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   第一話  謁見の間へ


「え、てことは反乱軍が?」

「うん、それ以外考えられない。この城の構造は、謁見の間を中央後方に置いている。入口からの道のりは、円を描くようになって合流地点や分岐点も多い」


 つまり、本当に迷路のような構造みたいだ。本にあるような感じだと思うけど、敵を惑わせる意図があるなら、自分たちも術中にはまって本末転倒。意図がなくても、ただ面倒なだけという構造。


 本来なら入り組んだ廊下で、謁見の間への到着に時間が掛かる、そう見込んでいたけど。壁に開けられ、続く穴を見る限りでは――。


「じゃあ、もうこの穴利用して先に進んだほうが……」

「ふんっ。残念男の発言嫌いよ」

「はいはい、俺のすべてが嫌いってことね」

「じゃ、行こ。優花」

「適当にあしらうな!」

「はあ……二人とも……」


 こんなときにも攻撃を仕掛けるサリス。正直、精神的な偶然の助け舟に思えた。いや、もしかしたらサリスも同じかもしれ――なわけないか。魔法師団所属なら、戦場は慣れているのか。


 謁見の間に近付くにつれ、不安感や恐怖が増すも、壁に開けられた穴を使って先を急いだ。

 その長さは途方もなく、到着できるのかさえ不安になる。加えて妙な違和感が、心の水面に波を立たせた。


「なあ。なんか、魔力みたいな。変なの感じるんだけどさ」

「『変なの』? 私は感じないけど……」

「優花、大丈夫。気にしないで。どちらにしろ、相手はすべてを予測してる。神経使ってるから、残念男は黙ってて」

「さーせーん」


 俺は呆れた声で返した。

 でも、実戦たった一回にして対人戦ゼロの俺が、口出ししても余計なだけか。説得力がない。

 サリスはわからないけど、優花は感じ取っていない。


 俺はさっきから、壁に開けられた穴を通るたび、引っ掛かるような些細な感覚が残っていた。気にしすぎかな。

 俺は首を傾げながらも、途切れない破壊後の壁を通る。


 見栄えなど拘りはしないが、延々と見飽きるほど通っては、時間が経った末に――


「つ、着いた……」


 どうにか謁見の間の入口、巨大扉に到着。すぐさま三人で隠れられる、巨大な瓦礫の物陰に隠れた。

 灯されていたはずの松明やランプは、すべて消されていた。道中も一つ残らずといった具合。


 昼間とはいえ、時に窓のない廊下もある。だから必要不可欠で、数回ほど魔法で灯していたが、謁見の間の扉前も同じ。明暗はハッキリと分かれていた。

 扉の先から光が差し、こちら側は影と陰があるのみ。


 窺うとはいえ、現状は一瞬だけ顔を出した程度。あとは見えないと判断して、音だけが頼り。

 まるで寝起きに見る、朝日のように眩しかった。


「で、私たちはこれからどうするの?」


 会話は小声。


「そう言われても……。思いっきり開いてるうえに、静けさが気持ち悪いのよ」

「確かに」


 妙だった。

 謁見の間から金属音や人の声すらしない。反乱軍が本当にここにいるのかと思ってしまうくらい、不穏な空気が漂っていた。


 顔を出そうにも、俺たちが隠れているのは、扉のど真ん中にある瓦礫の物陰。扉は全開状態。様子を窺うことすら困難だった。

 仮に音や声から情報を引き出そうにも、音一つない無音では、収穫一つも期待できない。


 ここにいても(らち)が明かないのは、早い段階でわかり切っている。でも、反乱軍側の人間として考えてみると、罠だということもあり得る。だからこそ、下手な動きができないし、妨げにもなっている。


「サリス、どうするの?」

「どうしよう……これ」

「もうこうなったら、いっそ罠に引っ掛かること覚悟で、一気に突っ込んじゃえば……」

「残念男、やめて」

「一応心配だから言っておくけど、それ名前じゃないからな」

「ん?」

「いや、首傾げるなって」

「だから。こんなときまで……」


 慣れたとはいえ、つい反応するって。


「命は一つだけど。私はここで立ち往生して、遅かったっていうよりかは、賭けてでも行動したほうが、後悔ないと思うけど……」


 自己犠牲の精神。感服です。


「優花はそう思う? まあ罠があるとは限らないし……場所的に、隠密行動のしようがないし……。はあ、とっさとはいえ、位置取り最悪だわ。私もまだまだね」

「うっし。もう行くしかない」


 命懸けでこの戦場にいる。あの惨たらしい光景を、悲しみとともに焼きつけて、忘れない。


「そう、じゃあ……三、二、一で行く。いい?」


 サリスの言葉を聞いて、俺と優花は頷く。


「さん、にぃ――いちッ!」


 合図と同時に、強化魔法を発動させながら扉へ疾走。

 見えてきたのは――。


「フッ、やっと来たな。侵入者御一行さんよぉ」


 埋め尽くすほどの反乱軍や、山積みになった国王軍兵士の遺体。その上で無情に座り込む、武装した男。


 そして捕らわれの身となっている王族、幹部の大臣や軍の人間、兵士たち。

 謁見の間は奥行きが体育館ほど――いや、もっとある。高さはマンション四階かそれ以上の、巨大で煌びやかな空間だった。


 一応、罠は仕掛けてなさそう。最低限、賭けに勝った。

 ただ、俺たちの行動を把握していたかのように、謁見の間の奥にだけ反乱軍が集まって、距離を取っている。


 てことは、穴を通るときの違和感は、独自の魔法かもしれない。

 この戦況を見る限り言えるのは、絶望的の一言。すでに国王陛下も拘束されている。


「侵入者はアンタたちのほうでしょ! 王族を、国王陛下を解放しなさい!」


 サリスはそう言って、首謀者らしき遺体の上に座る中年男に物申した。

 男は乱れた黒髪を搔き上げ、ラフな格好。一介の兵士と大した違いもないが、開口一番から横柄な態度が目立って腹立たしい。死体の上にいる辺り狂ってる。


 てか、サリスの勇気がすごいな。周り埋め尽くすほど反乱軍いるのに。


「お前ら、アホだな。へっ、侵入者なんて俺の魔法で随時、位置を把握済みだったが……。警戒の色もなしに、ここまで来やがった。しかも、第一声が実現しようがないとわかりきった発言。へっ、やっぱアホだ。んなこと大人しく聞くかよ!」

「へぇ、いい度胸ね……」


 中年男の腹立たしい態度。そのうえ、この状況下。

 サリスの声から憤りを感じる。


 途端に俯いて小声でなにか喋ると、横から収納魔法の魔法陣が出現。

 収納空間から、そろりと籠手のようなものを取り出して装着。


 手と一体化するように吸い付き、取り付けられたネジのような突起物が、回転を始める。炭酸の抜けるような音を鳴らして、蒸気が噴き出た。

 籠手は白銀に輝いて、両手の甲に黄緑色の宝石がはめ込まれていた。


「国王陛下や王族。この場にいる善良な方々の、命を脅かした反逆者を――捕らえる!」


 サリスは冷静を知らず、地面を力強く蹴って攻撃を開始した。

 鮮やかな桃色の髪が激しくなびく。


「ちょっ、サリス!」

「サリス! 待って!」


 呼び戻そうにも、身体強化で向上した視力をもってしても、サリスの動きは見えず。弾丸のような速度で突っ込んでいく。声は耳に届かない。


 捕らえられた王族などの全員が、反乱軍の先頭で手足に縄を縛られ、拘束されている。

 反乱軍の数は、最初の城門突破や進軍の際に、多くの兵を失ったせいか。謁見の間に収まるほど、小規模になっている。


 とはいえ、数の暴力。一人は無謀、自殺行為だ。

 そして俺はというと、無様にも足がすくんで動けなかった。頭で理解しているから、なおさらだった。人が殺し合おうとする、この光景。


 右にいる優花も動けずに、目の前を見ているだけだった。


「おい! お前ら準備を…!」


 と、反乱軍は遅れて対応する様子を見せた。


「遅いッ!」


 突撃したサリスは、一人の兵士の顔面間近に、拳を向けていた。


「あ――」


 それも束の間。


「ぶへっ……!」


 サリスが顔面を殴り、後ろにいた兵士も巻き沿い。十数人ほどが吹き飛ばされた。


「ナメないでよね! 私の力!」


 間髪入れずに攻撃を続け、周りの兵士は(ことごと)く倒れていく。


「【木魔法・発動 ウアードロ・ハアンサマアー】」

「【風魔法・発動 ウアイギンサ・ドロウアー・イギブア】」


 超絶早口の統括詠唱。

 波のように押し寄せる反乱軍の攻撃に対し、魔力で生成された巨木に、持ち手を付けた木槌を振り回し、魔力で生成された突風で圧倒。


 あまりにも一瞬で、気付いたときにはサリスの周りにいた兵士が、一人もいなかった。

 そして、突撃を後悔して立ち尽くした兵士を、拳で手当たり次第に殴り飛ばしていく。


 そのたびに殴られる箇所は、心臓付近や頭、主に体の最重要部分を狙った攻撃。

 感覚的に理解したことだけど、籠手が魔力を手と腕に纏わせることで、重みと腕力が上昇。一撃必殺の威力で、心臓や脳に衝撃を与えてる。

 想像しただけで怖ろしくて、身の毛がよだつ。ただでは済まされないのは確実だ。


 それに、この人数を相手に圧倒しているサリスも怖ろしい。

 と思った瞬間――サリスが小さなくぼみに足を取られ、転んだ。


「「サリス!」」


 優花の叫び声と重なった。冷静さをやっぱり、欠いていたのかもしれない。でなきゃ、ゴブリンの追跡に耐えるほどのことは、できていなかったはず。

 無防備になったサリスの姿に、チャンスとでも思ったのか。反乱軍の兵士たちが、一斉にサリスを襲った。


「「「「おらあぁ――!」」」」


 俺は武器を持たずして、無謀な救助を試みるも、右から狐色の稲妻が走った。

 サリスの元へ駆け抜け、襲ってきた十数人の兵士を前に、剣を振るった。


「【星屑(スターダスト)】」


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