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   第四・五話  魔装


「わかってしまった自分と、お前がつまらない。あぁ、やる気が失せていく……」

「別に俺は、お前を楽しませようなんて思ってない」

「あぁ、わかってる。だがこれは、単なる楽しみじゃない。密かな楽しみだ。やっとのことで追い詰めたお前を、いかにして殺そうか。そうアツい展開に胸躍らせていたが……どうやら、お前は俺の前でも小物らしい。」

「小物?」

「あぁ、そうさ。お前というものは、俺を憎悪と憤怒の極致へと至らしめる。そう期待していた。だが、怒るより呆れてしまった……。これじゃあ、あっけなく実感のないまま終わってしまう!」


 特にシャルトの発言に関して、思うことはなかった。ただ、『つまらない』。その言葉を聞いた瞬間、ふと久しぶりだなと思ってしまった。そんな自分がいた。


 悪寒が全身を包んで、背筋を凍らせる。体は硬直して石化したようだった。元いた世界で、いつからだろうか。小学生のころか。

 ふとした会話で言われた。別にどうとも思っていないヤツに、『つまらない』と。別に俺はそいつの思う、つまらなくない人間になろうとしていたわけじゃない。


 でも、そう言われた自分が少し嫌いになって、無性に腹が立ったのを覚えている。そして、見返してやろうと努力していた自分を、ふと思い出した。


 でも、その後は思い出せなかった。

 唯一わかったのは、過去の記憶――負の遺物は捨て去った……ということだけ。


「ほう、無反応……それは図星ということでいいか? だが、己をつまらないと自覚するのはおかしい話だ。自分を労わり、肯定できるのは自分だけ――まあ、そんなことで話を発展させる意味はない」


 こっちでは、すっげえ発展してたけど。頭の中で。――ん?



「つまらない現状が、神の眷属たるお前の本気か? お前のことなど、こちらは知ったことではない。ただ一方的な戦闘なんて、今の俺に価値はないということだけ。(たぎ)らせてくれよ、神の眷属」

「お前のせいで一つ、嫌なもの思い出したよ」

「そりゃあ、よかった。お前の不幸は、俺にとって最大の幸福だ」

「サイテーだな」

「どうとでも言えばいい。神の眷属アオハラジンヤ」


 なんて会話を交わすが、その傍らシャルトは魔力を空気中から集めている。最初はまったく気づかなかった。時間稼ぎにまんまとハマったわけだ。

 覚えていない過去が、まさかこんな形で俺を邪魔するとは、思いもしなかった。


 魔力は目に見えず、感覚だけが頼りで、空気中を風のように流れているのがわかる。そのうえ未熟ときた俺。意識を話に持っていって、感知できないように引き付けていた。

 自然な流れでの頭脳プレイ。経験の差が手に取るようにわかる。


「よくわからない……」


 しかも、なにをしようとしてるのか。全然わからない。


 人一人の限界量、許容範囲の《魔力量》があって、一度の吸収量に制限がある。

 空気中の魔力は、魔法と同じように想像で操れて、自分の体内に取り込めて、指定箇所がない。

 そしてなにより、魔力を操って使うには、気力と体力の両方が必要。戦闘時に最も付き纏う問題点になってくる。

 いつから始めたかはわからないけど、少なくとも会話の時点から今まで同時に行ってた。それでもなお、続けてる。


 見えないものを動かすという想像は、自らの視界にだけ具現化して捉えて、意識しないといけない。現実との境目を区別しないと暴走する可能性もある。


 人の域を超えたような、並行作業。


「しかも――」


 シャルトには、違和感があった。


 魔法発動が特殊な場面だったり、使う魔力の動きを操らない場合、大抵は手に集まる。それ以外での発動は珍しい。


 シャルトの場合は体全体を通して、魔力の流れを巻き付けているようだった。

 俺はシャルトのやろうとしていることがわからない。それか、俺が他に思い出せていないかもしれない。

 情報が浮かび上がるはいいが、その量に慣れないせいか要領悪い。


「【魔装】」


 読めないシャルトの行動に悩まされていた矢先、唐突に一言そう呟かれた。

 周辺の魔力は、大剣と青の全身鎧に吸収され、大量の魔力を全身に纏った。

 そのせいか、今まで感じていた魔力の流れが数秒間途絶えた。


 しかも、シャルトの大剣や青の全身鎧は、毒々しく青紫色に染まって禍々しさが漂う。


「『魔装』……」


 混乱しかけで、一気に頭真っ白。なんだろうと思い悩んで、どうにか思い出した。


 《魔装》は物を対象に、強度や性能の向上に使われる。強化魔法の上位互換で、強力な代わりに支払われる代償が大きい。


 特異能力や潜在能力とは別物だけど、その二つを除けば魔力を使う事柄の中でも最も困難な部類に入る。

 それを平然とやってのけたことが、シャルトの力量を示している。


 とりあえず、魔力の操作に加えて魔装を発動してしまえば、気力や体力に余裕はないと思うから、シャルトは迂闊に行動しないはずだ。


「今のうちに……」


 一応注意しながら、情報を掘り起こして確認していく。


 ――魔装には《魔力保持》と《魔力量》が重要。通常、魔力は魔法などを発動させるための動力。


 一時的に保持できるけど、すぐに使わないと吸収した先から、空気中に漏れ出ていく。体質によっては、保てる時間や漏れる速度に個人差がある。


 魔力保持も想像によるもので、吸収し終えてすぐ、イメージを切り替えないといけない。でも自分の思った通りにできない。魔装は未知の領域。

 これが困難な一つの理由で、魔力量も問題になってくる。


 強化魔法以上の恩恵が受けられることで、メリットが大きい反面、燃費の悪さがデメリット。魔力量や体力と気力で左右される。


 ハイコストの割に持続時間が短いし、武器や防具に使うとなるとより短縮する。

 魔装は纏うような状態で使われるから、防具や武器に膜のように重なる。

 表面上だから傷ついたり衝撃が加わって、ダメージが蓄積すればするほど、効果が薄れて脆くなる。


 もし長時間纏わせることになるのなら、効果が切れるたびに発動する必要がある。

 効果がいい反面、リスクが伴う。


 魔装の性質は、怪我しても最初はわからないように、発動中は問題なく体を動かせる。けど、効果が切れれば、その間に消費した体力と気力がどっと表れる。後払いのようなもので、まさに諸刃の剣。いや、当たって砕けろの精神みたいなものか。


 とりあずシャルトが、今やろうとしていることはわかった。魔装を使うということは、決着をつける気だ。


「フッ。なぜ冷却状態の俺に、攻撃を仕掛けなかった? ――馬鹿だな。この世界はお人好しが最も地獄を見るというのに」


 そう言って鼻で笑うシャルト。

 確かに言う通りでもある。でも有意義には使った。


 ただでさえ力の差があるし、俺は対抗したくとも使えない。

 だったら言われた通りに狙うのも、全然アリだった。けど今の発言を聞いて予測されていたことは確か。

 (かわ)される確率は高かった。


 俺が今一番心配しているのは、勝利ももちろんだけど、逃げられる想定が頭から離れない。

 重罪を償うべきだし、それは捕らわれの身の国王陛下や、幹部たち、優花やサリスもそう思っているはずだ。


 そしてなにより、あの惨状を作り出した反乱軍とシャルトに、情けは生まれない。敵側に逃走の選択を失わせる必要がある。


 予め、別に狙いを定めておこう。魔装のデメリット、燃費の悪さを利用する。

 単純に持久戦にもつれて体力と気力、魔力量を削ぐ。最終的に魔装による長期戦や、不利な立場にはならなくて済む、あくまで保険。というか、シャルトは短期戦を望んでいるから、その間でのあらゆる消費量はきっと尋常じゃない。


 でも長期戦じゃなかろうが、どのみち俺にとって最後の砦であることに変わりない。


「まあ、地獄を見るかもだけど。保険は作れた」

「ほう……。魔装とあって、姑息な手でも打ったか――警戒させてもらおう」


 開示。これで俺の出方を警戒するうえ、魔装の効果時間に気を取られる見込みもできた。


 俺は力量で劣る代わり後先に保険があり、シャルトは力量で勝るも後先に問題点を抱えてる。

 これでお互いに有利不利はない。


「しかし、発言に乗るような真似はしない。経験の差は確実にこちらが上だ。所詮、神の眷属とはいえ子供だ」

「いいや。有利不利で分かれるのは、これからだ!」


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