第七話 狩人
「正直なところはそう思いたくないけど…」
「だってあの姿を見て一つの魔獣って言えるほうがおかしいもん」
「まあ。そうだけど」
「でも、対策とかあんのか?スゲえ猛スピードでこっちに来てるけど」
「う、うん…ってまた投げてきた!」
「うえっ?!」
今度は三本の斧が頭上から大きく回転して降ってくる。刃物が頭上から回転しながら向かってくるって怖過ぎる。恐怖でしかない。
なんて恐怖を感じつつ、必死にこの場から離れた。優花はすでに飛行魔法で上に飛んでいた。やっべ。早く離れないと死ぬ!
「仁也!大丈夫?」
「今、そっちに行く!」
そう言って俺は、すぐさまこの場から離れるために自分のイメージを乗せた魔力で優花と同じ飛行魔法を発動させる。正直、成功するかわからないが、ダメだったら走る!
「【飛行魔法発動 フライ】」
とま、まずは飛行魔法。そして…。
「【強化魔法発動 インクリース】」
飛行魔法を強化して持続時間の延長などを行う。今までとは違って強化魔法をあとから使うので、少し忘れそうになった。一応、しっかりと効果を発揮してくれるはずだ。
「ほうほう。仁也は飛行魔法を強化したわけね」
「そう」
「まあ。私もしてるんだけどね。合成魔法に変えて」
「よくもまあ。あんな早く発動できるよな。優花は魔法が得意なんじゃない?」
「そうかも」
俺達の知識では一般人がわかるレベルの魔法しか使えない。仕組みなども詳しいことはよくわかってない。ただ、俺達の世界で見てきたもののイメージを使えば、その知識をカバーできる。かもしれない。
「って。まあそれはいいや。で、見えるか?あいつら?」
「ううん。砂埃が舞ってよく見えないから…」
先程の斧は三本飛んできて勢いよく降ってきたせいか、地面に刺さったときに大規模で砂埃が舞ってしまい様子が見えなかった。近くには、すでに歪な魔獣がいる。
「でもさ。やっぱ混合タイプでしょ。ゴブリンのときとは違うから」
「だな。これまた厄介だよ」
三日、四日前にゴブリンと戦闘をしたあのときの『武装』とは別だけど、その強さに相当、もしくはそれ以上に強い。自然界などに存在するのかと疑ってしまう。
特徴的なのはさっきの歪な姿。そして魔獣・魔物の要素が二つ以上入っている新型と言える。現在、最も恐れるべき存在だ。というか、魔獣と魔物どっちで言えばいいんだ?
「ねえ。これって偶然この山にいたのかな?」
優花はわかりもしないことを、俺にあえて聞いてきた。
「俺だってそう思うよ。でも、直接攻撃してこなかったよな」
「確かに」
なんて話していると砂埃が消えだして、その場には混合タイプの怪物のようなやつの後ろ姿が、うっすら見えた。
「帰った…?」
「みたい…」
ただ斧をぶん投げるだけで帰ってた。少々意味のわからない展開。
とりあえず帰ったことを確認したらすぐには降りず、低空飛行で砂埃が舞っていた辺りに近づく。本来ならそのまま地上に降りたいのだが、降りられない。
「なんかあるし」
「これって。死骸?」
「う~ん」
混合タイプの怪物みたいなやつらがいた辺りに、緑色の巨大な腕が切断された状態で重なるように落ちている。腕の断面からは青色の血と、濃い水蒸気のようなものが上へと上がっていた。腕の数は数えられる数だったが、その数は六十本。
「さすがに吐き気がするわ…」
「血が赤くないだけマシ。私はなんとか」
「慣れっこか」
俺達はこんなところに長くいても意味がないし、見てて気持ちが悪いので飛行魔法で去ることに。
「てか、あんなやつがいる山って女の子無事なのか?」
「それもそうだけど。ここに女の子がいるって言ったあの人達って私達をはめる気だったんじゃない?」
「はあ~。それであんな薄っぺらい理由だったのか――。ジーク…」
「まあまあ。ジークがあのときどうしても止めたくなるのもわからなくはないよ。私だって嫌な気持ちにはなる。王族というプライドを捨ててまで止めようとしたんだし」
「そうだけど…」
柔軟な考え方でジークの行動に弁護をする優花。でも、こうなったのは確かにあのときのやりとりが原因でもある。ただ、もし優花の言ったことが本当なら俺達をはめる気だった理由がいまいちわからない。
「あれ…そういえば。レアスっていたよな」
「え?う、うん。内戦のとき…」
「あれ…。あいつらってなんで内戦起こしたんだっけ…」
「そういえば仁也って聞いたの?」
「う~ん。どうだっけ…全然覚えてない…。死にそうになったのは覚えてるんだけど。どう倒したかとか背景も…まったく覚えてない…。屋敷にいたときは覚えてた気がするんだけど…なんか急に頭が…あ…あぁっ…」
俺は急に頭が痛み出してそのまま木々の中に降下。飛行魔法は発動中だったので問題なく地上に着くのだが、優花が心配しながら一緒に降りてきたようで、俺の肩に軽く手を置いて「大丈夫?」と声を掛けてくれている。
それがわかっていても、俺はそれに返事ができないほど激しい頭痛を味わっていた。そしてその頭痛とともに二つのおかしな感覚がする。
一つは外側から誰かに脳を引っ張られるような感覚。二つ目は内側からそれを止めようと引き戻すような感覚。そしてその感覚は頭の中で響く『守らなければ』という男の声とともに起こっていた。カオス状態。自分でもよくわからない。
「う、うわあああぁぁぁ………――――」
「え?」
「はッ…!」
「え?!」
俺は一瞬叫んで失神のようなものを起こして視界が真っ暗。けど、その途端に生き返るように目を覚ました。体の状態が異常だった。
「だ、大丈夫なの?仁也?」
「あ、ああ。ごめん。なんか、内戦でのレアス達のことを思い出せなくなった途端に…って。あれ?」
「どうしたの?」
「今、思い出せる…」
「ならよかったけど…」
思い出せる。例えば、優花がレアスを倒した方法を聞かないのもわかる。声で優花があの場の離れた場所にいたことがわかったからだ。
色々と確かめるが、全部同じはず。それにさっきの状態が嘘と思えるくらい頭に浮かんでくる。
「仁也。とりあえず、立てる?」
「あ、ああ。ありがとう心配してくれて」
「うん。仁也が普通に戻ったなら安心したよ」
「そうか。ホントありがとう」
「うん」
お互いに笑みを浮かべた。迷惑はかけてしまったが、結局のところ頭痛は治まって平常。
「ごめん。時間使わせて。また女の子を探そう」
「うん。仁也。また今みたいにならないでよ?」
なんて会話を弾ませていると左からヒュッンという音が鳴って、それとともに足下の近くに消えていくように細いものが通過した。
一瞬の出来事だった
俺は通過してったほうを思わず確認すると、ゾッとした。地面には見たことあるものが刺さっていて、その刺さっている部分からは太陽の光を反射させる鉄のような金属が見えて、細長い棒と繋がっていた。
「な、なんで矢が…飛んできた…――?」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
木々の中。オオカミの姿。荒い息。舌を大きく出し甘える。主人に。
「いい子ちゃんネェー」
そのオオカミは胸周りから小さく水蒸気を出した状態になって伏せている。
「お前は狩りをしない狩人だな」
「ホントだ!」
ローブで姿を隠す者。三人組。
「いやいヤ。二人ともまったくわかってなイナ。私は…『人を狩る狩人』サ」
「フッ。それだと…狩人じゃなくて人殺し」
「そうだ!」
「酷いナア…まあ、とりあえズ。狩るとしますカネ。あの二人ヲ」
そう言って謎めいた女は背負っていた筒に手を置いて数十秒。なにやら詠唱のようなものを行って、筒から飛び出すように矢が出てそのまま右手に。
さらに左手には灰色の弓を持っていた。
そして矢を持つなり、矢をつがえてそのまま弓を引く。
女の狙った先には二人の若者。
「今回の獲物ハ…人の、最上級ダッ!」
そう言って女は手を緩め、矢を射る。




