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神々の世界と因縁のペンダント【加筆修正中・更新休止】  作者: 海斗
第一章  死による出会いと別れ
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   第十二話  ルーメン王国  


    ◇


 時は十年前。


 木々の葉は枯れ、気温は低下。寒気が流れ、白息が立つ日にて。ルーメン王国全土は、訃報によって哀悼に包まれる。


 国王である《ジティカル・ルーメン》は、老衰の果て病魔により急逝。

 これにより玉座は空席となり、王位継承争いの火蓋が切って落とされた。

 次期国王候補は二名、どちらも故ジティカル・ルーメンの子息。第一王子の兄クラテス・ルーメンと、第二王子の弟ユラテス・ルーメン。


 世界共通認識は王位継承者が第一王子。だが、大半の貴族や大臣等の幹部は、その認識に反してでも断固反対を一貫する。


 その理由は、第一王子・王位継承者の兄クラテスにあった。彼が起こしてきた行動の全てが、反対派閥を生む真っ当な意見・理由にすぎなかった。


 彼の私生活は、王族という華やかなイメージとは、実に対照的。それが人間として落第していた証明だった。

 そして物心ついた頃、己の立ち位置に理解を及ばせた。


 欲に溺れ、欲するがままに人生を歩んできた男。願望の暁には我が物とし、不可能とあれば手段は(いと)わない。(しゃく)に障れば拒絶する。権利の乱用は平然の所業。

 クラテスという人間は欲深く、図々しく、悪びれる様子など生涯なしが過言ではない。巨悪の人間性を、内に秘めていた。


 執事やメイドはもちろん、生前の国王も手を余していた。

 常識が通用せず、彼を中心点とした周辺はいわば無法地帯。

 貪欲から成る利己的な思考は、物に留まらず、人にも及ぶ。邪で下卑たその欲望は、人型の怪物を誕生させた。


 不快な人間という障壁が立ちはだかれば、牽制や追放、解雇などして卑しめるように排除する。

 真偽の定かは不透明ながら、死の風聞が立つほど。悪評は必然の産物だった。

 出生時から付与された権力を、自身で容易く汚染するとともに、課せられた立場と責任は、放棄されたも同然だった。


 政治に対する興味は微塵もなく、国家行事への出席数は片手に収まる程度のみ、指が折れる。そこに彼の意思は含まれない。


 成長・発達を経て、容易い欲望実現を認識した彼は、王位継承者として、人間として――最低最悪。残忍酷薄な欲の亡者であった。


 これまでを踏まえた理由により、大半の貴族や大臣らは反対。全世界共通の習わし、常識を覆す一派を生み出し、弟ユラテスを支持するのだった。

 だが、残りの少数の貴族や大臣らは、兄クラテスを支持。その多くは、彼らによって形成された思惑でしかなく、政治への無関心を利用する打算的な思考そのもの。

 その主となる内容として二つあった。


 一つは政略結婚。

 ルーメン王国の場合、主に王族や貴族らが一夫多妻制を認め、同様に世界共通の英雄的称号《大騎士》や《四大騎士》、《神の後継者》を持つ者も承認されている。

 それ以下の身分の者は、基本的に不可能。一夫一妻制であり、一般的。


 貴族以外の国民であろうとも、単純明快な条件のみで、許可されている。

 男女どちらかの家柄に、甲斐性の有無が問われ、それは恋愛や政略も対象となった。

 身分に応じて、一夫多妻制の前例は少数となっていき、山を築けるほどそう多くなく、庶民は特に稀となっている。


 貴族間では一夫多妻制は疎か、政略結婚は世界的に数多あり、恋愛結婚は少数。庶民はその逆。

 

 だが、企てられた政略結婚は従来と異なった。


 兄クラテス側の貴族や大臣らの身内、もしくは弟ユラテスの娘で、当時六歳のクラリシア・ルーメンを、他国の王族と結婚させようというもの。そこに王族の意向はなく、第三者によるもの。道具という認識が実情だった。


 彼らには、他国の王族と関係性を強固にし、富と名声の獲得。さらにルーメン王国内での、永世的な立場の確立を熱望していた。


 最大の理念と我欲にして、共通の秘めたる個人の思惑。加えて、政治を裏から牛耳れるようになった暁の話。理想的未来観測の、肥大化を意味した。


 さらに二つ目となったのは、領地拡大だった。

 彼らの思想は差別意識が甚だしく、嫌悪感を抱く国もあり、他人への良心は皆無。意味するのは戦争であり、非人道的。正気の沙汰の一文字も、彼らの思考に孕んでいない。


 その一方で、弟ユラテスは頻繁に兄弟で比較されることが多々、当然のように好評を博した。

 だが、実際に評価は事実より成り立ち、彼は非の打ち所がない人間だった。


 幼少期から勉強熱心、常日頃から好奇心旺盛。その印象は、だれしもの共通認識。それゆえに、相当の学力を持つ。

 また、彼の人格者たる人柄で信頼を得て、人望厚い。


 弟ユラテスは兄との日々に嘆き、常軌を逸脱した私利私欲と残虐非道の権化たる兄の、確かな被害者だった――。




 内戦は、王座の空席より僅か一日。王都は戦場に変わり果て、当初から緊迫した状況下にあった。

 突如として実行された兄クラテス派の襲撃により、武力行使による王位継承争いへと激化。その後は長期に渡ったことで、王都の一般市民に影響した。


 物資や食料の供給が、王都外から困難になり不足。弟ユラテス派のみが、備蓄を最大限解放するも、餓死する人々が後を絶たなかった。それに伴い、王都内の治安は劣悪を極めた。

 双方の派閥による衝突が相次ぎ、王都内は混沌と化した。


 重荷を抱え、戦場の王都から避難する人々の姿。消失した日常。


 そんな状態は、約一年半も続いていく。


 だが、転機は訪れる。

 兄クラテス・ルーメン側の、貴族や大臣らの会議。そこで、口論による身内争いが勃発。

 それをきっかけに、兄クラテス・ルーメン側の陣営内が混乱に陥った。


 弟ユラテス・ルーメン側は、またとない勝機(チャンス)に乗じるべく、隙を突いて奇襲を仕掛けことで、内戦は終結した。


 その事後、取り調べによって身内争いの原因は判明する。

 原因は、事実上の政権をだれが握るのかと、揉め始めたことによるもの。それぞれが身勝手なゆえに、先行した思考となっていた。


 兄クラテス・ルーメンと、陣営にいた貴族や大臣らの一部は、内戦を招いたことで重罪となり処刑。残りの貴族や大臣らは、爵位等を剥奪。一族もろとも王城及び王都への立ち入りが、永久的に禁じられ、追放となった。


 残りの大半は、各々に処罰され、内戦の後始末は少々の時間を費やした。

 

 そして同時期、ユラテス・ルーメンが王位を継承。世界の常識を覆し、新たな王を誕生させたことで、終幕を迎えた。


    ◇


「――以上が、十年前の内戦の顛末。当時は私も王都にいたから、その惨状は、今でも鮮明に記憶してる……」

「ごめん、思い出させて。俺たちに話すためとはいえ」

「いいの。大したことじゃ、ない――って、べ、別に、残念男に話すつもりはなかったわよ。は、話を進めるために、必要なことだったんだから。いいわよ、別に……――――本当に」


 動揺が見えてから、夕日が沈むように声量が小さくなり、後半は『別に』と『本当に』とだけしか聞こえなかった。

 でも、両側の握り拳を震わせていたのはわかった。つか、途中なんて言ったんだろ。


「え、ごめん。もう一度い――」

「なんでもない。不安でちょっと、言葉が出なかっただけよ」


 そう言って、不貞腐れたように後ろを向き、(うずくま)ってしまった。

 残念男と呼ばれるのは嫌だが、もしかしたら弱気な自分を、隠すためだったのかもしれない。強気な自分でいれば、忘れられると。


 ――いや、やっぱり着地の件か。


「でも、謝るべきだって俺は思った。だから、本当にごめん」


 サリスは当時六歳。きっと、世界が残酷に見えていたと思う。


「私からも……、ごめんねサリス。思い出させて」


 自分がもし、サリスの立場だったら。そう想像すると息苦しさを感じる。思い出しくない人だって当然いる。


「――……や、やめてよ。罪悪感しかない」

「優しいんだな」

「ふんっ。そういう残念男(キミ)も……優花も。優しい、優しすぎる……」


 一変して、俺を『キミ』と呼ぶ。

 心変わりかはわからないけど、そうであってほしい。


「ありがとう。俺を『キミ』って呼んでくれたけど、残念男は卒業でいいってこと?」


 と、言われたサリスは目を見開き――


「あっ、そ、そなっ、そんな風に呼んだ覚えはないわ! 空耳よ!」


 空中でなにかを掻き消すような動作で、慌てふためく。


「えぇ……」


 残念男は、留年決定らしい。

 俺は思わず肩を落としたが、一方の優花は眼差しと姿勢に覚悟が決まった、力強さを感じるものがあった。


「それで、反乱軍の今の状況って、どうなってるの?」

「入山前の状況なら把握してる。私、《魔法師団》に所属してるから」


 優花の質問にサリスは淡々と答えた。

 《魔法師団》というワード。神界で読んでいた本で、少しだけ触れていた。


 確か魔法師団は、国王軍の一師団。魔法を扱う精鋭揃い。つまり、サリスの実力は国公認。だから相当な数のゴブリン相手に、逃げ切れていた。


「でも、すでに状況は悪化。敵勢力の急襲で、王城の城門が突破されようとしてるのよ……」

「そっか……」

「本当にやるのか……」

 

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