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神々の世界と因縁のペンダント【加筆修正中・更新休止】  作者: 海斗
第五章  個々の試練
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   第二十話  明かされる正体


     ◇


「話せるのか……?」


 緊迫した状況に、張り詰める精神。若干の動揺が彼の顔から窺えるが、戦意を保持しようと自らの頬を平手打ちの的にした。


『ふむふむ、『話せるのか?』とな。いい反応をするな。俺は言語調整が不慣れでな……だが、その外見。筋肉の発達は異常だが、人種の等級(カースト)で最も優位に立つ《人族(ヒュースト)》だろ。つまり、この言語が世界の標準語ということか。助かった、おかげで解決したぞ』 


 巨大なウルフは戦闘態勢を解除し味のある男性声。

 穏やかな口調とは裏腹に威厳があり、伴っていない。

 対して、ウルフへの疑念が晴れないであろうエルッジは、臆することなく大剣を担いで悠々、毅然として間合いを徐々に詰めていった。


『――ほう、ほう、ほう、ほう、ほう、ほぉーーう。肝の座った人間だなぁ。そんなに俺らにぶっ飛ばされたいか! 肝はあっても脳みそ詰まってないんじゃねえのかぁ?』


 一瞬、エルッジの歩みが止まる。

 目を細めて「ん?」と呟く。

 様子、口調、声の音域、方向、そして周囲の影響。そのすべてにおいて、彼に違和感を与えた。

 それは瞭然。

 声が発せられたと同時に、身体全体を左右に揺さぶるようにしてこん棒を地面に繰り返し叩き付け、脅迫じみた言葉を放って煽り立て、声はそぐわないほど鈍重なうえ常に張り上げている。

 巨大なウルフがいるその隣の位置から、地のひび割れる轟音と多量に舞い上がった土埃の降る音が、声とともに空間へ響いていた。


「ゴブリンも同等……身体の発育具合を見れば、予想がつくか……。想定内であり最悪だな……」


 と、眉間にシワを寄せて再び呟くが、一瞬止めた足を進ませる。


『なる、なる、なるほど。んなに堂々と……それだけ自信があるんだなぁ。俺たちを殺す自信があぁ。見る限り、力を規則的にうまく使い分けている。まだ、詳細はまだ理解できないが。ましてや不規則、臨機応変な対応は前提条件なのだろうがなぁ。それに感じるぞぉ、お前には威光が差している。ただ者ではないなぁ。わかるぞぉ、わかるぞぉ。なぁ、犬さん』


『犬とは少々、(しゃく)に障るが。確かにそうだ。それも、別格。俺たちより力は劣る子分だが、属性攻撃を肌身で防ぐのは人間の()す業ではない。本来、凡庸な人間どもに特異能力は扱えたとしても、潜在能力は扱えもせず備わってもいない。遺伝もしない。叫ぶ単語から薄々、勘づいていたが……やはり、ただの人間ではない。正真正銘、()()()()()()()()()()。眷属の中でも与えられた力の質は、伝説級にして頂点に近い――。が、お前の潜在能力はもう直に消滅する。備わった力はもう、残り火のようだ。本来、使いたくなかっただろうに。正体を明かしたくないだろう? なあ、違うか?


――()()()()()()()()()()()、《最高神ゼオルス》の元神の眷属。』


 唐突に空間へ流れる言葉の数々は、エルッジの歩みを完全に停止させた。

 担いだ大剣を腕力と手首でくるっと半回転させ、切っ先を地へ向けると、凄まじい気迫で突き刺す。

 異様に息を荒げ、眼光炯々。殺意の孕んだ目は、巨体をどっしりと構えるウルフやゴブリンの威厳に屈することなく、双方の視線が衝突する。


『目に殺気が生まれた……。つまり、図星というわけか』


「……なんのつもりだ?」


『復讐だよ。世界中に散って雲隠れしたゼオルスの元眷属を殺す。失った力の代用でありのまま姿を捨てた。私も、隣にいる者もな。もう、生きる価値は見出せない……』


『そぉう、だからぁ! クズで無能なゼオルスと、その眷属の両者の死が、唯一おでらの生きる価値を見出す! その糧になれぇ!』


「……そうか。魔獣・魔物が生きる価値を……――だが、お前たちには疑問しか残らない。魔獣・魔物なんて個体別にいちいち記憶してられないし、会話をしたのは初めてだ。俺は貴様らを知らない。『復讐』なんていう因縁を作った覚えはない。人間だというのならまだしも、魔獣・魔物。それは確実な虚言だ。それだけに留まらず、ゼオルス様を引き合いに出した挙句、罵倒し殺害を企てているとは。異常で人間のように妙に博識な貴様ら魔獣・魔物だからこそ、決して許されはしない発言だ! いいだろう。あの方から賜り、この力で、愚行を働く前にこの場で息の根を止めてやる! 『元』だろうが、俺はあのお方の眷属だった! 見過ごすわけにはいかない!」


『そうかッ! じゃあ早速、殺し合いといきますか! あの無能神(ゼオルス)を守れるかあ?』

『ぶっとばしやるぅ!』


 ウルフは戦闘態勢になって、四足をバネのように伸び縮みさせ飛躍。距離を驚異的な速度で間合いを詰める。

 ゴブリンは腰回りに提げたもう一本のこん棒を手に持つと、飛び道具としてこん棒を振り放って投てき。こん棒は回転しながら弧を描くように上空へ、そして頂点に達した瞬間に脳天目掛けて落下を始める。同時に、ゴブリン自身もこん棒を振りかぶった体勢で間合いを詰める。

 エルッジも同様。地に突き刺した大剣を引き抜いて迎撃態勢に入った。

 真っ先に視線が移動した先は頭上。上空を独りでに回転し続けながら落下するこん棒を目前に、大剣の切っ先を背後へと向け、低く振りかぶった体勢。

 彼は、自身にこん棒が到達する直前の瞬間を見計らい、重力と腕力に任せ大剣を振り下ろす。

 剣身はこん棒を捉えて軌道が半円を描くより前に振り下ろす大剣とともに、こん棒は強制的に垂直落下。土埃を舞い上がらせて地に叩き付けられる。

 だが、攻撃の手は止まない。


 先制攻撃となったこん棒に続き、巨大なゴブリンとウルフが自らの手で追撃。

 彼の身体を優に凌駕するウルフのかぎ爪が飛来し、反射的な反応で後退したため捉えはしないが、その破壊力は凄まじく。着地地点から広範囲に地面がひび割れて、半球をはめ込める噴火口のような巨大なくぼみを作り出し、その威力を物語っていた。

 続けざまに地上から振りかぶった体勢で突進するゴブリンを前に、体勢を立て直そうと試みるが、巨体に伴った歩幅が彼の保つ距離を侵すと、妥当な距離からゴブリンはこん棒が振り下ろされる。

 透かさずエルッジは、大剣を左方から右方へ振り上げて迎撃するが、大剣を振り切れずに数倍以上あろうこん棒を、身を挺して大剣で受け止め、重量すべてがエルッジへ間接的にのしかかる。

 そして、彼の力んだ声は、次なる行動を起こすための一声となった。

 今もなお巨大なこん棒を受け止めている大剣に、支えとなっている腕力。エルッジは歯を食いしばり、全身を用いて身を捻らせると、瞬間的に柄頭が地に、剣先がこん棒へと接触する。

 と、思いの丈を叫ぶように――。


「【大・反撃波(ディナト・カウ)】」


 発動させる。

 大剣は再び金属音を響かせ振動すると、一弾指にも満たな速度で衝撃波を放って、いとも簡単に弾き返すが、エルッジに余裕は生まれていなかった。

 側面からゴブリンにとって補完的役割を果たすウルフの攻撃が迫っていた。両方の前足に生える巨大なかぎ爪を先行させ、飛び込むように突撃。

 速やかに後退するが、意表を突いていたゆえ、一本のかぎ爪が彼の腹部を(かす)って目前を巨体が通過した。

 だが、腹部は大きく裂傷して多量の出血。鮮血が空中を舞う。


「うっ……!」


 わずかに体勢が崩れ、転倒するも即座に立ち上がって地面を蹴り、再び後退する。

 深手を負う彼は、胸に手を当て呼吸を整えると、駆け出して再び攻撃に転じる。

 彼の目前に立ち塞がるのは、巨大なウルフ。


「おらあああぁぁぁ」


 大剣を振りかぶり、正々堂々と真正面から進路を一切変えず、唸り声を上げる。

 だが、ウルフは右の前足を振り上げて間髪入れずに、半円を描くように振り下ろしていく。

 彼の左方から迫る前足のかぎ爪に対し、首を左方に振って視界に入れるが、対策を講じないまま黙認。

 再び視線は正面を向く。

 障害の一つもないまま、前足のかぎ爪は空気を切り裂くように完全に振り下ろされてエルッジに直撃する。

 が、


「俺にはもう、届かない……」


 かぎ爪に止まらずウルフの巨体自体が、彼の身体に接触した途端。

 ()()()()()、ウルフは反動によって後方へ吹き飛ばされた。

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