第二話 世の中
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
獣人。ギルドで差別にあっている。罵声を浴びさせられる。こんなことをしてなんの意味があるのだろう。
獣人族は人種差別と身分差別によって十分ではない生活を送っている。獣人族は人間族に嫌われている。一方的な差別。
彼は慣れていた――――。
『獣人だよ。近づいたら噛まれる!』
『獣人ごときが!偉そうに!』
『汚らわしい!失せなさい!獣人が!』
彼の記憶。今までを思い出すと、人と関わっていいことなんか一つもない。世論ですべては決まっている。生まれたその瞬間から、人生が左右され差別させる。人生の道を変えることは許されない。と、彼は思っている。
差別しようとする人間は無慈悲と言える。
だから彼はこうも思っている。
運命に抗っても勝てない。誰も勝てやしないと。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
(どうする?ジーク)
(う~ん)
ジークがこの場をおさめるのに悩んでいると相手のほうから提案をしてきた。
「二人は、この場をおさめたいんだろう?」
「それが、どうした?」
「なに。警戒することはない。俺達はそれに従ってやるよ。ただ…」
「ただ?」
「この獣人の妹を俺達のところに連れてこい。俺達の買った奴隷でな。そうすればこいつとその妹も開放してやる。役に立たないからな。この兄妹は」
その言葉で目を鋭くさせ睨み、拳を握り締めるジーク。俺もこいつらの言っていることが許せない。奴隷だったと言われると余計に。
「おいおい。そんな顔すんなよ。俺達はな。この国に必要な人材なんだ。この獣人の兄妹に構っていられるかっての。で、ちょうどいいからお前らを使おうって話だよ」
その言葉に怒りが収まらない。俺も。ジークも。
(ジーク。なんか薄い話な気がするけど…)
(いや。僕は従う)
(ちょっ、助けたい気持ちはわかるけど一度冷静に…)
ジークは有言実行。
「なら…従おう」
「フッ。ものわかりのいい落ちこぼれだこと。時間は二日だ。精々頑張れよ。じゃあな」
カザブ・ジェトラとかいうおっさんは、そう言ってこの場から離れていった。同い年くらいの男の獣人を連れて。
さらに、それにともなって人だかりが消えていく。
「おい。冷静になって…」
「いや。僕は、黙ってられない」
「はあ~」
ジークは悪いやつじゃない。でもきっと、こういうピンチの状況では独り善がりになるんだろうな。それにしても、さっきのやつなんか理由の中身が薄いよなあ。違和感あるんだよな…。
そう思っていると女性陣がこちらに来てくれた。
「ちょっと。二人とも大丈夫?」
「仁也。なにもしてない感じだったけど」
「なんか刺さる言葉だな」
「お兄様。大丈夫ですか?」
「ああ。ありがとう」
「それにしても。私達に相談なしに~」
「ご、ごめん。サリス」
と、サリスに謝るジーク。
「とりあえず。どうする?」
「う~ん。先に冒険者登録と宿探し。で、助けに…」
「でも、どこにいるか…」
「いや。僕はわかる。それに妹さんなら見つけた」
「「「「え?」」」」
ジーク以外の全員が驚く。
「クラリシアまで驚くことはないだろ」
「いや。お兄様。あの能力を使えるようになったのですか?」
「ああ」
「「「あの~~」」」
俺と優花、そしてサリスはなんの話かさっぱり。
「あっ。ご、ごめん。三人には分からない話をしてて」
「いや。それはそうと、なんで女の子の居場所わかったの?」
俺達の疑問だ。当然ながら女の子の特徴はおろか、いると思われる場所すらわからない。だが、ジークはその問題を無視して居場所がわかるというのだ。
超人かよ。いや、特異能力とかある時点で超人か。
「それは、僕の武器が持ってる特異能力のおかげだよ」
「え?」
「なんか特異能力ってみんな持ってない?」
「仁也。持ってたとしても戦闘する人だけで、ごく一部だけよ」
「そうなのか…」
「まあ。それはいいとして。一応、みんなにも僕の武器を紹介するよ」
「おー。なになに?」
俺達がジークに注目する中、ジークは収納魔法を発動させて収納空間から鞘に入った剣を取り出した。
「これは、片手持ちの片刃。剣先に行くにつれ幅広になっているのが特徴的な剣で、鎌のような強烈な斬撃ができる剣なんだ。愛称は『ファルシオン』」
「で、能力は?」
「単純に言えば、魔力による探知。周囲の魔力を使って自分が知りたいものや人の場所を脳裏に映し出して見つけてくれる。それに対象無制限の分析と調査も行える。魔力がどこかで遮断されていない限り探知できる。ただ、自分から距離が遠く離れるほど体に負担が生じて脳裏に映し出される場所や分析の結果の正確性が落ちる。今回はギリギリだったけどわかったって感じかな」
「便利だな」
「でも、能力が発動できないって言っても剣を持っていない場合の話だから。手に持っていれば簡単なんだ。いちいち剣を取り出すのも面倒くさいから剣なしでもできるように特訓してたんだ」
と、淡々と話すジークだが。それを聞いた俺は思った。
『それはそれで、有能というか最強じゃね?』と。
「なんか。凄いとしか言えないね」
「特異ってだけあって。色々とあるんだな」
「はい。でもお兄様は最近まで能力を使いこなせていなかったので、私としては嬉しいです」
「よかったな。ジーク。妹から褒めてもらったじゃん」
「あんまり僕をからかわないでよ。仁也。まあ確かに嬉しいな」
「お兄様…」
「「ひゅーひゅー」」
「禁断の恋ね!」
「サリス!」
と、変な展開になったがすぐに切り替えて、まずはジークが見つけたという女の子の状態と周囲の状況を聞く。
「そうだね…。僕が見て分かったのは、草原にある一つの山にいることだね。あと女の子の近くに数人怪しいやつがいる。もしかしたら罠の可能性が高い。待ち伏せだね。焦るのは確かなんだけど、時間との勝負ってことにはならない。今は先に処理できることをやったほうがいい」
「マジか」
「待ち伏せ…」
「酷い…」
「早くやることやって助けに行こ!」
俺達はまず、先に自分達のことを済ませるために最初は冒険者登録だ。俺達は急いで受付に向かい、その勢いのまま受付に突っ込むようにして到着。
「「「「「すみません!」」」」」
「は、はい?!」
「「「「「冒険者登録をしたいです!」」」」」
「は…はい…ってジーク・ルーメン様とクラリシア・ルーメン様がいらっしゃるじゃないですか」
「ああ。神の眷属様といるから。早く登録のほうを…」
「ああ…それに関してましては、国王陛下に済ませてもらいました。あとは登録代金のみです」
「「「「「え…?」」」」」
登録済ませてある…?
「父上…金は自分で出せってことですか…」
「お兄様。お金を預かっていませんでした?」
「あっ。そうだった。きっとこのときのためだ!よっし!登録代金、払います!」
「あ…は、はい。代金は5ポルスです…」
「わかった!」
そう言ってテンパりながらお金を取り出し始めるジーク。テンパってお金落としまくってる……。
この国は共通通貨を採用していて、その名を『KPT通貨』。価値の大きさ順にKがクロト、Pがポルス、Tがトルスだ。あっ。やっとお金渡せた…。
「はい。確かに5ポルスいただきました。国王陛下からは説明不要と言われていますが…」
「ああ。それに関しては僕が保証しよう。僕が学習の場で冒険者のことをよく知ったからな」
「ジーク・ルーメン様が言うのであればわかりました」
「うん。責務頑張ってくれ」
「はい!」
とりあえず、俺達は国王陛下の計らいのおかげで時間をあまり費やすことなく冒険者登録は完了した。
「てか、ジーク。なんで受付の人はカーストの制度関係なくしゃべれるんだ?」
「それは接待ということもあるし、ここは国営だから。父上の意向のおかげだ。だからくだらない制度は無視してる。というかこの国自体が、だ。たまにさっきみたいに制度を使って脅しているやつとか貴族とかもいるけど、この国は一切その制度を採用していない。だから基本的には大丈夫さ。制度を利用する地位の高い人間と接触していなければね」
「なんか、面倒くさいな」
「しょうがないね。そんな世の中だから」
俺はジークの言葉で知る。世界の常識。制度とやらを。




