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   第四・五話  ルーメン一家

加筆修正による文字数増加に伴い、分割しました。

 正体は恐らく彼女なりの気遣い。自然体にしては妙に声が張っていた。


「ゆーか……はあぁ」


 サリスに関しては女神を目撃したかのように瞳を輝かせている。背後に光りが差してるとでもいうのか。


「感謝の限りだ。仁也殿はどうかな? 世界会議の護衛」


 期待の眼差しとも取れる視線と確認。ここで異議を唱えることはない。


「やります」

「そうか、本当に感謝する。アルカダ世界会議が行われるときは鳥の使い魔をそちらに向かわせて知らせよう。並行して随時のグロマ調査報告や近況報告もその使い魔で可能だ。詳細は言わずとも恐らく問題はない」


 伝書鳩みたいな感じになるのかな。それも使い魔の。

 確か魔法師が使役する魔獣・魔物。手懐けるのは難しいんだろうな。それか人間にとっては好意的に接してくれる種か。大体そんな感じだろう。


「じゃあ、あの忌々しいグロマと世界会議の護衛の話は終わったことでいいですか? 小父様」

「あぁ、そうだな」


 不機嫌そうに話の舵を切りたそうなサリス。グロマの話題は好かないらしい。俺もその気持ちは充分理解できる。いや、ここにいる全員がそう思うはずだ。


「長話で本当に申し訳ないが、ようやく今後の生活について話せる。済まないがもう少し付き合ってほしい」


 世話焼き、それも相当。パンテラから移ったようだった。

 俺にとっては悪いことばかりが伝染していくものだと思っていたから、ちょっと新鮮だった。


「君たちはこれからどういう生活を?」

「生活……」


 特に考えもしなかった。でも定住がいいとは思わない。聖域を目指す以上は野宿や宿泊施設が一番だと思う。というか、これくらいしか思い浮かばない。

 水や食料、生活必需品は自給自足――でもいいかもしれないけど、そこは俺だけ一人で考えても無駄な話。

 己の世界に囚われていた俺は、とっさに我に返った。

 そのとき、優花が口を開く。


「先程、国王陛下が言ったように。私たちは各国を巡ることになると思います。そういった場合、移動先で寝泊まりすることになります。宿で泊まり、ときには野宿。どちらともお金が掛かるのは目に見えています。自給自足もありですが、世界会議で護衛にいくとなると生活水準はなるべく保ちたいです。ただ、国境を越えても影響の出ない職種が最適だと思います」


 それはまさしく、受験や就職の面接において俺的には手本といっても過言ではない返答だった。

 専門家とかじゃないから、詳しいことはよくわらかないが。瞬時の対応力が、なによりも凄い。


「なるほど。それは難しい条件だ。ただ、共通通貨を採用している国は多いし、違う通貨だとしても所持金に合わせて通貨を変えてもらえる。だから通貨の問題もない」


 そういえばそうだった。じゃあ、金銭の問題は解決。


「『も』ってことは、条件に合った職業が?」


 わかりきっていたことに気を取られる俺だが、優花の姿勢はよっぽど経済的だった。


「意外に二人とも気付かないのね」


 そこへ一番右端にいるサリスは、易々とわかったようだった。


「特徴? みたいなの教えて」

「うーん……()()()()()そうだよね。って言うわね」


 その一言で優花はなにかを発見したように声を漏らした。

 的確なヒントで俺もわかった。むしろ、なぜ忘れていたのか。そう自分を問いただしたくなるほど。


「冒険者だ!」

「そ、せーかーい」

「あー、なんで思い浮かばなかったんだろう。難しく考えすぎたかなあ」


 ちょっと悔しそうだけど、お互いに笑い合っている。楽しそうだった。

 俺は椅子の背凭れへ体を預け、脱力するだけ。

 三日も寝たというのに、疲れがあるみたいだ。確か寝るのにも体力が必要だった気がする。それでかもしれない。

 とはいえ、神界の書物は刻まれた記憶でも半人だからか、忘れることがあるみたいだ。


「冒険者はギルドに届いている依頼を受け、最終的には依頼完了がギルドに認められてから依頼内容に記載された報酬を受け取れる。冒険者は世界規模の職種で、全世界にギルドがある。だから国境を越えても行える職だ。戦闘能力に関しては君たちだから問題ない」

「そうですね。私たちなら」

「それに、予め話を通して手続きが難航しないよう連絡もする。重ね重ね申し訳ないが、二人に王族の私情を挟んでもらいたい」

 

 軽く挙手する国王陛下に反応した執事のゼルさんは、両開きの扉を開けて手で誘導し、招き入れる。


「お入りください」


 煌びやかな衣服の四人が、それぞれ入るなり横並びになって足を止める。

 私情とやらに、俺はまったく予想がつかない。


 穏やかでおっとりした雰囲気がある女性が頭を下げる。それに続く俺たちと同年代に思える男女三人。金髪の美男美女といった具合。


「紹介しよう。私の妻、息子と娘だ」

「王妃リナシア・ルーメンです」

「だ、第一王子フリード・ルーメンです」

「だ、第二王子ジーク・ルーメンです」

「だ、第一王女クラリシア・ルーメンです」


 どこか強張っているように見える。背筋に定規当ててみたくなるほど緊張が見て取れる。開口一番に言葉が詰まったのはわかりやすかった。

 俺は揃って人見知りと思いつつも、立って頭を下げつつ自己紹介。


「俺は青原仁也。名前が仁也です。よろしくお願いします」

「そして私は辻島優花です。名前が優花。よろしくお願いします」


 日本と少し似たような文化や思考に近いこの国。島国とあってかもしれない。指摘されるかもしれないけど、失礼のないよう努めたつもり。

 些細掛けなことを気にてる俺の前で、ルーメン一家は違和感を持つことなく挨拶を返してくれた。


「よろしくお願いしますね」

「「「よ、よろしく、お願いします! 神の眷属様!」」」


 若干、兵隊のように思えてしまう。三人にとっては緊急事態みたいな扱いなのかもしれない。言動が終始慌ただしい。


「神の眷属様。どうか仲良くしてくださいな」

「母上。やめてください!」

「そうです! それでは幼子のような言い方ではないですか!」

「そうですよ。皆、十五より上です。成人です!」


 この世界での成人は元いた俺達の世界とは違う。二十歳ではなく十五歳。

 この様子だと目上の人から子供扱いされるのはよくあるらしい。まあ当然だろう。法律上の話だから。きっと人生で避けては通れない道なんだろう。

 ただ、恐らくこの一家だけであろう年齢弄りが発生してるけど。


「あらぁ、ごめんなさい。確かフリードだけ十九歳でしたね?」

「やい、一言余計です。年寄り扱いみたいにしないでください!」

「で、二人は十六歳だけど、お互いべったりとくっついてねえ」

「「ここで言う必要ないでしょ!」」

「フフ、面白い子たちぃ」


 王妃様に翻弄される王子様と王女様たち。空気を吐き出す風船のように、抗議活動の火矢が飛び交う。だが母は強し。その言葉通り主導権を握っている。


「それで、俺たちはなにを? 結局私情とやらは?」

「案ずることはないからな。恐らく、負担とまではいかないから安心してほしい。ただ二人には、旅の友として――修行として――第二王子ジークと第一王女クラリシアを同行させたいのだッ!」


 王様は興奮を露わにして生き生きと用件を伝えてきた。遊園地に来た子供のように目を輝かせていた。少年心でも燻ぶられたのかもしれない。


「母上、撤回を!」

「第一印象大事、年寄り扱い反対!」

「私も兄上方に賛成です!」

「あらぁ、そうかしら?」


 未だに後ろでは合戦騒ぎ。王妃様は柔らかな特徴的口調で、往なしているようにしか見えない。とりあえず第一印象に執念湧いたのはわかった。一理はある。


「いやー。私は政治ばかりで。この年になって冒険ものの物語を読み漁るようになってね。そのたびに昔の自分へ文句を言っている。なんでこんな好奇心湧く世界に足を踏み入れなかったんだ、とね」


 俺のなんとなくの結論を肯定する一言が、国王陛下の口からあっさりと飛び出す。こんな状況でも自分の話に停止の言葉は存在しなかった。それほど夢中だと熱心に話しているようにも思えてくる。

 大人になっても学ぶ、とはこのことかもしれない。いや、新世界を発見したが正しいかな。ロマンとか。


「あの……国王陛下?」


 一方の優花は条件の同行について早く消化したいのか、話の脱線に控えめの待ったを掛けた。


「おおっと、すまない。つい己の夢物語で時間を浪費するところだった」


 国王陛下は椅子から立ち、腰を低く王子ら三人を宥めて戻ってきた。再び座ったのを合図に優花が口を開く。


「同行となると、当然王城を離れますけど……」

「ああ、国家行事等。参加させるはずの予定はすべて欠席にできる。君たちに同行するということは、そういうことだ」

「でも第一王子のフリードさ……」


 俺はどう呼べばいいか、と一瞬迷った。


「呼び捨てで構いません」


 許可されるの? 一応、年上なんだけど。俺たち年齢言ってないから――。


「あっ、はい。フ、フリードはダメなんですか?」

「当然! 十九だから残る!」

「父上、年齢を理由にしないでください! それ遠回しに母上と同じようにイジってません?」

「わかってる、年齢云々関係なしに王太子は残る。それに鍛え済み。それを理解しているはずだぞ」


 さり気なくイジりに対する回答をスルーして、鋭い眼差しがフリードを刺した。

 無理やりにでも無視された質問を突っ込むのかと思ったが、若干狼狽えながらも深いため息をつく。

 まるで、傍迷惑でも被っているような表情だった。

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