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神々の世界と因縁のペンダント【加筆修正中・更新休止】  作者: 海斗
第一章  死による出会いと別れ
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   プロローグ(中編)

 ポニーテールに優しい笑顔の女の子。流れるような髪質に整った顔立ち。学校ではそれなりの有名人。誰かはすぐにわかった。


 幼馴染の辻島(つじしま)優花(ゆうか)

 俺が寝坊常連とあってか、目を丸くして驚いていた。


「お、おはよう。仁也をこんな早い時間に見るとは思わなかったよ……」

「俺も優花と会うとは思わなかった」


 相変わらず、満面の優しい笑顔がこぼれた。


「おっ。よう二人とも!」


 立て続けに聞き慣れた声が背後から聞こえる。


「あっ。空星(そらぼし)か」

「なんだよ。その素っ気なさ」

「ごめん。安心したって意味だよ」

「そうか。なら良し!」


 七三オールバックにやや吊り目が特徴的な同じく幼馴染。鬼島(きじま)空星。

 この二人がいると学校付近とあってか、通過する同校の生徒から注目を浴びる。


「やっべぇ。優花ちゃんじゃん!」

「お前、話しかけにいけよ」

「嫌だよ。勇気ねぇヘタレだもん」


「あー。空星くーん」

「おはよう。空星くん」


「おぉ、おはよう!」


 通過する他生徒はこんな感じ。相変わらず二人揃っての人気ぶり。文武両道っていう俺にとって縁のない言葉が似合う二人だ。生まれ持ったモノが違うんだろう。

 優花に関しては運動部に限った『武』じゃないけど、文化部にも入っていない帰宅部の俺がどうこう言えない。

 世間一般的に間違いないく優等生だろう。相変わらずで恐れ入る。


 それに比べて俺は、大して人間としての魅力もないんだろうな。

 していることといえば筋トレ。あと幼い頃、刀剣マニアのじいちゃんからもらった木刀や真剣で、喜ぶ顔が見たくて始めた――素振りくらいか。


 正直、意思という中身がない。本当に情けない。俺の姿を見て喜んでくれるじいちゃんは、もうこの世にいな。ましてや十六にもなって今さら。

 ただ、日課になってたせいで、自然と体が動いている。もはや自己満足。呆れる話だ。


「――い。おーい」

「ん? ど、どうしたの?」

「どうしたって。こっちの台詞(セリフ)だ。急に黙り込むから」

「あっ。ごめん」

「てか、今日はペンダント付けるのか?」

「あぁ、うん。許可取ったから」

「そうか、取ったのか。よかったな」

「ホントよかったよ」


 俺の首にぶら下がる一つのペンダント。淡い黄緑色の宝石みたいに輝いて、片手長剣のような形で割と目立つ。

 美しさの中にどこか落ち着きがあるように感じ、不思議なものだ。

 父さんの形見で、本当はいつでも身に付けていたいけど、校則が許さなかった。許可が出た理由は知らない。

 事情を母さんからにでも聞いたのか、運なのか。青春しろというメッセージなのか。


「あ、そういえば仁也のクラスの出し物って、なに? 午前中は私、ほかの子と見て回る予定だから聞いておきたいんだけど」

「俺のとこはお化け屋敷」

「おぉ。チョー定番だけどアツいやつ」

「そう。アツいんだよ! 文化祭で定番の一つ、お化け屋敷! 入っている人の悲鳴を外で聞いた人たちは、興味をそそられて入っていく。そうやって連鎖が起こることを大いに期待できる。定番だけど出し物としては最高!」


 と、口にしてみた。


「お前、マニアかなんか?」

「っていう風な趣旨の内容を、延々と発案者が熱弁してた」

「その発案者、嫌らしいこと五割に金儲け五割だな。私利私欲はぜってえ地獄見るぞ」

「すごい個性的な人だね。私だったら、癒し系の出し物かな」


 癒し系の出し物がなにか、気になるけど。欲まみれを個性的っていうのかな……。

 まあ、お化け屋敷を熱弁する学生っていう意味じゃ個性的か。聞いたことないし。


「さっすが優花。他人を癒そうって考えは優花ぐらいじゃないと、そう浮かばないぜ!」

「ありがとう、空星」


 普段通り、何気ない会話が弾んでいく。

 ポジティブな優花に、陽気な空星。今日も平常運転。

 

「それはそうと、あのさ仁也。その……暇な時間って……ある?」

「暇な時間? うーん……午後なら空いてるけど」

「そ、そう。だったら……」


 優花がなにか言いかけると、空星が俺と優花の会話にわかりやすい慌て様で割り込んできた。


「ゆ、優花。仁也はさ。ほかに頼まれてることがあるらしいから」

「あっ、そ、そうなんだよ。だから、午後も無理かな」

「そ、そう……」

「ごめん。時間がなくて」

「ううん。仕方ないからね」

「ホント、ごめん。あっ、もう俺は行くよ。準備があるから」


 俺はそう言い残して、この場からそそくさと去った。


 しばらく無心になってガードレールに守られた歩道を進む。数軒ほどの家を通過すれば、右側に学校の塀が延々と続く。

 正門までは一直線。途中、別れた後の二人が気になって振り返ったりする。あそこで別れるのは仕方がなかった。二人とは別クラス。


 互いに予定が違うし、それは当然のこと。

 でも文化祭の準備の話とは別に、必死に迷って決意を固くした空星のためでもある。


 無駄にしないためにも、俺は足早に学校の正門へ向かった。うまくいくことを願うばかりだ。


「おはようございまーす!」

「おはよう。授業頑張れよー」


 聞こえてくる挨拶に、生徒指導の優しい先生の声。頭の片隅にあったニュースを思い出し、無事に到着したことに安堵した。


 が、その直後――不意に正門付近から妙な音のようなものが聞こえて、立ち止まった。

 方向は疑わしいことに前後左右じゃなく頭上。

 空からだ。

 

「なんだ……今の。どこから……」

『ウフフ、良い子みーっけ』

「え……?」


 二度目も聞いた。鮮明に。

 二回目は音ではなく、確かに声だった。透き通った幼い声で、小学生くらいの女の子を思い浮かばせる。 

 声は限りのないはずの空で、響いていたように感じさせた。


 それに、仮に頭上は聞き間違いだとして。付近を確認しようが、小学生の女の子らしき姿は見えない。やっぱり空から聞こえていたのだろうか。だとしても、俺以外は今の声に気付いていない。


 もしかしたら空耳かもしれないけど、俺は確かに聞こえた、と思う……。幻聴か。いや、体は至って健康。

 基本的に寝るのは好きだから、寝不足の日数はさほどない。目は冴えている。なんとも不思議だ。


 解決するわけもない疑問。それでも気になって頭の中で巡らせていれば、その透き通った謎の声は、再び空から響いて聞こえた。


『――乗り越えられる子』


 今まで以上に鮮明に聞こえた。

 俺は二度あることは三度あると、正門に張りついてわずかに待っていたが、それ以降は謎の声を聞くことはなかった。そもそも、今のことわざでいくと先ので三度目。四度あるとは言っていない。


 正体不明のままだが、時間の関係もあって断念。駆け足で校舎へと向かった。気にはなるけど、妄想で終わるのがオチだ。


 それに忙しい文化祭で気にしてばかりだと、仕事の障害になる。気にするのはやめよう。

 周りから聞こえてくる、ひっそりとした声も。


「ねえ、あの人が噂の『優花さんに付き纏ってる』って人?」

「あぁ、空星くんが『うんざりしてる』とか言ってたらしい」

「うわぁ……優しい空星くんがそこまで言うんだから相当だよねえ。ガチの犯罪者」

「あぁ。ホント懲りずにやるよな。ストーカー」

「人間なの? どうかしてる」

「異物だな。関わりたくねぇわー」


 聞きたくない。

 噂は現実とかけ離れて、校内を独り歩きしている。

 俺はそんなことしてないし、優花の反応を見れば一目瞭然なはず。なのに根も葉もないこと言われて、完全なる冤罪。嘘だ。


 もうここ最近、収まることなく続いている。おかげで休みたくなる日々だ。精神的な疲労が溜まる一方で、早く土日にならないかと待ち遠しい。今日、その土曜日が潰れたんだけど。惜しい。


「あぁ。誰がこんな噂……流したんだよ」


 一つ、だれにも聞こえない小声で胸の内を漏らした。

 どうにも押し殺せそうにない。


 辛い。





 九時。文化祭が始まった。

 校門に飾り付けられたアーチの入り口。体育館はイベントやらライブで大きな盛り上がりを見せている。


 俺たちクラスの出し物、お化け屋敷は盛況。

 数々の悲鳴が聞こえ、廊下で聞いた人たちが興味を示して次々とやってくる。学校中は文化祭一色。お祭り騒ぎだ。


 午前中にある仕事の内容は、お化け屋敷の入り口前で受付。スタンプラリーにスタンプを押し、名簿にチェックを入れること。他校の生徒や来客の方の場合は別紙記入。


 スタンプラリーは条件を満たせば商品がもらえる。って言っているが。その実、二重の出席確認と、文化祭を利用して休む連中の把握だと睨んでいる。


 文化祭だからと学校抜け出すヤツや、端から行かないヤツがいるんだろう。

 そんな世からして些細な不公平さを考えながら、仕事をこなし――昼。

 意外にも、あっとういう間に交代の時間だ。


 予め小型の手提げバッグに入った弁当箱を、机横のフックから外し、午後の担当者に引き継いだ。


「さて。まだこれからかぁ……」


 ため息をつきながら廊下を歩き、食堂に向かった。

 優花たちのことだから、午後から仕事なんだろう。


 ただ俺からしてみれば、見届けねばという重要な仕事。二人からすれば、()()イベント。

 というのも、空星の慌て方で優花に勘づかれるかが心配だったけど、きっと大丈夫なはず。今日は空星にとって勝負の時だ。


 空星は、優花のことが小学生の頃からずっと好きで、振られるのが怖くてできなかった。今日で終止符を打つ。みたいなことを文化祭前日に言っていたけど。経験がなければ、想像は危なっかしい。親友にアドバイスの一つもできない。


 不甲斐なさから代わりにと思い、『なんでもするよ』。なんて口走ってしまった。その結果が朝に出た。

 二人から去って校舎内に入る直前。駆け足で遅れてきた空星が、場所と時間だけを教えたと言って見届け役を頼まれる羽目になったけど。


 当事者でもなければ、あくまで友達であり親友――もっと言えば第三者。告白したり、された経験はない非リアにわからない世界だ。いや、非リアでも俺だけわからないのかもしれない。

 それに客観的なんて、精々ドラマやアニメのカメラワーク。まさか現実でもその立場になるとは思わなかった。


「……にしてもやっぱ、変だよな……。俺がいるなんて」


 晴れない疑問を考えながらも、休憩スペースになった食堂を利用。朝食後に詰めた弁当で、昼食を済ませる。

 気付けば告白する時間の、午後一時手前になった。


 弁当は指定された教室内の通学鞄に入れ、人との衝突に細心の注意を払いながら、時に駆け足で、指定された場所に向かう。場所は体育館裏だと聞いている。

 定番、か。


 息を切らしてなんとか到着すると、二人はすでに向かい合った状態。気付かれないように木の陰へ隠れた。

 周囲には左に塀、右に体育館。ここにある木を含め数本と雑草が生い茂る。日差しが悪く人を寄せつけないような場所だ。


 ちょうど予定していたライブが始まったので、聞き取りづらくなることは覚悟して、告白の様子を見守る。


「…あ、あのさ、優花」

「ん?」

「きゅ、急に呼び出してごめんな。言いたいことがあって」

「うん」

「その……お、俺。優花のことが……小学校のころから好きで、今まで言えなかったけど、あの……だから、俺と付き合ってくださいっ!」


 緊張しい空星は、少し言葉を詰まらせながら言い切った。

 一方の優花は慣れているのか、慌てる様子は一切ない。

 ただ、いつものハッキリとした目とは違い、真剣な眼差しで告白の返事をした。


「ごめん、空星。付き合えない」

「……え、そんな……」


 肌寒さが一層に増した。

 空星は凍ったように固まり、直立不動。

 俺もその返事に思わず、背筋が凍ったようになって動けなかった。体感温度すら変化したように思えるほど。


 確かに告白するとなったら、振られることは百も承知。

 でも、いざ現実になると俺の心にも深く刺さった。理解だけでは伝わらない重さがあった。


「私は……――」


 と、唐突に口を開いた。

 同時に体育館のライブが熱気を増し、耳を塞がずにはいられなくなった。音漏れとはいかがなものかと思ってしまうが、今はどうでもいい。

 優花の言ったことが聞き取れなかったことのほうが重要。


 近距離にいる空星は、ライブに関係なく聞き取れたはずだ。その証拠に、落ち込むように眉間にシワを寄せ、下唇を噛んで硬直している。

 にしても妙だった。


 落ち込んでいるというよりかは、恨んでいるような表情だ。あんな険しい表情をした空星を見たことない。

 俺は驚き混じりの恐怖を感じ、小刻みに揺れる手の震えに気付いた。一行に収まらない。


 そんな中、一言残したであろう優花は、空星に背を向けて去っていった。後ろ姿を変わらない表情で眺める空星は、俯いて拳を握り締めると周囲を見渡し始める。

 どこか必死に見えて、明らかに様子がいつもと違う。


「仁也! 近くにいるはずだろ! 出てこいよ!」


 空星の吊り目が鋭く光り、怒鳴り声を上げる。

 こうなった理由がわからない。たぶん、俺が聞き取れなかったときの会話が原因のはずだ。

 タイミング的にそれ以外あり得ない。ただ、本人から聞いたほうが一番だ。


「そこに隠れてたのか」


 俺は躊躇なく、木の陰から飛び出した。


「そんなことはどうでもいい。それで? なんで空星はそんな顔してる? ライブのせいで聞き取れなかったんだ」

「ハッ。あいつが言ったことを話せって? 別に俺はいいけど、あいつはそのことで俺になにか言ってくるだろうよ。だから、なんとも言えない」

「そう、か」


 けど、なんの事だろう。まったく思い当たらない。


「なあ仁也。優花と一緒に話してて楽しいか?」


 空星は不気味に笑いながら、唐突に質問を投げ掛けてきた。しかも妙にピンポイント。


「俺はさ。とにかく許せなかったよ。お前がいつも優花と話してて。優花の顔が俺と話してるときと、どこか違うように見えた。自然と笑って楽しんでいるように見えた。腹が立ったよ」


 空星は涙目になりながら言うが、俺は沈黙を貫くことしかできなかった。まったく気付かなかった。空星がそう思っていたなんて。


「まったく。お前はいいよな。人目を気にせず生きられて。でも、お前さ。なんて呼ばれてるか知ってる? 《引っ付き虫》って呼ばれてるんだよ。お前」

「え……?」


 俺はここ最近、嫌というほど噂に頭を悩ませた。だが今、親友の空星の口から初めて聞いた。

 その瞬間、俺の中のなにかが――崩れた気がした。

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