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馬小屋暮らしのご令嬢  作者: 石動なつめ
第四章 クロック劇場の演者
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第十四話 『理由』と『証明』


 アクアベールに覆われると、フローズンホースは静かになった。


「様子見のつもりでしたが、これはなかなか」


 『ユイル』はシズに抑え込まれたまま、感心したように呟いた。

 それから顔をアナスタシアの方へ向ける。


「アナスタシア様。――――あなたが私に(、、)とって、危険な人物のリストに入る事を認識しました」


 有難くもない事を言われ、アナスタシアは半眼になる。


「それはこちらの台詞ではないでしょうかね、ヴィットーレさん?」

「フフ。私の中身が誰とまでは、分からないでしょう? 証明するものが何もない。人を裁くには必ず『理由』と『証明するもの』が必要です」


 くすくすと『ユイル』は笑う。その表情からは「自分はまだ裁かれない」という自信が感じられた。

 今、彼の見た目は『ユイル』なのだ。だからこそ、いくらアナスタシアがヴィットーレだと思っても、証拠もなく捕まえる事は出来ない。

 少なくとも今の状況では無理だ。

 そんなアナスタシアの前で『ユイル』は、


「ですが今回は私の負け……という事にしましょう」


 と言って指をパチンと鳴らした。

 すると彼とフローズンホースを繋ぐ光の糸が見えるようになり、ハサミで切られたように途切れて消えた。

 そのとたんに、フローズンホースの体がしゅるしゅると縮み始み、仔馬サイズになる。


 同時に『ユイル』の体も変化し始めた。彼の姿は空に溶けるかのように透明に、氷になっていく。

 先ほどとは違って、存在そのものが消えていくような、そんな様子だ。

 それを見てミューレが目を吊り上げる。


「逃げる気!?」

「逃げますよ、そりゃあね。斬られようが本体でなければ無意味ですし」


 残念でしたねと笑う『ユイル』。

 しかし――――。


「そうでもないさ」


 シズが『ユイル』の額を剣で貫いた。

 『ユイル』の顔が痛みを堪えるかのように歪む。

 シズはそれを静かに見下ろして、


囮魔法(デコイ)のダメージは、本体に蓄積する。たとえ傷は負わなくてもね」


 と言った。なるほど、とアナスタシアは思った。

 シズが劇場で頭を叩きつけた時、そして今しがた『ユイル』を斬った時に、顔を歪めていたのはそういう理由なのだろう。

 『ユイル』は「……ハハ」と笑い出した。


「ああ、ああ、楽しい! 張り合いがないと思っていたんですよ、本当にね! ようやく楽しくなってきた!」


 堪らないと言った様子でユイルは顔を歪める。

 アナスタシアはその言葉に嫌悪感を感じた。


「他者を貶め、苦しめるのが楽しいと思える感情は、どうかと思います」

「そこはね、ホラ、趣味嗜好はそれぞれですからね」

「趣味が悪いと言いました」

「よく言われますよ」


 徐々に体全体を氷に変えながら『ユイル』は悪びれた風でもなく言う。

 シズに貫かれた事により、あちこちがヒビ割れ、砕けている。

 その事が若干不満だったのか「綺麗に去ろうと思ったのに」と呟いていた。


「あなたの目的は何ですか、ヴィットーレさん」

「二度目ですね。ま、私がヴィットーレかどうかはともかく……」


 言葉だけだとしても認めるつもりはないようだ。

 そう前置きして『ユイル』はニヤリと笑う。


「そうですね。私に勝ったご褒美です。過去の清算、とだけ答えておきましょうか」

「過去?」

「フフ……」


 完全に氷の姿に変わると、亀裂は大きくなり、


「それでは、また」


 その声を最後に『ユイル』は消えた。

 同じタイミングで、氷の塔全体へも音を立てて亀裂が入り始める。

 パラパラと頭上から氷の欠片も降り注ぎ出した。

 ひく、とシズが顔を引き攣らせる。


「あー……これはもしかして」

「魔法が解けたというアレ……」


 魔法を掛けた術者がいなくなった氷の塔がどうなるか。



 それはもちろん、崩れるの一択である。


本日十八時にもう一話投稿します。

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