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   第八話  永遠のテーマ  

 俺は己の愚かさに改めて気付いた。現実を叩きつけられた俺の表は、解決の仮面を被ってその気になっていただけだった。裏の本性は一ミリも変わっちゃいない。


 元の世界では空星という現実から逃げようとして、死から逃げたくなって。この世界ではゴブリンから逃げようとして逃げて。サリスが足を転んだときも動けず、逃げたような行為をした。


 シャルトとの一騎打ちでも、直前まで決心はついていない。危機感を抱いて、逃げようなんていくらでも思える。

 たとえ過去に関係なくても、俺は常に後ろを向いている。

 きっと答えを導き出して実行したから、いいってもんじゃないんだ。


 考え方の問題。いくら安全という答えでも、その過程において俺の弱点があった。

 ソドラに指摘されるものがある。

 そして今さっきも、同じだった。最低最悪のクソ野郎だ、俺は。ただ後ろで騒いでただけの雑魚となんら変わらない。これじゃあ、学校生活の俺と同じだ。


 自分の置かれた状況に目を通しているようで、結局は逃げようとしているか、あるいは逃げている。

 世界はガラリと変わった。なのに俺は未だに取り残されている。本当に俺は情けなくて愚かだ。まさか元親友に、それを教えてもうなんて。俺は繰り返しこうやって、なにかに気付いていくしかないのかな。


 戦う前から負けている。またレアスたちに踏み潰されて、このパンテラから命が無駄に終わるだけになる。また優花を悲しませる。また巻き沿いになることがあるかもしれない。


 もう受け入れるんだ。少しでもいいから、ちょっとずつでいいから変わるんだ。逃げすぎていた。逃げるのは、パンテラの恩である命が本当に消える、その瞬間だけ。バランスを保つんだ。臨機応変に。


 後ろ向きになるのは、最悪を想定するのは、その瞬間が最も近づいた時。俺だけじゃない。優花やサリスにも、命が奪われかねないその瞬間だけは、守る。逃げてでも。そのときは助かることだけが一番重要だ。


 だけど、今はまったくもって違う。一文字も当てはまらない。ここで逃げたらそれこそ、下にいる優花やサリスに矛先が向く。


 鬼島空星はいない。あれは別の人間、ソドラ・ボギシリー。そして、目の前にいるのはレアス・デモ―ニア。俺やその周囲の人たち全員を、どん底に陥れたうちの一人だ。

 たとえ親友がどうとか関係ない。さっきまでいた全員に、俺は等しく憎悪を抱かずにいられない。


「さてと、これで一対一になりましたね。神の眷属」


 そう、一対一。

 ソドラを逃がしたのは、もう仕方がない。でも、さっきより戦いやすくなったのは事実。

 負の感情はいくら前向きになろうと、決して消えやしない。


 今は目の前のヤツだけでもいい。ここまで絶望なまでに、体力や気力に限界を感じたことはない。それでも突然とやってくるかもしれない。確実に疲弊はしている。呼吸がそれなりに荒い。仮に限界を突破していたら、そう考えるのはなしだ。

 それに立ち位置も有利なわけじゃない。俺が両膝突いる一方で、未だレアスは刃を向けて牽制している。しかも体勢が違う。立ち上がるっていうモーションが必要ない。この差がどれだけ惜しいことか。

 

 だけど幸いなことに、互いで間合いにいる状態ではある。人数も含めてある程度は公平性が増した。


 それでもレアスが有利な状況を作り出すことも可能なはずで、全体を見通す視野が必要ない。その分だけ集中できるし、自分のリズムで組み立てができるはず。

 加えて最大の問題点が、歴然とした力の差。でも、後ろを向きはしない。今この場には、生か死があるだけだ。


「さあ、再び剣を交えましょう――神の眷属!」

「これで……少しは戦いやすくなった。お前とはここで終わらせる!」

「それはできない約束ですよ。必ず」

「それを可能にするのは、この先次第だろ!」


 戦闘の再開。俺は誘導を意識して生半可に正面のレアスへ、攻撃を仕掛ける。

 当然、すぐに避けられはするも、一か八かで動向の確認なしに再度剣を振りかざし、体を捻じり背後と正面を入れ替えた。


 視界に入るは剣を振り被るレアス。行動の予測に成功し、流れるように振るって攻撃を跳ね除ける。

 空気の波動とともにレアスは後方へ吹っ飛んでいき、壁に激突。反動で壁が破壊され瓦礫があちらこちらへ飛び散る。


「なるほど。顧みないというよりか、命を使い捨てると言っているような行動ですね……」


 今のは確かに無謀だった。でも、意思表示にはちょうどよかった。


「俺はその時を凌ぐので精一杯。一度きりだけでもいい。一度死んだ俺たちの苦痛を、理解させる。知らないから言えるんだ」

「そうですか、そうですか。私は死など怖くない。だが、拘りたい。ただそれだけです。たとえ物理的な死を味わっていなかったとしても……。まったく、お互い隠し持っていることは多そうですね。アオハラジンヤ」


 死なんて一瞬のうちだった。拘ることなんてできない。でもなんでだろう。言葉一つ一つが謎めいているようで、なぜだか聞いているうちに背筋が凍る。


 なにか、恐怖を感じるものを聞き取って感じているような。どこか哀しさが隠れているような。言葉に抑揚を感じない。


「まあ。人は互いに隠し合うからこそ、取り繕うからこそ。世間は成立する。でなければ、欲にまみれた争いが起こる……。私は、それを見越しているだけ。そう。私は常に、自分の欲に正直なのです」


 そう言ってレアスは立ち上がり、服に付いた汚れを手で払う。


「これを非日常に感じるならば、致し方ないですが。私にとっては至極ありふれた話です。他人に自分のことを話す人間もいれば、そうではない人間もいる。欲を表に出す人間もいれば、裏に押し込める人間もいる。世の中色々ある。そう、色々あるからこそ、世界に欠陥が生じれば我々犯罪者は生まれる。残虐な人間は増えるのです。私もこの手を血に染めた。繰り返していくうちに、泥酔したように溺れる。心地がよかったのです。素晴らしかった! 実に恐悦であり、殺害相手によっては自分が《正義》。そう思えて癖になる!」


 興奮した様子で不気味な笑みを浮かべて喋り続ける。


「ですが、それを止める術というものは一人の人間にはありません。互いに手を取り合うからこそ、実現の道を歩める。ただ一人でも取りこぼせば、負の連鎖は止まらない。正直、あなた方の世界も残念の一言です。争いなき世界というのは、どの世界においても不可能なのか。人の歴史をなぞったように、本当に争いで解決するしかないのでしょうかね……さて、神の眷属アオハラジンヤ。あなたが今やるべきことはなんでしょう? 私たちを倒すこと、殺すことですか? まあ、今はもう私のみですが」

「俺は――」


 殺される。俺はこの世で一番の苦痛だったと思う。どうだろう。俺は今、バファナと同じことを、レアスにしようとしている。果たしていいのだろうか。


 目には目を、歯には歯を。この考えでよかったのか。敵ってなんだ。悪ってなんだ。


 そもそも戦い合おうとすることこそ、だれかに影響され、いずれ伝染する。実際俺は、そういう身だ。バファナに殺意を持って殺されたことで、似たように同じように、殺意が芽生えている。


 俺のやっていることは間違っているのか。自分の死を、だれかの死を。殺したヤツ――バファナに、レアスに、ソドラに、ニタン。四人にも味あわせる。


 いや、そもそも無理だ。コイツらがなにを思って死ぬかなんて、俺にはわからない。同じ思いで死ぬのかな。俺のやり方は果たして正解か、間違いか。本当のやり方はなんだ――。


 そのとき、頭にある限りで歴史を振り返った。歴史からなにを学んできたか。そこにもたらされる必要性。日本の成り立ち、偉人の軌跡、先人の知恵、様々ある。

 でも全体を通してみれば――、人の歴史は争いの歴史ということ。これがなによりの不幸だと、学べるかもしれない。


 戦争に幸せの文字はない。ましてや個々の争いにも、その文字はない。世界全体・一個人から、その文字を奪う。歴史は先人から学ぶもの。俺はこの異世界で、同じ道を歩もうとしている。

 だけど、この異世界には戦う理由が多すぎる。魔獣や魔物なんて制御不能な人外もいれば、人間なら現に俺の目の前にいる。


 本当の敵や悪は、この争い自体なのかもしれない。話し合いで成り立てば、これ以上のものはない。


 でも、俺には到底変えられない。力がない。この世界は俺の元いた世界より広い。海が三、陸が七の割合みたいなものだ。この世界は地球とは逆転している。地球以上に世界が広がっているのは間違いない。俺だけが今ここで変えようとしても、どうにもできない。

 今ここで、俺がすべきことはなにか。総合的に考える。


 争いは消えてほしい。でも、人は完全に感情を制御できない。それだけでも充分にきっかけへ繋がってしまう。そもそも人の行動に正解か不正解かなんて、よっぽどのものを持ってなきゃ決めつけられない。根拠がないと。


 たとえあっても、疑心暗鬼かもしれない。人は失敗を経験する生き物だって知っているから。歴史も教えているから。

 行く着くべきは、一言じゃ言い表せない。


 俺は今を考えて未来を見据えたうえで、感情を持ち、失敗や争いを咎めて改善意識を持つ。他の喧嘩や争いは未然に防いで、起こってしまったのなら全力で止める。


 それは自分が生きるためでもあり、だれかを、優花やサリスを生かすためにもなる。

 これは他人にそう伝えても、押しつけるものじゃない。強要はなく、あくまで自分の考え。自分以外の人間には、その人なりの考えがあるから。


 結局は人が当たり前に思うべきことと変わらないし、なにをどう考えようようと結局のところ、他人や理解した自分ですら、過ちを犯す。永遠のテーマ。


「……俺は、未来を見て、改善意識を持って行う! 自分の今と、だれかの今を助けて守る! そして、未来に繋げる!」


 俺は再び剣を構え、睨み付ける。だが、レアスの様子が変だった。どこか笑っているようだった。


「フッ、そうですか。『助けて守る』……現実味がないうえに『改善意識』とは……。戦争を言い換えただけじゃないですか。根底にある意味は変わらない。劣るものをよくする。そのためにまた始める。その繰り返し。ましてや、あなたのその精神など、いつかは崩れる。人間は心も脆い。そして客観的に悪と正義に見られようが、所詮は両者とも犠牲のうえで成り立っている。なら、話は早い。すべてここで、あなたにお伝えしたほうが私も清々するし、あなたはここを動けなくなる」

「俺になにをつた――」

「いくらそうやって理想を描こうと、無力なのだから。そもそも犠牲にすらなれない」

「俺は犠牲に――」

「むしろ、犠牲にさせている。どうやら本当にわかっていないようですね」

「え……?」

「私たちは、反乱軍に加担したわけじゃありません。すべては人命が踏み台となった」


 瞳が点になり揺れ、目を見開くレアス。理解し難いその表情に、一抹の不安を感じた。

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