第五・五話 爆風VS魔装(後編)
文字数増加に伴い、分割しました。
「ほう。察するに、魔装の弱点を知っているようだが、俺の大剣で蹴散らしてくれよう」
「大剣、か……」
シャルトの攻撃手段において、体の一部といっても過言じゃない大剣――
そうか。封じ込める――動かなくすればいいのかもしれない。それなら最大の欠点、純粋な力の優劣は、より問題にしなくて済みそうだ。
「大剣がどうした? 神の眷属。本当に打開策でもあるのか? にしても往生際が悪い。所詮、この世界は魔力に依存している。その最大の武器を奪うことこそ、人を神たらしめる! これは下剋上だッ!」
「勝手に言ってろ!」
間合いを詰めながら、強化魔法を対象にして――
「【強化魔法・発動 イギンサ・クアリギー・スア】」
新たな強化魔法を発動。あえて真正面から低姿勢で神剣を振りかざし、大剣は隙が生まれる俺の頭上で振り下ろされる。
俺は大剣の軌道上にいようとも、直前で両脚を床に付けて滑り込む。体を左へと捻って転がり、大剣の側面に避けて、勢いそのまま大剣へ神剣を振り下ろした。
未だ切っ先が床に着く大剣を、黒々と汚れた床に深く突き刺し、瓦礫の中に埋もれさせた。
俺は一度、距離を取っての確認と様子見のため退いた。
「……なっ、クソッ! 抜けない!」
早々に瓦礫へ足を乗せ、大剣を抜こうと必死になっていた。これで一つ、処理は完了した。剣の魔装も持続時間低下は確実。残りは鎧だけ。
数秒程度の確認を終え、再び謁見の間を駆け抜け突撃する。
全速力で駆けて滑り込み、背後に回ったところで左足を軸にして、右足で背後に扇形を描く踏ん張りで停止。
間髪入れずに地面を蹴り、無防備な背中に細長い三日月を振るって特異能力を発動させた。
「【爆風】」
強化された強化魔法に単体攻撃。適当に二十パーセントで発動。
魔装の効果は薄れているように思えてなお、魔力を吸収していた。しかし、訪れる物理的な爆風が
亀裂を走らせ、破壊。
無防備な背中を踏み台に利用し、蹴って一度、間を置くことにした。
「がはっ……あぁ……」
ある程度蓄積したダメージと、強化に強化を重ねたせいか、大剣の柄から手を離して吐血。その場で膝を突きながらも、よろけながら立ち上がる。
背後から確認すれば、破壊箇所からは素肌が見えていた。
「よし、これなら……」
この攻撃を起点として、行動に移せないシャルトへ単体攻撃の特異能力で、立体的にあらゆる方向から攻撃を畳み掛け、鎧を破壊し続けた。
俺は雄叫びを上げ、そのたびに耳元で破壊音と金属音が鳴り響き、火花も飛び散った。
青の鎧は度々よろめき、俺はそれを目印に方向転換を行って、視線を走らせた。体力、気力を行動と魔力操作に費やして、限界という存在は一切感じなかった。
瑠璃の剣身を、視界で残像になるよう走らせ、爆音を響かせて途絶えさせない。隙を与えさせない。
ひたすらに戦意を削いでは、鎧の耐久性も削ぎ落し、徹底する。
一振り、ときに連続して二振り。通過直前の振り向きざまでも、捉えて特異能力の発動。上下左右あらゆる箇所に攻撃を加えて、鎧を虫食い状態にさせてゆく。
視界も標的も、青の一点のみ。徐々にシャルトの体は脱力して、立ち上がることなく低姿勢になったのを最後に、五十数パーセントの一撃を与えてぶっ飛ばした。
ふと自己意識の世界から抜け出したときには、二人して玉座付近まで移動していた。
周囲の壁際にいる反乱軍は怯え、多くが腰を抜かしていた。
右手で腹部を押さえ、床に両膝と左手を突くシャルトの姿が、傍にある。
全身の鎧は虫食い状態になって、流血箇所もある。意識はまだある程度あるように見える。
想定外を考えて容赦しなかったが、やりすぎた感がある。けど命を懸けたんだ、致し方ない。こうなる覚悟があるはず。
とりあえず、勝敗の行方を決めないと。
俺は周囲が理解できるように、神剣の切っ先を突きつける。
「シャルト、もう負けを認めてほしい」
「はあ、はあ……そ、それは、無理な話……だ」
そう言いながら吐血して、口端に唾液が混じった血を垂らす。俺が傍にいようとも、行動を起こす気配はない。
さすがに無抵抗なシャルトに対して、過度な攻撃だったのは俺の反省点だけど、今すぐにでも言葉を返したい。往生際が悪い。
「ん?」
後ろ――入り口付近が少し騒がしく、なにかと思って視界に入れた。
捕らわれたままの優花とサリスが、互いに涙目になって抱きつき、飛び跳ねている。二人ともいつの間にか拘束を解いて、王族や貴族、国王軍も着実に自由を得て、この状況に歓喜していた。
反乱軍のほうは呆気に取られていたり、頭を抱える人や俯いていたりと、絶望を味わっている様子だ。
一部は両手を上げて白旗。一部は戦闘で穴の開いた場所から逃走、もしくは駆けつけた国王軍に拘束されて、未遂に終わっている。もはや決断できずにいるのは一人だけだった。
もしかしたら革命の認識かもしれないけど、十年前の思想を引き継いだとなれば、ただ繰り返そうとしただけだ。
ひとまずは、両軍ともにこの反応なら決着が付いた、って判断でいいのかな。
「もう、こんな時間か」
気付けば、謁見の間に設けられた数々の巨大な格子窓から、紅茶のような暖色の日差しが差し込んで、時間を知らせていた。
安心からくる両手を広げての深呼吸は、終わった安心と不甲斐なさからの反省が、もたらされた。
そんな矢先、謁見の間の扉――天井付近からバキッと木の板でも破壊したような音が聞こえ、嫌な気配と魔力を微かに感じた。
やがて暗闇の天井を飛んで、シャルトのほぼ真上で止まったかと思えば、下りてきた。
俺は身の危険を案じて、本能的に巨大扉の前に避難して距離を取る。
夕日で陰の世界が勢力を増したせいか、ようやくわかった。
気配と魔力の正体が、フード付きのローブに身を包んだ複数の人間、ということに。
◇
上空の猛風になびく、外套が二つ。飛行状態にあり、素顔を曝すまいと、片手で頭巾を押さえながら、深々と被っている。
前方には、平地で発展を遂げている、広大な王都の姿。
外周に巨壁が聳え立ち、壁内は無数の建築物が櫛比。市街は広闊。中心地には青緑の屋根、竜の首が描かれた白亜の外壁の、巨大な王城が鎮座する。
「レアス、王都だ! 透明!」
「わかってますよ!」
揃って淡灰色の魔法陣を、目前に展開。範囲内を通過と同時に、躰は透明化。
第一声を叫んだ男は、黒煙上がる方角を視界に入れ、レアスの肩を軽く叩いた。
「おい、あれ――」
「予定通り。うまく利用できているようです」
レアスは、男の言葉を遮る発言をする。
「けっ、見ねえのかよ」
「興味ないので。もう、見飽きましたよ。バファナさんは?」
「まあ正直、俺も見飽きてるがよぉ。今回は普段とは訳が違うだろ? あとはアオハラジンヤの力量も心配だぜ?」
「らしくないですね。扇動班の彼はともかく、私たちに限ってその心配は不要では? 怖気づいたのですか?」
「うっせ、違えよ。こーゆーのは、想定外を想定内にしとくもんだろうが。現状は未知数だからな」
唾も吐き散らすバファナに、レアスは顔を顰めつつも、吐息を零す。
「扇動班の彼はともかく、私たちに限ってその心配は無用では? 力を粗末に扱う者に負けることはない。世界は実に皮肉です。真に持つべき存在にあらず、彼にあるとは」
「ま、力だけあるヤツは、利用されるのが世の常だ」
「えぇ。とりあえず今は、時を待つのみです」
「ああ。そうだな……」
接近し、目前で色濃く存在が際立っていく王城。
進行方向の転換はなく、高速で空中を飛翔し続ける。王城に設けられた二つの小窓が、彼らの遠方に控え、二者は高度を急上昇させた。
その後、全身から爪先まで広げ、途端に空中で蹲れば、背部を覆う純白な魔法陣を展開。即座に空色に染まり、魔法が発動。
魔法陣から烈風が噴射され、超高速で直線を描き、小窓へ突入。
硝子の粉砕音はなく、掌ほどの同色魔法陣が発動したことで、飛行速度は急減。二音の足音だけで、着地は済まされた。
続けざまに同様の手段で、バファナも着地音を響かせた。
彼らは、埃が舞う狭小な部屋を、隅々まで見渡した。
床板や小窓に、点々と打ちつけられた釘は、屈曲して飛び出ている。
そして最奥の片隅では、既に二名が占拠していた。
侵入から間もない二人は、物静かに腰を下ろすも、レアスは背を向ける。
小窓で頭巾越しに、頬杖を突く。
「お前、こいつら嫌いか?」
囁くバファナ。
「いえ、『ら』ではありません」
同様に声を絞るレアス。
「特定の人物にです。といっても揃い踏みですが……。とにかく行動が異常なんですよ」
「ふーん。とりあえず極力、物音や大声を出すなよ?」
「どうでしょうね。私としては居心地悪くて、今にも発狂しそうです」
「やめろ」
「冗談です。でも本音でもありますが」
「けっ、内に仕舞ったままにしとけ」
相反した位置にいる一方の一組。肌を露出させず、小窓から差す陽光を避け、闇に潜伏している。
一人は孤独に自画自賛、ないし欲求不満を吐露し、外套や頭巾に潜。
同様の衣服を着用した一方の隣人は、奇怪な呼吸音を上げ、頭巾に収まらない鼻先が、天井を見上げていた。
「なあ、それよりもレアス。どう思う?」
「そうですね……」
無音で移動し、備え付けられた落とし戸から暗闇を覗き見て、時わずかで閉ざした。
木製の狭小な空間――慎重な動作で、腰を下ろす。
「今のところは低評価ですかね。取り込むには早すぎる段階かと」
「まあ、俺もそうは思う。あの奇妙な笑みの女も計算高い。やっぱ力の成長は必須だ」
「そうですが、我々がむやみに見据える必要はないでしょう。首領様の意のまま、責務を全うすればいいだけのこと――って、バファナさん。聞いてます?」
会話を他所に、再度落とし戸を開放するバファナ。気を引かれたレアスも同様に覗き込む。
「なあ、レアス。そろそろ行かねえか? 決着ついたみたいだぜ」
「そのようですね……」
レアスは頭巾の右側を耳に掛け、白雪に染まる魔法陣が掌に展開。無口頭で魔法が行使される。
「実行」
一単語のみで、魔法は解除された。
「では下りますが、問題ないですか?」
同様の格好で、レアスやバファナと潜伏していた二人。
「そういえば、あなたもある意味で、新人の一人でしたね」
「えぇ。名はニタン・ボルスと言う者です。お二人の名は、既に存じております」
落ち着きがありながらも、溌剌な口調の男。なぜここにいるのかと、思考が疑問で埋まるレアス。
「はあ、二人は適当すぎやしないですか。抜擢のされ方」
「仕方ないですよ。帰還したばかりで現状を知りませんが、私たちが異世界で活動中は、大規模とあって人員不足を補うのに必死だったはずですし。適応すれば、あの世界も暮らしやすかったので。ねえ?」
間を空けて頷く、端にいる人物。
「ということです、レアスさん。とりあえず、任務の実行を」
「そうですか……わかりました。では、参ります。グロマ繁栄のために」
「「「グロマ繁栄のために」」」
部屋隅の一人を除き、三色の声がユニゾンする。
全員が落とし戸前に集結し、各自足裏に合わせて、空色の魔法陣を展開し、無口頭の発動。
最初にレアスが落とし戸に下半身を入れ、両肘で破壊し入り口を巨大化。
一時のみ落下を許した後、影と陰をなぞるようにして天井を飛行。目下で立て膝突くシャルトの真上に到達。若干の停滞を挟んで、飛行できる魔法を駆使して低速降下。
一人につき二音の慎ましやかな足音を立て、謁見の間に着地した。




