶしたら寝息が聞こえて」
「スヤスヤ寝てるね」
「よっし。この木の下に移動させてあげよう」
ジークはそう言ってすぐに収納魔法を発動させて収納から敷物を取り出そうとしていると。
「ジーク。ちょっと一旦ストップ!」
「え?」
「なんかこっちに来るよ!」
「え?!」
ジークが声を荒げた瞬間、彼らの目の前からとてつもない勢いで宙を舞って飛んでくるもの。いや人がいた。
ジーク達は慌てて伏せたと同時に、頭上を瞬間的に通過。ジークが女の子を移動させようとしていた一本の木に飛んできた人が激突。
木は太さがさほど太くはなかったようで、激突と同時に折れ曲がって飛んできた人は静止した。
「え…仁也?」




