第六話 乱入と再会
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この場のだれもが、謎めいた四人組に目を向かせる。
凍りついたように、周囲の声がピタリと消えた。
魔力の流れを感じる。手元や足下、全身に至るまで――シャルトの魔装とは違う。吸い寄せられていくようで、緊張の糸が張る。
とても理解し難かった。
シャルトも俺も、魔力は掻き集めるところから始まる。ましてや、まだ一日も経っていない俺たちは、手慣れた扱いなど到底できるわけもなく。完全に相手は格上の、それまた格上。シャルトと同等、いやそれ以上の可能性のほうが充分にある。
しかも、妙に気持ち悪くて仕方がない。自然と警戒する自分がいる。それも、俺の感情だというのに、どこか他人から伝ったような違和感があった。
神剣を持つ右手が、独りでに大きく震える。
「勝利と歓喜に浸る皆様。突然の登場、大変失礼致します。我々は大事に預かった使命の元、要件があり参上しました」
四人組のうち一人は、この場の空気はつゆ知らずと、滑らかな口調で言葉を弾ませ踊らせる。
なんか聞き覚えがあるような――。
「しかしながら、第一に皆様方を労わなくてはなりませんね。この戦況ですので、さぞかしお疲れでしょう。辛かったでしょう。しかし、反乱軍の提示した条件で、見事に勝利を収めた。この場の被害は最小限に抑えられましたが、犠牲は少なくない、そのはずです。して、我々四人はこの現況に変化をもたらす。これが、お尋ねした要件です」
そう言っているが、フードで素顔を隠す連中にだれが信用するかって話だ。
それに一度起こったことだ。そう簡単には癒せない。どう変えるというのか。完全な修復はできない。死や心は――禁忌でもなければ。
「素顔を明かさない、名も名乗らない。それでよろしいかな? であれば、我々は最大限の警戒で、臨戦態勢に入ることになるが」
俺の背後で警告する国王陛下。打って変わった表情は刃物のように鋭く、堂々とした威厳のある矛だった。
すでに拘束を解かれた少数の兵士らが、言葉通りの行動を起こし、剣と盾を構える。
「そうですね……私としたことが。ご無礼のほどお許しください。少々興奮するあまり、手順を踏み違えてしまったようです。では、名乗らせていただきます。私の名はレアス・デモ―ニア。とある組織の者でございます」
「『とある組織』――ね」
顎を触り、細々とした目で怪しむ国王陛下。
名を口にしても、顔は明かさず、最後の一言でより周囲の空気が張り詰め、逆効果になった。
「えぇ、ある組織ですよ。十三代目ルーメン王国国王陛下」
「で、この状況を変えてくれると?」
「もちろん。それが我々の目的ですから」
緊迫。国王陛下は、兵士に武器を下ろせと支持しない。未だ矛先は四人組へと向いている。これが真意なんだろう。
正直、現状の維持は当然のはずだ。
俺は右手の神剣を強く握り締め、最悪の事態を覚悟する。
気力や体力の過度な消費は、不慣れな環境がゆえに実感している。一騎打ちに勝って得た複雑にも安心感が第一にあった、あの気持ちのままいたかった。
だけど、そうさせてはくれない。
「とても不透明な話だ。もし、君の言う状況変化を私が望んでいたら、君はどうなる? どう思うのかな?」
「そうですね……人であるならば、望まれる国王陛下は見たくありませんね。どちらにしろ、そこにいる神の眷属の行動に、全ては委ねられています」
「そうか、君が素性や顔を隠そうとも、随分知れ渡ったことだ。初対面だからといって動かされはしない。屈指はしない。その印象づけは、どうも吐き気がする。そういう人間だったか」
「なるほど。その言動は、そういうことですか。私も有名になったものです……」
国王陛下の言葉で、騎士団団長と魔法師団団長が、さらに剣を引き抜く。
吐き気――複雑に負の連鎖が巻き起こっている。
胸騒ぎに右手の震えが止まらない。遠くから聞こえる悲鳴や憎しみのように思える。自分ながら他人のように思えるほど。
国王陛下の嫌悪感、話の内容が気掛かりでならない。
「それより、大丈夫ですか? シャルトさん」
「あ、ああ。すまない」
「いえ、おかげで情報が取れましたので。あとのことは任せて、下がっていてください」
「ああ、わかった」
さり気ない会話に、周囲へ大きな衝撃を与えた。兵士は王族の正面を中心に、一歩手前へ踏み出して厳戒態勢。その王族である国王陛下は唯一、驚きもせず眉間が険しい。
首謀者であろうシャルトが、当たり前のように連中の一人と会話を交わした、その意味。残りの三人も、レアスってヤツも、シャルトの仲間。反乱軍だ。
でも、実力者がなぜ内戦に参加しなかったのか。それに『情報』がどうとか言ってた。
「それにしても神の眷属、アオハラジンヤ。私は今、高揚しています! ようやく、この時がきたのですから!」
「俺の……」
名前を知ってるってことは、やっぱ――いい連中じゃなさそうだ。
「『この時』……」
なにに高揚してるのか、どうも気持ち悪いのは確かだ。裏があるように思える。
張り詰めた異常な空気が漂う中、唐突に後ろから声を震わせ、怯えながら叫ぶ一人の貴族が、全員の注目を集めた。
「おい、レアス・デモ―ニアって。《犯罪組織グロマ》の幹部階級。全世界で指名手配されてるヤツじゃ……!」
一人が口にした正体に驚愕と恐怖が、締め付けるように謁見の間を席巻する。
『グロマ』という単語はある程度なら、神界の書物を読んで記憶している。そもそも犯罪組織は、各国に大小合わせて無数にある。小規模集団は騎士団が摘発する一方で、その目を掻い潜って犯罪を繰り返す。
大規模組織になれば国単位、世界単位の規模。特にその組織力がずば抜けて、大規模な犯罪を数多く起こし、神界の書物に記載されるほど世界一名高いとされる犯罪組織。
それが《グロマ》だったはず。確かに載ってた。本が作製された頃から国際問題だった。
様々な噂が世に広まり、波に乗るように勢力を拡大している。世界を相手にイタチごっこで、この様子だと現在進行形みたいだ。
そんな組織がこの国の核となる場所にいる。危うい状況に間違いない。
国王陛下の指示と、少数の兵士による警戒はこれを知ってのうえ――だったのかもしれない。
「そうですか……、結果的にこのような歓迎の形とは。不本意ですが、私も顔が広くなったものですね。これでは被っている意味がなさそうです……」
嘆きながらも、囁くような不気味な笑い声。フードに軽く手を掛け、迷いなく脱いだ。
「ニヒヒ……そうみたいだなぁ。レアス」
「やっちゃいましょう。レアスさん」
「……俺は、殺すッ!」
レアスの言葉で残りの三人も同調し、軽やかに脱いで後ろへ。隠されていた素顔は、日没間近の差し込む夕日に染まる。
「あぁ、マジで暑かったぁ」
「我慢したかいがあります。この場に立つと」
「……チッ、奥に邪魔なヤツもいるのかよ」
二人ほど聞き慣れたような声と素顔。夕立ちは地獄を表す業火そのものだった。
自分がおかしくなったように感じた。動悸が速くなっていく、悪寒がして鳥肌が立った。
とっさに優花を見ると開いた口が塞がらずに、視線を一度たりとも外さない。
「お前ら二人とも、元気かあ?」
「仁也に優花、いつぶりかな……殺される前ぶりだ」
「空星! テメぇ!」
「じ、仁也のクラスの担任……祀崎先生……私、信じられないよぉ」
七三オールバックに吊り目。この二セットで最も特徴的な印象を持つ空星。
そして評判が良くて、大らかな印象が残っている俺の担任、祀崎先生。
この二人がこの異世界に、それも陰に潜むような怪しげな格好で。
――待てよ。俺を殺した連中も、まったく同じだった。それに声が、似てる。
「あの……この二人に夢中になってるとこ、悪いんだけどさ。俺も一応、名乗らせてもらうわ。俺の名はバファナ・ギクセル。さっき名乗ったレアスと同じ指名手配されてて、幹部階級。で、俺もその軋轢にある意味でいるんだけどさ――ま、突然の最期ってのは細けぇこと憶えてる余裕ねえもんな。当然だ」
あのとき現場にいたのは俺と優花はもちろん、あと該当するのは空星。途中からだけど祀崎先生に、黒い格好の殺人犯含め二人。今は付け加えた全員が身に着けている。
「どうだ? わかったか? 俺は、お前らを殺した犯人」
シュッとした顔つきで赤紫色の髪で、前髪を横に流したような髪型。体格は小柄で、興奮しているみたいだ。言葉の抑揚で異常に高らかになる声は、怖ろしく不気味で、負が底知れない。
「わけがわからない……」
ただただ、気持ちや頭の整理で必死だった。




