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   第三・五話  今もなお鮮明に

加筆修正による文字数増加に伴い、分割しました。

「それよりも次の話が本命だ。この国より北へ続く大海に浮かぶ国に属さない孤島。我々世界が渋々、その存在を容認せざるを得ない場所がある」

「せざるを得ない?」


 透かさず反応する優花。世界情勢に関しては嫌というほど熟読した。

 ただ、その情報量から浅かった可能性があるのは否定できない。だとしても、この話の流れだと神界の書物に記載されていてもおかしくない話題だ。


「あれ、てっきり二人とも知っていると思って前置き程度で話したつもりだが」

「パンテラ様から色々と用意してもらったんで……」


 俺はいつか、パンテラに命返してと迫られるのでは。と、自分の発言が大口叩いているように思えた。神様をも凌ぐとはいえ、所詮は従属者。そしてなにより、恩人。

 いじるのは控えておこう。俺へのいじりは終わらないだろうけど。


「なるほど。パンテラ様らしい。こちらが密かに支えていこうじゃないか」


 やっぱり、俺も対抗心燃やしたほうがいいかな。


「はい。ありがとうございます」

「俺たちのこと、たくさん頼ってください」

「本当は立場的に逆なんだけどね。お互い協力していこう」


 確かな連帯感が生まれたことに、俺はちょっと感動してしまった。ありがたい。


「じゃあ、話を再開するとしよう。先に『せざるを得ない』理由から話していこう。時代は我々人間が言語を発明するより前の話だ。そのときに神の眷属様が神様との仲介役だった。その起源などは一切わからないが、今昔とも変わらない」


 『神をも凌ぐ』その意味が、それだけでもわかる。両者を取り纏められるほどの力を持っている。

 それでもやはり、神様が雲の上であることは間違いない。たとえ力で劣る場合があろとも、存在感が違う。なにより、信頼と信用もあると思う。


「ただ、今は陰の中だ。神の眷属様による国際機構が発足して何千年と経つらしいが、最近は大半が彼らに対して高圧的だ。中立的な立場の国もあるが、私たち含めた友好的な国も当然一部ある。これも情勢的な理由で冷め始めている結果かもしれない。以前はそんなことはなかった。何千年の歴史の中で先祖代々から見守られ、助けられてもらってきたというのに……」


 人の歴史は戦争の歴史。こうして平穏に話を続けているが、他国の一部地域や国同士の衝突は繰り返されている。

 それも神界の書物で知ったから、現在進行形はまったくわからない。


「あの、国際機構って――どんな?」

「《世界治安維持眷属機構イコゲニア》。戦争地域において救助や終結時の仲介役、状況次第では加勢も行う。ほかにも、一国や自治体からの要請にも応じる。災害でもなんでも。だから、本来であれば腰を低くするべきは我々世界のほう。生物的にもね」


 だが、現状はそうじゃないと。

 余計に神の眷属であるとする発言に、重みが増していく。


「小父様、なにか目印は?」


 聞き入っているうちにサリスも質問者になっていた。


「そうだなぁ。旗くらいしか思い浮かばないが……」

「どういうの?」

「直線で縦横に区切られた四面に、紫と白の二種が交互に塗られ、四体の魔獣が描かれた特徴的な旗が有名。その四体はこの世界の各大陸を模したらしい」

「へえー」

「まだ私、世界地図は見たことないんだよね」

「え、そうの? じゃあ今度、私が連れてってあげる」

「いいの? ありがとう」


 女子二人の会話は相変わらず活気があった。

 だが、俺は自分のことで精一杯だった。神の眷属、一ミリも自分たちの存在を知らないわけじゃないが、これはパンテラが意地悪いと証明されたのか。単に忘れたか。それとも、自力でこの世界に順応しろというメッセージか。


 幸い、こうやって知る限りの情報を得ているから、恐らく最低限の配慮はできるとは思うけど。


「ただ――、眷属機構への所属を強制させられるかというと、まだ不確定だ。世界に公表するのを先に済ませないといけない。私がやるんだけどね」

「え、そうなんですか?」


 俺は思わず声を漏らした。


「あぁ。パンテラ様が建国に携わったこのルーメン王国。立場上は我々と国を守る。そうだろ?」

「はい……」


「君たち自身で言うのも問題にはならない。ただ、公表を設ける場や相手は人間の世界。世界の人間へ向けてだ。そういったことで暗黙の了解になっている。通常時もそうだが、眷属機構への圧力が高まっている中で、それを破ってまで公表するわけにはいかない。予期せぬ火種をもらうと国の立場が危うくなる」


 なるほど、そこまで考え及ばず。


「ほかにも眷属機構に所属しないにしろ、公表直前にその存在を報告する必要があったり。パンテラ様や私、それぞれで手続きが必要だったり。公表後の定住地や今後の方針を協議する必要がある。なにより、この情勢が冷え始めたときだ。侵略を疑われてもおかしくない。最悪は一国――この人間世界を滅ぼせる恐れがあるほどの君たち、容認するには慎重に手順を踏む必要がある」


 なるほど、言い換えれば危険物――いや、それじゃ生易しいか。兵器レベルかな。どのみち地球のときのような暮らしは確実にできないとみて間違いない。


 でも、なんでそんな兵器の集まりに対して高圧的な態度なんだろ。その一部の国は刺激するとかって思わないのかな。ほかに理由があるかもしれないけど。


「まあ冷え始めたと言っても、ここ数十年の話――いつ悪化するかわからない」


 その数十年も知らない。記載されていなかった。それより前の争いなら記憶にあるんだけど。

俺は無力さ――その感覚が蘇るのがわかった。ちょっと前まで別世界で幸せにも一介の高校生やってた俺は、自分の未熟で浅はかだと痛感した。


「だから。君達も十分に注意してくれ」


 世界情勢、聖域――これからどうなるのか。未来への不安はいつもあるが、それ以上に先日に起きた内戦――その惨状が過去と現在、未来で起きる。そう考えるだけで、胸が張り裂けそうだった。


 王城前や謁見の間まで見たあの地獄絵図は、今もなお鮮明に脳内で再生される。無残にも。


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