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神々の世界と因縁のペンダント【加筆修正中・更新休止】  作者: 海斗
第五章  個々の試練
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   第二十七話  囮に


「仁也……」


「ジーク! 今そっちに行く!」


 身を左右に捻じって神剣の特異能力(シンギュラースキル)を後方へ発動させ、推進と方向転換を行ってジークの元へ向かい、同じ高度に到着した。

 気付けば視界は、徐々に(ドラゴン)の巨体が作り出す影に覆われていく。活路を見出す希望は、この瞬間にあった。

 なら、生成したてほやほやの魔法が適してる。魔法名はまだないし、無詠唱は名がある前提の話。

 現時点で発動に必要なのは、さっきと同様に、転移と必要な機能のイメージ。


「発動!」


 その刹那、彼の視界内に銃のような照準が現れ、視界をゆらりと動き始めるとジークを即座に捉える。

 照準は円形の表示に変化し、その横に計測された距離が同時に表示された。

 その直後、俺の両足の裏に淡灰色の魔法陣が展開。

 俺の視界は下方へ揺動すると同時に転移。

 転移先は目測で六十数センチほど下。とっさに頭上を見上げればジークが落下してくる。

 だが、落下速度は凄まじい。わずかな距離にいたジークは重力に抗えるはずもなく、俺の真横を通り過ぎようとするが、俺の視線はその一瞬でもジークを捉えた。

 透かさず反射的に右手を伸ばした。


「うっ……!」


 肌を弾くような快活な音が響くと、右手に重量を感じた。

 自分の腕と手――そして、確かに掴んだもうひとつの手と腕の両方を、なぞるようにして視線を動かした。

 その先にいるのは、金髪をなびかせて涙目になった顔を向けるジークの姿。

 なんとかその手を掴めたはいいが、窮地にいることに変わりない。

 切羽詰まったこの状況から抜け出すため、再び発動。

 次なる転移先を探して照準を移動させると、不意に優花の姿が視界の中央の直線状に見えた。遠距離のため距離も確保できる。

 そう思った俺は即座に照準を定め、間髪入れずに魔法陣が展開して転移。一秒足らずで視界は下方に揺動する。

 遠目でしか見れなかった優花の姿が、瞬間的に拡大されたように目前に現れた。

 転移は完了。手足や腰には確かに地面を触れる感覚が伝わってくる。無事、地上へ避難することには成功したようだ。

 

「――遅いぞ……仁也……」

「悪い……要領悪くて」


「ふ、二人とも大丈夫?」


「あぁ、平気だ。僕は問題ない」

「無論、俺も問題ない。なんとかなって、ホントよかった」


「ただ、ここで泣いてる場合じゃ、ないな……」


 そう言って、目元で溢れる涙を拭うジーク。確かにその通りだ。


「うん。二人とも助かったのはよかったけど……竜が、こっち見てるから……」


 緊迫した空気を纏う周囲の原因、竜。

 優花は魔装神剣を持つ右手の震えを、もう片方の左手で手首を掴んで必死に抑えようとする。

 でも、怯えてはいなかった。両手で構え直して、引き下がろうとはしない。


「仁也。どうにしかして切り抜けるよ! まだ、私たちは道の途中で、人生の途中……進まなきゃいけない! 力尽きたくない!」

「……優花」


 凛々しく、堂々とした優花の姿は、初めて見た。

 思わず呆気に取られた。日常的に、そんな姿を見ることはない。

 だからこそ、なのかもしれないが。俺の心は活気づいた。

 別に消極的になっていたわけじゃない。怖かったり、緊張してなかったわけじゃない。恐怖や緊張はもちろんあった。常にある。今までは、押し殺して耐えながらやってきた。

 今さっきも、あった。

 もし、ここへ来る前に――魔法を新たなに生成してなかったら。感情を抑え込めずにいたら――どうなってたか。少なくとも先立っていたかもしれないのは否めない。

 そんな俺は、優花の凛々しさを目の当たりにして、不思議と恐怖を感じない。緊張なんてあったのかと疑うほど。心に余裕ができた、そんな気がする。


「あの……仁也のことしか呼んでないけど、僕もいるからね? 忘れてないよね? 僕のこと」


 一方で、ジークのおどおどした言動が気になった。

 俺はジークが竜の身体から落ちるところまでしか見てないから、経緯は知らない。

 でも、ジークの声に反応して振り返った優花の顔色は、いつの間にか急変していた。

 それも笑顔を浮かべながら、語気を強めて心情を表した口調で。


「大丈夫。私は忘れてないよ。後先考えずに、独りよがりに突撃した人のことを……。きっと、私がどれだけ心配したかなんて考えなかったでしょ? ましてや、このことを聞いた()()()()()()()


「いや、で、でも……受け入れたように、僕のこと援護してくれた……よね?」


「だって、死なせるわけにはいかないでしょ? 援護はするよ。でも、突撃したのは、ジーク。確かに『わかった』とは言ったけど。それとこれとは別。援護することに対して、私は受け入れたの。ジークを死なせないためにできるのは、精々援護くらいだから……。それに、突撃して敵うと思う? 受け入れると思う? 普通」


「……はい」


 とま、優花の説教が始まってジークの態度は萎んだ花のように萎縮した。

 俺は苦笑しながら二人のやり取りを見ていたが、不満たらたらの優花をこれ以上暴走させるわけにも

いかないので、一言言って歯止めをかけようとしたその刹那――。


『グオアアアアァァァァ――』


 竜が野太い咆哮を上げる。


「優花、竜はご立腹だって。もういいんじゃないか? ジークの説教は」


「そ、そうだね……ごめん、ジーク。言いすぎたね」

「いや、こっちこそ。相変わらずで、ごめん……」


「で、あの天災をどうするか……」


 ぼそっと俺が呟くと、互いに謝っていた二人は気持ちを切り替えたようで、さほどの時差なく俺の言葉に反応した。


「仁也。知ってるの? この竜のこと」

「ここ来る直前に、ある程度知ったばかり。でも、ほかの魔獣とか魔物と比較して有益な情報がほとんど載ってなかった。これじゃあ、作戦の立てようがない。竜が安易に、こっちへ攻撃してこないのが救いだよ」


「確かに……いつ攻撃してきてもおかしくない。攻撃に間隔がある。それも、かなり」


 と、情報共有しているとふと気付いた。

 エルッジさんの姿が見えない。それにサリスやクラリ、フルトの姿も。

 俺はその疑問を伏せられるわけもなく――


「なあ、二人とも。エルッジさんやサリスは? クラリとフルトも。二人以外は、どこにいるんだ?」


 訊いた。


「あっ……」

「いや、その……い、今はみんなメスクの町で治療中なんだ。竜が出没する前にウルフやゴブリンと戦って疲弊したり、怪我をしたてさ。唯一、転移できるサリスが移送したんだ」


 若干、言葉詰まった二人が気にはなったが、切羽詰まった状況で竜そっちのけで話し込むわけにもいかない。


「そうなのか……じゃあ、余計にここで足止め食らってる場合じゃない。どうせなら逃げるよりと討伐しよう。天災なんて呼ばれるヤツ放置できないし」


「それに関しては、国が対応すると思うけど……――」


 ジークの言葉を聞いた瞬間、思考に浸った。どうやったら現状を打開できるかのか。

 周囲を見渡す限り、青白い炎の壁に囲まれている。その範囲を例えるなら経験上、東京ドームより広いのは明確。何個ほどあるかなんて目測でしかないけど、数個は入ると思えてしまうほど広範囲。

 範囲を限定するからには、竜にとって有益な範囲のはず。おそらく、この範囲は竜にとって間合い。攻撃の有効距離のはず。

 もしそうなら、脱出しようと行動すると、なにかしらの攻撃で殺される。

 たとえ、そうじゃなかったとしても、攻撃されることは目に見える。竜は俺たちを見逃してはくれないと思う。正直、戦闘は確定。

 でも――俺が考えられる範囲で、一つ。方法を見つけた。俺なりに考えたから、二人から反論はあるかもしれないけど。とにかく提案しよう。

 そう結論付けた瞬間、優花の声が微かに聞こえた。 


「――んや! 聞こえてる? 仁也! ねぇってば」

「――……待てない」

「え?」


「俺は待てない、見逃せない。だから、今考えた方法でこの窮地を脱する。同時並行で、成し遂げられるし。竜の気を逸らすことができる」


「それって?」

「お、思いついた?! 僕たちに話してよ」


「簡単だよ。簡単で、最も可能性のある方法――囮だよ」


「「え?」」


「俺を囮にして、二人で緊急クエストに向かう」


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