表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/121

   第五話  同行

加筆修正による文字数増加に伴い、分割しました。


「無自覚なわけないじゃないですか、今さらですよ。ちょっと弟たちと波長を合わせてみたかっただけです。普段は忙しいので」


 最後の一言には大量の嫌味を含んだように聞き取れた。細かいことはよくわからないが、とにかく色々と苦労してそうな日常が想像できる。


「確かに遊びたくなる年齢なのはわかるが、仕方ないだろ?」

「期待してくれる人が大勢いるので、別に王太子であることや環境に不満はありません。ですが、執務中にも関わらず冒険ものの物語を延々と、延々と、えん・えん・とぉ! 垂れ流されては敵いません。そう言いたいわけです」


 腕を組んで不満げな様子。国王陛下は精神攻撃に遭うなり初めて言われたのか、涙目になって長椅子で横に倒れて撃沈した。


「でも、ジークとクラリシアの意思は?」


 そこに追い打ちとなったのか、フリードさんの質問が国王陛下に間抜けな声を引き出させた。機械的な動作で振り向き、その旨を問う。

 二人が返答までの間に経過した時間はわずかだった。


「僕はむしろ、望んでいた好機です」

「私はお兄様の側にいたい。どこまでも。そして、私も望んでいました」


 そこに一切の迷いは感じられなかった。一度たりとも視線が外れることはなく、一点に集中する。

 見覚えのある目だった。確か神界でのパンテラ。

 覚悟や強い意思――志す心の意志も感じられる力強さがある。


「ハッハッハッ! 念願だああぁぁ!」



 興奮が急上昇して抑えられなくなったのか、ついには叫び出す。ついには、俺のように自分の世界へ入り込んでしまったのか。笑いの沼に囚われたまま。


「あはは……小父様……」


 苦笑い一つで見届けるサリスは、優花に質問された。


「普段からあんな感じ?」

「んー。いつも前向きに考える人で、夢とか目的みたいなものを大事にする人だから。きっと若い人たちの成長を見守りたいって思ってる人だと思うの」

「そっか。きっと、最高の父親だね」

「そうね。私もそう思う」


 お互い意見が一致する二人は、未だに笑い転げる国王陛下を見つめたまま。少し間が生まれてサリスが口を開いた。


「まあ、たまに高笑いの度が過ぎるときがあるけど……」


「アァ――ッ、ハッハッハッハッハッハッハア――」


「サリスの苦笑いってそういうことか」


 俺もなんとなく理解してる。でも、そんなの七癖の一つにすぎない。長所か短所かじゃない。高揚して声に出したくなる気持ちは自然と出てしまうものだ。


 俺は多くの人が人柄の良さに惹かれる理由がよくわかった気がする。パンテラの性格の一部が移ったなんてことを思ってしまったが、当然違う。生まれ持った性格。

 他人を思いやり、だれかの抱く未来を大事に思うことができる人だ。


 そして――。


 この異世界も、地球と変わらないところがあるとわかった。世界中訪れればきっと、そこには色んな人がいる。現に優花やサリス、丹生母さんや日女母さん、父さん、じいちゃん、ルーメン一家、この国の国民、ましてや神――パンテラもいる。


 世界、こうやって個々が合わさり、豊かな色彩から成り立っている。そう思った。

 だからこそ、同時にグロマの連中が脳裏にちらつく。


 その脅威はまさしく色でもあり筆でもある。全体を搔き乱され、重なり合い、混ざりあった末に――色彩が黒一色になる。先日の内戦が恐怖を助長する。

 人間の負が底知れず生まれる。俺も、そうだ。

 元は赤々とした血も、流れれば地面に溜まって、やがて黒くなっていく。土足によって踏みつけられて汚れ、最後は地面を染める。

 新たに続く戒め。思い出さず、忘れ去ることなど一度たりとも許されない。

 あの光景を記憶に焼きつかせていく――争いは黒々しい。


「大丈夫?」

「――え?」


 我に返れば、優花の心配する声。気付けば俺も、国王陛下と同じ状況だった。


「あぁ、大丈夫。なんもない」

「そっか、よかった」


 独り。闇に身を投じていた己を自覚して現実へと帰還する。胸の内に傷を残して。


「……はあ。失礼。少々笑い過ぎた。話を戻すとしよう」


 涙で潤む目を、駆け付けたゼルさんより渡された手拭いで拭き取る。腹の底から笑っていたみたいだ。


「でも、本当に大丈夫なんですか? 私たちと一緒で」

「あぁ、安心してほしい。先に聞いた通り、これは私の念願でもあり本人たちの望み。王子であろうと王女であろうと、庶民に紛れ込んだところでそう信用されない。皆、だれもが疑い深い。それに、政略結婚などさせたくない。十年前の謀反貴族のような思考はない。私は自由な結婚がなによりだと思っているから、政略による申し出から逃れる意味もある」

「お父様……」


 我が子思いやる父の意思を感じ取り、噛み締めているような潤んだ目で見つめる王女様は、その声に反応した国王陛下の振り向きざまに抱きついた。

 事細かに事情を知っているわけでもないが、裏でそういう申し出が多かったのかもしれない。

 目の前は寄り添う家族愛で満たされていた。幸せそうで、心に沁みる。


 父親と話したことなんて一度もないし、日女母さんとは内戦のときだけ。丹生母さんとも満足に話せないことが多かった。

 朝は時間に追われ、帰宅すれば疲労困憊で職場や社会への不満を漏らす。俺を養い、金銭に対する問題は必ずどこかであったはず。肉親の購入した一軒家。二人じゃ持て余すし売ればよかったのに、丹生母さんは固執して引っ越しはしなかった。


 ある程度は生活に回すお金もあったけど、特にお小遣いをもらおうとも思わなかった。思えなかった。毎日の母さんを見れば当然だった。バイトしようにも校則で禁止。精々、力になれることは家事くらい。


 でも、母さんがなんでも一人で済ませようとして実際済ませてしまう。俺が手伝える隙が中々なかった。


 だからせめて、学生としての本分は全うしたかった。たとえ真実じゃない噂が流れようとも。親友に殴られ裏切られても。

 やっぱり俺は今でも死んだことを後悔している。目の前のルーメン一家を見て改めてそう思えて、(さび)しかった。申し訳なかった。独りにさせてしまった――。


 あぁ、もう。いつまで経っても俺はオレだ。いい加減、この調子になるの治らないものか。また優花に――。


「仁也、なんか後ろ向きなこと考えたでしょ?」


 ほら、こうなる。


「もう収まったから。大丈夫、平気へーき」

「仁也は色々気にするから注意してるんだよ? 本当に大丈夫?」

「うん、そうそう大丈夫」


 時と場を考えても考えなくても、誤魔化す以外ない。


「仁也って、そんな感じなの?」

「うん、そうだよ。サリスの前ではだいぶ気が強いけどね」


 またしても脱線する話。


「で、最終的に二人の是非を問いたい。どうかな、同行について」


 天秤に掛けようにも、その必要性がない。本人たちが良ければそれまでだし、最新の情報を知る人が増えれば聖域に到着する日が近くなるかもしれない。


「私は、なに一つ異論はないです」

「俺も、問題ないと思います」


 優花の意見を聞き入れつつ遅れて同じく。 


「ということだ。この件は引き受けてくれることで決定。私から話すことはこれで以上だ」


 二人で感謝を伝え、ひと段落ついた。

 俺はこのあとはどうしようかと悩みそうになるも、特にこれといって思いつくこともなく。


「ところでさ。サリスはどうするの?」


 だが、新たな疑問が浮上する。


「確か魔法師団だったっけ? どうすんの?」

「え? ああ。そうなんだけど、昨日辞めてきた」

「へえ……」

「そうなん――」


「「え?!」」

「正確には今日が魔法師としての最終日。小父様のお屋敷だから今日も軍服だけど、これで着るのも最後になるわね」


 十六歳だからまだ新兵のような扱いだけど、国公認の実力者。それに将来性に問題もなく安定した職業だったはず。辞職してまでやりたいことがあるのだろうか。


「でも、なんで? なにか理由が?」

「そ、決めたの。私も二人に同行するって」


 優花に問われ、胸を張ってそう言い切った。

 俺は強調されたそれがある正面の光景には、しばし視線を逸らす。だけどほんの一瞬を記憶に収めた自分がいた。軍服越しでも目のやり場には困る。それに服は違えどその隣にいる俺の幼馴染も同じだ。

 でも不可抗力。あぁ、こんなことを気にする自分を滅多打ちにしたい。本当にヨクナイ。


「だって面白そうだし。こんな機会は二度と巡ってこないだろうし。なによりも優花と一緒がいい。魔法師の辞職は代償。二人についていく未来を得るためのね」

「覚悟を感じるよ……」


 ていうか冒険者より絶対に安定した職。きっとサリスの家族が黙ってないはずだ。

 そう思っていると、扉を三度叩く音が聞こえた。


『失礼します。国王補佐官長バヌカ・ティアラです。入室の許可を』

「うむ、許可しよう。ゼル、扉を開けろ」

「かしこまりました」


 移動の足音と扉に手を掛ける物音、続いて開閉音が響き渡る。

 入ってすぐに部屋の扉を背に国王陛下や俺たちなどへ一礼する。扉越しに響いた声の主は、短髪でストレート、髪質は艶やかでクールな趣が特徴的な高身長女性。外見年齢は世代が近いように思える。

 そしてなにより、苗字の一致に疑いたくなるほどの驚きが生まれていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ