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神々の世界と因縁のペンダント【加筆修正中・更新休止】  作者: 海斗
第一章  死による出会いと別れ
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   第九話  選択  

 不意を突く攻撃――下段から迫る錆びついた剣。


 反射的に後方宙返りで避けた。

 目で追い、間髪入れずに再び仕掛けにくる。

 すぐさま、なまくらの剣筋を予測。着地前に神剣を地面へ突き刺し、それを支えに空中で停止。

 鈍く見えるゴブリンと剣の速度。案の定、弧を描いて神剣と火花を散らし、甲高い音を響かせる。ゴブリンは剣を振り切れずに動作が止まり、なまくらは折れた。


 その出来事を合図に、手首を捻った。起き上がるようにのけ反り、剣を抜き取りつつ、空中でゴブリンの頭上を越え、背後に着地。


 振り返って間合いを詰め、左から横に振るった剣は、ゴブリンの首を難なく撥ねる。

 切断面からは青紫の噴水が、数メートル上へ噴き上がった。


「危ねぇ……」


 恐怖で胸が締め上げられる感覚。

 息を荒げつつも、軽く地面を蹴って、優花たちのほうへ下がった。

 さっきと位置が変わっていた。頃合いを見て近付いたみたいだけど、まだ大事を取る必要がある。余裕の一文字もない。


「優花! もっと下がって!」


 横目ながら優花と視線を合わせる程度。頷き合う余裕もない。

 木陰に戻って隠れ、距離を保つ二人を横目で確認し終える。その隙を突くように、正面から小型のゴブリンが迫ってきた。


 それも不可解なことに、切断された首は修復中で、行動しているゴブリンはその一体のみ。あとは、電池のない玩具みたいに動かない。

 相変わらずの醜い顔だったが、体格に違和感があった。

 少し大きくなったような――。


「それでも……!」

『ガッアァ!』


 ちょっとした違和感を気に留めるも、接触の瞬間を見計らい、軽く二メートルほど跳躍。前方宙返りの最中、ゴブリンの頭上に達する。落下しつつも、体を右に捻じらせて、無防備な背後を左上がりに斬り込んだ。


 大量出血を起こし、俺は着地に失敗。盛大に砂埃が舞った。


『ガアッ……――』


 軽く咳き込みながらも、違和感を確認するため、ゴブリンの体をある程度分析する。

 与えた攻撃は肩を出発点に、背中を横断し、右の横腹が終点の巨大な傷だった。


 それが致命傷となったのか、抜け殻のようになって倒れた。体はピクリとも動かない。

 見受ける変化でいえば、図体と武器の大きさ。伴うように、それとなく大きくなっている気がする。まだ些細な変化だけど、今みたいに繰り返されたら面倒だ。


 起き上がる時間はわからないけど、小さい体からすれば大きな被害のはず。

 ただ、これに慣れちゃいけない。

 これを機に倫理観とか、心の大切さを忘れずにいたい。殺人鬼のようにはなりたくないから。


「え?」


 青紫の血溜まりで、うつ伏せに倒れている小型ゴブリン。全身が小刻みに振動する。

 顔も見える位置で様子を窺えば、下がっていく幕のように目が充血する。

 それを発端に振動回数を増やし、瞬間的に残像と化すと、数メートル空中へ飛躍していた。


「まずっ――」


 行動に移せない。無理だ。


 少し先の未来に覚悟するが、ゴブリンが着地後に向かっていったのは、動かない仲間の元。体を左右に捻じらせる、気味の悪い走り方。それでいて驚異的な脚力。

 俺に目もくれることなく、攻撃の一つもない。


「再生した?」


 にしては、傷口は塞がっていない。首を撥ねたときは、元に戻りかけていた。

 そもそも、体を修復できるゴブリンなんて知らない。神界の書物にそんな記述はなかった。


 これも特殊(スペシャルタイプ)たる所以なのかもしれない。だったら、対処法なり載せておいてほしいものだけど。

 現状、不安要素しか存在しないし、不都合もある。けど、好都合でもある。仲間に注意が引いているうちに脱出できる。


 この機会を無駄にしないためにも、優花たちの元へ向かう前に、改めて横目で安全を確認する。

 未だゴブリンは、仲間の元に向かっている。


 思わず安堵の息を漏らし、俺は背を向ける。

 とりあえず、剣に付いた血を落としたが――


『ギャアアアアァァァァ』


 奇声。

 またかと思いつつも、念のため振り返った。


「え……」


 到着した小型ゴブリンは、大型ゴブリンの肩に乗り、空へ何度も金切り声を上げている。

 それがどういう意味を持つのか。俺にはわからなかったけど、予測のつかない行動に身構えしないわけにもいかず、剣を構えた。


 興奮状態に陥っているゴブリンは、足元の隆々とした肩の肉に食らいつく。口元やその周辺へと、青紫の血と肉を、派手に食い散らかす。食欲は収まることを知らない。


 それは遠目でもわかる衝撃的な光景だ。同族を食らうゴブリン。


「と、共食い……」


 行動に予測がつかない。これに尽きる。

 理由なんて知ったこっちゃないが、やっぱり武装(アーマータイプ)じゃない。

 奇行を続けるゴブリンに、確かな違和感と恐怖を覚えつつ、後ろにいる優花たちの元へ急いだ。

 到着すると、異様な光景に言葉を失う、優花と美少女の姿があった。

 

「な、なにをやっているの……? あのゴブリン」


 優花が震えた声でそう言う。

 この異世界も元いた世界と同じ節理。弱肉強食。

 だけど、魔獣・魔物は子孫繁栄の概念はない。異質な存在であり自然の例外。


 目撃例には、地面から湧き出るように出現したのを見た、というのは数多くある。

 生態は不明。明らかに魔獣・魔物は、自然の節理に沿っていない。


 本で知識を得ても、すべてが現実にあるとは限らない。

 ましてや今、俺たちが目にしているのは、書物に載ってもいない。


「優花、とりあえず逃げよう。あと――あなたも」

「う、うん。そうだね。行こ?」

「は、はい……」


 困惑する優花を呼び戻し、助けた美少女にも協力を求めた。

 魔獣・魔物がこの世界にいる根本的な理由すらわからない。  

 異世界の住人すらわからない難題を、俺たちが解けるはずもなく。

 俺は以前より強くなった。そう思いつつも、安易にうまくいくとは思ってない。実際証明されてる。精神的にも。

 だから俺は、現時点での最善。逃げることを選ぶ。今より未来が大事だ。


「じゃ、二人とも俺に掴まって」

「え!?」

「……っ!」


 助けた美少女と優花を、俺の近くへ引き寄せた。余裕がないので、少し強引になってしまった。この際許してほしいけど。


「ごめん、二人とも。事態が事態だから」

「いや、うん……大丈夫」

「……大丈夫です」


 そっぽを向いて返答する優花に、素っ気ない美少女。

 若干、優花が気になったが頭の片隅に追いやった。


「よし。今から三人で飛ぶ。当然、二人が投げ出されないように、細心の注意は払う」

「飛ぶ?」

「……え」


「一刻を争うから、ちょっと無理してもらうけど、背中に一人、あとは左手で抱える。身体強化は済んでるから、()()()、落ちないと思う。仮に落ちても、俺がなんとかする」

「え……?」

「……ウソ」


 話し合いなど挟むことなく、優花を背負い、美少女を抱える。

 少々手荒だが、本当に許してほしい。

 俺は最後に安全確認のため、一瞬だけゴブリンの様子を確認すると――。


『グガアアァァァァ!!』

「なっ!」

「仁也、あの大きさって――!」


 奇行に走っていた小型ゴブリンは、腰程度の背丈しかなかったはずが、いつの間にか俺の身長を超している。推定三メートルくらい。武装していた鎧や剣も、それに見合って巨大化している。

 魔力によるものか。


『グガァァァァ! クッテヤルッ!!』


 変化は外見だけに止まらなかった。

 行動は突撃一択。真正面から高速で迫ってくる。

 その姿はまるで、巨大な餓鬼。巨体ゆえの大きな歩幅は、俺たちとの間にある距離を、軽々と詰めていく。


 迫るくる危険に焦りながらも、右手の神剣を足元に振り下ろした。


「【爆風(ブラスト)】」


 調節テキトーに発動。パーセンテージでいえば、四十パーセントくらい。

 足元へ解き放ち、爆発とともに膝を曲げて、地面を蹴る。


 初動から持続している身体強化の潜在能力(レインター)を、改めて活用する。

 爆発による風圧と、その強化された脚力で一気に上空へ飛躍。

 木の頂点は、足元の遥か下に確認でき、周囲を一望できる。

 

「じ、仁也。早く……私、こういうの不慣れで……。我慢したいのは山々だけど。長くはもたない、かも」

「ごめん! とにかく、この地点からは移動する。あ、あなたも大丈夫ですか?」

「え、えぇ……お願いします」


 美少女の反応は、若干の動揺か恐怖か。発した声が震えていたが、基本的に冷静沈着。適当に取り繕ってるだけかもしれないけど。


「じゃ、二人とも振り落とされないように! 俺も気を付けるけど!」


 (くび)れを捻じって後ろを向き、神剣の特異能力(シンギュラースキル)を発動させた。


「【爆風】」


「キャッ……!」「……ッ!」


 発動させた爆風の風圧を利用。背中を先頭に風を切り、耐空性を辛うじて維持させながら、発動を繰り返して飛翔する。


 優花たちには我慢してもらいたいけど、確かに長時間ってわけにもいかない。

 魔力使用過多で、気力と体力が尽きる前に地上へ下りたい。


 しばらくは離陸地点から目測で距離を判断して、降下場所を探索しながら、高度をある程度維持し続けた。


 脱出後から特にこれといった事もなく。あまり地上を目視する気にはならない。行動理念が本能のゴブリンは、いくら巨体だろうと、俺たちを追跡しようものなら直線距離で来るはず。

 現状、森に変化はない。木々を薙ぎ倒してまで追跡してきてない。巨体が裏目に出た結果か。


 すでに平地は見えない。もう十分の距離を移動しているはずだ。

 不測の事態で必要な力を、ここで長く消費するわけにもいかない。優花たちのこともある。

 

「に、逃れたっぽいな……。そろそろ地上に下りるか」

「え、下りるの? 大丈夫?」


 優花から飛ぶ心配の声。ごめん、頼りなくて。


「うん。濁して悪いんだけど、たぶん大丈夫だと思う」

「その不安要素しかない『大丈夫』……」

「と、とにかく目を閉じて。 あ、あなたも――」

「大丈夫、平気」


 強気――じゃなくて、高所でも平気ってことかな。


「……あ、はい」


 なぜか自然と下手(したて)になった俺は、優花に不安を与えたことを申し訳なく思いつつ、着陸態勢に入る。

 ちょうど真下の地点なら悪くない。

 最後に一回、特異能力で速度を勢いづかせ、落下する前に身体を仰向けにして――


「じんやぁ。怖い、怖い、怖い、怖い、怖い怖い怖い――」「今は耐えてほしい!」

「【爆風】」


 重力と爆風の風圧で、地上に向かって方向転換。

 空中で体勢は半回転して、仰向け前の体勢へ強制的に戻され、降下する。


 一瞬――


 特異能力を離陸時より多くなるよう意識し、五十パーセントで発動。

 地面に放って爆発に伴う爆風は、俺たち三人を覆うほどの、広まった範囲で発生。

 竜巻状にはならず、砂埃を舞い上げて、体を打ちつける盛大な着地。濃い砂埃で状況把握ができていない。俺が仰向けだということくらい。


 身体強化が施され、痛覚の知らせはないため、余裕があった。爆風をクッションにしたおかげでもある。

 ただ、正直言って予想外。単体攻撃の割には範囲攻撃に近い。段階的な能力。一直線を維持しているけど、直線状の範囲が広い。二人、いや三人以上は入る範囲だった。


 とりあえず、無茶でも過程がどうであれ、おそらく無事に着地できたはずだ。


「ゴホッ……二人は大丈夫かな……?」


 着地した瞬間は、思わず目を(つぶ)ってよくわからなかったが、衝撃で二人が放り出されてしまった。完全な緩和ができていなかった。


 砂埃は十数秒ほどで消えだし、隣にはまだ意識のない優花の姿があった。息は問題ない。

 とりあえず、目を覚ますまで待つことに。

 起きてくれるといいけど、怖い。


「にしても……こんなことになるのか……」


 地形の状況に視線を落とす。与えられた力の怖ろしさを実感した。

 広範囲がひび割れ、クレーターのように削られ、威力を物語っている。


「これは――場所を考えて使わないと。まだ自分のものにできてないし。暴走するのは避けたいな」


 今はまだ、この力を扱い切れてないけど、頼りがいがある。単体攻撃は範囲攻撃より魔力量は少ない。だけど、着地の瞬間を振り返って今気付いた。

 異世界に来てから、魔力に長時間触れているからか、ようやく感覚的に理解ができている。


 単体攻撃は、魔力と物理的な風圧を発動させるうえに、一定方向に放つことができる。圧縮されて威力が増し、無駄がないから効果が劣らない。範囲攻撃は爆発も魔力で発生させているから違う。大体十パーセントごとに変化して、五十パーセントが境目かな。


「――ここは? ゲホッ、ゲホッ……」

「あっ、優花」


 特異能力の情報整理に入り浸る俺は、優花の目覚めで呼び戻された。

 目を擦りながら早々、眉をひそめて周囲を見渡す。眩しいのかな。


「あれ、あの子は?」

「え?」

「ほら。私たちと同い年くらいの」

「言われてみれば……」


 そうだ。目を覚ましてほしい一心で、つい疎かだった。にしても、どこにも見当たらないなんてことがあるのか。

 あ、まさか――俺が遠くまで吹っ飛ばしたのか。


「まずい。俺なら、全然あり得るッ」


 頭の中が搔き乱されるような感覚に陥り、どうしようかと深く悩む矢先、背筋が凍った。後ろに気配を感じる。


「うっ……!」


 気付いたときには、もう遅かった。

 顔が見れず、誰かわからない。両腕ごと掴まれて拘束され、俺の首元になにかを突きつけられた。

 恐らく、ナイフかなにか。短剣のはず。


 目の前にいる優花は、絶句したまま。行動の一つもできない。

 これまた予想外だ。

 まさか、人質にされるなんて。

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