表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神々の世界と因縁のペンダント【加筆修正中・更新休止】  作者: 海斗
第一章  死による出会いと別れ
14/121

   第十話  嫌う者・見定める者 


「だれ? アンタたち」

「え?」


 殺気溢れた威圧的な声。思わず間抜けな声を出してしまった。脅し文句――声質からして、間違いなく助けた美少女。 


 少し抵抗を試みるも、腕をあらぬ方向へ引っ張り上げられる。完全に身動きを取れないようにされてしまった。助けたはいいが、この始末。

 さっきとは様子がまるで違う。人格が変わったみたいだ。いや、こっちが本性なのかもしれない。


「なに者かって訊いてるのよ。助けもらったことには感謝してる。けど、それとは別。アンタら、反乱軍の人間じゃないの?」

「は? 反乱軍って……」


 いきなりにも程がある。なにが目的なんだ。まったくわからない。


(しら)を切るつもり?」

「い、いやいや。本当に俺ら、反乱軍とか知らないから。ゴブリンからキミを助けただけだから!」

「隣にいる女も?」


 と言って、短剣を持っているであろう左腕で、俺の首を軽く絞め上げ、持ち替えるような動作をして優花に突きつける。


 右手に持っていたのは、予想通り短剣だった。さすがにマズい。

 というか、背中に当たってるむ――は、考えない。おお――じゃなくて考えるな! 最低だな。このクソ変態野郎。ぶん殴られたいのか! 今そんな暇ないだろ。問いに答えろ俺!


「そ、そうだって……」


 美少女は急に黙り込んだかと思えば、俺と優花を交互にジッーと品定めのように凝視する。

 俺はニヤけ面になっていないか、かなり心配だった。一応、気持ち悪そうにしていない。たぶん、だいじょ――


「うっ……苦じぃ……」


 俺の首を挟む腕に力が入り、とてつもない怪力で絞め上げられた。

 痛い、苦しい、痛い、苦しい、苦しい、死ぬぅ――って。


「………そう。二人が反乱軍なら、こう仕向ける意図が読めないし……というか。まず、私を助けないだろうし」


 と言って俺の拘束を解いた。

 そもそも初対面。仕方ないとしか言いようがない。警戒心に従ったのは正しい。

 

「けどっ、あなたに心を開くのとは別。あくまで、敵対しない。それだけの話よ!」


 と、人差し指を突き立てられた。

 別に感謝されずとも、せめて友好的であってほしい。あぁ、なんだか涙出そう。首も両腕も痛いし。


「まあ。これで反乱軍じゃないとわかったから……――」


 俺が悲しみに暮れている中、そんなの視界に入っていないと言わんばかりに、優花へ急接近。


「ねえ! 名前なんて言うの? 年齢は? 可愛い! 小さい頃とかモテた?」


 怒涛の質問攻めを繰り広げる。


 張り詰めた空気が百八十度変わり、声は殺気の気配を消し、柔らかくなった。

 優花は困惑と動揺で忙しそう。俺との会話とは天地ほど違い、どんどん興奮を加熱させている。一方的に打ち解けてる感じだけど。

 あ、いやいや。そんなこと考えてると、そのうち口滑らせて、また首を絞め上げられるだけだ。


「えっと、優花。辻島優花。年は十六、だけど……モテたかどうか……」

「いや、絶対モテた。私だったら告白してる。大好きですって。だって、可愛いもん!」


 もう、本当はどっちっすか。 今か、おっかないのか。 


「あぁ?」

「え、ど、どうした……のですか?」

「アンタ。やっぱ嫌いだわ」

「え、俺なにも――」

「そうね、なにも言ってない。なんとなくよ。雰囲気からして」


 ただ単に酷い。


「で、ごめん。名前はツジ、シマ……ユウカ、だっけ?」

「う、うん……」

「珍しい名前ね。オッケー優花。覚えた! さっきはごめんね。『隣にいる女』とか言って」

「あ、いや別に……ちょっと怖かったけど。憧れちゃうなーって。強い女の子」

「キャー、ありがとう! もう最っ高!」


 崖の上か下かのギャップ差。完全に蚊帳の外。

 それでも、なんとか和平を望んで話しかける。


「あの、さ……――え?」


 が、心臓が止まるのかと錯覚させるような、鋭く刃物の視線が向く。

 怖い。明らかな険悪の顔で、無言の圧を放ってきている。

 まるで主人を守る番犬。


「あっ、私の名前サリス・ティアラ――」


 ただし、


「サリスって呼んで。私も十六よ!」


 優花という主人には腹を見せ、尻尾を振る。普通に話せれば、それでいいんだけど。やっぱ交友経験の浅い俺は、なにか失礼だったのかもしれない。


「う、うん、わかったよ。サリス」

「キャー、同年代の女子って最高ッ!」


 とりあえず、理由だけでも。


「あ、あの……」

「あぁ……?」

「え?」


 隙を見て話しかけるが、牽制というより威嚇。やはり第一印象は大事だ。でないと自己紹介すら叶わない。もうすでに、取り返しはつかない。叶わぬ未来しか見えない。

 ただ一つ言えるのは、理不尽でもない限り自業自得ということか。交友経験が浅いばかりに招いた悲劇と迷惑、かな。あぁ、悲しい。


「わ、わかった。そのうち――」

「アンタの名前はどうでもいい」

「へ……?」


 うん、悲しい。「な」の一文字で名前だって察したよ。


「ちょ、サリス! そこまで……!」

「ううん。聞かなくて大丈夫だから」

「いや、サリスってば……」


 サリスは興奮状態のうえ、口軽い。いっそここまで言われると、清々しいまである。

 なんだろう。なんか、吹っ切れるよね。もういいや、って。


「だって、酷いと思わない? ゴブリンから逃げる時はまだ許せたけど、着地が雑。あの高さと衝撃の中で生きていられるのは奇跡よ? というか、やっぱ逃げる方法も許せない。もっと安全な方法があるでしょ。しかも、髪はボサボサで服は汚れたし」


 手荒だったのは確か。仕方ないとは言わない。頭下げて謝るしかない。


「すみません……」


 九十度以上下げて謝意を示すも、返答もらえず頭を上げる。


 それにしても、サリスの格好が気になる。よく見れば軍服に近いような服装だった。

 こっちから見た右胸は、ドラゴンの顔を模したバッジが一つ取り付けられ、配色は主に淡灰色。同じく右胸に橙色の太い縦線が入っている。


 ズボンも配色は同じだけど、橙色のを描いた模様になっている。

 もし本当にルーメン王国の軍といっても、このデザインの服装は初見。神界の書物には載っていなかった。つまり最近の情報を俺たちは知らないということになるのか。仕方がない。


 何気に収穫があったものの、気付けばかなりの脱線をしていた。


「まあ、仁也が悪いって言うのは確かだね……」


 自然と服が気になったのは確かだったけど、結果的に現実逃避だったことも確か。

 俺もう、地面削るほどの勢いで涙出そう。ホント、ご迷惑お掛けしました……。


「ほら、優花もそう思ってるよ?」


 ごもっとも。


 あの経緯で生きてるのは奇跡。よく考えれば、特にサリスはそう。俺たちと違って人間。それを踏まえる必要が俺にあった。ダメだ。異世界に来てから反省点しかない。


「でも、責めることはないよ。私はあの状況、仕方ないって思うよ。私たちの土汚れは払い落せばいい。そもそも、魔獣や魔物と遭遇する覚悟は、できてるはずだしね。髪型に関しては……ちょっと待って」


 優花は収納魔法を発動。魔法陣に手を入れ、なにを取り出すかと思えば、その手にはヘアブラシがあった。


 優花はサリスに自分の前へ座らせ、背後から乱れた髪型を整え始めた。

 それには満足げな表情を浮かべ、まるで親子のようだった。

 その間にも話は進む。


「私、同年代の女子とあまり会ったことがないの。だから優花みたいな人と交流を持ちたいな、って思ったの」

「じゃあ、女性より男性が多いの?」

「いや、単に交流が少ないだけね。っていっても、確かに男の人が多かった。不運にも」

「『不運にも』って……」

「だぁって。男にはろくなやつがいない……私にとってあの男も異分子よ」

「異分子って……」

 

 相変わらず、萎える話ばかりが聞こえてくる。


「ねえ、サリス。話は戻るんだけど。反乱軍とか、色々気になるんだけど。そもそも、どうしてゴブリンに襲われてたの?」


 優花が終止符を打つ質問を、サリスに投げ掛けた。


「――そ、それは……事情があって。正直、巻き込みたく……ない。でも、ゴブリンとの戦闘で確信に近い。円滑だった。私の見立ててでは、二人は強い。ただ、優花にはあまり無理してほしくないし、会ったばかりで申し訳ないけど――お願い、協力して……」


 サリスは一気に冷静な様子――ではなく、表情が暗色に沈み込むも、協力を求めてきた。

 

 正直、散々言ってくれたものだけど。事情が理由かもしれない。


    ◇


 衝撃音。砂塵が噴き上がる。

 青紫の血肉と、点在する真新しい亀裂。足踏みによる地響きに、金切り声が支配する山道。


 一体のゴブリンが、顎門(あぎと)で貪り続け、咀嚼音(そしゃくおん)は絶え間ない。同族の強靭な肉体を我が物とし、背丈は周辺の木々を易々と超える。


 その光景を樹冠から静観する二人。

 外套で全身を包み、素顔は深く被った頭巾で隠されている。自然の日傘が頭上にあるが、僅かに漏れる日光にも曝さない。


「おい。ゴブリン殺して、データ引っこ抜くぞ」

「はあ……ゴブリンが可哀想です」


 破裂音で複雑に発する言語。


「嘘言え。組織の中で、お前や俺は特殊な人間だ。堕ちたヤツは、んなこと言わねえだろ。ケッ、お前が『可哀想』だなんて思ってるはずねえだろ」

「おっと、それは失礼。では、さっさと回収と報告を済ませて追いますよ。彼らを」

「へいへい、了解……」


 癇癪(かんしゃく)を起こして叫喚し、山道の中央で仰向けのまま、手足を荒々しく地に打ちつけるゴブリン。

 松葉色の腹部は極度の膨張状態にあった。


「はあ。ありゃ、後先考えずに暴食したせいで動けねえみたいだ。けっ。ホント使えねえー。バケモノみたいな吸収力がたった数回とは……失敗だな。チッ。なんでこうも貴重な機会を無駄に終わらせるかね。本当に試行を繰り返したんだろうなぁ? 研究班は」

「私たちが知ったことではない。首領様の意思は我々の総意でもある」

「はあ……わかってるっての。お前に嫌というほど聞かされたからな。で、コイツは失敗だから()るぞ?」

「えぇ、お願いします」


 許可を得た男は外套をなびかせ抜剣。枝木を足掛かりに飛び出し、一蹴で空中を飛躍。

 一弾指にも満たない速度で落下。


『グラアァァァァ』

「ぅるせえ。実験体ごときが!」


 軌道が頸へ垂直に描かれ、無音の斬撃は、松葉の首を容易く撥ねた。


『グアァ…ァ……』


 回転しながら宙を舞い、重々しく地に落ちた。

 ゴブリンの断裂面からは、青紫の血飛沫が大量に噴出し、巨体は小刻みに揺動しながら横たわった。

 事が済み、殺処分した男の同伴者が、樹木から下りて駆け寄る。


「どうです? 実検体の頭から回収できました?」

「当たりめえだわ。ほら」


 細長く、掌ほどの円筒。銀一色で、光沢が陽光を反射させる。

 遅れて到着した同伴者は、即座に手渡され、視認。複数回頷き、展開された魔法陣に収納する。


「さて、処理は任せましたよ。それも早急にお願いします。でないと再生されて面倒なので。確実に骨の髄まで粉砕して、骨粉にでもしてください」

「うぃー、りょーかーい」


 指示に従い実行する一人を差し置き、冷静な物腰をした一人は、眉を顰めて掌に魔法陣を展開し、相応の大きさに縮小。


 フードから両耳だけを露出させ、両手を耳元に押し当てながら、魔法陣は淡灰色に変色。無口頭で魔法が効力を発揮する。


『あーあー、作戦実行中の回収班。聞こえるか?』


 両側の掌からは、加工された機械的な声が、漏れた状態で発せられる。


「問題ありませんが、音漏れが酷いです」

『そっか。改良の余地あり……ってとこか。まあ、いい。それよりも二点、確認と通達がある。まず、回収はできたか?』

「えぇ。私の収納魔法から、そちらへ転送完了しました。確認してください」

『了解。それともう一つだが、計画通り二人には回収班から調査班に移行して、王城にて待機してほしい』

「ですが、目標は付近に潜伏しています。これも機会の一つでは?」

『保険は必要ない。作戦を実行をするのに数年――いや、もう十数年は経っている。その間、我々は時間と資金、血と汗滲む労力、邪魔な生命の血肉を斬り捨ててきた。それも、一人の小僧のために。世界のために。そして、首領様のために――。まあ、そんなのは誰でも知っている。当然、貴様もだ。で、話を戻すとだな。本計画の追跡班がもう王城に到着している。お前らがそいつらと合流後、最終的には調査班は潜伏者一名とも合流して計五名。我ら主の命より見定めろ。神の眷属を。レアス・デモーニア』

「了解」

『同班のバファナ・ギクセルにも、伝達を頼む』

「はい。早急に」

『では、成功を祈っている』

「グロマ意向実現のために」

『グロマ意向実現のために…… ――』


 プツン――と、通信が遮断される一音が、レアス・デモ―ニアの耳元で鳴った。

 彼は背後にいるバファナ・ギクセルに、通達の内容を伝える。


 ゴブリンの亡骸は跡形もなく消滅し、青紫の血溜まりのみが残されていた。


「わかった。回収班として、ここにいる必要はないからな。通達に従って向かうか……」

「その前に、この血、骨肉と同じく処理対象です」

「えー、面倒くせぇ。骨と肉処理するだけでも、魔力大量消費しなきゃなんねぇのに。確かに魔力は空気中にいくらでもあるが、その度に体力と気力奪われるから嫌なんだよ」

「説得力が微塵もありませんよ。虚言は程々に。どうせ限界の概念はないでしょうに」

「うっせ。なんでさっきと立場逆転してんだ気持ち悪ぃ」

「あなたが勝手に招いたことでしょうが……」


 文句を連ねるバファナは、血溜まりに剣先を接触させる。

 その刹那、一滴残さず剣が吸収。土色や剣身に変色なく隠滅された。


「わざわざ使うより、土魔法で上から被せば、消費削減できたはずですが?」

「あぁ? はあ……ったく、それ言えよなぁ。癖でやっちまったよ」

「もう、いいです。行きますよ」

「はいはい……だりぃ」


 その会話を最後に、空色の魔法陣を足裏に展開し、飛翔した。


「さあ、会えますねえ。神の眷属――アオハラジンヤ……クックック……」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ