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   第六話  俺はわからなかった

加筆修正によりサブタイトルを変更しました。



「どうかこの度の訪問お許しください、国王陛下。先日の内戦に戦後処理。大変お疲れであられると思いますが――」

「あぁ。そういう堅苦しいのはこの場では必要ない」

「ですが……」

「言いたいことはわかる。だが、我々は客人――いや恩人の望む形である必要がある」


 その一言で温度測定の難しいバヌカさんの視線が飛んできた。なにを探られているのかと不安にさせられるような、俺たちという一点に集中し動かない瞳。どこか恐怖が湧いてくる。

 スーパーで主婦に目利きされる野菜やら果物やらも、こんな気持ちなのだろうか。


「……はい」

「それより、先に紹介しなければ。こちら、バヌカ国王補佐官長。ここにいるお二方が今回の内戦で我々を救ってくれた神の眷属、青原仁也殿と辻島優花殿だ」


 紹介され、反応されるのかさえ心配になったが、雰囲気の色彩の変化が行動となって表れた。


「先日は、本当にありがとうございます! ぜひ、お手を!」


 駆け寄られて言葉通り手を差し出せば、俺と優花で握手を交わした。それも腕が残像になるくらいの激しさだった。

 いかに最初の言動が役職による自我の封印だったかがわかる。


「あっ、すみません。つい興奮してしまって……取り乱しました」


 そう言ってサリスの傍へ移動した。


「神の眷属の仁也様と優花様。申し遅れました。国王補佐官長のバヌカ・ティアラです。ここにいるサリスの姉です。サリスがお世話になっています」

「ご丁寧に……」

「いえ、仁也様。当然です。それよりサリス。魔法師団を辞めてらしいけど。入団から一年ちょっと。どういうつもりか聞かせて」


 挨拶を終え、単刀直入に本題へ入った。魔法師団という職と冒険者という職を天秤に掛けると、戦闘というのはお互い絶対条件だが、安定した収入では魔法師団のほうがいい。冒険者は依頼が達成できないと収入がない。


 バヌカさんがこうやって問い詰めるのも当然だし、話を聞くにサリスはきっと独断で辞職したように思える。


「その、この二人に同行したいなって思って……こんな経験二度と訪れないし。確かに直接言わずに辞めたのはよくなかった。直感に身を任せて先走った。でも私、見つけたの。きっと間違いないって思った。だから姉さん、お願いします!」


 伝えながら立ち上がり、頭を下げての直談。

 俺たちはサリスの言動を背後からでしか把握できないから、どういった表情かわからなければ、ましてや心情もわからない。


 でもきっと、その手で掴もうと必死になっているのはわかる。なにを手にしようとしているか。そこまでは知り得ない話だけど。


「そう、ね……――」


 直接伝えられた言葉を噛み締めるように発する声。返答はまだ来ず、固唾を飲んで見守るしかなかったが、少し間が空いたところでバヌカさんは口を開いた。


「うん、問題ない!」


 そう言って親指だけ立て、グットサイン。


「え、いいの?」


 許可が下りた途端、無邪気な子供のように喜びで舞い上がるサリスは、優花の手を取りながら軽く跳ねる。


「うんうん、いい判断。世界中を巡るなんて生涯滅多にできないことだし、色々と学べる機会があるから人間として成長できる。家のことは気にしなくていいから、同行させてもらえるんだったら行ったほうがいい」

「うん、ありがとう。()()()()()!」


 そう言って飛び込み、受け止めて抱き締めてもらったサリスだが、バヌカさんは声に出してまで笑い始めた。


「サリス、うっかり小さいときの呼び方で言ってる。『()()()()()』って。最初は『()()()』って呼んでたのに」

「……っ…ね、姉さん!」

「あーららぁ?」

「ほっんとにやめてぇ」

「はいはい」


 風呂でのぼせたように赤らめた顔で、横へ全力の首振りを繰り返す。周囲はこれに微笑まずにはいられなかった。

 小規模のデジャヴを見た気がするが、サリスの日常がどこか想像できる。


「さてと。姉妹での話は終わったかい?」

「はい、お時間頂き感謝します」

「いや、構わないさ。それで、ここをいつ出発するのだ?」


 (よわい)する面々が増えたところで、再び国王陛下からの質問が投げ掛けられる。こんな心強い三人がいて、やる気にならないほうがおかしい。それに道中が楽しくなりそうだ。


「そうですね。俺はここに長く滞在する理由は特に思いつかないです。聖域といいグロマといい、ここにいても進展はないですし。明日にでもと考えます。優花はどう思う?」

「私もそれでいいと思う。数日間お世話になったし。体調が回復した仁也がそう言うなら問題ないと思う。それに方針が決まったし、新しく加わる三人のおかげで早く聖域に辿り着けるかもだし」


 優花にも賛同してもらえた。


「わかった。じゃあジークとクラリシア。そしてサリスお嬢は明日の身支度を行うように。ついでに、仁也殿と優花殿は今日もここに泊まって構わない」


 感謝を伝え、話に最後の句点をつけようと思ったが、迷いが生じて新たに疑問を抱いた。


「あの、少し確認したいことがあるのですが……」

「なんだ?」

「レアスってどうなりました?」

「ああ、そうだ。そやつの件だが、死体がなかった」

「え?」

「それにレアス・デモ―ニア公――いや反逆者のレアス・デモ―ニアも同じく発見できなかった。犯罪組織グロマは昔から不死身集団と恐れられていたが、信憑性が増す」

「そうですか……」

「まあ、今は気にすることではない。」

「そうですね」

「あっ、てか仁也。明日出発するのはいいけど、何時? 明け方?」

「あぁ、細かく決めたほうがいいか」


 時間の未定に気付かされ、俺は顎を触って考えた。特に拘る必要性を感じていないが、こういうときは太陽が顔を出す早朝がいい気が――いや、やっぱり――。


「だったら、早朝とかどう? 王族も同行するわけだし。そのほうがなるべく観衆に見つからずに済むわ。といっても、一般人は王子王女だと思わないかもしれないけど」

「やっぱ、そんな感じだよねぇ。私もそれでいいと思う」


 と、最初の俺と意見が合うが、考えてみれば唯一、早朝の出発が叶わないかもしれない寝坊常習犯が一人いる。


「俺、起きれるかな……」


 完全に自分の弱点を忘れていた。

 この世界に、俺にとっての頼みの綱であるアラームはない。もしかしたら慣れてない場所で寝付けない可能性もあるが、残念ながら小六と中三の修学旅行でそれは一度もない。

 でも三日寝ていたとすれば、明日の早朝に賭けてもいいかもしれない。


「よっし。じゃあ。仁也以外は予定通りに出発できるということで!」

「優花、頼むから冗談でもやめてくれ……」

「大丈夫、寝坊してても起こしに行くって」


優花の笑顔が渦を巻き、みんなして笑みをこぼした。

 その後、二家族は各自で話を始め、優花は部屋中を歩き回って家具や壁など、目を見張る装飾に夢中だった。

 そんな中、一番近いとあってサリスとバヌカさんの会話が耳に入った。


「あっ、サリス」

「ん?」

「もしかして家に帰ろうとしてる?」

「うん。身支度できないから」

「そう。そうだろうと思って私が準備して持ってきておいたから。足りないものはないと思うよ。それに、一人だけ屋敷から出るのは淋しいでしょ。サリスには楽しんでもらいたいから母さんも喜ぶよ。きっと」

「ありがとう――ん? ちょっと待って。それって最初から私が旅立つことがわかってたの?」

「わかった、っていうよりかは、普段のあなたの男勝りというか男嫌いな性格から察したの。強気な態度は元々だけど、無理してるでしょ? いつか爆発して旅時につくんじゃないかってね。それに、サリスがそうやって思い立つときは大体なにかあるとき。それをどこう問い詰めなくても、私はわかるからね」

「やっぱ、姉さんには敵わないわ」


 意図せず結果的に盗み聞きになって申し訳ないが、つい聞き入ってしまった。


 家族ほど信じるに足る存在はいないと思うし、他人は怖いとしか言いようがない。小学生の当時なんてうろ覚え。別に思い出せなくて困ることもない。むしろ都合がいいくらい。


 たとえ記憶に刻まれなくとも、心を覗けばわかる。奥深くへ続く後遺症のような傷跡のような、不快極まりない負の世界。どす黒い陰気な違和感で、昨日のことのように根強く、心の底まで(えぐ)り取られる感覚に襲われる。


 俺が母さんだと思っていた妹さんは、いつも忙しくして働き、俺を養ってくれていた。

 だから、そんなことが聞けなかった。聞いて邪魔になると思って聞けなかった。


 小さい頃は、もはや記憶にない。埋もれているのか、本当にないのか。当然親と遊んだ記憶もない。


 親の愛を知らずに育ったかと言えば違う、だが肉親の愛を知らないかと言えばそれも違う。


 俺はわからなかった。自分は今、一瞬でもなにを望んだのだろう。なにを願って、サリスとバヌカさんの声を聞いたのだろう。

 偶然だったといえば、偶然だった。一番近く聞こえた会話だったから。でも、意識を逸らせばよかった。その場にいる必要もなかった。


 俺は、やっぱりわからなかった。


 自分がなぜ、こんなことをしたのかを。


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