第三十一話 やれることは全部やる。
「【爆風】」
俺の身体をすっぽりと覆い、倍以上の広範囲を余すほど放射される炎の行く手を、爆発により発生する爆風が阻んだ。
パーセンテージは五十、範囲攻撃寸前の単体攻撃。
爆風は一直線上に強い単体攻撃で、炎という壁を穿つ。
そして隙を突いて通り抜ければ、状況は近接戦へと突入した。
遠目で確認できるほどの巨体を間近で見るとなると、迫力は桁違い。
腰が引けてもおかしくないほど。
加えて、対照的で両極端な火炎と氷結の現象を纏う竜に接近すればするほど、左右で感じる気温は差が大きく生じる。
でも、目前でどうこうできる話ではなかった。
「神剣でなんとか……」
そうこう考えていれば、迫り来る竜との距離は目と鼻の先。
もう考える時間が惜しいほど、余裕はない。
エルッジさんは確か、『猶予が《一日》』だって言ってた。早急に片を付けないとエルッジさんの言ってた通り、本末転倒。目的を履き違えた状況になってしまう。
「血路を……見出せえええぇぇぇ」
考えなしで、力の浪費にしかならない攻撃を、俺は放った。
「【爆風】」
必死で、ただ攻撃に思考を専念させるだけだった。
だが、俺の放つ特異能力は竜の身体から発生する炎や氷に阻まれて無効化されてしまう。
少し角度を変えて再び攻撃に転じても、無駄に終わってしまう。
炎や氷は俺の生み出す爆風と同類。魔力をエネルギーにしている。魔獣・魔物には属性攻撃と名称があるが、その類い。本来であれば、人間にも適する言葉。
そういったことを踏まえると、ジークの読みは的外れ。
俺は、あの竜より弱いのかもしれない。
それに、さっき幹部とも戦ってわかった。
まだあの連中、グロマには遠く及ばないのかもしれない。
ただ、いい気になるよう踊らされていたのかもしれない。そう思うと、グロマにも自分にも腹が立つ。
そして、苛立ちは攻撃に変換され、俺はさらに手数を増やして竜に攻撃を与え続けた。
繰り返し攻撃する角度や場所を変え、後先考えずに放ち続けた。
過去の前例で有効策が明確にない以上は、対策しようがないし、弱点を探る意味でも結果的にこうなっていたかもしれない。
そう思考を巡らせながら、手足を動かし、空中を縦横無尽に飛行する。
思考が優先となって、浪費の防止も兼ねて攻撃の手を止めると、たちまち竜が咆哮した。
身体の背部から左右にある火炎と氷結の現象が、攻撃となって俺に牙を剥く。
竜は右の前足を浮き上がらせて、間髪入れずに地面へ振り落とした。
その途端、足先から波のように地面の氷結が始まり、青白い炎が囲む範囲内の地面を侵食していく。
猛烈な勢いで氷に覆われると、青白い炎までも呑み込んで炎の壁は消失、氷が新たに壁が築かれた。
冷気が漂って、収まったかと思えば、真下から氷が大木のように上へ上へと氷を生成し始めた。
やがて、枝のように細長く変形するとさっき同様、鋭利な先端を向けて迫り来る。
俺は、「また斬れば……」なんて思ったが、竜が再び咆哮すると口から火炎を放射。
正面から飛距離を伸ばして、炎までもが接近する。
新しく創り上げた風魔法への魔力供給を調整、風圧を上げて炎に追われる形でその場を脱出。
炎の勢いが失われるまで逃れようと、氷の壁となった範囲の境界線まで飛行するが、一切勢いが失われない。
ついには、氷の壁にまで到達するも――放射された炎の勢いは止まらない。
焦りはしたけど、壁を足掛かりに蹴って方向転換。再度飛行状態に戻る。
炎は俺についてこれず、氷の壁に衝突した後、上下へ勢いは逃げていった。
だが、氷は意思が備わっているかのように、そこら中から枝の先端のように細長く形成した状態で攻撃を仕掛けてきた。
前後、上下、左右。多方向から、隙を突く攻撃が続く。
「やっぱ、この範囲内が間合いなのかよ!」
事態は膠着状態。
攻撃が通らないこの現状。やっぱり弱点を探すのが近道だ。
「外部からの攻撃が通用しない……外部、外部……の逆、内部から?」
とも思ったが、身体の構造がわからない以上、不安要素しかない。
けど――
「勝負する価値は、あるかな……」
急遽、足向きを変えて再び方向転換。
正面に竜を置き、氷の攻撃網の一つ一つを確実に回避していく。
瞬間的に生成、形成される氷はこの範囲全体で俺を迎撃する。
さらに、鎮座する竜自身も攻撃に転じた。
再び足を浮かせて落とせば、分厚い氷が俺の飛行経路を予測して追跡するように生成され、円錐のような巨大な棘となって、鋭利な先端を向けて真下の地面から急激に伸長。
反射的に足に発動中の風魔法を、両手にも魔法陣を展開させた後に発動。
そして全身を左へと傾け、一弾指にも満たない時間で風圧を急激に上げ、ジェット機のように噴射。
身体が伸びる棘の氷の上空から消えると、俺の目と鼻の先で伸長する氷の棘が通過。難を逃れた。
だが、一安心することはできなかった。
すぐさま身体を水平に戻して空中での移動を続行。
地面の氷からの攻撃をかいくぐって徐々に距離は縮まっていく。
それでも時折、完全な回避ができずに掠り傷や浅い刺し傷を負わされる。
身体強化で視力は通常以上だし、風魔法で飛行しているから速度はある。実際、ほとんどは回避できているから、それなりの速度があると思っている。
けど、明らかに手数が多い。
竜は魔力をこの氷に供給し続けなきゃいけないけど、俺たち人間より確実に魔獣・魔物は魔力に慣れ親しい。
生態はまだ詳細が世間一般には広まっていないけど、人間と同様に魔力の操作で体力は消費するのだろうか。
じゃないとしたら、この現状はかなり深刻。
体力勝負となったとき、勝敗は明白になる。
でも……あくまで推測。それに事実だったとしても、援軍の到着までの話。耐え凌げさえすれば……。
「気張っていけッ! 俺!」
飛行中、自分を鼓舞して間合いを詰めていく。
その勢いは風魔法に影響し、風圧を上げて氷の迎撃をも凌ぐ速度で飛行し、大口を開ける竜が先で待ち構える。
だが、その瞬間。
俺は違和感を感じた。さっきまでは少なからず風が吹き始めていたが、無風に近いような状態だった。
でも今は、肌身で感じられるほど風向きが統一されたように一方向へ吹き荒れ始めている。
原因に見当はついた。先にいる竜、としか考えられない。
発生源は火炎と氷結の現象の境界線。山のように角が連なる背部から、熱気が冷気のほうへ向かうことで風が吹く。
巨体に見合って大規模。魔力も含まれていることで、空気中へ影響したようだった。
魔力の影響力は絶大。それも竜という巨体を持つ魔獣となれば規格外。その証拠として、天候を変えてしまう干渉力があるという事実を、最初に目の当たりにしたばかりだ。
「もう、情報量多すぎるんだよ! 分厚い壁をいくつも作り上げて……」
回避し、遠回りながらも確実に接近。
そして、思考を巡らせながら同時並行で間合いを詰めていき、その巨体の迫力を間近で感じる距離まで再び戻ってこれた。
俺は飛行しながらも収納魔法を発動させ、収納空間から予め抜剣した極神剣を取り出し、二刀流で振り上げて構える。
一度、体力と気力は回復した。極神剣の特異能力が使えずとも、攻撃の手数を増やしてみることに。
「やれることは全部やる。俺は死ねない。言われたんだ。無事でなきゃ、それこそ殺されるんじゃないかってくらい、怒られる。きっと。だからなあ、竜! 俺はお前のためにここで死ねないんだよ!」
まるで、不安要素のすべてを無意識に吐き散らしていいるようで、言い放った後、どこかすっきりした爽快な感覚がした。
だからか、気合が入り直した。より手元に力が入りやすくなったように感じる。
「なんとしてでも、切り抜ける!」
神剣と極神剣へ、取り込めた魔力をありったけ手元から送っていく。
対峙する俺と竜との間にある距離は目と鼻の先。より一層に熱気と冷気が混じり、強く感じ、強風に見舞われる。
だが、攻撃の一つも放たず強行突破して、火炎と氷結の現象の境界となった背中を前に、右手に持つ神剣の特異能力を発動させ――
「【爆風】」
振り下ろした。




