第六話 激化の予兆
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「これで、女の子の捜索が続けられるわね」
「うん。僕達はこちらに集中できる」
「はい。ロックウルフを早く倒しましょう」
「そうだね」
左手の木々から現れたロックウルフは三人を包囲し、威嚇をして睨みを利かせる。数はおよそ百数十体ほどとかなり多い。ジークは巨大なロックウルフが二匹いることから、その二匹はボスで二つの群れが一つになったと推測したようだ。
しかしながら、魔獣との戦闘経験者にはここで疑問が生まれる。なぜなら群れにしては数が多過ぎることだ。百数十体という数は言葉にすれば簡単だが、実際は恐るべき数。どうしてこんな数がと思うがその原因は知る由もない。それにこの数に闘いを挑もうなど自殺行為。さらには魔獣ということあって余計にその思いは強くなるはず。
だが、ジークのには疑問すら浮かぶことがない。
理由は簡単だった。
この場にいるのはサリス、ジーク、クラリシア。この中で魔獣・魔物に対して実戦経験があるのはサリスただ一人。当然、彼女は元魔法師団の団員。そしてジークとクラリシアの二人は王族で、経験は対人戦のみ。
ジークが知識を持ち合わせていようが、それをうまく使って状況に合わせて分析と行動をできなければ意味はない。
そして経験がない彼にはこれがどういう状況か正確にはわからない。ただ数が多いとしか思えず、初の実戦で緊張した様子を出して冷静さはどこかに消えたかのようだ。
「ジーク。私、これ異常だと思うんだけど」
「え?確かに結構な数がいるように見えるけど…」
「お、お兄様。どうしましょう…」
「ジーク。今は私に従って動いて!戦闘経験者は私だけだから。」
「わ、わかった」
「クラリもいい?」
「わかりました」
サリスをリーダーにして、この状況を切り抜ける選択をした。彼らの用いる手段は、サリスがガントレットの拳による肉弾戦、ジークは愛用している剣『エフォルト』による斬撃、クラリシアは魔法によるサポート。三人のみ。
対して、相手は土属性のロックウルフ。
属性というのは魔獣・魔物が使える攻撃の種類のこと。その属性にあった環境ほど強力となる。また個体差もある。数はおよそ百数十体と、数の暴力。さらにいえば、その百数十体の中にボスである巨大なロックウルフが二匹。
魔獣・魔物の実戦経験ゼロのジーク、クラリシアにとっては非常に悪い状況。戦闘経験者ですらこの数は圧倒的と言える。
「サリス。どうするの?」
「落ち着いてクラリ。とりあえず、まずは私が数を減らすね」
「え?でも…」
「ジークとクラリは協力してここで数を減らしていく。けど、今は絶対にボスとは闘わないようにする」
「うん」
「サリス。僕だって…」
「ジーク。クラリを頼んだわよ」
「……わかった」
ジークは自分一人でできると思ったようだが、クラリシアのことを言われ押し留まる。彼はその言葉を受けてなにか考えたようだった。
「よっし!じゃあ…準備は?」
「大丈夫!」
「…僕も!」
「オッケー。始めるよ!」
「「うん!」」
こうして彼らの戦闘は始まった。
「はああぁぁ――――!はあッ!」
初手。攻撃が入ったのはサリスによる肉弾。ガントレットは本来、手を守るための防具。しかしながら彼女は、そのガントレットでロックウルフの頬などに攻撃を入れてなぎ倒していく。
彼女の初手の攻撃は、高速で移動したのち一瞬で始まったためロックウルフにとっては驚くほかない。
だが、これには人間でも驚く。
彼女は「本当に魔法師団なのって言われたことがある」と言った。つまりは魔法師団の団員としては見ない戦闘スタイル。近接での戦闘。ガントレットが影響しているかもしれないが、それだとなぜ彼女が魔法師団に入れたのか説明がつかない。周りからは少し不思議な戦闘スタイルと思われるが、これは彼女の強みでもあるかもしれない。
「よっし!クラリシア。こちらは…安全に、そして確実に倒すよ!」
「はい!」
ジークは少しモヤモヤした感じが心の中にあるようで、言葉がつまずく。彼的には自分の今までを信じたいところだが、この場ですぐに自分の力が微力だったと感じたのだろう。
「クラリシア。準備は―――」
「お兄様!」
クラリシアはジークの後ろを指す。
「ガアァ――!」
「この!」
ジークはクラリシアの指の動きで、いち早く対応することができ、後ろから迫っていたロックウルフの撃退に成功する。
しかしながら撃退という形。仕留めてはいない。彼の剣筋は緊張のせいで少々鈍っていた。
「クラリシア。ごめん」
「いえ。大丈夫です」
「わかった。ありがとう。集中する!」
「はい!」
兄妹はここから襲いかかってくるロックウフルを次々と倒し、撃退する。まだ彼の剣筋は鈍ってはいるが確実に倒せていた。
兄妹。特に兄のほうは体に大きく血を被っていた。
そしてサリスも――――。
「はあッ!」
彼女は打撃なのでジークほどではないが、それでも血を被っていた。彼女は猛進しながら次々とロックウルフを倒していくため、ロックウルフの数は着実と減り続けている。
だがこの場にいる三人は、この闘いで持久戦を強いられるのが目に見えているだろう。
開始からわずか、当然ながら数はまだまだ多い。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「なあ。本当に山道の入り口近くにいるのか?」
「わかんない。移動してるかも」
俺と優花は獣人の女の子の捜索を開始した。あの場を離れてから時間はそれほど経っていないが、山道の入り口近くなんてそんな広くはない。
「ジーク達がいるのはまだ入り口でもないのに…もう襲ってくる魔獣とかいるんだな…」
「でも、大丈夫かな…」
「大丈夫だろ。サリスがいることだし。それよりも問題なのは、女の子が見つからないこと。見つかればサリス達もあの数を相手せずに済む」
「そうね。早く探そ」
「おう」
俺達はこの会話のあともひたすら辺りを探した。俺が地上から優花は空から。でも、一向に見つからない。姿どころか声すら聞こえない。まるで自ら隠れているかのよう。
俺と優花は一旦、探すのを中断。お互い合流して情報共有だが、当然ながら進展なし。
「てかさ。ジークが言ってた数人の怪しいやつってなんだろうな」
「仁也。そこまで覚えてたの?」
「いや。なんか大事かなって」
「うん。でも確かに大事」
「なんかありそうだよな」
「うん」
「「う~~ん」」
まったくどうしたらいいのやら。
「でも、ジークが見たときとはさ。場所が変わってる可能性ありそうじゃない?」
「確かに。でもそうだったとしたらどこを探していけば…」
そう言った瞬間―――。
「仁也!なんか飛んでくるよ!」
「え…?」
俺はその声で思わず空を見上げる。
すると空には、太陽の光に反射しながら回転してこちらに向かってくる巨大な斧があった。
「嘘だろ――――ッ!」
「キャッ!」
俺と優花はすぐさまこの場を離れた。それと同時に斧は俺達の間を一直線で通過して地面に激突。間一髪で避けられた。
「なっ…なんだよこれ…」
「突然…」
俺と優花はこの状況をいまいち飲み込めていない。
「な、なあ。この斧。で、でかくね?」
「う、うん」
「ガギ…ガアアァァ――――!」
「うわっ!」
「なんかこっち来るんですけど…ッ!」
オオカミのような走り方、見た目もオオカミ。けど、胸周りにかけて大型のゴブリンと思われる腕が引っ付いていた。いや、引っ付いているというよりかはオオカミの体と繋がっているように見える。
正直言って意味不明でかなり気持ち悪い。そんな生き物がわんさかとこちらに向かってきた。数はおよそ三十体ほど。
しかも近づいてくると、その姿がだんだん正確に見えてくる。
「あ、あれ腹に緑色の腕が付いてる…。き、気持ち悪りい…」
「ねえ、仁也…、あれって…混合ってやつじゃない?」
優花から放たれた一言に思わず納得する俺がいた。




