第一話 人種と身分 【加筆修正中】
ルーメン王国。
アルカダ群島のさらに中央にあるアグルス中央島、やや東寄りの南東、ドラリオン大陸。
その大陸に、ルーメン王国がある。
国の総人口は約一億一千万人。この国は貿易で栄え、それを起点にその後に急成長を遂げた国だ。
また、冒険者の初心からベテランまで多くの冒険者が集まる国としても有名なため、『冒険者の国』とも呼ばれるほど。
この急成長を遂げたルーメン王国は最近になって『世界十二大国』の一つとなり、大国の新星となった。
「へえ~」
「なるほどな。勢いのある国なのか」
「うん。この国はきっとさらに大きい存在になる。お父様は賢い人だから」
そう言って自慢げに話すクラリシア。笑顔が可愛いな。絶対に人気あるよなあ。
「あの…仁也さん」
「仁也でいいよ」
「あ、はい。あ、あの、その…できれば、『クラリ』と呼んで下さい」
「あー。そのほうが呼びやすいよな。わかった」
「はい!」
と。俺の言葉に笑顔を見せるクラリ。急にテンション上がったな…。
俺達が今、話ながら歩いているのは復興中の王都の大通り。内戦の被害は王城が大半を占めるが、王城に続く大通りも酷い状況だったようであちこちで作業をする人々の姿が見える。終結から四日で王都が元に戻りつつある。中世の町並みだな。雰囲気が落ち着いてる感じだな…。
「必死で気付かなかったけど。やっぱ王都は栄えてるな」
「ここは国の最先端。色んなものや人が集まったりしてるからね」
「色んな人か…」
考えさせられる。世界の大きさ。俺は視野を狭くしてはいけないと感じる。
「あっ。見えてきたよ!」
そう言って大通りの中央に指を指す。
「で、でけえ」
「大きい…」
俺と優花は驚きのあまり開いた口が塞がらない。大通りを遮断するかのように建てられていて目立つその建物は、白い石英のような壁に、オレンジや黄色の斑模様が目立つ屋根が特徴的で存在感がある。
「大通りの中央に建てられたこの建物は冒険者ギルド。冒険者が依頼を受けてその報酬を受け取ったりする。詳細はギルドの係員から説明を受けると思うよ」
「ジークは冒険者やったことあるの?」
「いや。学習として冒険者について学んだんだ。この国は冒険者の国と呼ばれるほどだから。冒険者事業には国が力を入れてる。それで学習の場でも学ぶように最近なったから」
「へえ~」
「まあ。とにかく行こう」
俺達は目の前にある冒険者ギルドへ足を進ませる。
「そういえば、なんでジークとクラリがいるのに騒ぐ様子が一切ないんだ?」
「ああ。それは、制度が影響してるんだ」
「制度?」
「うん。この世界は身分が絶対。カースト下位の者は上位の者に話すことすら許されない。カースト上位者には都合のいい制度。僕はそれが嫌なんだ」
「でも。それは国の制度なの?」
優花は問いかける。
「いや。世界全体のだ。やめさせるにはアルカダ世界会議だけ。あの場でこの理不尽な制度が生まれた。僕は好ましくないと思ってる。それに、父上もそれを意識するどころか無視してる。ただ、国民はそんな勇気ある行動は取りづらい。都合のいいようにやる貴族もいるから余計にね」
「本当に色々あるな」
「まあ。僕はそれを変えることができればいいなって」
「そうか」
「お兄様。大丈夫です」
「うん。ありがとう」
「よっし!じゃあ冒険者になるぞー」
会話をしながら足を進め、そのままギルドの中へ入った。
中は木造で二階建て。天井は見上げるほど高く、話し声がわんさか聞こえてくる。建物内の中央には数多くの依頼が貼り出せれた巨大なボードがあった。
「なんか。中世の雰囲気がもろに出てるなあ…」
「ねえ。早く行こうよ~優花~」
優花に甘える動物…じゃなくてサリス。なんか優花好きなんだよな。もしかして…って、いかん!素直に考えるな!考え過ぎだ!俺のどアホ!
「ジーク。どこ行けば…ってジーク。どうした?」
俺の言葉で女性陣もジークに視線を向け、各々に話しかける。
「お兄様…あれは…」
「なに、あの人だかり」
「ジークが嫌いそうな光景ね……」
そう言って優花とサリスはある方向に視線を向けた。ジークもその方向を向いている。俺もそれに合わせて視線を動かすと、俺の視界には人だかりが見えた。そこは待合の椅子が並んでいる場所だった。
「ああ。僕は……嫌いだ」
俺とジーク。お互いを知ったのはまだ二日ほど。俺はこのときに、ジークが本気で怒っている姿を初めて見た。
「なあ。あれはなんの人だかりなんだ?」
「あれは…」
「う~ん……――。あっ…あれって」
俺はジークに言われて気付いた。人だかりにいたのは少年。頭に耳があって腰には尻尾がある兎のような姿をした童顔の人間。
兎らしい茶色に染まった獣毛の毛量は、俺たちとなんら変わらない。
俺は神界で得た知識を、頭に備えた引き出しから思い出す――――。
この異世界の人種の違いは俺の元いた世界とは違い、派生するように多くの種族が存在してその姿は大きく異なる。
人族、獣人族、魔人族、竜人族、水人族、そして多数の少数民族によって構成されている。
どの種族間でも偏見による差別は存在してしまっている。
「あれは、獣人族が一人。そしておそらく、その周りいる連中はその獣人に対して人種差別と身分差別を利用した暴力を働いている。やっぱり僕の嫌いな光景だ…。虫唾が走る」
「人種差別と身分差別…」
「お兄様。どうします?止めに入りますか?」
「ああ。当然だ」
「いや。待て。俺が行く」
「仁也。なぜ?」
「俺だって見てられるかっての」
「でも、身分がはっきりしてないんだぞ?」
「じゃあ二人で行こうぜ。なら異論はないだろ?」
少しジークと揉めたが、俺の提案にジークが渋々と了承してくれた。ホントあの光景は目に余る。
「じゃあ行くぞ。仁也」
「おう。女性陣はここにいて」
「わかった」
「暴力に発展しないでね。公共の場だから」
「お兄様。お気を付けて」
「うん」
俺達は会話を終わらせ、獣人のいる人だかりまで足を進めた。聞こえてくるのは鈍い音や罵声。目障りなうえ、耳障りときた。はやく止めなければ。
そう思いながらどんどん人だかりに近づいていくと、罵声の内容がよく聞こえてくる。
「おいおい奴隷の獣人さんよ!妹を返してほしければ働けよ!」
「そうだよ。大体、なんでその面を俺らに見せるかな」
「ホントだな。魔獣みたいな見た目しやがって奴隷が。今にも殺しちゃいそうになるわ」
そう言って笑い飛ばして罵声を繰り返す。妹…これはなんかあったな…。
俺達は躊躇せずに人だかりをどんどんかき分けていき、獣人の元にたどり着いた。その瞬間、ジークが大声で注目を集めた。
「目に余る行動をするな!貴様ら!」
おい。さすがに大声出し過ぎだろ?!この場だけじゃなくて他のところからも視線が来てるでしょ。絶対。
「なんだ?おめえ…ら……」
「どうしやした?ふ……え?」
「…え?」
罵声を浴びせていたのは三人。獣人は同い年に見える男が一人。
「なっ…なんでだ、第二王子のジーク・ルーメン様がここに…兄貴!」
「ほう…お前ら。冒険者の類いで間違いないな」
「フッ。ハッハッハ。第二王子のジーク・ルーメン様。これはこれは。落ちこぼれと言われるあなた様はここになんのご用事で?まさか。王城から追放されたのですか?」
「そんなわけあるか。私は父上から旅に出るように言われたのだ」
「ほう。それはもしかしたら追放では?そうも考えられるでしょうに」
「クッ。お前…私にそれだけ余裕で言えるということは…」
急にジークが後ずさりするような弱々しい発言に。なんだ?どうしたんだ?
「そうです。私、冒険者チーム『ジャック』のサブリーダーのカザブ・ジェトラですので」
堂々と急に自己紹介をするおっさん。クセの強い顔で、筋肉が目立つ巨人とでも疑うような巨体だった。そしてなによりも、バカにして見下すような品性のない態度だった。
(ジーク。冒険者チーム『ジャック』って?)
俺は小声でジークに話しかける。
(冒険者にはチームが作れるんだけど、ルーメン国王の冒険者チームで最も強いと言われるのがジャックというチームなんだ。それで、僕にとっては不利な相手なんだ。僕は年配の人からすればまだ幼いし、ここが冒険者の国ということもある。そのうえ落ちこぼれと言われてる僕。だから立場が弱くて…)
(そうか…)
これは、面倒くさいな……。




