第四話 優花ワールド
加筆修正による文字数増加に伴い、分割しました。
「大丈夫? 仁也」
「え……?」
「『え』じゃないわよ。なんか、急に顔色悪くなってたから。みんな心配してるの」
「もしかして、嫌なことを思い出させたかな?」
「いえ、すみません。ちょっと、自分の世界に入り込みすぎました」
「そうか、ならいいが。体調不良のときは言ってくれ。生物上、人間より上位でも体の構造は同じだ」
「はい、でも本当に大したことないんで」
表情に出るあたり、どうにかして直したい。心配させてしまう。
「二人はパンテラ様から命を受けていることだろうから、余計に体調管理には気を付けてほしい。色々情報を提供したが、結果的に生活面が私としては心配だ」
「そんなことまで……」
「当たり前だ。神の眷属に年齢があるかわからないが――」
急に別方向へと曲がった話の展開ながら、優花に続いて十六と答えた。
「そうか。なら、容姿通りか。私には息子二人に娘一人いるが、うち次男と長女は双子でね。ちょうど同じ歳。つい我が子のように心配になる」
親の性というか――そういうものだろうか。
「ただ、その前にまだ一つ伝えておきたいことがある」
「と言いますと?」
「グロマの件だ。今までグロマによって被害に遭った国は数知れない。中にはグロマの構成員一人で被害にあった国もある。今は亡き国だが……それでも中には、存続した被害国もある。皆、神の眷属に協力を要請し調査に当たらせたらしいが、収穫はゼロ。発見しても途切れた魔力反応のある足跡だけ」
「そんなことあるかな?」
「グロマのことだし。常套手段でもあるのかもしれないわ」
まあ、なんでもありな感じはする。でも相手にできるってことは、一人くらい国家側にもいるんじゃないかな。同じような水準の人が。国単位だし、そういう人材がいてもおかしくないと思うけど。
グロマが長年生き残れる理由は、そこにあるのかもしれない。ソドラ――いや空星の、本当の姿もそこにあるのかもしれない。なぜそちら側にいるのか。
「そして、パンテラ様から恐らく依頼されるであろう君たちは、これから物騒な各国を巡る羽目になる」
「知ってるんですか?」
「いや、詳細を知りはしない。が、パンテラ様の言うことが破天荒なときがあってな」
「あはは……なるほど」
あの抜かりある女神だと違和感が仕事しない。想像できてしまう。
「主神様といえば、一国の王でも先代で相まみえた方がいるか否か。そんな方からの命を従属したての君たちに任せると言われてね。付き従う者とはいえ、重責だと思うんだが。二人の様子を見ると、その気配がしない」
信頼があるってことなのか。それに関してはパンテラでも疑わざるを得ない。
確かに神界のときは、裏というか悪意があるようには思えなかった。本当のところはよくわからない。
「まあ、それはいつものことだから、今はよしとしよう」
あ、この人の前でもパンテラのアクセル全開なんだ。あの人間臭さが発揮されてるのか。
「先の話とパンテラ様の話を踏まえて予測がつくだろうが、各国を巡ることになるであろう君たちにも、独自でグロマを探ってほしい。この国も被害国となってしまった以上は詳報を入手する必要がある。対策を講じるうえで必要不可欠だ。今この瞬間やこれからも、パンテラ様や我が国が君たち二人を頼ることになってしまう。今も含め度々重責を背負うことになる。極力、我が子のような君たちに負担を掛けることはしたくない。それでも、頼まれてほしい」
頭を下げ、申し出る。
国王となると威厳の関係もあって頭が低いとかって表現しにくいけど、ユラテスさんに関してはむしろ的確に思える。親身だから。あの十年前の話を聞いたからか、余計にそう思える。
「はい、わかりました」
「いずれグロマには問い詰める必要があったので、それが早まっただけ。俺たちが重責とは捉えません」
願い頼んで砕けた会話を望んだ自身の気配が霞むのも、この人の前だからこそなのかもしれない。
今ようやく少し、砕けていく兆しが見えた気がするけど。結果的に自分の負担になった気がする。
「すみません。頼んだ俺が全然堅くて」
「いや、別にいいさ。むしろ私は嬉しかったくらいだ」
「嬉しい?」
「ああ。私だって人間だ。生き抜くうえで時折、楽をしたい。そう思うさ。でも、それだけじゃない。実のところ緊張したんだ。パンテラ様と交流も多く親しくさせていただいているが、眷属様など想像もつかなかった。で、いざ新たな人脈ならぬ神脈の蓋を開けてみれば、砕けた会話を望まれた。これには正直、拍子抜けだった。まあ、建前など形にすぎない。本音が最も重要。それを初対面で曝け出されたときは心中驚いた」
それは俺が交流経験浅いから、かもしれない。仕方ねえ。
「まあ、仁也殿のやりやすいように。私は、これでも砕けているのでね。なんなら、まだ細かくできる。心置きなく喋らせてもらうよ」
それが一番いい。これで俺も、ちょっとずつ慣れていこう。今は無理でも。
「ということでだ。私は君たちから言質を取った。まだ公表されていないから隠密行動も可能だが時間の問題だ」
ん、『言質を取った』。俺は発言に対する違和感を無視できなかった。
「あ、あの……」
優花も俺と似たようなことを感じたのか、恐る恐るで挙手しかけるも――。
「公表する場というのは決まっていてね」
気に留めない。
「ちょうど今年に開催されることになった世界規模の会議。『アルカダ世界会議』がある。その会議で話し合うついでに、各国の情報提供の場が設けられる。その際に公表する予定だが、この会議には必ず護衛をつかせるゆえ、今年からは君たちにお願いしていいか?」
「「え?」」
重なる声、唖然として点になった目が優花と合う。
「確かかに君達が驚くのも無理ない。だが、この会議は各国の王と神が会議を行うものでね。パンテラ様の護衛ということにもなるんだ。だから、パンテラ様の眷属である君達に護衛をやってほしいんだ」
色々と想定外。
会議の護衛。これに関しては、何か情報を掴める絶好の機会。だからそれは、いいとしよう。
だけど――。
「一つ、聞きたいことが」
「なんだ?」
「言質を取った……って」
「言葉の意味か?」
俺の質問に優花が続く。
「い、いえ。私たちは、その表す先を知りたいんです。もしかするとですけど……」
「あぁ……」
どこか見覚えのある展開。教訓、口は災いの元。
「別に悪意などないが」
と、頭を掻く国王陛下。
またしても、相手の術中だ。
「なるほど。私も巧みに喋りたいな……」
向上心の塊。自己追求心。これが地球で評判のいい人間だった証。
「申し訳ない、半分本能みたいなものでね。ただ、それだけ君たちにお願いしたいというわけだ」
「小父様……」
雰囲気は谷底へと落ちていくように急転直下。悪気がないのは確かだが、きっと世界会議にはなにかある。そう感じざるを得なかった。
「大丈夫ですよ、情報と労力。私は等価交換だと思えます。いや、私ならもっと頼られても問題ないですよ!」
姉貴肌か、と一瞬思ってしまうが違う。俺は優花の怖ろしさでもあり凄みを知っている。
『私なら』と言っている辺り優花ワールドが炸裂している証拠。この表裏一体を覆す存在は、善悪ですら通用しない。
善に全振りしたような世界観。周囲を虜にさせる。なにせ他のために行動できる人間だ。
本心は知らずとも、客観的に見ても間違いない。
違うのであれば神界で優しく語りかけることはできない。第一、自分の身に起こった状況把握で精一杯になる。
でも、優花にしては様子が少し変だった。




